性転換倶楽部/性転換薬 XX (十一)生理
2019.05.23


性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)


(十一)生理

 四週目の終わり。
 朝から身体がだるい。
 パジャマを脱いでみると、ショーツが赤く滲んでいた。
 それはまさしく経血の何物でもなかった。
 女性には毎月訪れる生理がはじまったのだ。わたしにとってははじめてのことなの
で、いわゆる初潮というやつだ。
「おめでとうございます。これで一人前の女性のお仲間入りですね」
 由香里が祝福してくれる。
「ありがとう。無排卵月経でなければいいんだけどね」
「大丈夫ですよ」
 どうやら睾丸は、無事に卵巣へと変化したようだ。
 卵巣と子宮が正常に機能して、妊娠可能である事実を突きつけられたわけだ。
「もう、夜の一人歩きは止めた方がいいな」
 ふとつぶやいてしまったのを、由香里に聞かれて笑われてしまった。
 いつの間にか女性らしい考え方をしている自分に驚いていた。
 女性化のプロセスは、ただ単に身体特徴を変えるだけでなく、大脳組織までをも女
性化してしまうようだ。わたしの脳は、男性脳から女性脳に完全に生まれ変わってい
た。
 男性の脳を移植された真菜美が、脳神経細胞活性剤の投与によって、脳細胞の再分
化が起こって、男性脳から女性脳に生まれ変わった現象と同じだ。
「お赤飯でも炊きましょうか?」
 由香里が尋ねるので、
「ああ、そうしようか」
 と、冗談で言ったつもりなのだが、しっかりと夕食に赤飯が出された。しかも鯛の
尾頭付きだ。
「おい。何かいい事でもあったのか?」
 夕食の席に並んだ英二が、メニューをみて尋ねた。
「ええ、とてもいい事よ」
「いい事って、何だよ」
「英二さんが、気にすることじゃないのよ。ねえ」
 由香里が目配せを送ってくる。
「なんだよ。教えてくれたっていいじゃないか」
 とはいっても、教えられるものではない。
 まあ、どうしてもと言うなら教えてもいいけど。食事時の話題ではないのは確かだ
ぞ。それでも聞きたいか?
「ふん。最近の二人は、何かというと秘め事が多いな。まあ、女同士で、好きにやっ
てくれ」
「あら、英二さん。やっとお父さんを女性だと認めてくださったのね。今までは、わ
たしとお父さんが一緒に何かすると、『親父は、男だったんだぞ』って、すぐ口にさ
れてたのに」
「しようがないじゃないか、今じゃどこからどうみても、女性にしか見えないんだか
ら。姿だけでなく、仕草なんかもだいぶ女性らしくなってきているしさ……」
 ここまで言って、急に恥ずかしくなったのか、飯をがつがつと食べはじめ、
「おお、この鯛。巧く焼けてるな。由香里が焼いたのか。店屋物じゃないよな?」
 と、話題を変えてきた。
「もちろんです」
「いい奥さんになれるよ」
「うふふ。ありがとう」
 以前の英二は、仕事を終えても家には帰らずに夜の街を徘徊し、いつも午前様だっ
た。しかし婚約以降、由香里がわたし達親子のために、夕食を作って待っているので、
まっすぐ帰ってくるようになっていた。由香里を心配させないようにと、自分の健康
にも気を使って、酒の量も大幅に減らしているようだった。
 実にいいことじゃないか。

 うーん。ついに二十歳前後になった。
 もうこれ以上は目立った女性化も若返りも進まないみたいだ。
 真奈美よりお姉さんで、他の三人よりは妹というところだ。
 身体の方の改造はほとんど終了したようだ。
 以上で報告は終わりにしよう。

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