銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 XI
2020.06.27

第七章 反抗作戦始動


XI


 第三皇女艦隊旗艦インヴィンシブル。
 正面スクリーンでは、総督軍に対して攻撃を開始した第四艦隊と第五艦隊が映し出され
ていた。
 戦闘の経験のない艦隊であるが、逃げ腰の総督軍に対しては十分なくらいの戦力と言え
た。
 それを眺めていたホレーショ・ネルソン提督が意見していた。
「皇太子殿下が後退を続けていた意味が、今になって判りましたよ」
「申してみよ」
「はい」
 ネルソン提督は一息ついてから自分の考えを述べ始めた。
「殿下は、後退することによって時間を稼いで援軍の到着を待つと共に、戦闘域を後方へ
と移動させたのです。そして本来後方支援だった艦隊を戦場へと引きずり込んだのです。
戦場となれば本国の指令より、戦場の最高司令官に指揮権が委ねられます」
「その通りです」
 嬉しそうに頷くジュリエッタ皇女。
 信奉する兄の功績を、配下の武将に認められることが一番の喜びだったのである。

 第二皇女艦隊でも同様の具申が行われていた。
 トーマス・グレイブス提督が述べていた。
「戦場においては戦場の司令官が指揮を執る。帝国軍規を良く理解した上での作戦でし
た」
「共和国同盟の英雄と称えられていた才能が証明されたということです」
「誠にございます。銀河帝国の全将兵が皇太子殿下の足元に傅くことでしょう」
「殿下は銀河を統一したソートガイヤー大公の生まれ変わりと言っても間違いないでしょ
う」
 アレックスの特徴ある瞳の色、エメラルド・アイがそれを証明するであろう。
 そして類まれなる指揮能力と作戦巧者は疑いのないものとなる。
「殿下よりご命令です。総督軍の左翼へ艦載機攻撃を集中させよ」
「グレイブス!」
「御意! 総督軍の左翼へ艦載機攻撃!」
 艦橋オペレーター達は小躍り状態で全艦隊へ指令を伝達した。


 さらに三時間が経過した。
「敵艦隊より降伏勧告が打診されています」
 通信士が報告するも、マック・カーサーは無視を続けていた。
 しかしながら、総督軍は総崩れとなり、残存艦数は五十万隻にまでに減じていた。すで
に完全なる消耗戦となり、時間が経てば経つほどのっぴきならぬ状況へと陥っていく。
 それに対して包囲攻撃を続けるアレックスの艦隊にはほとんど損害を被ることはなかっ
た。
 勝算はまるでなく、逃走もかなわない状況がはっきりしている。
 総督軍は完全に戦意喪失となり、総司令官の新たなる判断を待ち続けていた。

 それは【降伏】の二文字しかなかった。

「司令官殿、そろそろご決断すべきだと思いますが」
 参謀の一人が意見具申を出した。
「決断とは何のことかね」
「もちろん降伏です。この情勢ではそれしかないでしょう」
「馬鹿を抜かすな! ここまで来て降伏などできるか!」
「では徹底抗戦なさるとおっしゃるのですね?」
「当然だ!」
「おやめください!」
「何を言うか! おめおめと生きて恥をさらすくらいなら、敵の総大将と刺し違えても相
手を倒すのみだ。それが武人の誉れというものだろう」
「何が武人の誉れですか。それはあなたの自己陶酔でしかありません。これ以上戦いたい
のなら、あなた一人で戦いなさい。もはやあなたに数百万もの将兵の命を委ねることはで
きません」
「ええい、うるさい! 反転して敵の旗艦、サラマンダーに体当たりしろ!」
 誰も沈黙して動かなかった。
「あきらめて下さい。もはや提督の命令を聞くものはおりません」
「貴様らそれでも軍人か!」
「軍人だからこそ、命を粗末にしたくないのです。お判りいただけませんか?」
「判るものか」
 もはや何を言っても無駄のようであった。
「生きて戻ったら軍法会議を覚悟しろよ」
 と叫ぶと艦橋を飛び出していった。
「提督!」
 オペレーターが後を追おうとする。
「追う必要はない! 総司令は指揮権を放棄した。よって指揮権は私が引き継ぐ」
 参謀は言い放つと、全艦に指令を出した。
「全艦戦闘中止! 機関停止して降伏の意思表示を表す」
 オペレーター達は安堵の表情を見せて命令を復唱した。
「全艦戦闘中止」
「機関停止」
 エンジンが停止して音を発生するものがなくなり、艦内を不気味なまでの静けさが覆っ
た。
「国際通信回線を開いて、敵艦隊と連絡を取れ」
「了解。国際通信回線を開きます」
 それはS.O.Sなどの非常信号や降伏する時のための通信回線である。

