銀河戦記/鳴動編 第二部 第六章 皇室議会 Ⅱ
2020.03.14

第六章 皇室議会


II


 そういった情勢の間にも、エリザベス以下マリアンヌまでの皇女達の間では、アレック
スを立太子する方向にほぼ同意がなされていた。皇室議会においてジョージ親王がすでに、
皇太子擁立の詮議が確定してしまっている以上、摂政エリザベスをしてもそれを覆すこと
はできない。とはいっても再審議の際には、家族協議における一致があれば、それを尊重
しないわけにはいかない。
 家族だけが集う午餐会には、アレックスを交えて皇女達が仲睦まじく食事を囲む風景が、
ここしばらく続いている。皇太子誘拐、継承争いにかかる姉妹の断絶、そして連邦軍の侵
略と、内憂外患に煩わされていた日々を清算するためには、まず姉妹の絆を結束すること
からはじめなければならない、と誰しもが思っていたからである。アレックスが戻ってき
た今こそがいい機会なのだと。
 最上位席(つまり食卓の端の席)にアレックスが腰掛けて、その両側に順次第一皇女か
ら並んで腰を降ろしている。
「どうも困った事態になりつつあります。摂政派と皇太子派が一触即発状態にまで発展し
つつあります」
 アレックスの口から最初に出た言葉だった。
 それに呼応してマーガレットが答える。
「それもこれも、皇室議会が皇太子問題を棚上げにしているせいよ」
「ベスには悪いけど、皇室議会は摂政派が過半数を占めていますからね」
 ジュリエッタも批判的な意見だった。
 摂政派……。
 誰が最初に言い出したかは判らない。
 皇太子候補となったロベール王子と父親のロベスピエール公爵一派というのが、真の意
味での正確な表現であろう。
 そして母親であり公爵夫人であるエリザベスが、銀河帝国の摂政として国政を司ってい
ることから、誰から言うともなく摂政派と呼称されるようになった。
 摂政派という呼称を使われるとき、エリザベスは辛酸を飲まされるような気分に陥る。
 しかも血肉を分けた家族から言われる心境はいかがなものであろうか。
「今は摂政派だ皇太子派だと論じている場合じゃない。総督軍の迫り来る情勢の中、早急
に迎撃体制を整えなければならないというのに。とにかく内政に関しては、これまで通り
にエリザベスに任せますよ」
「問題は傀儡政権となっている頭の固い大臣達よ。帝国軍を動かすには予算繰りから人事
発動まで、実際に権限を持っているのは大臣なんだから。何かにつけていちゃもんを付け
てはなかなか動こうとはしない」
「そうね。今動かせる艦隊は、第二艦隊と第三艦隊だけじゃない。叔父様達の自治領艦隊
は動かすわけにはいかないし……」
「合わせて百四十万隻。総督軍は二百五十万隻というから、数だけを論ずるなら確実に負
けるわね」
「あたしの艦隊もあるわ」
 マリアンヌが口を挟んだ。
 第六艦隊の十万隻を忘れないでという雰囲気だった。
「そうだったわね。合わせて百五十万隻よ」
 十万隻増えたところで体勢に影響はないが……。
 幸いにも将軍達は、アレックスに好意的だったので、軍内部での統制はすこぶる良好で
あった。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第六章 皇室議会 I
2020.03.07

第六章 皇室議会




 皇太子問題を正式に討議する機関である皇室議会は、いまだ結論を出しかねていた。
 エリザベスが摂政権限でアレックスを宇宙艦隊司令長官及び元帥号の称号を与えたとし
ても、あくまで暫定的な処置であって恒久的なものではないと判断されているからである。
 皇室議会のメンバーは原則的には皇族以外の上級貴族達で構成されていた。
 皇族間の紛争を避けるために中立的な立場から意見を述べ合えるとの配慮からだった。
 だが実際には、皇族の息の掛かった貴族が選ばれるのが常だった。影で糸を引く実力者
として、ロベスピエール公爵の名前が噂に上っている。
 皇室議会はロベスピエール公爵の手の内にあると言っても過言ではなかった。
 ゆえに、摂政派の旗頭であるジョージ親王を、おいそれとは追い出せないのである。
 公爵にしてみれば、自分の嫡男が皇帝の座に着けば、銀河帝国の全権を掌握したにも等
しいことになる。
 何せジョージ親王は精神薄弱で、自分で意思決定ができず、すべて公爵の言いなりにな
っているからである。

