銀河戦記/鳴動編 第二部 第十二章 海賊討伐 V
2021.05.22
第十二章 海賊討伐
V
海賊基地コントロールルーム。
攻撃を受けて、そこら中から火を噴いていた。
多くの族が倒れている。
「どうやら候女は救助されたようです」
「候女を浚ったのが運の尽きだったのかな」
「跡を付けられていたようですね」
「しかも出てきた奴がウィンディーネ艦隊とはついてない」
頭領の腹には、大きな金属の破片が突き刺さって、多量の血液を流していた。
致命傷と思われ、手当てをする甲斐がないのは一目でわかる。
副長の方も負傷はしているが、立つだけの体力はあった。
誘爆は続いている。
やがて声を発しなくなった頭領と立ちすくむ副長を炎が包む。
海賊の最期だった。
その直後にやってくる突撃隊。
惨状を確認しながら、生きている者はいないか確認する。
「こいつが頭領か?」
椅子に腰かけて死んでいる海賊。
「後で役に立つかもしれんな。運び出せ!」
DNAによる人物特定から、海賊頭領としての証拠となるだろう。
そのすぐ傍に倒れている人物に調べている隊員が叫ぶ。
「この人、生きています!」
声の主が見つけたのは、副長だった。
大火傷を負ってはいるが、何とか生きていた。
「よし、運び出せ! 他には生存者はいないか?」
「いません!」
誘爆はさらに激しくなっている。
装甲服を着ているとはいえ、生命の危険が迫っていた。
「危険です。早く脱出しましょう!」
「わかった。総員退却だ!」
爆音の続く中、艦へと急いで戻る兵士たち。
途中、他の班が投降した海賊達を連行していた。
海賊など即刻処刑しても構わないのだが、有用な証拠証言を提供することで処刑を免れて懲役刑で済まされることもある。
ウィンディーネの艦橋に報告が届く。
「総員退却完了しました!」
「全艦攻撃用意! 跡形もなく基地を消し去る。基地の近くにいる艦は直ちに回避せよ!」
突撃強襲艦が基地から離艦してゆく。
発射体勢に入る艦隊。
「発射準備完了しました!」
「よし! 撃て!」
ゴードンが右手を差し出す動作と同時に全艦攻撃が開始される。
一斉攻撃を受けて炎上、やがて大爆発を起こして粉々に砕け散った。
「海賊基地消滅しました」
「うむ。これで治安も少しは良くなるだろう。
そこへ突撃部隊の隊長が報告に来た。
「閣下! 候女を貴賓室にお通ししました」
「そうか、ご苦労だった。下がって休んでいいぞ」
「はっ! ありがとうございます」
そういうと、敬礼し踵を返して退室していく。
「さてと、候女さまにお会いするか」
隊長の跡を追うように貴賓室へと向かうゴードン。
エルバート侯爵邸。
「それはまことか?」
候女救出の報を受けて、歓喜に沸く公邸。
執事が落ち着いた表情で伝えていた。
「アレクサンダー殿下の命を受けた配下の者が海賊基地を急襲して救い出されたそうです」
「殿下のご命令なのか?」
「そのようでございます」
「そうか……」
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十六章 帝国遠征 Ⅲ
2021.05.21
第二十五章 帝国遠征
Ⅲ
質問が自分の事に言及され、みじろぎもせずにスクリーンを凝視するアレックス。
「……だって言ってますよ」
ゴードンが、親指でスクリーンを指差す格好で口を開く。
言いたいことは良く判っている。
共和国同盟が滅び、守るべき国家の存在が消失した今、もはやタルシエンに固執する必要はないと言えるだろう。アル・サフリエニ方面軍を解散して要塞を明け渡し、これまでに戦ってくれた将兵に報いるためにも、郷土への帰還を許すべきではなかろうか。
通信を終えて、総参謀パトリシア・ウィンザー大佐に指令を出すアレックス。
「パトリシア、全幕僚を会議室に集合させてくれないか。一時間後だ」
「かしこまりました」
