性転換倶楽部/性転換薬 XX (十三)新当主誕生
2019.05.28


性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)


(十三)新当主誕生(最終回)

 会社社長行方不明、誘拐か?
 捜索願いを出してすぐに、聞きつけた新聞・雑誌社の記事となり、それが大会社の
社長ということで、しばらくはその話題で盛り上がっていたが、新たな大事件の発生
とともにやがて沈静化していく。

 捜索願いを出して一ヶ月、さらに家庭裁判所に失踪の正式な手続きを完了させた。
 そして製薬会社社長には、専務の英二が順当に就任した。
 なに?
 副社長がいただろう? ってか。
 ああ、いるよ。
 会社の株式のほぼ五十パーセントをがっちりと握っている堅物がね。
 英二が社長になったのも、彼女が決定したことだ。
 彼女、そう彼女だ。
 英一郎の祖母の黒沢英子、その人だよ。九十歳を越えているが、今なお元気だ。
 製薬会社の代表取締役副社長にして、黒沢家当主。総資産数百億の資産家だ。
 わたしの父親は、彼女の娘婿だ。だから会社とは離れて産婦人科医などをやってい
られる。
 知らなかっただろう。
 黒沢家は代々女子が当主を務める事になっている。本来なら彼女の娘でわたしの母
親が、後を継いで当主になっていたはずだが、若くして死んでしまったので、引き続
き当主を勤めている。
 会社と黒沢家の実権を掌握しているのは英子だが、直接の会社運営は英二に任せて
いる。もっぱら経理報告書に目を通している程度のことしかしていない。九十歳だか
ら当然だし、株式を過半数握っていれば好きなことができるさ。世間一般からは親族
会社と揶揄されてはいるのはしかたがない。
 由香里が英一郎の妻に似ていると説明したが、二人の結婚がすんなり認められたの
も、そういういきさつもあったのさ。自分が選んだ嫁にそっくりなら、まあいいだろ
うということになったのだ。

 さて今度はわたしの番だ。
 養女になった報告をするために、わたしこと黒沢香織は英二に連れられて(ほんと
はわたしが連れていったのだが)、英子の元に挨拶に伺った。
 どうなったと思う?
 男の子は母親に似るとよく言われる。
 その男の子が、女性に生まれ変わったら?
 そう、わたしの母親、つまり英子の娘に生き写しだったのだ。
 自分が腹を傷めて産んだ娘が戻ってきた。
 もうすっかり感激して、娘の二十歳代の写真まで持ち出してきて、
「ほら、こんなにそっくり。この子は、娘の生まれ変わりだよ」
 とかいって、全財産をこのわたしに譲るとまで言い出したのだ。
 あはは、英一郎が全財産を引き継ぐはずだったから、元に戻って結果オーライだ。
 その後に開かれた親族会議で、英二の口から性転換薬のことが発表された。この黒
沢香織は、性転換薬で女性化し若返った英一郎だということが。例の記録映像も公開
された。
 出席者は、証拠となる記録写真を見せられても、一様に信じなかったが、英子だけ
は信じて疑わなかった。娘にうりふたつなのだから当然だ。英子は独断で、このわた
しを次期当主として指名した。
 さて黒沢家は女系で、当主は必ず英子を名乗る事になっている。
 黒沢香織から黒沢英子への戸籍名変更がなされた。
 これで名実ともに、わたしは黒沢家の次期当主となったのである。

 それから三日後のことだった。
 当主の黒沢英子が突然、容体が悪化して緊急入院した。
 跡継ぎが見つかって安心したのであろう。まるで張り詰めていた糸が切れたような、
急速転回で衰弱していく。
 わたしを枕許に呼び寄せて、親族の立ち並ぶ前で、
「後は、おまえにまかせるよ」
 と一言。
 それが臨終の言葉だった。
 九十歳。安らかな表情を浮かべた大往生だった。


 こうして黒沢家に新しい当主が誕生した。
 第二十七代当主、黒沢英子ことこのわたし。
 二十歳のうら若き当主ということで、新聞雑誌の取材が殺到した。
「美しき若き当主の誕生!」
 という見出しが、各紙面を飾った。

 人生はまだはじまったばかり。
 これからどんな波乱万丈が繰り広げられるのだろうか?
 楽しみだ。


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