銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅺ
2020.12.06
第九章 共和国と帝国
XI ミストへ
サラマンダー艦橋では、海賊から搾取した通信記録媒体の解析が続けられていた。
スザンナ・ベンソン少佐が報告する。
「提督、通信記録から海賊の基地らしき座標が得られました」
「位置が特定できたのか?」
「はい。五光秒前後の誤差ではありますが、中立非武装地帯の中です」
「う……む。中立地帯か……。戦闘行為が禁止され、軍事施設を設置することも禁
止されてはいるのだが……」
「海賊には通用しませんよ」
「まあな」
「P-300VXを派遣して調査しますか?」
「だめだ。基地の防衛能力や索敵レンジが未知数な現状では、戦艦が立ち入りでき
ない空域に、例えP-300VXでも単独では派遣できない。巡航速度や航続距離
の問題があるからな」
「万が一見つかったりしたら逃げられず、極秘の最新鋭機を敵に渡すことになりま
すか」
「海賊基地の詳細が分かるまでは、このまま知らぬふりをしておこう。位置が分か
っていれば通信傍受もできるし、いずれ詳細も手に入るさ」
「分かりましたが、通信傍受と申されましても」
「手ごろな場所があるじゃないか」
「手ごろな場所?」
「デュプロス星系惑星カリスの衛星ミストだよ」
「連邦艦隊が進軍してくるのを、提督がミスト艦隊を指揮して撃退した、あの衛星
ミストですね?」
「ああ、中立地帯近くに補給基地があるだろう。そこに通信傍受の設備を設置させ
て貰おうじゃないか」
「なるほど、提督の願いなら聞き届けて貰えそうですね」
「そこで、君がミストへ赴き事の次第を了承して貰ってくれ。私の親書を持たせる」
「分かりました。ノームを使わせて頂きます」
高速戦艦ノームは、サラマンダーの同型艦であり、旗艦艦隊の旗艦となっており、
スザンナの乗艦である。
「通信技術主任として、アルヴァン・アルメイダ大尉を連れていってくれ。役に立
つはずだ」
数時間後、サラマンダーから離れてゆくノームと随行二百隻の艦艇があった。
「まもなく、デュプロス星系に入ります」
「衛星ミストへの進入コースを設定せよ」
デュプロス星系は、二つの超巨大惑星を従えた恒星系である。
*参照 第二部 第二章 ミスト艦隊
目指すは、第一惑星カリスの衛星となるミストである。
超巨大ガス状惑星カリスは、太陽系木星の二十倍の大きさを持ち、衛星のミスト
が唯一人間の居住できる星となっている。
衛星ミストの地上に降り立てば、天空には恒星ミストと、その光を反射して輝く
惑星カリスが浮かんでいるのが見えるはずだ。
「ミスト艦隊のお出迎えです」
「相手方より入電です」
「繋いでください」
通信用パネルスクリーンに浮かび上がったのは、以前にも出迎えたミスト艦隊司
令官のフランドール・キャニスターであった。
「ご来訪の目的をお伺いしましょうか?」
「ランドール提督の全権大使として来ました」
「提督はご一緒ではないのですね?」
「はい」
スザンナは、副官のキャロライン・シュナイダー少尉を連れて、ミスト旗艦へと
向かった。
「ランドール提督の親書をお渡しします」
「親書ですか?」
親書を受け取り、中身を読み終えて、
「なるほど、通信では傍受される恐れがあるからですね」
来訪の目的を納得した。
「はい。我々が通信傍受することを、敵側に察知されてはいけないのです」
「海賊達が行動する時、通信連絡するのを傍受して、その基地の位置を特定しよう
とは、さすがに提督だけありますね」
ミスト側の了承を得て、ミスト本星と補給基地の二カ所に、早速通信傍受施設が
設置された。離れた二カ所で受信すれば、より良い正確な位置が特定できるからで
ある。
通信士と設備要員を残して、スザンナの部隊はアレックスの本隊へと向かった。
第九章 了
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第四章 情報参謀レイチェル I
2020.12.05
第四章 情報参謀レイチェル
I