ただちに、フランソワに代わって副官となった、マリア・スコーバ中尉によって全幕僚に伝令が発せられた。
会議室にフランク・ガードナー少将以下の幹部達が勢揃いしている。
アレックスがパトリシアを連れて入室する。
「提督!」
「我々は武装解除されるのでしょうか?」
「要塞を明け渡せとのことですが、本当に承諾するつもりですか」
次々と質問を浴びせかける一同。
「結論だけ言わせてもらうと……」
一同が注目する。
「私は投降もしないし、もちろんこの要塞を明け渡すつもりもない」
「ではこの要塞に籠城して徹底交戦なさるおつもりですか」
「籠城? それは無駄死にするのがおちだ」
「しかし、要塞の主砲があれば……」
「火力を過信してはいけない」
「その通りこの要塞を奪取したのも、不発弾一発だけだったのを忘れたのか」
「それは提督と総参謀長殿の奇襲作戦があったから」
「だが敵から別の手段を仕掛けてこられて、同様にこの要塞が落ちる可能性もあるわけだ。何せ、敵はこの要塞のすべてを知り尽くしているんだ。我々の知らない侵入経路や手段がある可能性もあるわけだな」
「では、どうなさるのですか」
「それを答える前に考えてみてくれたまえ。我々が投降して後背の憂慮がなくなったとき、総督軍がどういう行為に出るか?」
「銀河帝国への侵略を開始するでしょうね。もちろん総督軍の再編成が済み、補給のめどが立てばですけど」
「連邦の軍事力に同盟の経済力が加われば、帝国に勝ち目はありませんね」
「帝国は敗れ、銀河は連邦によって統一されることになりますね」
「統一されれば平和がやってくるのでは」
「どうかな……」
とアレックスは低くつぶやいて言葉をつないだ。
「確かに銀河は一時的には統一されるかもしれない。しかし、連邦は元々軍事クーデターによって一部将校の手によって帝国から分離独立して起こされた国家だ。銀河が統一され平和になれば……」
アレックスの言葉尻を受けてゴードンが答えた。
「そうだ。軍部は意味をなさなくなってくる。上層の将校はともかく、昇進の道を閉ざされた下位の将校に不満が高まるのは明白だ。戦いと名誉の昇進がなければ軍事国家はやがて崩壊する」
「再びクーデターが起こって分裂するということですね」
「そうだ。連邦が軍事国家である限り、真の平和はありえない。ゆえに連邦にこれ以上の纂奪を許さないためにも、我々が手をこまねいていてはならないのだ」
場内は静まり返っている。
各自それぞれに思いを巡らしているのだろう。
「故郷へ帰りたいと思う者もいるだろうが、その思いを果たせることなく宙(そら)に散った数え切れない英霊達のためにも、あえてここに踏みとどまり解放軍を組織して徹底抗戦をしたいと思う。そして銀河帝国への侵略を阻止する足枷になるのだ」
「解放軍ですか?」
「そう。共和国同盟の各地に出没して、ゲリラ戦を引き起こす」
「それ! いいですねえ。ゲリラ戦なら望むところです」
ゴードンはいかにも嬉しそうな表情を見せる。
彼の率いるウィンディーネ艦隊は、高速機動を主眼としており、一撃離脱のゲリラ戦には最適であろう。
「しかし戦闘を続けるには燃料と弾薬の補給が不可欠です。どうなさるおつもりですか?」
「共和国同盟が崩壊したとはいっても、連邦が全領土を完全に掌握したのではない。僻地ではいまだに反抗する勢力があるのも事実だ。しかし彼らには動ける艦隊を持ち合わせていない。そこで我々がそういった勢力を取りまとめ解放軍として旗揚げすれば、総督軍と十分にやりあえる」
「食料や資材、燃料・弾薬の補給も受けられますね」
「総督軍には解体された同盟軍将兵も再編成されている。かつての味方同士で骨肉を争う戦いを強いられることになる。ゲリラ戦なら相手を選んで戦いを仕掛けることも可能だからな」
