銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 Ⅰ
2021.05.12
第二十五章 トランター陥落
I
バーナード星系連邦の首都星バルマー。
連邦軍統合本部の作戦会議場。
「タルシエン要塞に、共和国同盟軍の精鋭艦隊が続々と集結しております」
「ますますもって、同盟への侵攻が困難になってきたというわけだな」
「タルシエンの橋の片側を押さえられてしまったのですから。どうしようもありませんね」
「橋の道幅は狭い。ここを通って行くには、例え大艦隊であっても一列に並んでと言う状態だ。出口付近に散開して待ち伏せされると、各個撃破されて全滅するしかない」
議場は悲観的な雰囲気に包まれていた。
あれほど強固な要塞が落ちるとは、みなが落胆し精気がなくなるのも当然と言えるであろう。
その時、声をあげて息まく士官がいた。
スティール・メイスン少将である。
「さっきから何を非建設的な意見を言っていらっしゃるのですかねえ。今が絶好の機会だというのに、これを逃すおつもりですか?」
「何を言っているか、スティール」
「ですから敵の精鋭艦隊がタルシエンに集結している今がチャンスだと申しておるのです」
「どういうことか? 説明しろ!」
「それでは……」
といいながら立ち上がるスティール。
「先程からも申している通り、今が共和国同盟に侵攻する最大のチャンスです。同盟はタルシエン要塞に第二軍団の精鋭艦隊を集結させており、本国の防衛が手薄になっております。第二軍団以外の戦力が恐れるに足りないことは、かつて敵にハンニバル艦隊と言わしめた後方攪乱作戦において実証済みであります」
「タルシエンの橋の片側を押さえられていると言うのにどうやって同盟に進撃するというのだ」
「なぜタルシエン要塞にこだわるのですか? 我々には銀河の大河を渡ることのできるハイパーワープエンジン搭載の戦艦があるじゃないですか」
「しかしハイパーワープエンジンで大河を一瞬に渡っても燃料補給の問題がある。ハイパーワープは莫大な燃料を消費する。ぎりぎり行って帰ってくるだけの燃料しか搭載できないのだぞ。同盟内に入り込んで戦闘を継続するだけの燃料はない。敵勢力圏では足の遅く攻撃力のない補給艦を引き連れていくわけにはいかんぞ。万が一の撤退のことを考えれば実現不可能と言える。後方撹乱作戦のように現地調達もできないだろう。片道切符だけで将兵を送り出すわけにはいかない」
「それにだ。仮に燃料の問題が解決したとしても、将兵達を休息させることなく、最前線での戦闘を強要することになる。ハイパーワープで飛んだ先は、ニールセン率いる五百万隻の艦隊がひしめく、絶対防衛圏内だ。休んでいる暇はないから、士気の低下は否めないぞ。これをどうするか?」
「手は有ります。図解しながら説明しましょう。パネルスクリーンをご覧下さい」
スティールが端末を操作するとパネルスクリーンに一隻の戦艦が表示された。
「まず、これが同盟に侵攻する戦艦ですが、この艦体の後方に三隻の戦艦をドッキングさせます」
表示された戦艦に、別の戦艦が三隻接合され、まるで補助ロケットのような形状になった。
この時点で感の良い者は、スティールが言わんとすることを理解したようであった。
作戦を概要すると、
1、後方の三隻をブースターとしてハイパーワープエンジンで大河をワープして渡る。
2、前方の戦艦は、ペイロードとなって後方の三隻に送り出してもらい、その間将兵
達は休息待機に入る。
3、ワープが完了して向こう岸に渡ったら、ブースター役の三隻の戦艦はそのまま引き返す。
4、燃料満載、将兵休息万全の前方の戦艦は、侵略を開始する。
というシナリオである。
全員が、スティールの奇策に目を丸くしていた。
「しかし合体した状態で無事にワープできるのかね?」
「そのためのエンジン制御プログラムを使用します」
「君のことだ。そのプログラムもすでに開発しているのだろう?」
「もちろんです。でなければ提案しません」
懐疑的な上官たちに、自信満面で解説するスティールだった。
