銀河戦記/鳴動編 第一部 第三章・模擬戦闘 Ⅱ
2020.11.30

第三章 模擬戦闘


II

 宇宙港の外郭に併設された流通センター内、荷物を積んだフォークリフトや搬送
トラックが頻繁に動きまわっている。ここは宇宙港から発着する連絡艇に荷物を積
載するための施設である。
 その一角に積まれた荷物のそばで、ジェシカとゴードンが、センター所員と荷物
のチェックをしている。
「迫撃砲八門、催涙弾十二ダース、煙幕弾四十ダース、麻酔銃三十六丁、防毒マス
ク七十二面、……」
 ジェシカが書類を読み上げながら、ゴードンが数量の確認をしている。検品の終
わった品々を所員がダンボール箱に詰めなおして、フォークリフトに積載している。
「大丈夫だ。数に間違いはない」
 ゴードンが最後の一箱をぽんと叩き所員に手渡した。
「それでは、受け取りのサインを」
 所員はそれをフォークリフトに載せながら催促した。
 ジェシカは書類の受領書にサインをして渡し、納品書を自分のバックにしまった。
「結構です」
 サインを確認してから、
「しかし、こんなもん何に使うつもりです。確か士官学校の模擬戦で使うはずです
よねえ……」
 頭をひねりつつ納入された品々を見つめる所員。
「作戦上の秘密だよ。死にたくなかったら、聞かないことだ」
 ゴードンがいつのまにか迫撃砲を持ち出して、砲口を所員に向けている。
「冗談はよしてくださいよ。それ、本物なんですから」
 所員は真っ青になって後ずさりをしている。
「ばーか、弾は入ってねえよ」
 と箱の中にぽいと迫撃砲を投げ入れるようにしまうゴードン。
「そ、それでは、コンテナに収納しますよ」
「お願いします」
 所員はフォークリフトを始動して、そばに停車している搬送トラック上のコンテ
ナに物資を積み込んだ。
「コンテナ番号、S一八九三二GA。目的地、サバンドール星域のクアジャリン星
区同盟軍演習場第十二番基地行き」
 ジェシカは、別の書類に物資の行き先を記入して、搬送トラックの運転手に手渡
した。それを受け取りサインをして返すと運転手はトラックを発車させた。

 流通センターから宇宙港に向かうトラックを見送る二人。
「基地へ運ぶ物資は、これで全部だよな」
「ええ、そうよ」
「それにしても、我等の指揮官殿はとてつもないことを考えるな」
「でも、ちゃんと筋は通っているわよ。対戦相手のジャストール校のミリオンの性
格をしっかり計算にいれてね」
「そういえば、ジャストール校から指揮官の名前が発表されたのが一週間前。アレ
ックスはその半年もまえからミリオンが選ばれると踏んで準備を進めていた。一体
どうしてなんだ」
「そこが、アレックスの素晴らしいところなのよ。先見の明がそなわっているのね」
「それで、今回の作戦。本当に成功すると思うか?」
「信じるしかないでしょう。わたし達が信じられないで、部下に信じさせることは
できないわよ。あなたは、副隊長として突撃強襲艦を率いて先陣を切るのよ」
「それはそうだが……先陣は武人の栄誉だという……しかし、その実情は影武者み
たいなものだ。本隊を援護する中でも一番大切な部門を担当するレイティは一足早
く基地に入って管制システムをいじりまわしている。コンピューターの設定に時間
がかかるからな。俺も、あの荷物のお守りで一緒だ」
「わたし達も、おっつけ後を追うわ」