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銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 X
2020.06.20

第七章 反抗作戦始動




 一時間後。
 中央に切り込んだ帝国軍艦隊は優勢に戦いを進めていたが、すでにすれ違いを終えて相
対位置は離脱の方向に向かっていた。
 さらに戦いを続けるには反転しなければならないが危険を伴う。
 サラマンダー艦橋。
「総督軍は正面突破を図って、中立地帯へ逃げ込もうとしているようです」
「反転攻撃しますか?」
「いや、半時計回りに全速迂回して総督軍の側面を突く」
「側面を突くと申しましても、そのためには総督軍の頭を抑えて前進を阻む必要がありま
すが?」
「その通りだよ」
「しかし応対できる艦隊がおりません」
「いるじゃないか」
「え?」
「まあ、見ていたまえ」
 含みを持たせた笑みを浮かべて答えないアレックスだった。


 ザンジバル艦橋。
「何とか正面突破に成功しました」
「よし、このまま全速前進して中立地帯へ逃げ込め」
「了解」
 ふうっ、と大きなため息をついて肩を落とすマック・カーサー提督。
「このまま行けば何とか逃げられそうです」
 とその時、警報が鳴り響いた。
「どうした?」
「前方に艦影を確認」
「なんだと?」
「帝国艦隊です。その数、六十万隻!」
「馬鹿な! そんなものがどこから……」


 サラマンダー艦橋。
「銀河帝国軍、第四艦隊と第五艦隊です」
「ほら見ろ。援軍が来てくれたではないか」
 と楽しそうに言うアレックス。
 万事予定通りという表情である。
「第四艦隊と第五艦隊に連絡を取ってくれ」
 ほどなく正面スクリーンに両艦隊の司令官の姿が投影された。
『第四艦隊、フランツ・ヘーゲル准将です』
『第五艦隊、ベルナルト・メンデル准将です』
「諸君らはすでに戦場に足を踏み入れてしまった。よって銀河帝国軍規によって、両艦隊
を私の指揮下に組み入れる」
 帝国軍規には戦場にある艦隊は、戦場を指揮する司令官の采配に従うように定められて
いる。
 本国から後方支援部隊として戦闘には参加しないことを前提に進軍してきた第四艦隊と
第五艦隊ではあったが、戦闘が長引き戦場が後方に移動したことによって、予定外として
戦場に踏み込んでしまったのである。
 戦場においては、本国からの直接命令は破棄されて、戦場の指揮官の命令に従うという
わけである。
『御意!』
 と両准将は力強く応えた。
 帝国軍規には精通している将軍であるから、アレックスの命令を受け入れることには躊
躇しなかった。
「第四艦隊、及び第五艦隊に対し、宇宙艦隊司令長官として命令する。接近する総督軍に
対し攻撃を敢行せよ」
『御意!』
 再び応える両将軍。
『おまかせください』
『殿下のご期待にお応えしましょう』
 これまでのアレックスの戦いぶりを、後方からずっと見ていたはずである。
 寸部の隙を見せず、負け戦を勝勢へと導いてしまった、作戦巧者の我らが宇宙艦隊司令
長官にして皇太子殿下。
 銀河帝国の存亡を掛ける作戦に参加できることは武人の誉れとなる。
 両将軍がはりきるのは当然のことである。
 後方支援で出撃が下された時のことである。
「皇女様に対し敵艦隊との矢面に立たせて、第四・第五艦隊は安全な後方支援とはいかな
る所存か?」
 第四艦隊・第五艦隊司令官からも、なぜ自分達は後方支援なのだという意見具申が出さ
れていた。
 しかし大臣達は、戦闘経験のない艦隊を最前線に出すわけにはいかないという一点張り
で対抗した。
 両将軍は不満だったのである。
 しかしその鬱憤はここへきて晴らされることとなる。
 皇太子殿下に従い、銀河帝国を勝利に導く。
 もはや迷いはなかった。
 両将軍率いる艦隊は、接近する総督軍に対して猛攻撃を開始した。
 頭を塞いで進行を遅らせ、本隊が追いつくのを手助けする。
 そうこうするうちに、援軍が後方から追いつき、さらに全速迂回してきたアレックス率
いる本隊が側面から攻撃を開始した。
 総督軍包囲網が完成した。
 敗勢から勝勢へ、アレックスの采配を疑うものはもはや一人もいなかった。