「万事うまくいけば、燃料補給と将兵の休息の問題が解決するし水と食料の消費もしない、Uターンしたサポート軍はそのまま、自国の防衛にあたれると、つまり一石四鳥が解決するというわけだな」
「そうです」
「よし、決定する。メイスン少将の作戦案を採用することにする。これ以上手をこまねいていれば、あのランドールがさらに上に上がって、ニールセンと同等以上に昇進すると、もはや侵攻は不可能になる。ニールセンとランドールとの間に軋轢のある今のうちがチャンスだからな」
一堂の視線がメイスンに注がれる。
「判りました。誓って、共和国同盟を滅ぼしてみせましょう」
キリッと姿勢を正し敬礼するスティール。
ぞろぞろと議場から出てくる参謀達。
スティールのそばに副官が駆け寄ってくる。
「いかがでしたか?」
「予定通りだ。忙しくなるぞ」
「よかったですね。頭の固い連中ばかりだからどうなるかと思いましたがね」
「実行部隊の司令官がことごとく全滅や捕虜になっている。そしてとうとう要塞を奪取されてしまった。あのランドールに何度も苦渋をなめさせられて、もうこりごりだという雰囲気が漂っている。例え名案があったとしても二の足を踏んでしまうのも仕方のないことだろう」
「それで、提督に任せることになったわけですね」
「ともかく、ぐずぐずしているとあのランドールに嗅ぎ付けられて先手を取られてしまう。奴の配下にある情報部は優秀だからな」
「でもランドールがいかに素早く情報を得たとしても、ニールセンが動かないでしょう。どんな情報も握りつぶしてしまうのではないでしょうか」
「そうかも知れないが、万全を期しておいて損はないだろう。それより二の段の手筈はどうなっているか?」
「何とか二百隻ほど調達できました。すべて実際の戦闘に耐えられる完動戦艦です」
「二百隻か、取り合えずそれだけあれば何とかなるだろう。後は戦闘員の腕次第だな」
「しかし調達した先々では首を捻っていましたね。何せ運航システムが旧式化して退役した戦艦ばかりですから」
「まだまだ使える物を旧式になったといって、次々と最新鋭戦艦に切り替えるのは考えものだ。旧式にもそれなりの使い道があることを教えてやろうじゃないか」
その日から、共和国同盟への侵攻に向けての、戦艦の改造が開始された。
四隻の戦艦を一組として、同盟に侵攻する任務を与えられた戦艦の後方に、大河を飛び越えるためのブースター役を担う戦艦が三隻ずつ合体させられていく。
もちろん合体戦艦を収容するドックなどあるはずもないから、宇宙空間に浮遊させた状態で作業が行われていた。作業用のロボットスーツを使用して、接続アームをそれぞれの戦艦に取り付けて合体させてゆく。
「いいか。ワープ中にばらばらになったりしないように、しっかりと固定するのだぞ。我々のこの作業が共和国同盟侵攻の成功の鍵を握っているんだ。一箇所一箇所、気を抜かずに確実にやるんだ」
監督の指示の元次々と合体戦艦が作り出されていく。
さらに戦艦の内部では、四隻の戦艦を同時にハイバーワープさせるためのエンジン制御システムのインストールが進められている。
戦艦の改造の状況が眺められる宇宙ステーションの展望室。
スティールと副官がその作業を見つめている。
「これだけの戦艦が集められると、実に壮観ですね」
「残存艦隊の八割が集結しているからな」
「総勢三百二十万隻です。この中から都合八十万隻が同盟に侵攻するというわけですか。これまでにない大攻勢じゃないですか」
「大河を飛び越えて、絶対防衛圏内に直接飛び込むのだ。なにしろ相手は、ニールセン率いる五百万隻からなる大艦隊だ。戦闘の経験のない有象無象の連中とはいえ、数が数だからな油断はできない」
「にしてもあの旧式戦艦を投入すると聞いて、皆びっくりしていましたよ。本当に役に立つのかとね」
「言わせておくさ。それより明後日に最後の作戦会議を行う。各部隊長を呼び集めておいてくれ。今回の戦いは司令官の指揮よりも、各艦長の裁量によって勝敗が決定するからな。各部隊配下の艦長にまで作戦概要が行き渡るように、しっかりと打ち合わせをしておかないとならない。16:00時に中央大会議室だ」