部隊に戻ったアレックスは独立遊撃部隊の再編成に大車輪で取り掛からねばなら
なかった。なにせ独立部隊のためすべてを自分自身で行わなければならなかったの
である。
「ああ、副官が欲しいな……」
アレックスは少佐であるから、本来なら副官がついても良いのだが、あまり急な
ため適当な人物がいなかったのである。作戦を立てるのはお手のものであったが、
それを正式な書類などにしたためることは苦手であった。言ってみればキーボード
やプリンターなどの周辺機器の接続されていない高性能パソコンみたいなものである。
再編成にあたり、必要な艦船リストや装備・備品の申請など、ことあるごとに書
類が必要になってくるのに、その方面の手際が鈍臭いアレックス。時間ばかりかか
って少しも再編成は進まなかった。こんな時パトリシアがいればと思うのだが、彼
女はまだ士官学校の学生である。
少佐になったことで勤務時間が終了すれば、いつでもパトリシアの待つ官舎に戻
ることができるようになったとはいえ、軍規には学生を徴用してはならないと定め
られている。ゆえにパトリシアが代筆して手続き書類などの作成をすることは許さ
れていない。
「ごめんなさい。お役に立てなくて……」
夫のために何かしてあげたいと思うパトリシアにしても、卒業して任官されるま
では手の出しようがない。
忙しく働き回るアレックスが、図書館で調べものをあさっている時のことであった。
そこへ褐色の瞳に黒い艶のある長い髪の身長百六十五センチほどの小柄な女性が、
親しげに話しかけてきた。
「こんにちは、アレックス」
自分の名を呼ぶところを見ると、どこかで会っているのであろうが、まるで記憶
がなかった。いくら自分が物忘れの天才であろうとも、これだけの美人なら忘れる
はずがないのだが。
「おわかりになりません? あたしです、レイチェルです」
「レイチェル?」
「わかりませんでしょうか。ほら、あなたの幼馴染みの」
「え……、まさか……あの泣き虫の」
「そう、その泣き虫のレイチェルです」
「しかし、彼は……男の子だぞ」
「そうでしたわね」
「そうでしたって、まさか」
「性転換手術を受けましたの」
「性転換した?」
驚きのあまりアレックスは二の句を継げることが出来なかった。
静かな図書館では会話がまわりに筒抜けになるのを心配して、二人は場所を変え
ることにした。
図書館を出てすぐ近くにある喫茶店に入って話しの続きをすることにした。
「その胸はシリコンが入っているのかい」
アレックスはレイチェルの豊かな胸の膨らみをまじまじと見つめながら尋ねた。
相手が本物の女性なら失礼にあたるだろうが、かつて一緒に遊んだことのあるもと
は男だった幼馴染みである。それにわざと見せ付けているふしも見られた。
「いいえ。この胸は本物よ」
レイチェルは、アレックスにも判るように簡単な説明をしてあげた。
性転換手術にも何種類かの方法がある。
完全性転換術として、性転換を臨む男女両性が、性転換移植バンクに登録して、
免疫的な血液型の合った者同士が、それぞれの生殖臓器を交換移植しあう方法があ
る。卵巣・子宮・膣等の女性生殖臓器と、精巣・前立腺・陰茎等の男性生殖臓器を
そっくり交換するために、生殖的な性別の完全転換が行える。反面子孫を残す自分
自身の遺伝子をも相手と交換するために、本来自分自身でない子孫を産み出すこと
になる。
この手術法による性転換を受けるには、最低三年間のカウンセリングを受けつつ、
性ホルモン投与などによる段階的な外観的異性化といった予備治療を経た後、本人
の意志が確固として変わらないことを認めた場合。なおかつ遺伝子的に違って生ま
れる子供を、自分の子として認知することを誓約する念書、及び国籍上の性別変更
許可申請書に署名し、裁判所がこれを受理した場合。
他人の精子や卵子をもらって体外受精を施し生まれた子を、自分の子として養育
してきた過去の例を見ても、この点に関しては問題を生じたケースはほとんどなか
った。当人達にとっては、自分自身の遺伝子情報よりも、妊娠し子を宿せる真の女
性の姿に、また女性を妊娠させる能力のある真の男性になることのほうが重大なの
である。