 第一作戦会議室。
 アレックスが、艦長・参謀達を集めて最後の打ち合わせを行っていた。
「それでは、作戦シミュレーションを、最初から再生してもう一度検討してみよう。
パトリシア、操作をたのむ」
「はい。では、再生します」
 正面のパネルスクリーンに、コンピューター映像が投射され、クアジャリン演習
場第十二番基地を出発して、ジャストール校舎の作戦基地である第八番基地へ向か
う艦隊が3D映像で再生される。
「サブスクリーンにルートマップを投影してくれ」
「はい」
 パネルスクリーンの片隅に一回り小さな画面が現れた。十二番基地から八番基地
周辺の星図に一筋の航路が引かれている。
「当初、我々はこのような迂回コースを通って、敵基地後方のA地点まで全速力で
向かう」
「敵艦隊の推定進撃コースの索敵捕捉圏内の少し外側のルートを設定してあります」
 スザンナ・ベンソンが軽く手を挙げて質問した。
「その推定進撃コースの信憑性は確かなのでしょうか」
「敵の指揮官ミリオンは、正攻法で押しまくるタイプということだ。これまでに調
べ上げた彼の性格面から作戦指揮能力などに至るまで、あらゆる方面からデータを
分析した結果から、今回のルートを設定した」
「ミリオンのすべてを洗いざらいしたわけか。そういえば最初の作戦会議のころか
ら、ミリオンの性格面からの調査を開始していたな」
「あたしも、最初は何のためにそこまで調べるのか疑問だったけど。こういうわけ
だったのね」
 ゴードンとジェシカが改めて納得したように頷いた。
「とにかく、目標地点まで一秒でも早く到達するため、すべての艤装兵器の動力を
カットして、エンジンに全エネルギーを回す。もちろん敵に気付かれないよう隠密
にな」
「もし、気付かれたら、どうなさいますか」
「その時は、我が艦隊は全滅。今年もジャストール校に勝利の栄冠を与えることになるな」
 アレックスが淡々とした口調で答えると、一同の間に重苦しい雰囲気が流れた。
「作戦行動中は一切の通信封鎖。A地点に到達するまでは事前に艦制システムコン
ピューターにインストールするプログラムに任せて行動する」
「プログラムは、レイティの推薦で、技術部開発設計課のフリード・ケイスンさん
にお願いしました」
「フリード? レイティの先輩だな。君には、出来ないのか、レイティ」
「いいえ。僕でも、出来ないことはないですけど、時間がかかります。僕の担当は
データ処理などの静的プログラムがメインですから。エンジンやミサイル制御など
のベクトル的なプログラムが必要な艦制システムは、エンジン設計と艦制システム
に携わるフリード先輩が適任です」
「十四歳でロケット工学博士号を授かったのを皮切りとして、宇宙航空力学、光電
子半導体設計エンジニア、超電導素子プロセス工学等々、八つの博士号を持つ天才
工学者にして天才プログラマー。彼一人いるだけで戦艦が開発設計できちゃうとい
うとんでもない方ですわね」
「そんなとんでもない奴が、レイティの先輩で、なおかつアレックスの幼馴染みの
親友とは信じられないな」
「でもフリード先輩は、すでに任官されて開発設計課に勤務しているのですよね。
士官学校の試験に介入することは出来ないのでは?」
「いや。彼は、士官学校をまだ卒業していないんだ。現在、九つ目の博士号を目指
して勉強中の学生というわけだ。開発設計課にいるのは、その優秀さを買われて臨
時特別徴用されたんだ。いわゆるアルバイトしているというのが正しいかな」

 やがて、艦隊の前方に薄紅に輝く星雲状の天体が現れた。
「ちょっと、静止してくれ」
「はい」
 アレックスは席を離れて、スクリーンの前に立った。
「これが、本作戦中において最初の難関となる、ベネット散光星雲だ。この散光星
雲に入り乱れるように、所々暗黒星雲が真っ黒に見えていると思う。我々はこの暗
黒星雲の中にあるベネット十六という原始太陽星雲を横切っていく作戦だ」
 アレックスの後をついで、パトリシアが捕捉説明を加えた。
「ベネット十六は、今まさに誕生しようとしている恒星系の一つで、直径約七十七
天文単位、最中心部の圧力は百八十気圧、温度三千七百度Kとなっております。全
体的にゆっくりと回転しながら周辺の星間ガスが中心部に向かって重力収縮を起こ
し、密度を増してきております。早ければ二千万年後には最初の核融合が始まるで
しょう」
「ここを我が艦隊は突破するというわけですね」
「その通りです。このベネット十六のように、相対的に回転しながら進化をとげる
星雲では、中心となる原始太陽星雲と、その回りに発生する渦動星雲という相関が
発生します。これは流体力学的に導かれることなのですが、この渦動星雲が後に伴
星或は惑星となるらしいことは、周知のことだと思います。さて、本作戦において
艦隊が通過するコースは、この原始太陽星雲と渦動星雲の間隙を縫っていきます。
丁度渦の流れに乗るような進路をとることになります」
「しかし、これまでにも何度か説明を受けたとはいえ、本当に無事ここを通過でき
るか、心配でしようがないですよ」
「確かに最深部では、三千度以上の高熱で鉄をも溶かす高温になってはいるが、
我々が通過するのは中心より約十天文単位離れた区域で、渦の流れもゆるやかとな
っていて、安全性は極めて高い」
「これまでにも、何回かここを無事通過した艦船もあります。もっとも艦隊を組ん
での例はありませんが」
「原始太陽特有のジェットストリームが両極から吹き出している。これが敵基地の
索敵レーダーの探知能力を無力にする。また星雲自体が発生する電磁界ノイズも強
力だ。つまり、これらの天然の妨害障壁を利用して、敵基地に背後から接近を試み
るというわけだ」

