銀河戦記/鳴動編 第一部 第六章 カラカス基地攻略戦 Ⅳ
2020.12.23

第六章 カラカス基地攻略戦




 作戦X地点。
 空母セイレーンのフライトデッキから次々と艦載機が発進している。
 0番格納庫の中央に据えられた複座型揚陸戦闘機。
 作戦会議の時にアレックスが指示したものである。
 彼の頭脳には配下にある艦艇の種類は勿論のこと、搭載してある戦闘機のすべて、そしてその装備や性能までがことごとく網羅されている。
 あらゆる角度から考慮しつくして作戦遂行に必要なものを、明確にチョイスして用意できる。

 ヘルメットを小脇に抱えデッキをゆっくりと歩いて、指令機ブラック・パイソンに乗り込もうとしているアレックス。足早に近づいてくる女性士官は、航空参謀のジェシカであった。
「司令。ジミー・カーグ中尉の編隊、全機発進完了しました。ハリソン・クライスラー中尉の編隊もほぼ九十パーセント」
「わかった」
 指令機のそばにジュリー・アンダーソンが待機していた。
「いつでも、出られます」
 敬礼して迎える。
「よし、行こう」
「はっ。では、後ろにお乗りください」
「よろしく頼む」
「司令」
 乗り込むアレックスの背後からジェシカが声を掛ける。
「ん?」
「どうぞ、ご無事でお戻りください。万が一の時には、泣いて悲しむ女性がいることをお忘れなく」
「わかっているさ」
 OKというように親指を立てて見せる。
 後部座席に腰を下ろして、ヘルメットを着用する。
「よろしいですか?」
「いいぞ。発進してくれ」
「了解しました」
 戦闘機の風防が降ろされる。
 管制官とのやり取りが行われ、庫内の空気が抜かれてゆく。
 雑然とした艦内の音が次第に薄れてゆく。
 無音となり、庫内の扉が開く。
 牽引トラクターが接続されて、発艦デッキへと運ばれる。
 すかさず発艦要員が取り付いて、カタパルトに乗せてゆく。
 それが完了すると、足早に待避所へと向かう。
「エンジン始動!」
 前方出口に表示されている発進信号が青色(GO)に変わる。
「発進します!」
 エンジンを吹かして滑るようにカタパルトから発射される複座式戦闘指令機ブラック・パイソン。ふわりと宇宙空間に出たところで、ジミーとハリソンがすっと両袖を固めるように寄ってくる。
 アレックスの手元の無線機が鳴った。
「全機、発進完了しました」
「よし。行くとするか」
「行きましょう」
 マイクを握り締め指令を出すアレックス。
「これよりバークレス隕石群に突入する。隕石を衝突回避しながら、ランダム飛行コースを取りつつ、目標にたいして接近を試みる。全編隊、我に続け!」
「カーグ編隊、了解」
「クライスラー編隊、了解だ」
「ジュリー。進撃開始」
「了解」
 ブラック・パイソンが隕石群に突入すると、追従して続々と戦闘機が突入していく。
アレックスの下に集まった戦闘機乗りは、酒豪のジュリーを筆頭として一癖も二癖もあるやさぐればかりだ。待機勤務中に酒は飲むし、喧嘩は日常茶飯事でどこの艦隊でも鼻つまみ者として放逐されていた。だが操縦の腕前はピカイチだった。そんなやつらだが、同じく軍の異端児であるアレックスの事を聞きつけ、類は類を呼ぶというように、いつしか自然に集まってきていたのだ。
「ハリソン。速すぎるぞ。隕石との相対速度を合わせろ。いくら隕石の中に姿をくらましても、異常な動きを見せて敵に感知されては元も子もない」
「りょ、了解」
「司令が同行して正解でしたね」
 ジュリーが機内無線で応答した。
「ああ、ジミーもハリソンも、ライバル意欲を燃やしてくれるのはいいんだが、功をあせり過ぎる。二階級特進も考えものだな。という俺は三階級特進か……」
「司令の進級は、作戦を考え実行した功績として当然です。その点、あのお二人はただそれに従っただけという点で、二階級は時期尚早という評価もありますけどね」
「そういう声もあったのは確かだが、彼らがいなければあれだけの戦果を上げることはできなかったさ。だからこそ、彼らがやっきになる気持ちも解るがな」

 一方旗艦サラマンダーの方でも、作戦がはじめられていた。
「そろそろ時間です。艦隊を進めてください」
 司令代行のパトリシアが進軍を命じた。
「了解。全艦微速前進」
 部隊二百隻の艦船がゆっくりと動きだした。
 当面の作戦の目的は、自らの存在を敵に知らしめて、揚陸部隊の行動を察知されないようにする陽動である。

 敵守備艦隊旗艦の艦橋。
「敵部隊がこちらに向かっているのは本当か」
「間違いありません。哨戒機が敵部隊を確認しております。到着推定時刻はおよそ四十分後」
「うむ。警戒をおこたるなよ」
「とは申しましても、情報ではたかだか二百隻の部隊だそうですけれどもね」
「たった二百隻だと?」
「はあ……。ただ問題なのは、部隊を率いているのがアレックス・ランドールという
人物らしいということです」
「アレックス・ランドール? 何者だ、そいつは」
「お忘れですか。ほら、ミッドウェイ宙域で第一機動空母艦隊と第七艦隊を敗走させた例の奴ですよ」
「ああ、あいつか」
 警報がなり響いた。
「哨戒機が敵艦隊を発見しました。距離122.4光秒」
「やっぱり来たか。敵艦の数は?」
「およそ二百隻」
「しかしあまりにも少なすぎるな……」
「いかがなされますか」
「戦闘配備のまま待機だ」
「しかしそれでは……」
「この基地をたかだか数百隻の部隊で攻略することなど有り得るものか。これは誘いの隙だ。我々が出撃した途端伏兵が現れてくるに違いないのだ。背後には少なくとも一個艦隊はいるとみたほうがいいだろう」
「とは申しましてもこちら方面に出撃できる同盟の艦隊といえば、第八か第十七艦隊しかおりません」
「その通り。二個艦隊程度なら、軌道衛星の粒子ビーム砲とあわせて我々守備艦隊だけで十分防御できる」
「軌道ビーム砲の射程内で待機しているかぎり安全というわけですね」
「ああ。とにかく敵の誘いには乗らないことだ」
「わかりました」

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2020.12.23 09:15 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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