ただこの術法の問題点として、性転換を希望する男女の比率が同等である必要が
あることだが、女性から男性へよりも男性から女性へと希望する数の方が圧倒的に
多いという現実があった。当然、男性化を希望する場合はほぼ百パーセントで適え
られるが、女性化を希望するものはなかなか適えられない者もいるわけである。
そんな人達のために、女性ホルモンが関与する癌の進行抑制のために摘出された
卵巣、脳死状態に陥った患者からの子宮や膣などの臓器移植などが行われている。
さらには形成外科的に造成する手術もある。
これらは臓器の供与者となる患者本人の同意や念書などが得られていないので非
合法扱いであり、性転換者に国籍上の性別を変更する許可は与えられない。それで
も性転換を望む者が後を立たないために、闇の臓器ブローカーが暗躍する土壌を産
み出している。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第三章・模擬戦闘 Ⅸ
2020.12.04
第三章 模擬戦闘
IX
応接室の応接セットに座るアレックスとゴードン。
目の前のテーブルにはマイクが並べられ、周囲をTVカメラが囲んでいる。
「それでは合同記者会見をはじめます」
姿勢を正す二人。
「お二人とも、まずは昇進おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ほぼ同時に礼をいう二人。
「ランドール少佐は、特別名誉昇進で二年後には大佐への昇進も約束されているそ
うですが、この点に関して何か意見がございますか」
「私のような若輩者が、こんな栄誉な地位を与えられて、見に余る光栄というべき
でしょうが、いくらなんでも極端すぎると恐縮してます」
「しかし敗走を続ける同盟軍には英雄の存在が不可欠なのも事実だと思います。軍
の規定ではあり得ない特別名誉昇進という今回の昇進劇も、国会や行政府内閣官房
調査室などの政府からの強い後押しで決定されたものです」
「そうらしいですね。軍部の意向を無視した行政府の勝手な決定で、将校達の猛反
発がいまだに続いているようです」
「オニール大尉はこの件には、どう思われますか」
「そうですね。選挙が近いからでしょう」
ゴードンがそっけなく答えると、場内から笑いが起こった。
「つまり、英雄を担ぎ上げることで自身の評判を高め、次の選挙を有利に戦いたい
という議員達の思惑がからんでいると。そうおっしゃるのですね」
「世間では周知の事実じゃないですか」
「そんなこと、この場所で発言してよろしいのですか。この放送は議員達も聞いて
いますよ」
「別に構いませんよ。議員達のことは、世間にまかせておけばいい。俺達が相手に
しなければならないのは、軍部の好意的ではない上層部の将軍達ですよ。実際、配
属は一応第十七艦隊に所属しているとはいえ、トライトン准将でさえ直接命令を下
せない特別独立遊撃部隊ということになってます。単独でどこへでも出撃させられ
る捨て駒的存在ですよ」
「そこまでも言ってしまわれるのですね」
「まあね。士官学校時代からも、いつも教官から疎まれてきましたからね。慣れっ
こになっているんです。一見常軌を逸したとも取れる行動ばかりとるアレックスと
一緒にいる限り、まともな生き方はできないってね」
「常軌を逸したって、たとえば?」
「スベリニアン校舎祭に、地下室でバニーガールまで集めてカジノを主催したり、
科学実験と称して密造酒を造って売りさばいたり、本人は生活費を稼ぐためだとか
言ってましたがね」
「校舎内でそんなことをやってたのですか?」
「いやあ、どちらもすぐに教官に見つかりましてね。売上金のほとんどを自治会費
の方へ強制的に収納させられたようです」
「少佐殿、今の話し本当ですか?」
「ええ、まあ……そんなこともありましたね」
「しかしお二人は、少尉として特待昇進卒業じゃないですか。そんな状況で、よく
教官が認められましたね」
「生活態度は最悪ですけど、戦術的才能が人並みはずれていたからですよ。士官学
校全校一の天才用兵家と噂されていた、あのミリオン・アーティスを完膚なきまで