 謁見の間に参列する大臣達の大半が摂政派に属していることも、アレックスの頭痛の種
となっていた。
 アレックスの意見や進言にことごとく反対して自由に行動させないようにしているのは、
ロベスピエール公爵の意向が計り知れなかったからである。
 何事にも公爵の意見を聞かなければ決断が出せないのである。自分で勝手に判断して、
公爵の機嫌を損ねたら大変だ。
 アレックスを自由にすれば皇太子派の勢力を冗長させるのは目に見えている。摂政派と
しては、そのことだけは何としても阻止しなければならない。
 もっと極端に言えば、アレックスには死んでもらった方がいいと考えるのが摂政派の考
えであろう。
 幼児時代の誘拐事件や、アルビエール侯国来訪時の襲撃事件も、裏から糸を引く公爵の
差し金によって、大臣の中の誰かが策謀したものに違いなかった。
 摂政派にとって憂慮することは、アレックスには正統なる皇位継承者である第一皇子と
しての地位が確保されており、なによりも【皇位継承の証】という伝家の宝刀を所持して
いるということである。
 ジョージ親王が、先の皇室議会での決定による皇太子詮議にもとづいて、皇位についた
としても、アレックスの第一位皇位継承権が剥奪されたわけではない。ジョージ親王の皇
帝即位は暫定的なもので、その子孫が皇位を継承する権利はなく、『皇位継承の証』を所
有するアレックスとその子孫が皇位につくことが決定されている。

 皇室議会が皇太子問題を先延ばしにしていることは、世論の批判を浴びることになった。
 アレクサンダー第一皇子暗殺計画が策謀され密かに進行しているとか、根も葉もない噂
も飛び交っていた。
 例え噂だったとしても、一国の将来を担う重大な問題だけに、噂に尾ひれがついて大き
な波紋へと広がりつつあった。
 皇太子派も黙って指を加えているはずがなかった。摂政派が第一皇子を暗殺するなら、
皇太子派の邪魔者であるジョージ親王を亡き者にしてやろうとたくらんでいるようだった。
 そんな不穏な動きが銀河帝国内を席巻しつつあり、内乱状態へと逆戻りするかも知れな
い一触触発の由々しき事態となっていた。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第五章 アル・サフリエニ VI
2020.02.29

第五章 アル・サフリエニ


VI


「駐留艦隊の総数は、およそ一万八千隻です」
「工業大国を防衛するには、少な過ぎやしないか……?」
「補給の問題でしょう。工業国とはいえ、資源を輸入して加工品を輸出するという国政で
すから、補給までは手が回らないでしょう。何よりも最大の問題が食料補給でしょう」
「自分達の国民でさえ食糧不足で困っているのにか?」
「その通りです。連邦軍は食料を自前で確保しなければなりませんから、大艦隊を派遣す
ることはできないでしょう」
「だろうな」
「とにかく、数で圧倒して勝利は確実ですが、やりますか?」
「当然! 戦闘配備だ」
「了解。戦闘配備」
 戦闘が開始された。
 一万八千隻対十万隻という戦力差。数の上ではウィンディーネ艦隊の圧勝というところ
だが、技術大国を防衛する責務に燃える駐留艦隊の激しい抵抗にあって、一進一退が続い
ていた。というよりも、投降を一切認めない『皆殺しのウィンディーネ』と悟って、死に
もの狂いで反撃していたのである。
「なかなかやるなあ……。エールを送りたくなるよ。しかしこれでどうだ」
 ゴードンは両翼を伸ばして完全包囲の態勢を取ると、オドリー少佐の部隊に突撃を命じ
た。
 ランドール戦法の攻撃力が加わると、さしもの駐留艦隊も態勢を乱して総崩れとなり、
降伏を認めないゴードンによって全滅に至った。
 すぐさま惑星トバの首長と面会を求めたが拒絶された。
「我々はバーナード星系連邦と協定を結んだ。たとえ今ここで解放戦線と協定を結び直し
たとしても、連邦は再び艦隊を次々と派遣してくるだろう。たかが三十万隻そこそこの解
放戦線に何ができる。最後に勝つのは連邦に決まっている。よって我々は解放戦線とは組
みしない。判ったらさっさと立ち去るが良い」
 そういわれて、
「はい、そうですか」
 と引き下がるようなゴードンではなかった。
「言ってくれるねえ……感心するよ」
 相手が言うことを聞かなければ実力行使しかない。
 ただちに降下作戦に入り、瞬く間に惑星トバを占拠してしまったのである。
 首長ら高級官僚を拘束し、連邦軍排除派の民衆運動家のリーダーを首長に据えて、解放
戦線との協定を結んでしまったのである。
 旧首脳陣は、ゴードンが実力行使という強行手段に出るとは思いもしなかったようであ
る。アレックス率いるランドール艦隊が、民衆を大切にし解放のために戦っていることは
知っている。
 おだやかなるアレックスの性格から民衆をないがしろにする行為には出ないだろう。
 そんな甘い考えがあったに違いない。
 しかし、連邦への復讐に燃えるゴードンには通じなかった。
 連邦の味方をすると公言したトバの首長を許すわけにはいかなかったのである。
 こうしてゴードンは、鉱物資源・精錬所・造船所と、戦艦を増強する手段を確保したが、
肝心の資金がなかった。民衆から税金を徴収して運用資金を得られる政府軍と違って、解
放戦線には海賊行為でもやらない限り資金集めは非常に困難であった。そもそもアレック
スが銀河帝国へ向かったのも活動資金を援助してもらうためである。
 幸いにもカルバキア共和国から鉱物資源の採掘権が認められている。そこで資源を開発
して希少金属を採掘して、それを売却して資金源とすることを決定した。そのために鉱脈
探査の専門家を呼び寄せて調査に当たらせた。まるで山師のようで、どうなるものか判ら
ないが、手をこまねいていては解決しない。
 その間にも、資金を提供してくれる友好国を求めて奔走するゴードンであった。

