銀河戦記/鳴動編 第一部 第二章 士官学校 Ⅴ
2020.11.29
第二章 士官学校
V
その夜。
パトリシアが宿舎の自分の部屋でネグリジェに着替えてくつろいでいた時だった。
外から窓をこつこつと叩く音がするので、何事かと窓を開けて見ると、ひょいと顔
を出したのはアレックスだった。
「アレックス!」
「しっ! 大きな声を出さないで」
ここは三階である。アレックスはロープを伝って屋上から降りてきたようであっ
た。
「危ないわ、早く中に入って」
パトリシアはアレックスを招きいれた。アレックスは中へ入り侵入に使ったロー
プをしまい込んだ。
「どうして……」
言葉を言い終わらないうちに、強く抱きしめられ唇を奪われた。
厚い胸板、広い肩幅、そして自分を抱きしめる強い力。女性であるか細い自分と
は違う頑丈な身体つきをしたアレックス。
「君にどうしても逢いたかった。君の同室のフランソワが当直で今夜は一人と聞い
てね」
「でもこんなことまでして来なくても。落ちたらどうするのよ」
パトリシアは真剣な顔で心配していた。アレックスはかけがえのない存在になっ
ていたのである。
「一刻も早く逢いたかったんだ」
「アレックス……」
窓の外から小鳥のさえずりが聞こえている。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
ベッドの上でまどろむ二人。パトリシアは、アレックスが自分の肩を抱き寄せる
ようにしたそのたくましい腕を枕にして、その厚い胸板に手を預けるように寄り添
って寝入っていた。
先に目を覚ましたパトリシアが、
「もし結婚したら、毎朝こうやって目覚めるのね……」
横に眠るアレックスの寝顔を見つめながら感慨ひとしおであった。男性に抱かれ
て朝を迎えるのは、これがはじめてのはずなのに、なぜかずっと以前からそうして
きたような、錯覚を覚えていた。男と女との関係、これがごく自然な姿なのかも知
れない。
アレックスを起こさないようにそっと抜け出すと、鏡台に座って髪をとかしはじ
めた。昨夜の夢模様のせいかだいぶ髪が乱れている。
アレックスが起きだしてきた。
「おはよう」
といってパトリシアの額に軽くキスをした。
「おはようございます」
明るいところでネグリジェ姿の自分を見られるのもまた恥ずかしいものがあった。
裸すら見られているのだから、今更という感もありはしたが、夢うつつ状態にあっ
た時と、冷静な今とでは状況もまた違うということであった。
アレックスはすでに衣服を着込み始めていた。男性は女性と違って身支度に時間
はかからない。髪を丁寧にとかす必要もなければ、化粧をすることもない。ものの
数分で支度を完了していた。
外が騒がしくなっていた。
アレックスが何事かと思って、窓のカーテンを少し引いて隙間から外を覗くと、
庭の片隅に一人の男性が立たされて、寮長の尋問を受けているところだった。
回りには騒ぎをかぎつけて出てきた女性士官候補生がたむろしていた。パトリシ
アもアレックスのそばにきて外の様子をうかがった。
「まいったな……」
「これでは窓からは出られないわね」
「ああ……」
パトリシアは、箪笥から下着を取り出して着替えをはじめた。
「後ろを向いていてね」
たとえ身体を許した相手とはいえ、明るいところで着替えを見られるのはさすが
に恥ずかしい。二人とも背中合わせになっている。
「しかし、どうしようかなあ……」
背中ごしに彼の困ったような呟きが聞こえてくる。
「今更、どうしようもないわね」
スリップを頭から被るように着るパトリシア。
「元はと言えば夜這いをかけた僕がいけないんだけど。ばれたら君にも迷惑がかか
るな」
「う、うん……」
その時、同室で後輩のフランソワ・クレールが入ってきた。
「あ、あなたは!」
入ってくるなりアレックスの姿を見つけて驚くフランソワ。
「静かに、フランソワ」
人差し指を唇にあてて制止するパトリシア。
「でも……」
「いいから、早くドアを閉めて」
「は、はい」
ドアを閉め、あらためてアレックスとパトリシアを交互に眺めるフランドル。