「判りました」
そんな二人のそばを、数人の兵士が通り過ぎていく。
会話が聞こえてくる。
「おい、おまえら」
伍長の肩章を付けた下士官が兵士を呼び止めた。
「はい、何でしょう」
「授産施設にいくぞ」
「授産施設?」
「おうよ。まもなく出撃だ。いつ戦死してもいいように、自分の子供を残しておかなければならん。」
「それって、女の人とベッドを一緒にして、その……つまりセックスというんですか……するんですよね」
「ま、そんなところだ」
「俺、経験ないんですよ」
「わ、私もです」
「気にすんな。みんな最初は初心者さ」
「でも……」
「いいか、これは命令だからな。女性の子作りに協力するのも軍人の仕事のうちなんだぞ」
「はあ……」
「さあ、元気を出せ。そんなことじゃあ、立つのも立たなくなるぞ」
と大笑いし、兵士達の肩を押すようにして、授産施設なる場所へと追い立てていく。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十四章 新生第十七艦隊 V
2021.05.11
第二十四章 新生第十七艦隊
V
タルシエン要塞には、第八師団総司令部が置かれたほか、フランク・ガードナー少将率いる第五師団も要塞駐留司令部を置いて第八艦隊が駐留することになった。
これを機に二つの師団と要塞、及び後方のシャイニング・カラカス・クリーグの各軍事要衝基地、それらを統括運営するためアル・サフリエニ方面軍統合本部が設置されて、その本部長にアレックスが就任した。その主要兵力は艦艇数三十万隻と、それと同数に匹敵するといわれる攻撃力と防御力を有するタルシエン要塞、兵員数一億五千万人を擁する巨大軍事施設であった。
本土にはチャールズ・ニールセン中将率いる絶対防衛艦隊があって、最終防衛ラインを守備していた。第一師団第一艦隊・第四艦隊・第七艦隊などが所属する第一軍団、及び第二・第三軍団配下の各師団の旗艦艦隊合わせて総勢三百万隻の大艦隊である。
人々のもっぱらの噂は、最前線を戦い抜き精鋭が揃っているランドール提督率いるアル・サフリエニ方面軍と、後方でぬるま湯に浸かっている状態に近い絶対防衛艦隊とが、もし仮に戦ったとしたらどちらが勝つかということであった。
艦艇数ではニールセン側に分があるものの、実戦経験と作戦能力に優るランドール側有利というのが大方の予想であった。
「しかし、どうして皆比較したがるのかね」
「そりゃまあ、自分の所属する艦隊や部隊が一番でありたいと思うのは自然な心理でしょう。そして自分もその一役をかっているという自負からくるのでしょう」
「士官学校の候補生の配属志望先では、圧倒的に第十七艦隊所属だそうですよ」
「志願兵も合わせて皆が皆、第十七艦隊を希望するから倍率五十倍以上の難関、逆に他の隊を志望すれば希望通りすんなり入隊できるそうです」
「席次によって順番に配属されていきますし、成績では女性士官候補生のほうが優秀ですから、自然として第十七艦隊に女性が多く集中するようになりました。現実として六割が女性士官になっております」
「優秀であるならば、性別は問わないのが提督の方針だからな。それに大昔の肉弾戦闘が主体だったころならともかく、ボタン戦争時代となりすべてはコンピューターが動かす今日では男女による体格差は無関係だから」
「しかし女性は結婚退職や育児休暇がありますからね」
「しようがないだろ。無重力の宇宙では子供は産めないからな」
要塞に第八艦隊が到着した。
戦艦フェニックスに坐乗して、フランクが幕僚達を従えて要塞ドッグベイに降り立った。
「よくいらっしゃいました。先輩」
アレックスは自らフランクを迎えに出ていた。
アル・サフリエニ方面軍統合本部の長官であるアレックスに対して、フランク以下の士官達が一斉に敬礼をほどこした。
「おう、悪いな。当分、間借りさせてくれ」
と敬礼をしたその手をアレックスに向けて差し出すフランク。
「どうぞ、遠慮なく使ってください」
その手を握り返すアレックス。