に看破しましたからね」
「それそれ、士官学校時代に全国合同で行われる学期末実技試験である模擬戦闘に
おいても、奇抜な作戦を用いて勝利されたんですよね」
「ああ、あの作戦ですか。そうですね、あれは実に楽しかったですよ。罠を張り巡
らしておいて敵が網に掛かるのを待ってただけで、一網打尽で敵を捕獲して戦闘不
能に陥れたのですから。ついでに先に敵基地を攻略したのは、基地を乗っ取られれ
ば逆上して、必ず引っ掛かると思ったからです」
「罠というと基地の管制システムに細工を施して、占領された後も遠隔操作でシス
テムを乗っ取ったのですね」
「そうです」
「そのこともそうですが、私が疑問を抱いているのは、敵基地を占領するために、
暗黒星雲の中の原始太陽星ベネット十六の直中を通過したことです。これはもう作
戦というよりも、すべての艦隊や乗員達を危険に巻き込む冒険の何ものでもないと
思いますが、いかがでしょうか」
「艦艇の進撃コースの気象状況は、無人探査艇を数度飛ばして、すべて事前に念入
りに調査を行いました。そのデータをもとに、艦艇の強度や航行能力を熟慮して、
航行には支障がないことを確認しました」
「支障がないとわかっていても、乗員の大半が訓練生じゃないですか。よく最後ま
で逃げ出さずについて来れましたね」
「それがこいつの人徳のなすところですよ。人を集め行動する時、神懸かり的な指
導力を発揮するんですよ。まるで教祖が信者を集めて集団自決さえ実行させるよう
にです」
「集団自決ですか」
「死なば諸共にってね。実際事故を起こせば本当にお陀仏になるところを、こいつ
とならどこへだってついて行こうと思わせる。不思議な能力を持っているんですね」
「ありがとうございます。時間ですので、私の質問は以上です」
記者が、質問席を離れて自分の席に戻ると、司会者が次の質問者を指名した。
「続いてトリスタニア共同通信のスカーレット・カールビンセンさんが質問します」
立ち上がり質問席に歩いて行くタイトスカート姿の女性記者。
「共同通信のカールビンセンです。早速お伺い致します」
「どうぞ」
「ランドール少佐は、深緑の瞳をされていますが、遺伝的に銀河帝国皇帝の血筋に
つながるっていることは、ご存じですよね」
「らしいですね」
「その深緑の瞳は、二十二番目の染色体上にある虹彩緑化遺伝子と、Y染色体上に
ある虹彩緑化遺伝子活性化遺伝子の相乗効果があってはじめて発現するものです。
前者は劣性遺伝子で後者は限定遺伝子のために、男子二百万に一人という、非常に
まれな確率でしか発現しません」
「私は、戦争孤児でして、幼少の頃海賊船に捕われているところを、海賊討伐で巡
回中のトライトン中佐に助けだされました」
質問に丁寧に答えながらも、アレックスの目はパトリシア一人を見つめていた。
TV放映取材が終わった。
だからといって、他の報道陣が放っておいてくれるわけがない。
次から次へと取材攻勢に纏わりつかれるアレックス。
マイクが差し出され、カメラが追いかける。
「アレックス、こっちよ」
通路の曲がり口でパトリシアが手招きする。
確認するが早いか、アレックスがダッシュで駆け出す。
パトリシアと共に逃避行だ。
学園内のことなら学生が一番良く知っているし、報道陣は来たばかりで右往左往
するばかり。
取材陣を撒いて、生徒会長室に逃げ込んだ二人は、鍵を掛けて誰も来ないことを
確認すると、
「お帰りなさい、あなた……」
パトリシアはアレックスの胸に飛び込んだ。
アレックスはその肩を抱くようにしてパトリシアの唇を吸った。
「卒業したらあなたの艦隊に配属させて。ずっとあなたと一緒にいたいから。離れ
て暮らすのはもういや」
「わかってる」
「約束よ」
「待ってるよ」
「あなた……愛してるわ」
無事に再開を果たした二人は、いつまでも抱き合っていた。
第三章 了
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11
2020.12.06 09:08
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