性転換倶楽部/性転換薬 XX (六)
2019.05.15


性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)


(六)性転換初日

 一週目。

 初日。
 その夜は、寝苦しかった。
 睾丸がじくじくと痛み、乳首のあたりに圧迫感が広がっている。
 どうやら薬が効いているようだ。
 そして翌朝になった。
 ひどい寝汗だ。風邪の症状でもこれほどの汗はでないだろうというくらい。
 額を拭おうとして腕を動かしたら、異様な感覚を覚えた。
「そう言えば、朝には立派な乳房を見れると、言っていたな……」
 起き上がって確認してみる。
 それは感動的な眺めであった。乳房など飽きるほど見つめてきたはずなのに、それ
が自分の胸にあるとなると、思いははるかに格別だ。
「里美もこんな風に感じていたのだろうか……」
 もっとも彼女の場合は、自分の意志じゃなく強制的だったから、突然豊かな乳房に
なってさぞや驚いただろうな。そして追い撃ちをかけるように、性別再判定手術を施
されて、女性にされてしまった。だから。本当なら刑事告訴されても仕方がないとこ
ろを、元々から女性的な一面を持っていたから、何とか許してくれて私の会社で受付
嬢として働いてもらっている。実は、本人には知らせていないが、とある取引先の重
役から長男の嫁に欲しいとの話しもあるんだが……。由香里のことが済んだら話して
みようと思っていたが、こんな状況では英二に引き継いでもらうしかない。
「うん。乳腺はしっかり発達しているな。形状も弾力も申分ない。これならお乳も十
分に出るだろう」
 自分で自分の乳房を触診している。産婦人科医として数多くの乳房を触診してきた
から、張りがあってつんと上向き加減のこの乳房には満足している。
「サイズ的には85のCカップというところじゃないだろうか……。ブラジャーが必
要だな」
 歩く度に乳房がぷるんぷるんと揺れて具合が悪い。
 早速、由香里に頼んで買ってきてもらおう。

「まず、ストラップの間に腕を通して、身体を少し前屈みにしてから、バストを下か
らすくうようにしてカップに収めます……」
 というわけで、今ブラジャーの着け方を、由香里に教えてもらっている。
 検診に際して女性の乳房や、ブラジャーを付けたりはずしたりするのを見てはいた
が、自分で自分にブラジャーを着用するのははじめてのことだら、勝手が判らないの
だ。
「そうしたら後ろ手で、ホックを止めてください」
 おいおい。そんな後ろに手が回らないよ。歳のせいで身体が固くなっていているん
だ……。
 あれ? 楽に腕が後ろに回るじゃないか。
 薬のせいで身体が柔らかくなっているようだ。
 しかし、見えない後ろ手でホックを止めるのが、なかなか難しい。女性は毎日こん
なものを着けているのか。中高年になって身体が固くなったら着用できないのじゃな
いのか?
「カップに手を差し入れて、脇に流れた肉を寄せ集めてカップに収めます。次に身体
を起こしてストラップの調整をします。後側が肩甲骨の下あたりに来るようにして下
さい。ここでの注意点は、前中心が浮いていないかです。確認してくださいね。あ、
大丈夫です。これでOKです」
「なあ、フロントホックとかいうのがあるよな」
「ありますよ。でも品数が少ないし、デザインもいまいちなんですね。それにお父さ
んくらいのCカップだと探すのに苦労します。通販しかありませんね」
「そうか……」
「大丈夫ですよ。これは慣れの問題ですから、すぐにちゃんと楽に着れるようになり
ます」

 由香里から聞いたのか、響子に里美そして真菜美までが押し掛けていた。
 ためつすがめつ、わたしの乳房を眺めては、
「わたしもこんな薬を打ってほしかったですよ。ねえ、由香里」
 響子がため息をついた。
「そうですね。里美は薬打ってもらったんだよね」
 由香里も同意している。ニューハーフ・バーでは最初ブラパッドをブラジャーにい
れていたのだから。しかし、あの薬は大量生産ができないので、里美に打ったのが最
後だったのだ。
「ごめんね。わたしだけ……」
「いいのよ。気にしなくても。終わり良ければすべて良しよ」
 真菜美がじっと私の胸を見つめている。
「やだあ、真菜美より大きいじゃない。ずるいよお」
「大丈夫よ。真菜美ちゃんは、まだ若いからもっと大きくなるわよ」
「ほんと?」
「もちろんよ。恋でもすればね」


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