「早速だが、こいつらを要塞司令部に案内してやってくれないかな」
フランクの後ろには、第五師団の幕僚と第八艦隊司令のリデル・マーカー准将が控えていた。
「フランソワ、ご案内してさし上げて」
「はい。どうぞこちらへ」
指名されて、参謀達を案内していくフランソワだった。
「君も出世したなあ、とうとう追い越されてしまった」
「何をおっしゃいます。同じ少将じゃないですか」
「いやいや。君は、カラカス基地・シャイニング基地・クリーグ基地、そしてこの巨大要塞を統括するアル・サフリエニ方面軍統合本部長じゃないか。階級は少将とはいえ、これは中将待遇だよ。何せこの要塞だけで、三個艦隊に匹敵すると言われているからな」
「三個艦隊とはいえ、動かない艦隊では私の手にあまります。それに今後は防御戦がメインになりますからね。なんたってゲリラ攻撃戦が私の主力です。トライトン中将が、先輩をよこしてくれたのも、防御戦では同盟屈指ですからね」
「ははは。君は攻撃しか能がないからな」
「その通りです。要塞防御司令官として、先輩のお力を拝借いたします」
「ま、期待にそえるように頑張るとしますか」
タルシエンに全艦隊が揃ったところで、改めて会合が開かれた。各艦隊の司令や参謀達を交えるとかなりの人数に及んだ。もちろん初顔合わせという士官同士がほとんどであった。
「ところで、連邦軍がこの要塞を避けてトランター本星を直接攻略するというのはあり得るのかね」
早速、アレックスに次ぐ地位にあるフランク・ガードナー少将が質問に立った。
「当然でしょう。現在ここには三十万隻からの艦隊が駐留していますし、要塞そのものの防御力もあります。これを真正面から攻略するには、その三倍の艦隊を必要とするでしょう」
「都合九十万隻が必要ということか」
続いてリデル・マーカー准将が問題にする。
「お言葉ですが、提督は数十人の将兵で要塞を攻略なされました。同様の奇抜な作戦で敵が奪回する可能性もあります」
「それはないと、俺は思うな。この要塞を攻略できるような作戦能力に猛る参謀が敵にはいない」
フランクが答えると、すぐにアレックスが訂正する。
「過信は禁物ですよ。向こうにはスティール・メイスンという智将がいるんです」
「しかしこれまで表立った戦績を上げていないじゃないか」
「それは彼が参謀役に甘んじていたからです。艦隊司令官として直接戦闘を指揮するようになれば手強い相手となるはずです」
アレックスは、これまでに調べ上げたスティールに関する情報から、彼が着々とその地位を固めていることを確認していた。もし次の侵略攻勢があるとすれば、彼が総指揮官として前線に出てくると踏んでいた。
その作戦も尋常ならざるを得ない方法を仕掛けてくるだろうと直感していた。
それがどんな作戦かは想像だにできないが、少なくともタルシエンの橋の片側を押さえられ、多大な損害を被ることになる要塞を直接攻略するものではないと確信できる。
「とにかく……。仮に通常戦力で敵が襲来してきた場合を想定すると、連邦軍がそれだけの艦隊をこの宙域に派遣するには相当の覚悟がいります。同盟が要塞防衛に固執して艦隊を集結させ、その他の地域の防衛が疎かになっている点に着目すれば……」
「要するに、ここには共和国同盟軍の精鋭部隊のすべてが集結しているということですよね」
「逆に言えば、アル・サフリエニ以外の後方地域は、有象無象の寄せ集めしかいないということで、本星への直接攻略という図式が成り立つというわけだ」
「侵略政策をとっている連邦は、敵陣内に深く入り込んで戦闘を継続しなければならない関係で燃料補給や艦の修繕の必要があるからこそ、要塞を建造した。そこを拠点として同盟に進撃することができるというわけですね。
でも、専守防衛を基本としている共和国同盟にとっては、要塞を防衛することは戦略上の重要性は少ないとみるべきでしょう。いくら要塞を押さえていてもそこから先に進撃することはあり得ないのですから、燃料補給も艦隊の修繕もあまり必要ありませんからね。ゆえにこの要塞は破壊してしまうか、同盟本星近くに曳航して最終防衛戦用として機能させるべきです」