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2020.11.30 10:50 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第三章・模擬戦闘 Ⅰ
2020.11.30

第三章 模擬戦闘




 パトリシア達との数次の作戦会議によって、アレックスの率いる模擬戦に参加す
る艦隊の陣容が固まりつつあった。パトリシアの事務処理能力は完璧に近かった。
アレックスが一言口にするだけで、速やかに申請に必要な書類が作成されて軍部に
提出され、許可証が交付されてアレックスの手元に届いた。
 戦艦七十隻、突撃強襲艦二十隻、攻撃空母三隻、艦載機六十機。
 アレックスが指示を出し、パトリシアが手配した艦船の総勢である。
 模擬戦に参加させる艦隊編成は、指揮官の配慮によって自由に変えることが出来
る。
 艦船にはそれぞれ点数がつけられていて、攻撃空母四十点、戦艦二十点、突撃強
襲艦十五点、巡航艦十点、空母艦載機一点という具合である。
 指揮官は自分に与えられた持ち点を自由に配分して艦船を手配するのである。
 また艦船を実際に動かす兵員も確保しなければならないし、参謀の選出も必要だ。
 それぞれの艦艇には、元々勤務している熟練者が五分の一ほど従事してくれるが、
残りの人数は彼らに指導を受ける形をとる、士官学校在籍の訓練生である。
「パトリシア。早速だけど、今回の模擬戦の作戦について協議したい。午後二時に
第一作戦会議室に、各艦の艦長と参謀達を集めてくれないか」
「わかりました。午後二時、第一作戦会議室ですね」
「時間厳守だと伝えておいてくれ」
「はい」
「あ、パトリシア。ちょっと」
「なんでしょう?」
「ところで模擬戦が終わって休暇がとれたら、どこか二人で旅行にでもいかない
か?」
「旅行?」
「ああ。模擬戦が終われば実戦部隊に配属されて、君とは当分会えなくなるからね」
「本当にわたしでいいの?」
「言っただろう、君しかいないって」
「わかったわ。一緒に休暇が取れるかわからないけど、その時に」
「そうだ。確実に取れるように、婚約届けを出そう。君さえよければだけどね」
「婚約届けを?」
「いやかい」
「ううん。うれしいわ。あなたが、そうおっしゃるなら」
「悪いけど。婚約届けの書類、君が作っておいてくれないか。書類とかいうのは、
昔から苦手でね。届けに必要な二人の保証人は、ゴードンとフランソワがいいんじ
ゃないかな。ゴードンには僕から話しておくから」
「そうね。じゃあ、アレックスのサインを入れるだけで済むようにしておくわ」
「ありがとう。旅行のことは、作戦会議の後でくわしいことを話そう」
「はい」