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十六章 帝国遠征 Ⅱ
2021.05.20
第二十六章 帝国遠征
Ⅱ
ワープゲートに進入するスティールの旗艦シルバーウィンド。
それを囲むように護衛艦数隻が同行している。
その様子を艦橋から眺めている副官が呟くように言った。
「来るときはあれだけの大艦隊を引き連れていたのに、帰りはやけに寂しい限りですね」
「連邦でも戦闘に長けた精鋭部隊などは、連邦にいない方が後が楽だからな。我々の計画には邪魔になるだけだ。致し方あるまい」
「それに閣下の配下の部隊でもありませんしね。みんな置いてきちゃいましたから、栄光の同盟侵攻の手柄を他人に譲るのかって不思議がってました」
「言わせておくさ。それもこれも連邦が存続してのことだからな」
「そうですね」
「ワープゲート始動十秒前です」
オペレーターが告げるのを聞いて、自分の席に戻る副官。
「さあ、いよいよだ」
機動要塞「タルシエン」中央管制室。
中央の指揮官席に座りパネルスクリーンを見つめるアレックス。そしてオペレーター達も神妙な面持ちで眺めている。
その映像は、要塞内はもちろんすべての艦艇の艦内放送に流されていた。
画面一杯にクローズアップされたニュースキャスターが、背後の建物について解説している。
『こちらは共和国同盟評議会議場です。バーナード星系連邦の戦略陸軍の兵士達によって占拠され、議員全員が軍部によって強制的に解散させられました。今後は、総督府の管理指導の下に、再選挙が行われる予定であります。それでは、その総督府にカメラを切り替えましょう。アイシャさん、お願いします』
カメラが切り替わって、別のニュースキャスターが登場する。
『はーい。アイシャです。総督府から中継します。さて、ご覧下さい。こちらがかつての共和国同盟軍統合本部であり、新たに設立された総督府となった建物であります。これからの政治の中心となる最高の統治機関となります』
カメラが総督府の建物をズームアップする。
『総督府の最高責任者は、戦略陸軍マック・カーサー中将です……』
放映を見ていたジェシカが呟く。
「おかしいですね。トランターはスティール・メイスン少将が陥落させたのに、どうして別人が統治することになったのでしょうかね」
「そうそう。マック・カーサーなんて名前は聞いたことありません」
「戦略陸軍っていうくらいだから、惑星の占領や、占領後の政策を担当する部隊なのだろう。メイスンは宇宙艦隊所属で宇宙空間での戦闘が任務と、宇宙と地上とで分業になっているのかも知れない」
キャスターの解説は続いている。
『それでは総統府の総督執務室にカメラは切り替わります。二コルさん、お願いします』
見慣れたいつもながらのTV報道であった。
普通なら報道管制が敷かれてしかるべきなのに、各報道機関は自由に取材と報道を許可されているようだった。通行人さえ自由に行き来している姿も映像の中に見受けられる。
戒厳令を執らない、マック・カーサーという人物なりの占領政策の一環なのであろう。
『二コルです。こちら総督執務室では、マック・カーサー総督の記者会見が、まもなく執り行なわれことになっています』
「記者会見とは、しゃれたことしますね」
「どうやらカーサー提督という人物は、占領した住民との宥和を大切にしているらしい」
「融和政策ですか……」
「銀河帝国のことがあるからよ。銀河帝国に侵略するためには、まずバックボーンとなる地盤を固めておかねば、いざ侵略開始って時に反乱や騒動が起きて、足元を崩されたら元も子もない。そうですよね、提督」
ジェシカが代わって解説してくれる。
相変わらず手間をはぶいてくれる御仁だ。
「提督が、第八占領機甲部隊をトランターに残してきた理由がやっと判りましたよ。メビウスに内乱を起こさせて銀河帝国への侵略を少しでも遅らせようという魂胆だったのですね」
