銀河戦記/鳴動編 第一部 第五章 独立遊撃艦隊 Ⅴ
2020.12.18

第五章 独立遊撃艦隊




「司令。全艦、戦闘準備が整いました」
 パトリシアが復唱してアレックスに伝える。
「よし、全艦、最大戦闘速度で、戦闘想定宙域に突入せよ。艦載機は母艦に追従」
 ついに戦闘訓練が開始された。
 艦橋オペレーターが復唱しながら指令を全艦に伝達する。
「了解。全艦、最大戦闘速度で、戦闘想定宙域に突入せよ」
「艦載機、母艦に追従せよ」
「全艦、粒子ビーム砲準備」
 次々と矢継ぎ早に指令を出し続けるアレックス。
「これより原子レーザー砲の試射を行う。準旗艦の各艦は発射体制に入れ!」
 旗艦サラマンダー以下の準旗艦、ウィンディーネ、ドリアード、シルフィー、ノームのハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式の五隻のみ、原子レーザー砲が装備されている。
 その火力性能は未知数であり、後々の実戦のために把握しておく必要がある。
 現在、原子レーザー砲の調整担当として、フリード・ケースンが科学技術部主任として乗艦している。
 天才科学者であるフリードにとって、設計図を見ただけでおおよその性能を見極めてしまう。が、製作者が設計者の意図通りに工作するとは限らない。
 例えば、砲の材質を粗末なものに落として、浮いた材料費を自分の懐にしまい込み、挙句に砲を撃った途端に自壊してしまった、ということもよくある話だ。
 軍部の腐敗体質というものは、どこの国・時代問わずに発生する。
 現場においては常に、自分に与えられた武器の最大性能を引き出すための努力を惜しんではいけない。
 原子レーザー砲の全責任者であるフリードがてきぱきと、機関部員に指令を出している。
「原子レーザー砲への回路接続。レーザー発振制御超電導コイルに電力供給開始」
「BEC回路に燃料ペレット注入開始します」
 着々と発射準備が進んでいく。

 艦隊の目前に、戦闘想定宙域が現れた。
 パラキニア星系の最外郭軌道上を浮遊するゲーリンガム小惑星群であった。それらの小惑星を敵艦隊に見立てて、戦闘訓練を実施する予定であった。
 アレックスの元へ、
「原子レーザー砲、発射準備完了」
 というフリードからの報告が入る。
 すかさず砲撃開始の指令を出すアレックス。
「全艦、宙域に突入と同時に想定目標に対し粒子ビーム砲を百二十秒間一斉掃射。艦載機は直後に突撃開始せよ」
「全艦、粒子ビーム砲、発射!」
 全艦が一斉に粒子ビーム砲を発射する。
 続いて原子レーザー砲の番である。
「サラマンダー及び準旗艦。原子レーザー砲発射!」
 小惑星がレーザービームを受けて粉々に砕け散って宇宙空間にその残骸が漂う。
「ほうっ」
 という驚きの声が漏れる。
 通常の光子ビームではありえないような破壊力をまざまざと見せつけていた。

「各艦の粒子ビーム砲、残存エネルギー有効率以下に降下。再充填開始します。次の発射まで三分ないし七分を要します」
「艦載機、突撃開始!」
 小惑星群に突入、飛散した残骸に対して攻撃体制に入ったジミー・カーグ率いる艦載機の編隊。
「全機へ、これより攻撃を開始する。アタックフォーメーション・TZに展開せよ」
「了解。TZに展開」
 艦載機が突撃を開始する。艦載機は小惑星から飛び散った残骸を、敵戦闘機と見立てて片っ端から攻撃撃破しつつ、小惑星に接近してミサイルを打ち込んでいく。
「ようし、全艦、想定目標にたいして突撃開始。往来撃戦用意。高射砲は射程に入りしだい攻撃開始」

