銀河戦記/鳴動編 第一部 第五章 独立遊撃艦隊 Ⅵ
2020.12.18

第五章 独立遊撃艦隊




 自室に戻ったアレックスは窓から艦隊運行の様子を眺めていた。
 ドアがノックされた。
「入りたまえ」
 パトリシアが、紅茶カップを乗せたトレーとポットをワゴンに乗せて、入ってきた。
「お疲れさま。紅茶はいかがですか」
「ありがとう」
 パトリシアが入れた紅茶を堪能するアレックス。
 彼女が副官として来る前は、レイチェルがやってくれていたものだった。
「どう思うかね、今回の訓練の成果は」
「正確な報告を聞くまでは何とも言えませんが、初陣としてはまあまあの出来じゃないでしょうか」
「君が作ってくれた戦闘訓練のシュミレーションによる綿密な作戦マニュアルのおかげだよ。それに従えば艦隊リモコンコードなしでも十分指揮運営が可能だからな」
「いいえ、隊員が司令官の言葉を信じて、真剣に訓練に従事したからですわ。わたしはほんの少しのお手伝いをさせて頂いただけです」
「謙遜しなくてもいいよ。君の功績には感謝する。今後ともよろしく頼む」
 アレックスは紅茶カップを机に置き、手を差し伸べて握手を求めた。
「はい。わたしでよければ」
 その手を握りかえした。そして、そのまま寄り添って、唇を合わせて抱き合った。
 長い抱擁のあとにアレックスはささやくようにいった。
「君が来てくれたおかげで、僕達の結婚も少しは早まるかもしれないな」
「そうなるように努力しますわ」
「うん」

 アレックスは司令室に、技術部システム管理課プログラマー、レイティ・コズミッ
ク中尉と、技術部開発設計課エンジン担当、フリード・ケイスン中尉を呼び寄せた。
「エンジンの具合はどうだい?」
「はっきりいって、最悪です」
 ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式のエンジン制御コンピューターのシステムを解析していたレイティが即座に答えた。
「そうか……」
「エンジン制御システムなんですが、開発者が数万回にわたるコンピューターシュミレーションによって最も最良な状態をパターン化してROMにインプットしているようです。実際の艦隊運行においては、その時々の状況から最も近似値となるパターンをROMから選びだしてエンジンを制御しています。ところが搭載エンジンの反応速度にROM読みだしから制御までの反応速度が追い付かないのです。つまり完全に合ったパターンがあればいいのですが、ほとんどが近似値を選びだす必要がありその時間が掛かり過ぎます。それが特に艦隊リモコンコードになると顕著に現れてくるのです。艦隊が要求するエンジン制御命令と自身の最良のエンジン制御命令に大きなギャップが生じますから」
「高性能エンジンゆえの憂鬱というところか。シュミレーションと実戦ではまるで違
うからな。実際の戦闘に参加したことのない技術者の作るものはそんな程度のものということ。で、対策は?」
 レイティに変わってフリードが答えた。
「メインシステムはとりあえずそのままにしておいて、サブシステムとして学習機能を持った回路を並列に接続して同時処理させていきます。といいましても当分は、メインシステムが実際の行動パターンを決定するのですが、メインシステムが決定した行動の裏で、『俺だったらこうするのにな』と自分なりに判断し学習メモリに蓄積していくサブシステムがあるというわけです。つまりすでにあるパターンを利用するのではなくて、艦がその時々にとった行動をパターンとして学習させていきます。最終的にはその学習したパターンによってエンジン制御して行動できるようになります」
「サブシステムの構築にどれくらいの時間が必要だ」
「回路の設計に半年、実際の構築に三ヶ月、都合九ヶ月は必要かと思います」
 フリードの後を受けてレイティが答える。
「システムプログラムの方は、メインプログラム作成に四ヶ月と各種モジュール作成が三ヶ月、試験艦として五番艦の『ノーム』を使用してのデバッグに二ヶ月、そしてフリードが構築した回路にインストールして再調整を行い、実際に稼動するまでに十二ヶ月です」
「気の長い話しだな」
「サラマンダーのエンジンは、共和国同盟最高の性能を誇るハイスペックマシンながら、手のつけようのないじゃじゃ馬でもあります。手懐けるにはそれなりの覚悟と期間がひつようということです」
「ま、ともかく。君達二人には協力してハイドライド型のエンジン制御の改良をやってくれたまえ」
「わかりました」
 エンジン関連は二人に任せるしかない。
「原子レーザー砲の運用についてはどうか?」
 と、もう一つの問題に入った。
「それは問題ないな」
「と、いうと……」
「俺が設計したからだ。製作者が設計通りに作ってさえいればな」
「なるほど……」
「とは言っても、実際に試射してみなければ解らないこともあるし、操作するものが間違ったことをすることもある」
「そうだな。経験を積んで慣れていくしかないな」
「その通り。まあ、ともかく詳細なデータは後日にまとめて報告するよ」
「ああ、頼む」

 こうしてアレックス率いる独立遊撃艦隊の初めての戦闘訓練は無事に終了した。

 第五章 了

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



11
2020.12.18 10:39 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第五章 独立遊撃艦隊 Ⅴ
2020.12.18