リンダが左手のひらを右手拳で叩くようにして合点していた。
「気づくのが遅いわよ」
「だってえ……」
「あ! 総督が出てきました」
パティーの声でみなが一斉に画面に集中する。
そこにはバーナード星系連邦トリスタニア総督マック・カーサーが、入場してきて着席する場面であった。
『本日をもって、トリスタニア共和国同盟はバーナード星系連邦の支配下に入ったことを宣言する』
そして開口一番占領宣言を言い放ったのである。
場内に微かなどよめきがひろがった。
一人の記者が代表質問に立った。
『共和国同盟には、出撃に間に合わなかった絶対防衛艦隊や、周辺守備艦隊を含めて、残存艦隊がまだ三百万隻ほど残っています。これらの処遇はどうなされるおつもりですか?』
『残存の旧共和国同盟軍は、新たに編成される総督軍に吸収統合されることになるだろう』
『タルシエン要塞にいるランドール提督のことはどうですか? 彼は未だに降伏の意思表示を表さずに、アル・サフリエニ方面に艦隊を展開させて、交戦状態を続けています』
『むろんランドールとて共和国同盟の一士官に過ぎない。共和国同盟が我々の軍門に下った以上、速やかに投降して、要塞を明け渡すことを要求するつもりだ。もちろん総督軍に合流するなら、これまで共和国同盟を守り通したその功績を評価して、十分な報酬と地位を約束する』
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十六章 帝国遠征 Ⅰ
2021.05.19
第二十六章 帝国遠征
I
バーナード星系連邦の智将スティール・メイスン少将の策略によって、トランター本星は陥落し共和国同盟は滅んだ。すぐさまに占領政策が執り行われるその実施部隊として、マック・カーサー中将率いる戦略陸軍が、トランターの地へと召喚されることとなった。
絶対防衛艦隊を蹴散らして、トランター本星の共和国同盟中央政府を降伏させたとはいえ、地方都市や惑星住民そのものが、降伏を承諾したわけではない。
暫定政府を樹立して、住民を統治し新たなる国家の再建。
そのためにも、その方面の最適任者が戦略陸軍司令長官マック・カーサー中将というわけである。
トランターの衛星軌道上、カーサー中将の旗艦ザンジバルにおいて、攻略部隊指揮官のスティールとの間で引継ぎが行われていた。
「それでは、占領政策の方はおまかせ致します」
「了解した。しかし、なぜにわしを呼んだのだ。おまえぐらいの智将なら占領政策くらいお手のものだろうに」
「私は、敵惑星住民を相手にする占領政策などはやりたくないのですよ。何かと気に入らないとすぐに暴動を起こすし、パルチザンとなって抵抗の反旗を翻してくる。いつ寝首を欠かれるかも知れない不安定な政治状態が長く続くでしょう。そんな生臭い占領政策よりも、銀河帝国をどうやって攻略するかを考えたほうが楽しいじゃありませんか」
「ふふん。恒星ベラケルスを超新星爆発させて、敵艦隊三百万隻をあっという間に壊滅させたようにか?」
「私は地を這い蹲るよりも、宙(そら)を駆け巡るほうが性分に合っているんですよ」
「おいおい。それはわしに対するあてつけかね」
「ああ、これは失言しました。許してください」
「まあ、いいさ。連邦の次なる目標が、銀河帝国であり全銀河の掌握には違いないからな。せいぜい頑張って銀河帝国の攻略作戦を考えることだ。期待しているよ」
「ありがとうございます。タルシエン要塞に残るランドール艦隊がまだ残っておりますので、配下の八十万隻を残しておきます。どうぞお使いください。それでは、これにて失礼させて頂きます」
「うむ。ご苦労であった」
敬礼をし、退室するスティール・メイスン。
その背中を見送るカーサー。
「ところでメイスンが言っていたランドールのことだが、その後の詳細は判っておるか」