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銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 IX
2020.06.13

第七章 反抗作戦始動


IX


 こちらは総督軍艦隊旗艦ザンジバル。
 艦橋内に警報が鳴り響いている。
 正面スクリーンには、艦隊の後方に多数の艦影が表示されていた。
 後方に所属不明の艦隊が出現して、動揺を隠せないオペレーター達。
「識別できました。反乱軍のようです。味方ではありません。敵艦隊です」
 敵艦隊の先頭を突き進む旗艦と思しき艦に焦点が合わされた。
 ハイドライド型高速戦艦改造II式。
 艦体に描かれているのは、伝説の水の精霊ウィンディーネである。
 バーナード星系連邦の敵艦種リストのトップ3に挙げられており、知らない者はいない
という艦である。
「あれは、ウィンディーネ艦隊です」
 その名前を聞いて恐れをなすオペレーター達。
「別名、皆殺しの艦隊と恐れられている、あのウィンディーネか?」
「率いるはランドール提督の右腕と称されるゴードン・オニール准将です」
 艦橋内にざわめきが沸き起こる。
 正面スクリーンには、敵艦隊を示す光点が次々と増えていた。
 艦体に伝説の木の精霊ドリアードが描かれた高速戦艦も確認された。
「独立遊撃艦隊旗艦高速戦艦ドリアードです。ランドール提督のもう一人の片腕と言われ
る猛将が率いています」
 ランドール提督配下の精鋭艦隊に後ろを取られている。
 艦橋オペレーター達は恐怖に浮き足立っていた。
「敵艦隊、続々と現れています」
「総勢六十万隻に達しました」
 その数に、マック・カーサー提督もさすがに落ち着いていられないようだった。
「反乱軍だと? つまりアル・サフリエニからやってきたというのだな」
「おそらくトランターのワープゲートが奪われたのでしょう。タルシエン要塞にあるワー
プゲートを使ってトランターを経由してきたと思われます」
「六十万隻ということは反乱軍の全軍ではないか」
「そういうことになります。アル・サフリエニ方面軍の全軍がこちらに来ているのですか
ら」
「タルシエン要塞を空にしてか? 馬鹿な。常識で、そんなことはありえない」
「しかし、ランドール提督には前例があります。スピルランス提督の共和国同盟への潜入
かく乱作戦において、これを迎撃するためにカラカス基地を空にしたことがあります」
「シャイニング攻略戦においても、ブービートラップの仕掛けられたシャイニング基地に
舞い降りたハズボンド・E・キンケル大将が捕虜となり、六万隻もの艦船を搾取されてし
まいました」
(*注:第一部第十三章・ハンニバル艦隊及び第十九章・シャイニング基地攻防戦参照)
「判っておる。みなまで言うな!」
 過去のことを持ち出してもしかたがない。
 今現状をどう打破するかである。
「二百五十万隻対二百十万隻か……」
 数では互角である。


 それから三時間後。
 総督軍は中央突破を掛けられて総崩れになりつつあった。
 マック・カーサーと参謀達が集まって協議をしていた。
「我が軍の勢力は百五十万隻に減じました。対してランドール艦隊は百八十万隻」
「大勢はランドール艦隊に傾いています」
「このままでは負けは必至の状態です」
「ではどうすればいいというのだ。敵は援軍を得て大攻勢を掛けてきている」
「その通りです。中央を切り崩され、後方からと側面からも攻撃を受けています」
「包囲殲滅するはずが、逆に包囲されるとは……」
「中央を切り崩されましたが、その分正面方向が手薄になっています。正面に攻撃を集中
して、正面突破を図りましょう」
「逃げるのか?」
「他に救いの道はありません」
「しかし奴らには、銀河系最速とも言われるウィンディーネ艦隊やドリアード艦隊がいる
のだぞ。逃げ切れるわけがない」
「しんがりの艦隊を立てて、彼らに追撃を食い止めてもらうのです。その間に中立地帯に
逃げ込むのです」
「誰がしんがりを引き受けるのだ。生きて帰れる保障はないのだぞ」
「旧共和国同盟の連中にやらせましょう。かつての仲間同士の戦いとなれば、お互いに手
加減して戦闘が長引きます。本隊が十分に逃げ切れたところで投降させれば……」
「判った……。ここは逃げよう」
 協議は決した。
 旧共和国同盟の艦隊にしんがりを立てさせ時間稼ぎをしている内に、本隊は中立地帯へ
逃げ込む。
 そして命令が下される。
 撤退である。
「全艦最大戦速。全速前進!」
 前面に攻撃を集中して逃げ込みを図る。