 およそ十分が経過した。
「よし、そろそろいいだろう。艦載機を収容しろ。五分後に戦線離脱する」
「了解」
「全機撤収準備。母艦に戻れ」
 艦載機発進デッキに一機また一機と艦載機が着艦してくる。
 最後にジミー・カーグの隊長機が着艦した。
「艦載機、全機帰還しました」
「よし。艦尾発射管より光子魚雷を連続発射、弾幕を張りつつ戦闘宙域を離脱する。全艦全速前進!」

「全艦、戦闘宙域より離脱しました」
「戦闘体勢解除だ。巡航速度に戻してパラキニアに向かえ」
「はっ。戦闘体勢解除します」
「巡航速度でパラキニアに向かいます」
「パトリシア。一時間後に各編隊長を作戦分析室に集合させてくれ。今回の作戦報告と今後の検討をする」
「了解しました」
「それまで、自室にいる。スザンナ、後をたのむ」
「はい」
 アレックスは自室に引きこもり、スザンナが代わって指揮官席に座った。艦長は通常自艦の運営しか任されていないが、旗艦の艦長に限っては戦闘以外の巡航時のみ艦隊を動かすことができるのだ。その間の旗艦の操艦は副長に替わっている。
「旗艦艦長スザンナ・ベンソン中尉だ。司令官の指令により、これより私が運航の指揮をとる」
 スザンナは指揮官席から伝達した。
「巡航速度を維持。進路そのまま」

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2020.12.18 08:16 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第五章 独立遊撃艦隊 Ⅳ
2020.12.17

第五章 独立遊撃艦隊




 サラマンダー艦橋の指揮官席に陣取るアレックスと、そのすぐ側に立つパトリシア。
「全艦。出航準備完了しました」
「よし、行くとするか」
「行きましょう」
 目の前の指揮パネルに手を伸ばすアレックスだが、その動きを止めしばし考え込んでいた。そして、意を決したように、背後に待機しているパトリシアを呼んだ。
「ウィンザー少尉」
「はい」
「君が、出航の指揮をとりたまえ」
「え……? は、はい。わかりました」
 一瞬躊躇するパトリシアであるが、上官の命令は絶対である。
 立ち上がったアレックスの代わりに指揮官席に腰を降ろし、深呼吸してから指揮パネルを操作した。するとスピーカーから戦術コンピューターからの音声が返って来た。
『戦術コンピューター。貴官の姓名・階級・所属・認識番号をどうぞ』
「パトリシア・ウィンザー少尉。独立遊撃艦隊副官。認識番号 A2B3-47201」
『パトリシア・ウィンザー少尉を確認。指揮官コードを入力してください』
 アレックスから伝えられた副官に与えられる指揮官コードを入力するパトリシア。
『指揮官コードを確認。パトリシア・ウィンザー少尉を指揮官として認めます。ご命令をどうぞ』
 艦艇を動かすには、オペレーターに指示して発動する場合と、自動運転で各艦の制御コンピューターにまかせる場合とがあるが、どちらにしても実際に艦を動かすのは、制御コンピューターである。そして各艦の制御コンピューターを統制運用するのが、旗艦にある戦術コンピューターなのである。指揮官コードを入力しなければ各艦の制御コンピューターは作動しないようになっている。つまり指揮官不在では艦は動かないということである。
「パトリシア・ウィンザー少尉である。少佐の命令により、部隊の指揮をとる。これより全艦に対し、本作戦に使用する艦隊リモコン・コードを発信する。確認せよ」
 発言と同時に指揮パネルを操作するパトリシア。
 艦隊リモコン・コードは、艦隊を組んで整然と航行する際に艦と艦の異常接近を回避したり、往来撃戦で敵味方入り乱れて戦う時に同士討ちを避けるためや、誘導ミサイルの敵味方識別信号としても入力されるものだ。特に、全艦一斉にワープするには、ワープタイミングを旗艦に同調させなければ、ワープアウト時に艦同士の衝突が避けられない。いくらドッグファイトを公言していても、まったく使用しないというわけにはいかないのだ。
 正面のパネルスクリーンには各艦の位置を示す赤い光点が点滅している。それが次々と青い点灯に変わって、各艦が艦隊リモコン・コードを確認したことを現していた。
「指揮官。全艦、艦隊リモコン・コードを確認。発進準備完了しました」
「よろしい……」
 パトリシアは背後の副指揮官席に着席したアレックスに視線を送り、静かに頷いたのを確認して、改めて部隊に指令を発令した。
「では、これより、訓練航海に出発します。全艦、手動モードで微速前進」
 すぐさまパトリシアの指令を全艦に伝達するオペレーター。
「全艦、手動モードにおいて微速前進せよ」
 その指令は各艦において反復伝達されていた。
「手動モード!」
「微速前進」