 第一作戦会議室に一同が集まりはじめたのは、定刻にまだ十分前という頃であっ
た。
 会議室はまだ開けられておらず、一同は受け付けの前で立ったまま開場を待って
いた。受け付けに座るパトリシア・ウィンザー。
「おい、いい加減に開けて入れてくれないか」
「定刻まであと三分ほどあります」
「おい、おい、時間厳守だというから、早めに着たんだぞ。もう十分になる」
「定刻になりましたら、お開けしますので、それまでお待ちください」
 パトリシアはアレックスから定刻まで開場しないように厳命されていて、それを
忠実に守っていた。一部がパトリシアに詰め寄る場面もあったが、結局定刻を待っ
て入場することとなった。
「危ない、危ない。もう少しで遅刻するところだった」
 定刻ぎりぎりに、ゴードン・オニールは到着した。急いで走ってきたらしく、肩
で息をしていた。
 一同が入場すると、すでにアレックスは着席しており、目を閉じ腕を組んで考え
込んでいるような表情であった。
「定刻になりましたが、まだ一名到着しておりません」
「かまわない、扉を閉めろ。その者は模擬戦には参加させない」
 一同から吐息がもれた。模擬戦に参加できなければ、その単位をとれなくなり、
その他の成績いかんでは士官学校を落第してしまうことになる。
「わかりました」
 パトリシアは扉を閉め鍵をかけて、自分の席に着いた。
「諸君、残念なことだが我が艦隊は全滅した」
 全員が着席したのを見届けたアレックスは、重厚な口調で言い放った。
「どういうことですか」
「諸君は作戦時間を無視して、定刻よりもはやく集まってきたようだな。中には十
分もはやく来たものもいるようだが」
「それは、時間厳守ということでしたので」
「時間を厳守することが、定刻より早く集まることではないだろう」
「それは……」
「諸君は、敵艦隊を奇襲しようとする集合場所に、定刻より早く現れたことにより、
敵艦隊にその動向を察知されて逆襲されることになるだろう」
 その時、扉がノックされた。定刻に間に合わなかった一人が遅れてやってきたよ
うだ。アレックスはそれを無視して、話しを続けた。
「実際の戦闘というものは、各部隊が共同して作戦に参加して行われるものだ。一
分・一秒の作戦時間のずれが勝敗を決する。敵の動きを一秒でも早く察知し、先回
りしてこれを叩く。奇襲・待ち伏せ、ありとあらゆる戦術級の作戦においては、作
戦予定時間より早すぎては敵に察知されて逆襲されるし、遅すぎては攻撃の機会を
失ってしまう」
「それくらいなら知っております」
「馬鹿野郎! それが作戦時間を無視して集合してきたものの言うことか」
「しかし……」
 ノックの音はすでにやんで静かになっていた。あきらめて去っていったのであろ
う。
「いいわけは無用だ。作戦会議が招集された時からすでに戦闘ははじまっているの
だ。午後二時に招集がかかれば、早すぎもせず遅すぎもしない、午後二時きっかり
に集まらなければならないのだ。自分の時間の管理をできないものに、作戦をたて
る能力もなければその資格もない」
「それは言い過ぎです」
「そうかな……我々は士官学校を卒業すれば、いずれ各部隊の指揮官として艦隊運
用の一躍をになうことになる。だが、部隊の後方で指令を出すだけで自分は安全圏
でえらそうにしている士官になるだけではないのか。それが全滅を引き起こす誤っ
た指令であったとしても、最前線の兵士達はただ従うしかなく最初に戦死するのも
彼らなのだ」
 アレックスはゆっくりと周囲を見渡しながら、言葉を続けた。
「自らが時間に厳しくなることで、最前線に立たされる兵士達の身になって作戦を
立てることができるというものだ」

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2020.11.30 10:26 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二章 士官学校 Ⅵ
2020.11.30