「まったく軍上層部は一体何考えているんでしょうねえ」
「というよりも評議会の連中の考えだろうさ。金儲けのことしか頭にないからな。要塞を所有していることの経済効果を考えているのだろう」
「経済効果ね……確かにこの要塞の建造費がどれくらいは知らないが、ただで儲けたものだし、ここの生産設備をフル稼動させれば、たとえ本国からの救援がとだえてもある程度は自給自足できる」
「ともかく、軍の命令には逆らえない以上、言われた通りにするしかないからな。たとえ本星が占領されても知ったこっちゃないということさ」
「それ、それですよ。本星が占領され同盟が降伏すれば、同然ここを明け渡すことになるわけですよね」
「そう。結局連邦にとっても本星さえ落としてしまえば、この要塞は苦もなく手に入れることができる。苦労して要塞を攻略する必要はないわけだ」
「果たして燃料補給の問題をどう解決するかですね」
「それさえ解決すれば、明日にも攻めてくるのは間違いない」
第二十四章 了
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十四章 新生第十七艦隊 Ⅳ
2021.05.10
第二十四章 新生第十七艦隊
Ⅳ
タルシエン要塞の運用システムが正常に稼動をはじめて、アレックスは配下にある部隊や軍人及び軍属の、タルシエンへの配置転換をはじめた。
これまではシャイニング基地が最前線だったのだが、それがタルシエン要塞となったわけである。最前線基地をタルシエン要塞として艦隊を集合させつつあった。
アレックスが第八師団司令官となったのを機に、新生第五艦隊と第十一艦隊がその配下に加わった。それがタルシエン要塞に向かっていた。
タルシエンの収容艦艇は十二万隻しかないために、それをオーバーする艦艇は要塞周辺に展開して、哨戒行動と警戒態勢。交代で休息待機に入るときのみ要塞内に入場することとした。
要塞内にあって、もっともスペースを占有しているのが、中心核部にある反物質転換炉である。半永久的にエネルギーを取り出せるとはいえ、あまりにも巨大過ぎた。反物質を閉じ込めておくためのレーザー隔離システムが、その全体容量の三分の二を占め、使用するエネルギーだけでも要塞内の全エネルギーを賄うことができるくらいである。考えれば実に無駄なことをしているとしか言いようがなかった。
すべては対消滅エネルギー砲という破壊力抜群の兵器運用のために建造されたといっても過言ではないだろう。
「軍部の考えることは無駄が多い。確かに反物質を利用した対消滅エネルギー砲は破壊力抜群だし、エネルギー問題は考える必要もない。しかし、動けない砲台など攻略次第では無用の長物だ。が今更通常の核融合炉などに取り替えるわけにもいかないしな……」
取り替えるとなれば要塞全体を解体するよりないし、反物質の処理にも困る。二十一世紀初頭、核廃棄物処理に困った地球連邦はカプセルに詰めて太陽に打ち込んだらしいが、反物質はそうはいかない。
アレックスは、司令官の就任式を無事終えたチェスターの第十七艦隊と、途中合流する予定の新生第五艦隊及び第十一艦隊と共に、残しておいたゴードンの新生遊撃艦隊の待つ、タルシエン要塞へ向かうことになった。
宇宙空間において合流した第五艦隊と第十一艦隊の司令を交えて、旗艦サラマンダー艦上で初の会見が行われていた。
パトリシアがそれぞれの司令官を紹介していく。
「第五艦隊司令のヘインズ・コビック准将です。旗艦は空母ナスカ。今後の母港をカラカス基地とします」
「第十一艦隊司令のジョーイ・ホリスター准将です。旗艦は戦艦グリフィン。母港、タルシエン要塞」
「第十七艦隊司令のオーギュスト・チェスター准将です。旗艦は戦艦ペガサス。母港、シャイニング基地」
「そして第八師団総司令のアレックス・ランドール少将。旗艦はこの高速戦艦サラマンダー」
「後、ランドール提督直属の独立遊撃艦隊としてゴードン・オニール上級大佐がタルシエン要塞に駐留しております」