 一方ゴードンも、副司令官として自分に与えられた全部隊の三分の一相当の配下の艦隊に対して、準旗艦「ウィンディーネ」上から指令を伝達していた。
「サラマンダー艦隊の初陣だな……君がまとめあげた艦隊のね」
 と傍らのレイチェルに話し掛けるゴードン。
「さっきから緊張しっぱなしです」
「まあ、子供を送り出す。母親の気分というところかな」
「はい」
「よし。全艦手動モードにて微速前進」
 くしくも彼が口にしたサラマンダー艦隊という呼称は、やがて連邦を恐れさす代名詞として使われることになるとは、この時点で誰が予知できただろうか。

 もう一人の副司令官ガデラ・カインズ大尉は、準旗艦「ドリアード」上にいた。
 彼は、再編成前の旧第六部隊からの引き継ぎであった。本来自分が司令になるはずだった部隊に、新参者の十歳年下の司令官がやってきたことで、アレックスに対する心象はあまりよくなかった。全艦ワープを実行する時以外、艦隊リモコンコードを使わない作戦に一番最初に反対したのも彼である。しかし、軍規には逆らうことのできない根っからの軍人気質で、たとえ年下であれ上官であるアレックスがひとたび命令を下せば素直に従っていた。

 高速軽空母「セイレーン」に坐乗するジェシカ・フランドルは、アレックスの部隊の航空参謀兼空母攻撃部隊長として艦載機運用の全責任を任されていた。
 艦載機発進デッキの映像がモニターに映しだされる。モニターを背に戦闘員達に指示を出しているジミーの姿があった。
「班長、航空参謀がお呼びです」
 オペレーターの声に気付いて振り替えるジミー。
「ああ、これはこれは航空参謀殿。艦載機の発進準備は万端整っております」
「どうです、戦闘員の士気は」
「上々です。皆張り切っております」
「そうですか。戦闘員には新兵も多くいます。十分訓練を重ねて、安心して実戦に臨めるようにお願いします」
「まかせておいてください」
「よろしくたのみますよ」
「はっ」
 ジミーが敬礼したところで、モニターは切り替わり、パトリシアの映像に変わった。
「丁度よかった。こっちの準備は整ったわ。いつでも出られますと司令に伝えて」
「わかりました」
「ああ、パトリシア」
「はい」
「士官学校と違って実弾による戦闘訓練よ。あなたには初めての経験になるわね。頑張りなさい」
「はい。先輩」
 ジェシカは軽くウィンクを送ると通信を切った。
 一方のパトリシアは、通信が終了しても、しばし映像の消えたパネルを見つめていた。感慨深げといった表情だ。
 そんなパトリシアを見つめるアレックスも、はじめての戦闘訓練に参加する心境を察知して、やさしい表情をしていた。

「戦闘訓練座標に到着しました」
 航海長のアイリーン・アッカーソンが進言する。
「ようし。いってみるか、パトリシア交代だ」
「はい」
 モニターから目を離し、アレックスの方に向き直って明るい表情で答えた。
 通常航行ならともかく、訓練とはいえ戦闘指令となると、パトリシアにはまだ無理である。
 席を外してアレックスに譲るパトリシア。
「ごくろうだった。上出来だったよ」
 ねぎらいの言葉を交わして指揮官席に座るアレックス。
「アレックス・ランドールである。全艦に発令。これより戦闘訓練を開始する。第一級戦闘配備だ。艦載機全機発進準備せよ!」
 艦内の照明が一斉に警告灯に替わり、けたたましくベルが鳴り響いた。
 艦内を右往左往しながら戦闘配備の指令にたいして行動を開始する隊員。居住区からも待機要員の隊員が飛び出し受け持ちの戦闘装備に向かって駆け出している。