アレックスはすでに着替えをすんでいたものの、パトリシアはまだスリップ姿の
ままであった。その光景を見れば状況は一目瞭然である。
「ふーん……先輩達、そういう仲だったのですか」
「そういうわけなの」
「わかりました。あたしだって野暮じゃありませんから、お二人のこと内緒にして
おきます」
「ありがとう」
といいながら軍服を身に付けはじめるパトリシア。
「でも、どうするんですか。外の状況はご存じでしょう」
「ああ、今あそこに立たされているのは俺の同僚なんだよな」
「見つかる彼もどじですけど、先輩も帰る手段がないみたいですね」
「ん……それで困っているんだよな」
「あ。ところで、どうやってここに侵入したのですか」
「非常階段を使って五階の踊り場へ。非常口には中から鍵が掛かっているから樋を
伝って屋上へ昇り。そしてロープを使ってここへ降りてきて、パトリシアに窓を開
けてもらって中に入ったのさ」
「本当に無理するんだから」
「へえ。やるじゃない」
といいながら窓から首を出して屋上を見上げていた。
フランソワは感心していた。恋する人のところへ来るために命がけというところ
にである。
「あたしも、そうやって会いに来てくれるような恋人作ろうかな」
「とんでもないわよ。命懸けもいいけど、心臓に悪いわよ」
「そうかあ……」
「それにしても出るに出られぬ籠の鳥とはな」
「夜までここに隠れていらっしゃったら?」
「それがだめなんだ。どうしても出なけりゃならん講義があるんだよ。卒業がかか
っている重要なやつでね」
「ふーん」
どうしたもんかと、アレックスとフランソワが悩んでいた。フランソワにしてみ
れば、恋泥棒であるアレックスがどうなろうと知ったことではないのだが、お姉さ
まにも問題が降り掛かるとなればそうもいってはおられない。
「一つだけ方法があるわ」
軍服を着終えたパトリシアがぽつりとつぶやいた。
「それは、どんな方法だい」
アレックスの問いかけには答えずにフランソワに言いつけるパトリシア。
「ジュリーの部屋から彼女の軍服を持ってきて頂戴」
「ジュリーの……?」
しばし首を傾げていたフランソワだったがすぐに閃いたのか、
「わかりました。いますぐ持ってきます」
「他の人に、怪しまれないようにしてね」
フランソワは言葉に出さずに指でVサインを示しながら出ていった。
「一体なにをしようというのかい」
「あなたにジュリーになってもらうのよ」
「ジュリーになるって、まさか……」
「そのまさかよ」
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11
銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 X
2020.11.28
第九章 共和国と帝国
X
インビンシブル艦橋では、援軍の到着と海賊の殲滅とに歓喜の声を上げていた。
「殿下、ありがとうございます。海賊が襲ってくることを予言なされていて、密かにサラ
マンダー艦隊に後を追わせていたのですね」
ジュリエッタが感心している。
「まあね。これまで二度もやられたから、二度あることは三度あるだよ」
その時、
「殿下、サラマンダーより連絡が入りました」
「こちらに繋いでくれ」
送受機を取り、サラマンダーからの報告を受けるアレックス。
「ジュリエッタ。サラマンダーの随行の許可を頼む」
「かしこまりました」
早速配下の者に指示を出すジュリエッタ。
「それと艦内の捜索をしてくれ。おそらく艦載機発着口辺りに発信機が取り付けられてい
るはずだ」
「発信機……内通者ですか?」
早速、艦内捜索が行われてアレックスから指定された周波数を探って、発信機が発見さ
れた。さらに艦内モニターに映し出された、発信機を取り付けたと見られる容疑者も特定
されたのだった。
容疑者の元に警備兵が駆け付けた時には、時すでに遅く命を絶った後だった。
「消されたかな……」
報告を受けたアレックスは呟いた。
生きていれば、首謀者の名前を聞けたかもしれなかった。