「ありがとう。ウィンザー大佐。彼女は、第八師団作戦本部長であるから、よろしく。それとガデラ・カインズ大佐にも同席してもらった」
パトリシアとカインズは軽く礼をした。
顔合わせが済んで、サラマンダーのカフェテラスで、司令官と同伴の士官達がくつろいでいる。
「しかし、この旗艦は一体何なんだ。やたら女性が多いが……」
第五艦隊のコビック准将が周囲を見回すように言った。
「知らんのか、別名をハーレム艦隊というらしい。ここの艦橋は全員女性だし、女性士官だけの部隊もあるそうだ。英雄としてのランドール提督の名声と、女性総参謀長のウィンザー大佐の人気によって、士官学校から女性士官が続々集まってきているそうだ。自然女性の割合が高くなってくる。どうだい、勃起艦隊とよばれる貴官の第五艦隊の連中が喜ぶんじゃないか」
第十一艦隊のホリスター准将が答える。
「よしてくれよ。それは先任の旧艦隊司令の時のことだろう。いつまでも股間を膨らませているわけがない。俺が新生第五艦隊司令として任官されて以来、その悪名を取り払おうと努力しているのは、君も知っているはずだが」
「悪い悪い。ともかくだ。それだけでなく、全体として青二才ばかりともいえる、第十七艦隊の連中は。チェスターを除いてだが」
「俺達が戦闘の度に戦艦を消耗してそれぞれ五万隻に減らしているというのに、ここにはオニール上級大佐の独立遊撃艦隊を含めて十三万隻の艦隊があるし、シャイニング基地には、連邦から搾取した三万隻の未配属艦艇も残っている。同じ准将だったというのにな」
「そう、その三万隻だ。提督からは、まだ発表されていないが、どこへ配属されるのだろうか」
「オニール上級大佐の独立遊撃艦隊に回されて、新たに正式な一個艦隊を組織して、彼は准将に昇進するだろうというのが、最有力情報とのう・わ・さ・だ。オニール同様、カインズ大佐に第二独立遊撃艦隊をというのもある」
「噂はあてにできん。チェスターが昇進したのだって、誰も想像だにしていなかったのだからな。どっちにしろ艦艇を動かす将兵がまだ足りなくて未配属のままだ」
「軍令部では、士官学校の学生を繰り上げ卒業させる人選に入ったそうだ」
「ともかく三万隻の艦隊の存在が明らかなのだし、それの指揮権を巡って第十七艦隊では水面下で、駆け引きが行われているそうだ」
「三万隻を配属させるとなると、もう一人大佐を置かねばならないからな。中佐クラスの連中がやっきになっておる。もちろんその配下の士官も必要だ」
「第十七艦隊にいる限り、昇進は保証されているってところだな」
『まもなくアル・サフリエニ宙域バレッタ星系に入ります』
艦内放送が告げていた。
「見ろ。要塞が見えてきた」
コビック准将の指差す窓の向こうにタルシエン要塞の雄姿があった。
それは近づけば近づくほどその巨大性に驚かされ、戦艦がまるで蟻のような小ささに感じられるほどであった。
「こ、これがタルシエン要塞か……この要塞をたった十数人の特殊工作部隊だけで、攻略したというのか」
「し、信じられん」
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十四章 新生第十七艦隊 Ⅲ
2021.05.09
第二十四章 新生第十七艦隊
Ⅲ
百四十四時間の休暇が終わりをとげた。
各人各様の過ごし方があったのだろう。有意義だった者がいれば、無意味に時間を浪費しただけの者もいるだろう。
アレックスはといえば、要塞とシャイニング基地を往復しながら、こなさなければならない処理に忙殺されていた。パトリシアを帰した事を後悔もしたりしたが、今後の事態を考えれば留めておくわけにもいかないだろう。
続々と帰還してくる将兵達を迎えるアレックス。
ゴードン、ジェシカ、カインズ、そしてチェスターらが、それぞれの故郷や思いでの場所での休暇を楽しんで帰ってきた。
その中にレイチェルだけが含まれていなかった。
司令官となった第八占領機甲部隊と共に、最新鋭機動戦艦ミネルバの受領と、乗員達のトランター本星での隊員訓練のためにトランター本星残留ということになっている。