 第五章 了
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第五章 アル・サフリエニ V
2020.02.22

第五章 アル・サフリエニ


                 V

 妹の自殺の知らせを、レイチェルから聞かされた時、ゴードンは号泣したという。
 唯一無二の肉親であり、幼少から自分が育ててきた可愛い妹の死は、連邦に対する激し
い憎悪となって燃え上がり、彼を復讐鬼へと変貌させてしまったのである。
 妹の無残死のことを知っている参謀達は同情し、彼の狂気を止めることはできなかった。
「敵艦隊全滅しました」
「よし。惑星に降下して、地上に残る連邦兵士も一人残らず一掃しろ」
 降下作戦が実行され、連邦兵士は掃討されていった。
 カルバキア共和国首都星ニーチェのハーマン・ノルディック大統領と会見するゴードン。
「いやあ、あなた方が救援に来てくださって、助かりました。感謝いたします」
「当然のことをしたまでです。連邦軍は徹底的に排除すべきです」
「しかし投降した艦まで攻撃を続けて撃沈したのは感心しませんね」
「我々には捕虜を収容するだけの余裕はありませんし、逃がしてやれば、態勢を整えてま
た舞い戻ってきます」
「国際条約に違反するのでは?」
「条約違反? 違反しているのは奴らの方じゃないですか。占領政策として連邦憲章にも
とずく新政策を実施しました。個人の自由を完全に無視している。連邦では当然のことで
しょうが、共和国においては何者にも束縛されない自由があったはず。それを連邦は……。
占領下にある女性達は、連邦の兵士相手に妊娠を強制されるという極悪非道の扱いを受け
ています。それを知らないと言うのですか?」
「いや、それは良く存じております。我が国の女性達もその制度を強要されるところでし
た。それがために救援要請を行ったのですから」
「奴らは自分達の国の制度が一番と信じて疑わず、占領した国家の制度をことごとく改変
しています」
「信じて疑わないから太刀が悪いですね」
「連邦の人間など抹殺されて当然です」
 それから二人は実務会議へと入った。
 カルバキア共和国の自治を将来に渡って維持するために、ウィンディーネ艦隊の一部を
駐留させる事。カルバキアは、ウィンディーネ艦隊への燃料・弾薬・食料の補給の義務を
負うこと。カルバキアの鉱物資源の採掘権の一部割譲などが取り交わされた。
 カルバキアにとっては不利な条件ではあるが、連邦の脅威が続いている以上、承諾する
よりなかったのである。
 鉱物資源大国カルバキア共和国を友好国とし、鉱物採掘権を得た。鉱物は精錬して含有
金属を取り出さなければならない。さらに造船所を確保して新造戦艦を建造して艦隊の増
強も図りたい。
 こうしてゴードンが次なる友好国とする候補が上がった。
「カレウス星系惑星トバへ行くぞ」
 惑星トバは、一惑星一国家という小さな国家ではあるが、鉱物資源を輸入して精錬加工
して輸出するという重金属工業都市であった。精錬した金属から戦艦を建造することので
きる造船王国でもあった。
 技術立国にとって、技術者がどれだけ大事だかは、フリード・ケースンのことを考えれ
ば一目瞭然のことであろう。たった一人で戦艦を開発設計できる能力者を失えば大きな痛
手となる。そして幸いにもそのフリードはタルシエン要塞に在中であるから、戦艦の開発
設計をやってもらい、惑星トバにて建造する。ゴードンの脳裏にはそういったプランが出
来上がっていたようである。
 しかしながら惑星トバは、共和国が滅んだ時逸早く連邦に組みして、自治権を確保して
いる。連邦としては無理に占領して、有能な技術者が逃亡するのを恐れて、自治権を認め
てその工業力を掌握することにしたのである。
 当然ながら、連邦はそれ相応の駐留艦隊を配備していた。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第五章 アル・サフリエニ Ⅳ
2020.02.15