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銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 Ⅷ
2020.06.06

第七章 反抗作戦始動




 戦況はどんでん返しとなり、勝勢はこちらに傾き始めていた。
 すっくと立ち上がって号令するアレックス。
「全艦隊、後退中止。微速前進から、最大戦速へ!」
 すぐさま復唱がなされる。
「全艦隊、後退中止!」
「微速前進から最大戦速へ」
 士気は大いに盛り上がっていた。
 ランドール提督配下の精鋭艦隊が援軍に来てくれたのだ。
 その数六十万隻。
 銀河帝国軍の総勢は、二百十万隻に膨れ上がったのだ。
 二百十万隻対二百五十万隻。
 これによって両軍の勢力はほぼ互角となったといえよう。
 いや、勇猛果敢な精鋭が総督軍の背後から急襲しているのだ。
 勝勢はこちら側に傾いたといえるのではないか。
 オペレーター達の表情は紅潮していた。
 負け戦から勝ち戦へ。
「有効射程距離に入りました」
「よおし! 全艦、攻撃開始!」
 これまで辛抱に辛抱を続けていた鬱憤を晴らすかのような猛烈な攻撃が開始された。
 攻撃に転じたアレックスには迫力があった。
「砲撃を正面の艦隊に集中しろ!」
 総督軍は、天地両翼を展ばして包囲陣を敷いていたために正面が薄くなっていた。
 集中砲火を浴びせることによって、中央突破を図る算段のようである。
 やがて中央が切り崩される。
「全艦、中央に突撃開始」
 集中砲火で開いた穴に銀河帝国軍が雪崩れ込んでいく。
「マーガレットに打電! 艦載機、全機発進!」


 アレックスの指令を受けて、マーガレットが配下の空母艦隊に全機発進命令を下してい
た。
「殿下の期待に応えるのです。第二皇女艦隊の威信を見せ付ける時です」
「戦闘機を全機発進させよ」
 トーマス・グレイブス提督が全航空母艦に指令を出す。
 全航空母艦から蜘蛛の子を散らすように、わらわらと戦闘機が出撃していく。
 こちらが艦載機を出せば相手も呼応して戦闘機を出撃させてくる。
 航空戦の緒戦は戦闘機同士の潰し合いではじまる。
 マーガレット率いる第二皇女艦隊の主力は、旗艦アークロイヤル以下の攻撃空母が主体
の艦隊である。
 アークロイヤル以下、プリンス・オブ・ウェールズ(新造)、クイーン・エリザベス
(新造)、イーグルなどの攻撃空母から艦載機が続々と発艦していた。
 正面に対峙しての撃ち合いでは影が薄かったが、接近戦での航空機による攻撃では本領
を発揮する。
 航空戦術にかけては英才のジェシカ・フランドルがいればなおのこと良いのだが、あい
にくと援軍の方で指揮を執っているだろう。
 その数では総督軍のそれを上回っていた。
 当然のこととして戦闘機同士の戦いは、帝国軍の勝利で決着が着く。
「雷撃機、全機発進せよ」
 戦艦への攻撃においては魚雷を搭載した雷撃機に勝るものはない。魚雷一発で相手を撃
沈も可能である。ただ防御力が低いので、その運用には慎重を要する。制宙権を確保した
後でなければ出撃させることはできない。
「続いて重爆撃機、全機発進。戦闘機は爆撃機を護衛しつつ敵艦の砲台を叩け」
 こちらも攻撃力は甚大である。敵艦の身近に迫らなければまるで役に立たないが、大量
の爆弾を抱えていけるので、多数の艦船を叩くことができる。
 ただし敵艦の砲撃の餌食になりやすいので戦闘機の援護が不可欠である。