タルシエンから遠く離れた場所でただ一人、来るべき日「Xデー」に向けての準備を密かに進めるために……。
「Xデーか……」
できれば、その日が来てくれないでほしい。
しかしその日はちゃくちゃくと近づいてくるであろう。
共和国同盟がタルシエン要塞に固執しつづける限り、そしてバーナード星系連邦にあのスティール・メイスンという智将がいる限り、その日は必ずやってくる。
デスクの上のヴィジフォーンが鳴った。
「何だ?」
「提督。レイティー中佐からご連絡が入りました」
秘書官のシルビア・ランモン大尉が、タルシエンにいて今なおシステムの改造に取り組んでいるレイティーからの連絡を取り次ぐ。このシルビアは、シャイニング基地にあって、以前は独立遊撃艦隊の司令部オフィス事務官として、司令官のいない閑職にあったのだが、アレックスが第十七艦隊司令官になって、シャイニング基地に戻って来てからは忙しい毎日を送っている。
事務官から秘書官へ、少尉から大尉に昇進していた。もちろん秘書官という限りは、アレックスのスケジュールを管理しているので、毎朝のようにアレックスの所に来てその日や翌日などの予定を確認しにくる。早い話が寝ているアレックスを起こしに来るのだ。
「繋いでくれ」
ヴィジフォーンにレイティーの上半身が映る。
「やあ、いらしたんですか? まだ寝ているかと思いましたよ」
「毎朝起こしてくれる優秀な秘書がいるのでね」
「ああ、シルビアさんですね。彼女、ものすごく時間にうるさいでしょう?」
「まあな……」
「何時に連絡してくださいとか、来てくださいとか言われたら、その時間きっかりじゃないと怒って取り次いでくれない時があるんですよ」
『それは、コズミック中佐がいけないんです。時間厳守は提督が口を酸っぱくおっしゃってることです!』
突然、割り込みが入ってシルビアが顔を出した。
「ありゃ、聞いてたのね」
「気をつけろよ。ここのヴィジフォーンは秘匿通話にしない限り、秘書室のシルビアに筒抜けなんだ。重要な連絡事項や約束事などがあった時、言わなくてもスケジュールとかが組めるようにな」
「秘匿通話にしてなかったのですか?」
『通話を掛けた方が秘匿通話を依頼するのが筋ですよ。受けた側では、内容が判らないんですからね』
「おー、こわ……。提督は、こんな気の強い人を秘書にしてるんだ」
「それくらいじゃないと秘書が務まらないさ。それよりそろそろ本題に入りたまえ」
「ああ、はい」
本題に入った。
技術部システム管理課長のレイティー、当然として要塞のシステムコンピューターについてであった。
「……やっとこさ、本格運用できるところまできました」
「同盟の軍事コンピューターとの接続は?」
「一応、外からの侵入を防ぐゲートを通して接続しましたけど、ジュビロさんの腕前なら簡単に侵入してくるでしょうな」
「まあ、たぶんな。彼に侵入できないネットなど存在しない。できればネットに接続しないで、独立系を保ったままにしておきたかったのだがね」
「それは軍が許さないでしょう。何にでも干渉してきますからね」
「当然だろうな」
「ところで、フリード先輩に何を依頼したんですか? 最近、何かの設計図を引いてばかりいて、システムの方を僕に任せ切りにしてるんです。おかげでこっちは不眠不休なんですよ。そんなに急ぐものなんですか?」
「大急ぎだ。とてつもなくな」
「ちらと見た限りでは、ロケットエンジンのような感じがしたんですどね」
「ほう……よく判るな」
「それくらいは判りますよ。それに先輩が設計した図面とかよく見ていましたからね。最近では、ミネルバとか命名された機動戦艦でしたね。あれって主要エンジン部はもとより、艦体構造体やら武器システム、艦制システムなどのソフトウェア、艦の運用に直接関わる部門はみんな先輩が手がけているんですよ。携わっていないのは居住区だの食堂だの付帯設備だけみたいです」
「オールマイティーな天才科学者だからな」
「先輩一人で戦艦造っちゃいますから。もっとも実際に造るのは造船技術者達ですけどね。先輩は設計図を引くだけ」
「設計図といったって凡人には引けないさ」
「そうですけどね」