 空母セイレーンでもジェシカからの指令直下、全戦闘員がそれぞれの戦闘機に搭乗して発進準備に入っていた。
「艦載機全機発進」
 艦載機発進デッキでは、戦闘機がつぎつぎと発進を開始し、艦隊の周辺に展開をはじめる。
 旗艦サラマンダーの艦長スザンナ中尉の元には戦闘配備状況の報告が次々に伝えられてくる。
「第一砲塔、戦闘準備完了しました」
「高射機関砲。戦闘準備よし」
「艦首ミサイル発射管準備よし」
「機関部、総員の配置を完了しました。戦闘速度三十七宇宙ノットまで可能。原子レーザービーム砲の出力ゲインは八十五パーセントで、発射タイミングは零・七秒間隔。連続掃射限界は三分、再充填所要時間は七分です」
 スザンナ艦長が立ち上がって報告した。
「司令。旗艦サラマンダー、戦闘準備完了しました」
「よし! そのまま待機せよ」
「はっ」
 なおも続々と各艦より戦闘準備完了の報告が続いている。
「さすがに、スザンナだな。戦闘準備完了までたった二分四十五秒だ。規律の行き届いた良い艦だ。旗艦にふさわしい」
「こちら、ジェシカ・フランドル。艦載機の展開を完了しました。いつでも出撃可能です」
 すべての艦艇からの戦闘配備の報告を受けて、
「全艦、戦闘準備完了しました!」
 スザンナ・ベンソンが声高らかに進言する。

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2020.12.17 16:44 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第五章 独立遊撃艦隊 Ⅲ
2020.12.16

第五章 独立遊撃艦隊




「しかしいくら最速のエンジンと最強の火器を有していても、艦隊決戦となった時に困りますよ」
 パトリシアが危惧する通り、艦隊リモコンコードは艦隊が一連の運行をするには非常に大切なシステムである。各艦がリモコンコードを旗艦に同調させることによって、旗艦に対してそれぞれが常に一定の間隔できれいに並んで進行することができる。進路変更や退却といった命令もリモコンコードに載せて旗艦から発信すれば、全艦が一度に整然と行動できるというわけである。リモコンコードによって運行する限り、艦と艦が接触事故を起こしたり、艦が戦闘宙域の中で作戦行動を誤ったり迷子になったりすることはあり得ないのである。
「まさか……」
 パトリシアは口に出しかけた言葉を飲み込んだ。
「そのまさかさ。我が部隊では艦隊リモコンコードは一切使用しない」
「やはり、艦隊ドックファイトをなさるおつもりなんですね。二百隻の部隊で」
「僕は正攻法は苦手でね。奇襲を主戦法としたゲリラ戦が信条だからな」
「連邦の聯合艦隊をやったときのように」
「ああ」
「それ以前に、士官学校の模擬戦でも使われましたわね」
「まあ、何とかやってみるさ。パトリシア、旗艦についたら各編隊長を呼び寄せてくれないか」
「はい」

 旗艦サラマンダーに舟艇が到着する。
 到着デッキには副長以下の者が待ち受け、アレックスの乗艦を歓迎した。
「お待ち申しておりました」
「うむ……」
「艦長他全員乗艦を完了し配置に就いております」
「よろしい」
 一行は艦橋へと歩き始める。
 随行のほとんどが、最新鋭戦闘艦サラマンダーの最新設備に目を輝かせることとなる。
「さすがですね。これが廃艦寸前だったとは信じられません」
「艤装などの設備はトリスタニアの技術の最高峰を寄せ集めたものだ。がしかし、それだけにそれらを統括運営するコンピューターまでは配慮が行き渡らなかった。【仏作って魂入れず】というところだな」
「で、コンピューターを再設計しソフトを開発するよりも、まるごと作り直したほうが手間も時間も、そして製作費も掛からないだろうということですか」
「そういうことだな」
「ならばどうして、そんな木偶の坊(でくのぼう)が今こうして我が部隊に?」
「開発設計課のフリード・ケイスンを召喚したのさ」
「あの天才科学者ですか?」
「そうだ。奴に不可能の文字はない」