そばに控えている副官に尋ねる。
「まったく音沙汰なしといったところです。何ですかねえ……本国が占領の憂き目にあっているというに、救援を差し向けるでもなし、一向にアル・サフリエニ宙域から出てこようとさえしません。あまつさえ旧統合軍本部への連絡もよこさないとは」
「何せ要塞だけでも強固なのにその前面には、旧同盟軍最強のシャイニング基地をはじめとして三つの基地が守っているからな。その気になれば新しい国家を興して攻め込んでくることもありうる。軍部に連絡をよこさないのはそのせいかも知れぬ。すでに奴は同盟軍を見限っている」
「同盟軍上層部からは、これまでに無理難題を押し付けられてきていましたからね。自分達に命令を下す上層部の存在が消失した以上は好き勝手放題でしょう」
「まあ何にせよ。目の上のタンコブは、早いうちに荒療治してでも消さなければならん。メイスンの奴め、一番の難物を残していきやがった」
トランター衛星軌道上に浮かぶステーション。
スティールの乗艦するシルバーウィンドが待機している。
「お帰りなさいませ。出発の準備は完了しています」
乗降口で艦長の出迎えを受けて搭乗するスティール。
「判った。すぐに発進するぞ。ステーションに連絡してワープゲート使用許可を取ってくれ」
「了解しました」
トランター本星と月との間にあるラグランジュ点に長大ワープを可能とするワープゲートが設置されていた。同様のワープゲートは共和国同盟の要所に設置されており、ゲート間を瞬時に移動することができる。もちろんバーナード星系連邦にも、まったく同じものがあるので、運行システムを調整すれば連邦へのワープも可能だ。
「連邦と同盟を自由に行き来できるようなった今、タルシエンは完全に孤立状態ですね」
「そういうことになるな」
「さすがのランドールもせっかく苦労して攻略した要塞を明け渡すしかないでしょう」
「そうは簡単にはいかないさ」
「どうしてですか?」
「トランターで訓練中だったランドール配下の第八占領機甲部隊が姿をくらましたという。どこへ消えたと思う?」
「はあ……確かに新たに旗艦となった新造機動戦艦ミネルバ共々、行方不明になっていますね」
「惑星占領用のモビールスーツ部隊だが、パルチザンとして暗躍する可能性がある。そうは思わないかね。そもそもタルシエン要塞攻略で最も占領部隊を必要としていた時期に、新兵の訓練と称してわざわざ占領機甲部隊をトランターに残したことが、常識的には理解できないだろう」
「ということは、ランドールはこうなることを前もって予測して、準備していたとおっしゃるのですか?」
「そういうことだ。最初から占領後の反抗勢力として残しておいたくらいだ。降伏することなど微塵も考えていないだろう」
「となると相当やっかいでしょうね」
「せいぜい、カーサー中将には頑張ってもらうしかないな」
「それがあるから、占領政策を譲られたのですね」
「忘れたか、私たちにはもう一つの大切な使命があるだろう」
「ああ、そうでしたね。同盟になんか関わっていられませんね」
「と納得したら、急いで帰るとしよう」
「判りました」
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 Ⅵ
2021.05.18
第二十五章 トランター陥落
Ⅵ
ベラケルス恒星系。
ニールセン中将率いる同盟軍絶対防衛艦隊三百万隻と、スティール・メイスン少将率いる連邦軍侵攻艦隊八十万隻。
両軍が恒星ベラケルスを挟むような位置関係で対峙するように接近しつつあった。
連邦軍旗艦「シルバーウィンド」の艦橋。
「同盟軍との接触推定時刻、1705時です」
スティールは指揮官席に腰掛けたまま、副官の持ってきたお茶をのんびりと飲んでいた。
まもなく戦闘だというのに余裕綽々の表情である。今回の作戦に対する自信のほどが窺える一面だった。
