銀河戦記/鳴動編 第一部 第四章 情報参謀レイチェル Ⅱ
2020.12.07

第四章 情報参謀レイチェル


II

「でね。あたしが受けたのは非合法な方法よ。卵巣や子宮などは、すべて本物の臓
器を移植したの。それでも移植した卵巣の女性ホルモン分泌量が足りないから、体
内に女性ホルモンが封じられたカプセルが植え込んであって、一定量ずつ徐々に溶
けだすようになっていますのよ。だから時々年に一回、カプセルを取り替えなけれ
ばいけませんの。手術から三年経ったかしら、卵巣とカプセルから分泌される女性
ホルモンのおかげで、こうして自然に胸も発達したというわけよ。シリコンなんか
入れていないのよ」
「つまりほとんど本物というわけか」
「そうですわ。嘘だとお思いになるなら、触ってもいいですわよ」
「遠慮しとくよ」
「ふふふ……」
「ところで、君は何の仕事してるのかい。やっぱりその道の仕事?」
「いいえ。あなたと同じ軍に入っておりますわ。これでも少尉ですのよ」
「少尉? ということはやはり女性士官の軍服を着るのか。軍籍は男のままなんだ
ろう。よく上官が許したな」
「いいえ。あたしのお友達にハッカーやっている人がいましてね。その人にお願い
して、軍籍登録しているコンピューターに入り込んで、性別を女性に書き換えても
らいましたの。つまり現在のあたしは、軍籍上では女性ということになっています
の。もちろん国籍上もです」
「本当かよ。軍のコンピューターっていうのは、外部からの侵入は絶対不可能とい
われているほどガードが固いはず。よく侵入できたなあ」
「その人がいうには、オンラインで外部に接続している限り、必ず侵入する手だて
はあるそうですわ」
 確かに、そういったことがあるのはアレックスでも知っている。特に知られてい
るのが、プログラム開発者などが、自分専用の裏道コードを設定している場合など
である。そのコードが判れば、ハッカー監視システムに引っ掛かることなく、簡単
にガードを突破して侵入できるという。
「ふうん……」
 アレックスは、しばらく黙り込んでいた。もし、レイチェルのいうことが本当な
ら、これは使えるかもしれない。アレックスの配下にもコンピューターウィルスを
専門に駆除する担当の技術者がいる。士官学校時代、模擬戦において基地のコンピ
ューターに細工をして、ミリオン達に気付かれることなく手玉にとった影の功労者、
あのレイティ・コズミック少尉である。駆除するのが専門とはいえ、その逆もまた
得意中の得意であり、絶対に誰にも気付かれないようなウィルスを作成できること
を自慢していた。
 もしそのハッカーとレイティがコンビを組めば……例えば、敵軍のコンピュー
ターシステムに侵入して、こちらに有利となるようなウィルスを忍び込ませること
が出来れば。
「レイチェル。そのハッカーを紹介してくれないかな」
「かまいませんけど……。でもハッカーという人達はガードが非常に固いから、会
ってくれるかどうかわかりませんわよ」
「とにかく接触さえ出来れば、後は僕がなんとかする。もし彼が協力してくれるな
らば、ハッカーとしての腕を存分に発揮できうる活躍の場所を提供できるだろう。
そう伝えてくれないか」
「わかりましたわ」
「よろしく、頼むよ」
 ふと時計をみると、午後三時を回っていた。
「あ、もう時間だ。行かなければならない所があるから、これで失礼するよ」
 と立ち上がり去ろうとした時に、レイチェルが切り出した。
「そうそう。あたしね、あなたの部隊に配属されることが決まりましたから」
「え? 僕の部隊に」
「独立遊撃部隊が再編成されるというので、転属希望を出してみたら通ってしまい
ましたのよ。書類はたぶんもうそちらの部隊の人事課に回っていると思いますから、
目を通しておいてくださいませね」

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2020.12.07 08:33 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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