第五章 アル・サフリエニ


IV


 ゴードンの心は荒んでいた。
 その背景には悲しい物語があったのである。

 ゴードンには妹がいた。
 その妹を残して、トリスタニア共和国同盟首都星トランターを旅立って、アル・サフリ
エニ方面に赴任したゴードン。
 やがてバーナード星系連邦が攻め寄せてきて、トランターは陥落した。
 すぐさまバーナード星系連邦憲章に基づく占領政策が行われた。
 共和国同盟軍は解体されて、新たに共和国総督軍が設立され、徴兵制度によって兵役年
齢にある男子はすべて徴兵された。
 各地に授産施設が開設され、妊娠可能年齢にある女性のすべてが強制収容された。
 授産施設。
 それはバーナード星系連邦にあって、人口殖産制度による『産めよ増やせよ』という考
えにもとずく政策の一つであった。
 女性は、子供を産んで育てるもの。相応の年齢に達したら、授産施設に入所して妊娠の
ためのプログラムに参加する。
 スカートは女性のみが着るものだ。
 と、社会通念として教育されれば、誰しもがそう思い、男性はスカートを着てはいけな
いと判断する。それが自然なのだ。
 連邦に生まれた女性達は、幼少の頃からそう教えられ育てられたために、何の疑惑も持
たずに殖産制度に従って、妊娠し子供を産みつづけている。
 もちろん妊娠し母となった女性達には、政府からの手厚い保護が受けられて働く必要も
なく、養育に専念できるようになっている。
 占領総督府は、この授産施設による人口殖産制度を、共和国同盟の女性達にも適用した
のである。
 そもそも共和国同盟憲章による教育を受けた同盟の女性達には、授産施設の何たるかを
知るよしもないし、自分の意志によらない妊娠など問題外であった。
 子供は愛し合った男性と結婚して授かるものであって、授産施設で不特定の男性をあて
がって妊娠させようなどとは、絶対に受け入れられない制度であった。
 地球古代史に記録のある、大韓民国軍が自国内やベトナムで行った強制慰安婦問題と同
じではないか。(韓国軍慰安婦=第五種補給品と呼ばれた)
 しかし自分達の国家の制度は正しいと信伏する総督府によって、人口殖産制度は推し進
められたのである。
 女性達は無理やり強制的に授産施設に連れてこられて、言うことを聞かないと逃げ出さ
ないように裸にされて一室に閉じ込められ、毎日のように連邦軍兵士の相手をさせられた。
 抵抗する女性は手足を縛られて無理やりに犯された。かつて同様のことを行ったハンニ
バル艦隊の将兵達のように。
 当然として女性達は妊娠することになる。
 おなかの中にいるのは、身も知らぬ連邦軍兵士の子供。
 人工中絶は認められておらず出産するしかない。
 ここで女性達は二つの選択肢を与えられることになる。
 妊娠し子供を産み育てることを容認すれば、授産施設から解放されて自由になれる。少
なくとも子供が十四歳になるまでは、次の妊娠を強要されることはない。
 もう一つは、密かに避妊ピルを服用しつつも、兵士達の相手をしながら耐え忍ぶことで
ある。連邦軍には避妊ピルを知る者がいなかったからである。差し入れと称して授産施設
の女性達に配られていた。
 ゴードンの妹も、そんな女性達の中にあった。
 そして妹は、第三の選択肢を選んだのである。
 妊娠したことを知った妹は、授産施設を抜け出し、自殺の道を選んだ。
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