そんな指揮官の姿を見るに着け、配下の将兵達もすっかり信用し安心している。
「よし! そろそろいいだろう。輸送艦ハイドリパークに打電。当初予定通りに自動プログラムに任せてワープをセットし、乗員は速やかに退艦せよ」
正面スクリーンには輸送艦ハイドリパークが映し出されている。その艦内には小ブラックホールが納められている。
やがて退艦する乗員達の舟艇が繰り出して、近くの同僚艦に拾われていく。
「ハイドリパークの乗員、退艦終了しました」
「自動ワープ開始まで三分です」
「うん……」
飲んでいたカップを副官に返しながら、
「全艦に戦闘配備命令を出せ。それと全艦放送の手配だ」
と戦闘指示を下す。
「全艦、戦闘配備」
すぐさまに指示命令が伝達されて、臨戦態勢が整っていく。
「自動ワープまで二分」
「戦闘配備完了しました」
「全艦放送OKです」
「判った」
というと、スティールはこれから繰り広げられる戦闘に際しての訓示をはじめた。
「全将兵の諸君。これより開始される戦闘は、経験したことのない前代未聞のものとなるであろう。何が起きても慌てず騒がず、与えられた作戦通りに任務を遂行してくれたまえ。
戦闘がはじまれば一切の通信も連絡もできない状態になるはずだ。もはや指揮官の采配は届くことはない。君たちひとりひとりが指揮官となり、自分の判断で的確に行動してくれ。勝つも負けるも君たちの腕次第だ。生きて再び故郷の大地を踏みしめたかったら、持てるすべての力を振り絞って戦ってくれたまえ。迫り来る敵艦を各個撃破し、この戦いを勝利へと導くのだ。
そして敵艦隊を壊滅し、勇躍敵の母星トランターに迫ってこれを占領、共和国同盟をこの手に入れるのだ。以上だ、諸君達の奮戦を期待する」
身を震わせるような熱い熱弁だった。
放送を聴いた全将兵が、目前の敵艦隊に対するだけでなく、共和国同盟そのものにも言及する指揮官の言葉に喚起した。
「自動ワープ開始。三十秒前です」
「よし、光電子システムをすべて停止し、補助の運営システムに切り替えだ」
光電子システムは、光通信を軸とした光ファイバー網が巡らされ、中央処理システムを十六進光コンピューターが担っていた。一方の補助の運営システムは電流による通信と、電気信号の強弱やオンとオフとで計算を行う二進法の制御コンピュータによっていた。
光は真空中ではいわゆる光速で移動するが、物質中ではその屈折率によって速度が制限される。これを利用して、複数の誘電体を光の波長程度の周期で交互に積層させた構造体を持つ結晶として、フォトニック結晶というものが開発された。その構造次第によって光の伝播速度を極端に遅くしたり、光が同じ軌道を周回し続ける無限回路も可能である。光の伝播速度を変え自由自在に曲げ、光の回折や干渉といった現象をも利用して開発された光量子コンピューターを、そのシステムの中心に置いたものが光電子システムである。
つまり一度に膨大なデータを送り超高速で処理できる光を主体としたシステムに対して、電流によるシステムはデータ量も処理速度も一万分の一にも満たないお粗末な代物だった。ゆえに戦闘に際しては自動システムは一切使えず、ミサイルや魚雷発射はすべて人間の目で計測してデータを入力して発射する。実際にはそんな暇はないから、すべて感に頼る当てずっぽうとなる。スティールが艦内放送で言った通りのことが再現されるということだ。
「補助システムに切り替え完了しました」
「自動ワープ開始、十秒前。……5・4・3・2・1。ワープします」
スクリーンに映っていた輸送艦ハイドリパークがワープし、艦影が消え去った。
「ちゃんとワープアウトしたかどうかを確認できないのが残念だな」
「いずれ判りますよ」
「よし、全艦進路そのままで敵艦に向かえ。これが最後の通信だ」
「了解。全艦、進路そのままで敵艦に向かえ」