 アレックスが艦橋に入室すると、中にいたものが一斉に振り向いて敬礼し、自分達の新司令官を出迎えた。新生の艦隊を指揮統合する中枢である旗艦艦橋にふさわしく、全員が生き生きと活気にあふれた表情をしている。もちろん全員女性士官で士官学校の同期生達である。
「司令官殿。艦橋勤務の方々は全員女性みたいですね」
「その通りだ。いってみればハーレム状態というところかな」
「ん、もう……」
 と呟いたかと思うと、アレックスの腕を軽く抓るパトリシアだった。
 アレックスは指揮官席に陣取ると、指揮パネルを操作して、全艦放送を行った。
「独立遊撃部隊司令官、アレックス・ランドール少佐である。部隊は六時間後に訓練航海に出発する。それまでに全艦万全な体制を整えておくように。以上だ」

 旗艦サラマンダーの作戦室。
 パトリシアからの伝令によって集まった各編隊長達。
「冗談じゃない。艦隊リモコンコードを使用せずに戦闘をするなんて自殺行為です。不可能な指令です」
 開口一番反対意見を述べたのは、副司令官のガデラ・カインズ大尉であった。
 一同はアレックスからの指令を受けて驚愕の色を隠せなかった。
 ただアレックスの少尉時代からの配下のものだけは例外だった。すでに艦隊ドックファイトの訓練と実戦を経験しており、その戦法によってそれぞれ昇進を果たしたからだ。ゴードン・オニール大尉の他、中尉となった七人の編隊長がそうである。
「訓練もしないうちに不可能とは何事か。現に我々は、ランドール戦法で敵艦隊に大打撃を与え、こうして生きてここにいるじゃないか」
 参謀を務めるゴードンが答えた。
「参謀殿。十数隻での作戦と、二百隻からの大部隊での作戦とではおのずから限度というものがあります」
「そうです。あの作戦は、小編隊だったからこそ可能だったのです」
「何をいうか。やりもしないで」
「司令のとられた作戦は、ランドール戦法と命名され、来年度の士官学校では正規の戦術として講義されることになっているのだ」
「ともかく指令は変えるつもりはない。ゴードン以下のミッドウェイ宙域会戦に参加した編隊長を中心にして訓練航海に出発する」
 実際にランドール戦法を戦い抜いて、戦局を大きく同盟側に有利に導いた英雄達を前にしては、結局従わざるをえない状況にあった。
「作戦開始時間は、明日の十時。以上だ、解散する」
「はっ」
 全員起立して敬礼をしてから退室をはじめた。
「パトリシア」
 アレックスは、パトリシアを呼び止めた。
「なにか」
「君に作成してもらった戦闘訓練のマニュアルなんだが、いま少し手を加えたいことがある。夕食までに仕上げておくからそれを各編隊長に配信しておいてくれないか」
「かしこまりました」
「君の作成したマニュアルはなかなか良いできだよ、感心した」
「おそれいります。しかし、手を加えたいというのは、どこがいけなかったのでしょうか」
「うん。君の作戦では艦隊リモコンコードで行うぶんには申し分ないのだが、手動モードで行う際の将兵達の動揺や緊張にたいする配慮が足りない。ミスを犯しても十分修正ができるような余裕を持たせておかないと、取り返しのきかない事態に陥ってしまう」
「申し訳ありません。以後気を付けます」
「艦隊を動かすのはコンピューターではなく人間であることを忘れてはいけないよ」
「ありがとうございました」
「うん。それではまた後で」
「はい」
 パトリシアが敬礼して退出した後、手元の書類に目を通すアレックス。

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2020.12.16 05:58 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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