「ともかくも、要塞のシステム管理プログラムだ。よく頑張ってくれた、感謝するよ」
「帰郷もせずに寝るのも惜しんでシステムに取り組んできたんですからね。功労賞くらいは頂けるのでしょうね」
「考慮しよう」
「そういえば提督も帰郷なさらなかったんですね」
「帰りたくても帰る場所もないしな」
「そういえば孤児院育ちでしたっけ」
「帰るとすればそこか、士官学校を訪問するくらいだ」
「士官学校を訪問すれば大騒ぎになりますよ。我らが英雄がやってきた! ってね」
「それは、遠慮したいね」
「そう言えば、シルビアさん。割り込んできませんね」
「当然だろ。世間話だったらいくらでも突っ込んでくるが、本題に入れば遠慮するに決まっているじゃないか」
とアレックスが言ったところで、音声が割り込んできた。
『聞こえていますよ』
「な?」
「納得しました」
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十二章 海賊討伐 Ⅲ
2021.05.08
第十二章 海賊討伐
Ⅲ
中立地帯を越えて、踏み込んではならない宙域へと立ち入るウィンディーネ艦隊。
「PーVX300より海賊基地の座標入電しました」
「よし。座標を設定しろ」
「了解。座標設定します」
「索敵機を下がらせてくれ」
「Pー300VXに連絡、後方に撤退を指示します」
指示を受けて、ゆっくりと後方に下がる索敵機。
「そろそろ敵の索敵範囲に引っかかると思われます」
「よし、戦闘配備だ。ウィンディーネ艦隊の底力を見せつけてやれ!」
声高らかに指令を出すゴードンの言葉に、副長も張り切って復唱する。
「了解! 全艦戦闘配備!」
「第六突撃強襲艦部隊に白兵戦を準備させろ!」
任務は海賊を殲滅するだけでなく、候女の救出作戦をも担っている。
ただ海賊基地を殲滅するだけではいけないのである。
海賊基地中央コントロールルーム。
「レーダーに感あり! 接近するものがあります」
「接近だと!? まさか跡をつけられたのか?」
「艦数増大中! 二千、三千、さらに増大」
「この基地の位置がバレたというわけか?」
「迎撃を出しますか?」
「無論だ!」
基地から迎撃の艦隊が出てくる。
「艦数五万隻を超えました!」
「こりゃ正規の艦隊のようだな。どこの艦隊は分かるか?」
「どうやら帝国の艦隊ではなさそうです」
「帝国じゃない? じゃあ、どこだ?」
「識別信号は……共和国同盟のものです!」
「ランドールか!」
やがて前方で交戦が始まる。
「艦数七万隻!」
「交戦部隊より報告! 敵艦の中にハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式を視認とのことです」
「ハイドライド型だと!」
「旗艦と思しき艦体に、水の精霊ウィンディーネ! ウィンディーネ艦隊です!」
「馬鹿な! 情報ではオニール提督の反乱の際に、ランドールによって撃沈されたはずじゃないのか?」
「間違いありません。攻撃を仕掛けているのは、ウィンディーネ艦隊です」
「まさか修理して、出直してきたというわけじゃないだろうな」
海賊基地には、ハイドライド型の六番艦が存在したことと、新生ウィンディーネ艦として配属された事は知れ渡っていなかったようだ。
「人質の候女がいるのを知らせて停戦させますか?」
「皆殺しのウィンディーネ艦隊だぞ! そんなもん通用するか!」
皆殺しのウィンディーネ艦隊とは、アレックスが帝国宇宙艦隊司令長官と元帥号を授与され、アルサフリエニ方面で活躍していた時に名付けられた称号である。連邦によって暴行されて身ごもり自殺した実の妹、その復讐に煮えたぎっていた。
しかし今は、改心して冷静さを取り戻したゴードンには、その名は似つかわしくないだろう。
そこまでの新情報も伝わっていなかったらしい。
「とにかく相手がウィンディーネ艦隊、しかも七万隻となると勝ち目はない。逃げる準備をしろ。候女も連れてゆくのだ」
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