それは突然に始まった。
スクリーンがすっと消え、照明も落ちてしまった。
「補助の電源に切り替えろ。緊急発電装置始動」
「補助電源に切り替えます」
「緊急発電装置始動」
そして奇妙な現象が起こった。
すべての物体が光り輝きはじめたのだ。
機器や艦の壁面、ありとあらゆるもの、もちろん人間の身体も例外ではなかった。
「ニュートリノバーストがはじまったな」
恒星ベラケルスの中心核で爆縮がはじまったのだ。
発生したニュートリノが光速で中心核から恒星表面へと駆け抜け、宇宙空間へと飛び散っていく。そして進路にあるすべての物体を貫いていく。付近にある両軍の艦艇や内部の機器、そして生きている人体も例外にはならない。
その数は一インチ当たり数百億個を超える途方もない数である。しかしニュートリノが物体に衝突することは、極めてまれのことである。
元来物質を構成する原子は中心にある原子核と外側を回っている電子とで構成されているが、原子の大きさとなる最外郭電子の軌道半径にくらべれば、原子核の大きさは点ほどの極微小でしかない。いわば原子というものはすかすかであるということである。通常、荷電素粒子は、この電子が持つマイナスの電荷や、原子核のプラスの電荷によって弾き飛ばされて、容易に近づけない。
しかし電荷を持たず質量もほとんどないニュートリノはこのすかすかの空間を平気で通り過ぎていく。
副官が神妙な面持ちで尋ねる。
「大丈夫ですかね。放射線病のような身体に異常は起きないでしょうかね」
「判らないさ。誰も経験したことがないのだから。それに我々の住む母星にしても、バーナード星からのニュートリノが一平方センチ当たり毎秒六十六億個も通過しているのだからな」
「毎秒六十六億個? それで平気でいるんですかあ。信じられませんね」
「敵戦艦、推定射程距離に入りました」
計器類が正常に作動していないから、速度と時間の経過で推測して判断しているのであった。
「よし、攻撃開始!」
旗艦シルバーウィンドが砲撃を開始し、それを合図にしていたかのように味方艦が次々と攻撃開始した。
一方の同盟軍艦隊は、突然の異常事態にパニックになっていた。
「な、なんだこれは?」
「身体が光っているぞ!」
「いったい何が起きてるんだ」
口々に悲鳴を上げ、恐れおののき、完全に自我の崩壊を起こしていた。
持ち場を離れ、まるで夢遊病患者のように艦内を右往左往していた。
指揮官たるニールセンも同様であった。
「こ、これは、敵の新兵器か?」
正常な精神にある者は一人もいなかった。
そんな状態にある時に、スティール率いる連邦軍艦隊の攻撃が開始されたのである。
次々と撃破されていく同盟軍艦隊。
まるで戦いにならなかった。
やがてニュートリノバーストが終了して元に戻り始めた。
「よし、システムを復旧させる。光電子システムに戻し、直ちに現宙域を離脱する。全艦ワープ準備にかかれ!」
急がねばならなかった。
ニュートリノバーストの次に来るのは、超新星爆発である。
おそらく一時間以内に、それは起きるはずであった。
「システム復旧完了しました」
「ワープ準備完了!」
直ちにワープ体制に入るスティール艦隊。
「ワープ!」
一斉に戦闘宙域から姿を消すスティール艦隊。
同盟軍艦隊はなおも指揮系統を乱したまま当てどもなく浮遊していた。
そして直後に超新星爆発が起こり、同盟軍絶対防衛艦隊三百万隻を飲み込んだのである。
ニールセン中将率いる絶対防衛艦隊壊滅。
その報が伝えられたのは、それから二時間後であった。
スティール率いる艦隊は、トランター本星に進撃を開始していた。
そしてさらに五時間後、ついにトランター本星は陥落し、共和国同盟は滅んだ。
第二十五章 了
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