 第二章 士官学校


VI

 女子寮玄関。
「さあ、みなさん食堂に行きなさい。まもなく朝食の時間です」
 寮長が外にたむろしている女性士官候補生達を寮に押し戻しはじめた。
「はい」
 入れ代わりにパトリシアと、かつらをかぶり女性士官の軍服を着込んだアレック
スが出てくる。濃紺に白線のストライプの入ったタイトスカートに、同柄のブレ
ザー、そして黒のストッキングという女性士官の軍服を着込んでいるアレックス。
慣れないタイトスカートを履いているせいか、非常に歩きづらそうであった。少し
でも早く歩こうとするのでつい大股になるのだが、裾の狭いタイトスカートは足捌
きが難しくて小股でしか歩けないのである。こけそうになりながらも必死で歩くア
レックスの姿を横目で見ながら、パトリシアはくすくすと笑っていた。
「笑うなよ」
「だってえ……しっ。寮長よ。あなたはそのまま車のところに行って。わたしがな
んとかごまかすから」
 というとパトリシアは寮長の方に歩み寄っていった。アレックスは言われた通り
に、当直が乗る車のところへ向かった。
「おはようございます」
 パトリシアは寮長にあいさつを交わした。
「あら、パトリシア。おはよう」
 普通士官学校ではファーストネームで呼ぶことはないが、優等生で何かと寮長の
代理役もこなしているがために、二人きりのときには親しみをこめてパトリシアの
名で呼んでいた。
「一体、何があったのですか?」
 と立たされている男子を見やりながら尋ねた。
「いえね、女子寮に侵入したらしくてね。今とっちめているところよ」
「そうなんですか」
「当直?」
「はい。これより、ジュリー・アンダーソンと共に当直交代に参ります」
 寮長は、車を出そうとしているジュリーの後ろ姿を遠目に確認して、
「アンダーソンですね」
 手に持っていたスケジュール表を開きチェックを入れた。
「確認しました。いってらっしゃい」
「行ってまいります」
 アレックスが発車準備している車に歩きだすパトリシア。その言葉をすっかり信
じてジュリーと入れ代わっているアレックスの正体にまるで気付かない寮長であっ
た。
 車の助手席に腰を降ろしてドアを閉めるパトリシア。
「行きましょうか」
 無事車を発進させて寮を脱出した二人であった。
 アレックスはバックミラーで誰も追いかけてこないのを確認した。どうやら誰に
も気づかれずに脱出できたようだ。
「しかし、よく寮長にばれなかったな。冷や汗ものだったよ」
「実は寮長はど近眼なのよ。女の心理で眼鏡をかけたがらないけど」
「そうだったのか、おかげで助かったというわけだな」
「ちょっと離れていると顔の区別ができなくて、誰が誰だかわからないのよ。だか
ら、女性士官の軍服さえ着ていれば、中身も女性士官と思い込んでしまったという
わけ。それにしても……」
 とパトリシアは、スカートを履いて運転をするアレックスの姿に思わず吹き出し
た。
「また、笑う」
「だってえ……」
「しかし、まさか女装をするはめに陥るとは夢にも思わなかったな」
「それもこれもあなたが夜這いなんかするからですよ」
 軍服を着込んでいるパトリシアは、いつもの沈着冷静な優等生である女性士官に
戻っていた。
「夜這いは男の本分さ」
「なにが、男の本分よ。わたしのバージンを奪っておいて、なおも飽きたらず女子
寮まで追いかけてくるなんて」
「しかし、僕が欲しいと思うのは君だけだよ。だからこそ危険を犯してまで夜這い
をかけて君のところに忍び込んだんじゃないか」
「それって殺し文句?」
「本気さ」
「いいわ、信じてあげる。わたしもあなたのこと嫌いじゃないから」
「感謝する。もし銀河が平和になったら結婚しよう」
 といって空いている右手を、パトリシアの膝においた。
「期待してるわね」
 パトリシアはさらりと答えて、微笑みながらそのアレックスの右手を軽く握りか
えした。

「それにしても、ジュリーが寮を出るときに問題にならないかい? いないはずの
彼女がいるとばれてしまう」
「大丈夫よ。ジュリーなら昨夜は寮に帰ってないから」
「帰っていない?」
「昨夜はバーで酔いつぶれて、カプセルホテルで寝ているの。寮長にはうまく騙し
て帰寮して部屋にいることになっていたけど」
「ジュリーは酒豪なのか」
「うわばみといったほうが正解ね。何かあると酔いつぶれるまで飲みまくるの」
「ずいぶん変わった女性士官がいるものだ」
「でも酒が入っていなければ、パイロットとしての腕は、女性士官の中でも抜群よ」
「へえ、そうなんだ。このサイズの軍服を着ているということは、結構女性の中で
も大柄なほうだろうけど」
「ともかく彼女のところに行くわね。その軍服を返さなきゃいけないし、明るい時
間帯の帰寮になるので、本人でないとばれるから」
「ちょっとその前に、どこかで着替えをさせてくれないか」
「あら、いいじゃない。とても似合っているわよ、そのままジュリーに逢ったら?」
「冗談じゃないよ」
「悪いけど、途中停車している暇はないの。ジュリーを迎えにいってたら交替の時
間ぎりぎりなのよ」
「しかし……」
「それもこれも天罰と思って諦めたら」
「将来の旦那さまになんと冷たいお言葉」

 第二章 了

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2020.11.30 10:23 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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