そして以前にもあった事件を思い出すのだった。
*参照 第一部第八章・犯罪捜査官コレット・サブリナ
「他にも内通者が?」
「陰謀を企てる者は、幾つもの予防線を張るものだ。実行犯は、その下っ端ということだ
よ」
「乗員全員の身元調査を行いますか?」
「いや。その必要はない。どうせ二重三重の予防線を張ってるさ」
「そうでしょうか……」
命の重さも毛ほども気にしない陰湿な陰謀の闇、気高いジュリエッタには理解しがたい
ことだろう。
「一度、サラマンダーに戻る。手配してくれ」
「かしこまりました」
本来なら、皇太子殿下が旗艦インビンシブルから離れるのは、警護の上でも避けなけれ
ばならないが、同盟軍最高司令官でもあるアレックスの行動を止めることはできない。
アレックス専用の艀「ドルフィン号」が、駆逐艦に護衛されながらサラマンダーへと移
動する。例え目の前にあったとしても、万が一を考慮してである。
サラマンダー艦橋に戻ったアレックス。
オペレーター達の敬礼に迎えられながら、スザンナが明け渡した指揮官席に座る。
「通信記録の解読はできたか?」
開口一番の質問だった。
「残念ながら記録は抹消されていました。引き続きデータの復元作業を行っています。断
片的にでも特定の人物が浮かび上がればよいのですが」
「ふむ。よろしく頼むよ」
「ところで、インビンシブルの居心地はいかがですか?」
「ああ、結構息苦しいな。殿下と呼ばれると、こそばゆいよ」
「そのうち慣れますよ」
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第二章 士官学校 Ⅳ
2020.11.27
第二章 士官学校
IV
パトリシアは少し酔っていた。
カクテルを飲みながら、隣のアレックスにもたれかかるように寄り添っている。
あの日以来、アレックスとのデートを重ねてきて、すっかりうち解け合って酒の
出る場所にも同席する仲になっていた。
はじめてのデートでは食事をして別れた。
二度目には帰り際にファーストキスを奪われた。はじめての異性との接触であっ
たが少しもいやな感じはしなかった。
三度目には強く抱きしめられて胸を愛撫された。
デートを重ねるたびに、二人の絆が深くなっていく。いずれ行き着くところまで
行くのは明らかであった。それも運命かも知れないと思っていた。
パトリシアは、アレックスになら自分の身体を捧げてもいいと思っていた。
「バーでお酒を飲みたいな」
といって、自分の方からアレックスをバーに誘ったのである。お酒を飲むことで、
自分に勇気を与える意味もあった。
「少し、暑いわ」
「外に出よう。少し風に当たるといい」
アレックスが、ふらつくパトリシアの身体を抱き寄せるようにして外へ連れ出し
てくれる。
高台にある静かな公園にきていた。眼下には宇宙港が広がっており、時折真っ赤
な炎を撒き散らして空高く舞い上がっていく様がよく見える。軌道上にある宇宙ス
テーションに向かう連絡艇である。
それらがよく観察できる一番の場所にアレックスは車を止めていた。車の助手席
に座るパトリシア。
開いた窓から冷たい風が入って気持ちがいい。
アレックスの顔が覆い被さってくる。パトリシアはそっと目を閉じる。唇を吸われ、
服の上から胸を愛撫される。パトリシアはなすがままにされていた。やがてスカー
トの中にアレックスの手が滑り込んできてショーツに手をかけた。
「ここじゃ、いや……」
パトリシアは目を閉じたまま、アレックスの手をそっと振り払った。
アレックスは身体を離して、車を発進させた。パトリシアはアレックスの横顔を見
つめながら、意図を察した彼がモーテルに車を乗り入れるのを確認した。
モーテルの一室に入ると、すかさずアレックスが抱きしめて唇をふさいだ。
長い抱擁が続いた。
アレックスの手が背後に回る気配がしたかと思うと、ワンピースの背中のファス
ナーを降ろしはじめた。
やがてパサリと床に落ちるワンピース。
異性の前ではじめて下着姿を見られているのかと思うと身体が微かに硬直してい
くのがわかった。