 ジュリエッタの第三皇女艦隊も奮戦していた。
 敵味方入り乱れての戦闘の経験など一度もない皇女艦隊の将兵達は、目の前で繰り広げ
られる死闘に足が震える者が多かった。
 さすがのジュリエットも例外ではなかったが、指揮官が怯えていては士気にかかわる。
 気を奮い立たせて、将兵達を鼓舞していた。
「怯えてはなりません。少しでも尻込みしていたら、そこを叩かれてしまいます」
 スクリーンの一角には、皇太子殿下坐乗のサラマンダーが悠然と戦いを続けている姿が
あった。
 恐れをなして引き下がるわけにはいかないのだ。
 ホレーショ・ネルソン提督が下令する。
「隊列を崩すな! 往来激戦!」
 戦艦を主力とする第三皇女艦隊は、艦載機の数では見劣りするが、艦砲射撃による攻撃
力はすさまじいものがあった。
「味方の艦載機に当てるなよ。グレーブス提督と連絡を取り合って、艦載機との連携攻撃
を続けろ」

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銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 Ⅶ
2020.05.30

第七章 反抗作戦始動




 総督軍後方に新たなる艦隊の出現を見て、緊張を高めるオペレーター達。
 敵の援軍なればもはや救いようのない戦況となり、逃げ出すことも不可能となるだろう。
 しかし次なる報告に状況は一変することとなる。
「識別信号に独立遊撃艦隊第一分艦隊旗艦ウィンディーネを確認」
 それはアレックスの片腕の一人、ゴードン・オニール准将であった。
「ウィンディーネ艦隊だ! 援軍がやってきたんだ」
 小躍りするオペレーター達。
 さらに報告は続く。
「独立遊撃艦隊第二分艦隊旗艦ドリアードを確認!」
 もう一人の片腕、ガデラ・カインズ准将。
「さらに続々とやってきます」
「第十七艦隊旗艦戦艦フェニックスもいます」
 アレックスより艦隊司令官を引き継いだオーギュスト・チェスター准将。
「ヘインズ・コビック准将の第五艦隊、ジョーイ・ホスター准将の第十一艦隊」
 アレックス・ランドール配下の旧共和国同盟軍第八師団所属の精鋭艦隊が続々と登場し
つつあった。
 さらに第五師団所属、リデル・マーカー准将の第八艦隊以下、第十四艦隊、第二十一艦
隊も勢揃いした。
 アレックスの配下にあるアル・サフリエニ方面軍が勢揃いしたのである。
 バーナード星系連邦との国境に横たわる銀河渦状腕間隙にある、通行可能領域として存
在するタルシエンの橋。
 現在地からトリスタニア共和国を経て、さらに遠方にあるタルシエンを含む銀河辺境地
域を守るのがアル・サフリエニ方面軍である。
 トリスタニア陥落以降は、共和国同盟解放軍として旗揚げした総勢六十万隻に及ぶ精鋭
艦隊である。
「戦艦フェニックスより入電。フランク・ガードナー少将が出ておられます」
 アレックスの先輩であり、第五師団司令官にしてタルシエン要塞司令官である。
「繋いでくれ」
 正面スクリーンがガードナー少将の映像に切り替わった。
「やあ、少し遅れたようだが、約束通りに引き連れてきてやったぞ」
「恐れ入ります」
「さあて、早速はじめるとするか」
「お願いします」
「それでは、勝利の後にまた会おう」
 映像が途切れて再び戦場の映像に切り替わった。
 パトリシアは思い起こしていた。
 タルシエン要塞を出発する時のことである。
 発着場においてアレックスとガードナー提督が別れの挨拶を交わしていた。


「それでは先輩、行ってきます」
 ガードナー提督に敬礼するアレックス。
「まあ、いいさ。とにかく要塞のことはまかしておけ。援軍が欲しくなったら、連絡あり
しだいどこへでも持っていってやる」
「よろしくお願いします、では」
「ふむ、気をつけてな」


 そうなのだ。
 あの時からアレックスとガードナー提督の間には密約が交わされていたのだった。
 今日のこの日のために……。
 なぜ、そのことをパトリシアにさえ隠していたのか?
 現況を熟慮して、パトリシアは気がついた。
 統合軍は銀河帝国軍との混成軍である。
 しかも本国には不穏な動きを見せる摂政派の影の黒幕であるロベスピエール公爵の存在
がある。
 そして、このサラマンダーにも皇女艦隊との連絡係として乗艦している帝国兵士もいる。
 摂政派の息がかかっていないとは言えないのだ。
 たとえ腹心のパトリシアにとても、内心を明かすことはできなかったのである。
 壁に耳あり障子に目ありである。
 どんなに優秀な作戦も、上手の手から水が漏れて敵に作戦を知られては元も子もなくな
る。
 危険を最小限にするためには、完全無欠でなければならなかったのである。

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