第五章 独立遊撃艦隊




「司令。全艦、戦闘準備が整いました」
 パトリシアが復唱してアレックスに伝える。
「よし、全艦、最大戦闘速度で、戦闘想定宙域に突入せよ。艦載機は母艦に追従」
 ついに戦闘訓練が開始された。
 艦橋オペレーターが復唱しながら指令を全艦に伝達する。
「了解。全艦、最大戦闘速度で、戦闘想定宙域に突入せよ」
「艦載機、母艦に追従せよ」
「全艦、粒子ビーム砲準備」
 次々と矢継ぎ早に指令を出し続けるアレックス。
「これより原子レーザー砲の試射を行う。準旗艦の各艦は発射体制に入れ!」
 旗艦サラマンダー以下の準旗艦、ウィンディーネ、ドリアード、シルフィー、ノームのハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式の五隻のみ、原子レーザー砲が装備されている。
 その火力性能は未知数であり、後々の実戦のために把握しておく必要がある。
 現在、原子レーザー砲の調整担当として、フリード・ケースンが科学技術部主任として乗艦している。
 天才科学者であるフリードにとって、設計図を見ただけでおおよその性能を見極めてしまう。が、製作者が設計者の意図通りに工作するとは限らない。
 例えば、砲の材質を粗末なものに落として、浮いた材料費を自分の懐にしまい込み、挙句に砲を撃った途端に自壊してしまった、ということもよくある話だ。
 軍部の腐敗体質というものは、どこの国・時代問わずに発生する。
 現場においては常に、自分に与えられた武器の最大性能を引き出すための努力を惜しんではいけない。
 原子レーザー砲の全責任者であるフリードがてきぱきと、機関部員に指令を出している。
「原子レーザー砲への回路接続。レーザー発振制御超電導コイルに電力供給開始」
「BEC回路に燃料ペレット注入開始します」
 着々と発射準備が進んでいく。

 艦隊の目前に、戦闘想定宙域が現れた。
 パラキニア星系の最外郭軌道上を浮遊するゲーリンガム小惑星群であった。それらの小惑星を敵艦隊に見立てて、戦闘訓練を実施する予定であった。
 アレックスの元へ、
「原子レーザー砲、発射準備完了」
 というフリードからの報告が入る。
 すかさず砲撃開始の指令を出すアレックス。
「全艦、宙域に突入と同時に想定目標に対し粒子ビーム砲を百二十秒間一斉掃射。艦載機は直後に突撃開始せよ」
「全艦、粒子ビーム砲、発射!」
 全艦が一斉に粒子ビーム砲を発射する。
 続いて原子レーザー砲の番である。
「サラマンダー及び準旗艦。原子レーザー砲発射!」
 小惑星がレーザービームを受けて粉々に砕け散って宇宙空間にその残骸が漂う。
「ほうっ」
 という驚きの声が漏れる。
 通常の光子ビームではありえないような破壊力をまざまざと見せつけていた。

「各艦の粒子ビーム砲、残存エネルギー有効率以下に降下。再充填開始します。次の発射まで三分ないし七分を要します」
「艦載機、突撃開始!」
 小惑星群に突入、飛散した残骸に対して攻撃体制に入ったジミー・カーグ率いる艦載機の編隊。
「全機へ、これより攻撃を開始する。アタックフォーメーション・TZに展開せよ」
「了解。TZに展開」
 艦載機が突撃を開始する。艦載機は小惑星から飛び散った残骸を、敵戦闘機と見立てて片っ端から攻撃撃破しつつ、小惑星に接近してミサイルを打ち込んでいく。
「ようし、全艦、想定目標にたいして突撃開始。往来撃戦用意。高射砲は射程に入りしだい攻撃開始」

 およそ十分が経過した。
「よし、そろそろいいだろう。艦載機を収容しろ。五分後に戦線離脱する」
「了解」
「全機撤収準備。母艦に戻れ」
 艦載機発進デッキに一機また一機と艦載機が着艦してくる。
 最後にジミー・カーグの隊長機が着艦した。
「艦載機、全機帰還しました」
「よし。艦尾発射管より光子魚雷を連続発射、弾幕を張りつつ戦闘宙域を離脱する。全艦全速前進!」

「全艦、戦闘宙域より離脱しました」
「戦闘体勢解除だ。巡航速度に戻してパラキニアに向かえ」
「はっ。戦闘体勢解除します」
「巡航速度でパラキニアに向かいます」
「パトリシア。一時間後に各編隊長を作戦分析室に集合させてくれ。今回の作戦報告と今後の検討をする」
「了解しました」
「それまで、自室にいる。スザンナ、後をたのむ」
「はい」
 アレックスは自室に引きこもり、スザンナが代わって指揮官席に座った。艦長は通常自艦の運営しか任されていないが、旗艦の艦長に限っては戦闘以外の巡航時のみ艦隊を動かすことができるのだ。その間の旗艦の操艦は副長に替わっている。
「旗艦艦長スザンナ・ベンソン中尉だ。司令官の指令により、これより私が運航の指揮をとる」
 スザンナは指揮官席から伝達した。
「巡航速度を維持。進路そのまま」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



11
2020.12.18 08:16 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

- CafeLog -