アレックスが唇を放して口を開いた。
「ベッドにいこう」
パトリシアはアレックスの両手に抱きかかえられてベッドに運ばれた。
ベッドに横たえられる下着姿のパトリシア。
アレックスが脇に入ってきて、ブラが外されショーツが引き降ろされた。
パトリシアは生まれたままの裸の自分に注がれる熱い視線を感じていた。
「いいんだね?」
アレックスはやさしくささやいた。
「わたしのこと、好きですか?」
「ああ、誰よりもね」
その言葉に答えるように、パトリシアは黙って目を伏せるのだった。
パトリシアが宿舎に戻ったのは、八時の門限から三時間も遅れた午後十一時であ
った。 パトリシアを出迎えた寮長は言った。
「あなたが門限を遅れるなんてはじめてね」
「はい」
「正直に言って頂戴。彼と一緒だったのね?」
寮長は毅然とした表情をしてはいたが、その声はやさしかった。
「はい……」
「わかったわ。今回は特別に許してあげる。でもこれっきりよ」
優等生で何かにつけて、寮長の手助けをしてくれていたパトリシアだからこその
配慮であったのだろう。
「今回ははじめてだからしようがないかもしれないけど。今後も女性が門限を破ら
なければならないような立場に追いやることになっても少しも省みない男性は、き
っぱりとわかれなさいね。そんな奴は、女性の身体だけが目的なんだから」
「わかりました」
自室に引き込んだパトリシアは、今日の出来事を思い起こしていた。
アレックス・ランドール。
自分の処女を捧げた男性として、一生忘れることはないだろう。
「結婚したいな……」
パトリシアは、将来の夢を思い描いていた。愛する人と結婚して一緒に暮らし、
子供を産んで育てるという、ごく普通の女性なら誰でも願うことであった。士官学
校において席次首席という優秀な成績を持つ彼女も、一人の男性の前ではただの女
性でしかないことを。いつかきっとその希望がかなうことを祈りつつ眠りに入るパ
トリシアでった。
翌日。
アレックスに顔を見られると恥ずかしいという思いで、何となく士官学校に出る
のがためらわれたが、行かないわけにはいかなかった。
その日の授業を終えて早速いつものように第一作戦資料室へ向かう。
「パトリシア!」
突然、アレックスの叱責が飛んだ。
昨日の思いが込み上げてきて、アレックスとの話しを上の空で聞いていたのであ
った。
「は、はい」
「念のために言っておくが、僕は公私混同はしたくない。休日とかには君と恋人で
ありたいし一緒にいたいと思うが、公務にあるときはあくまで指揮官と副官の、或
は先輩と後輩のそれ以上ではない。そこのところを間違えないでくれたまえ」
「す、すみません」
アレックスの強い口調に、自分の甘えにも似た考えがあったのを反省した。
パトリシアは気分を切り替えるように深呼吸をした。
アレックスはやさしく見守るように微笑んでいた。
「どう、大丈夫かい」
「はい、すみませんでした。もう大丈夫です」
「よし……早速はじめるよ」
「はい」
「例のコンピューター技師の選定は済んだかい」
「情報処理部のレイティ・コズミックが適任かと思います。彼は、コンピューター
ウィルスのワクチンを開発するのが専門ですが、逆も得意で、誰にも発見されない
ようなウィルスを開発し忍び込ませることができると自慢しています」
「レイティか……次の会議には彼を呼んでおいてくれないか」
「わかりました」
「よし。今日はこれくらいにしようか」
「はい」
「じゃあ、帰りは送るから喫茶店にでも寄ろうか」
「え?」
「だからさ。これからの時間は公務を離れた私の時間だよ。恋人同士に戻る時間さ」
といってパトリシアの頬に軽くキスをして、その肩を抱いてエスコートしてゆく。
「切り替わりが早いのね」
「何事も、公私はきっちりと区別しなくてはね」
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2020.11.29 10:29
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