性転換倶楽部/性転換薬 XX (十二)お化粧
2019.05.27


性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)


(十二)お化粧

 買い物を終えて、一階に降りて来た時、
「そうだ、せっかくだから……。英子さん、こっちに来て」
 というとわたしの手を引いていく。向かっている先は、化粧品売り場。
「あら! いらっしゃいませ、由香里さま」
 由香里に気がついた売り場の店員が声をかけてくる。
「こんにちは」
 馴染みらしい店員と、一言二言挨拶を交わしてから、わたしを引き出して、
「今日は、この娘にお化粧の仕方を教えて欲しいんだけど、お願いできるかしら」
「お安いご用ですよ。さあ、こちらへどうぞ」
 と店員は鏡の前に誘う。
「お名前を伺ってよろしいでしょうか?」
「英子です。黒沢英子」
「黒沢さまですね。といいますと……」
「そうよ。あたしが結婚する相手の妹なの。年頃なのに、ちっともお化粧に興味ない
から、何とかしようと思ってね。はじめてのことだから、簡単で手っ取り早くできる
方法をお願い」
「かしこまりました」
 というわけで化粧するはめになった。
 まずは、その前にお肌のチェック。
 器械のセンサーを肌に当てられて、水分量や脂肪率とかが計られる。
 続いて顔写真を取られてパソコンに取り込まれ、すぐさまディスプレイに表示され
る。
 今時便利なもので、実際に化粧を施す前に、パソコン上でシュミレートする事がで
きるのだ。
 実はこのパソコンのシステム。英二がこのデパートの上層部に営業を掛けて売り込
んだものだった。そしてデパート外商部の方から各化粧品のテナントにリースしてい
るのである。英二だってだてに専務をやっているわけじゃない。営業売上では断トツ
の成績なのだ。
 しかし……会社では、二十六歳の若さながらも、革新的な事業を起こして順調に利
益を伸ばして、重役達からも一目置かれている英二だが、こと由香里には、まるで頭
があがらず、尻尾を振ってまわる飼い犬のようだ。天は二物を与えずというところか?
 その英二は、荷物を車に置きに駐車場に戻り、そのまま待機している。

「いかがなものでしょうか?」
 すっかり化粧が施されて、見違えるようになった顔が鏡に映っている。さすがにプ
ロの美容師だ。下地クリームからはじまって、ひとつひとつ丁寧に順を追って、注意
点や塗り方のコツとかをレクチャーしてくれた。
 しかしなんも覚えていない!
 そりゃそうだろう、化粧などしたことがないのだから。少しでも化粧の経験があっ
て、それなりの予備知識があれば、まあ何とか手順くらいは覚えられたかもしれない
のだが。まあ、これから少しずつ覚えるさ。
 駐車場の英二のところへ戻る。
 英二は、わたしの化粧した顔を見て、顔を赤らめ咳払いして、
「じゃあ、次はどこ行くんだ?」
 と無視するように車を発進させた。

 おいこら! 何か感想ぐらい言えよ。
 せっかく女の子がおめかししているのに無視することはないだろ。
 うーん、この気分……。
 やはり女性的な感情の何物でもないな……。

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