銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第七章 宇宙へ I
2020.03.29

 機動戦艦ミネルバ/第七章 宇宙へ




 その後も、きびしい任務をこなしていたメビウス部隊のレイチェルの元に、ランドール
提督からの反攻作戦開始の連絡が入った。

『L4ラグランジュ点にある、ワープゲートを48時間以内に奪取せよ』

 という指令だった。
「これはまた難問を押し付けてきましたね」
 副官が驚きの声を上げる。
「反攻作戦にワープゲートが必要不可欠です」
「つまりシィニング基地にあるワープゲートを利用して、アル・サフリエニから一気に艦
隊を送り込めるというわけですね」
「その通りです」
「しかし、作戦遂行には宇宙に飛べる戦艦が必要ですが」
 メビウス部隊は、パルチザンとして内地で反乱を起こすのが主目的なので、宇宙戦艦は
なかった。
「あるわよ」
 耳を疑う副官だった。
「どこにあるんですか?」
「ほれ、そこにあるじゃないの」
 とレイチェルが指差したのは、サーフェイスとの戦闘で傷ついた艦を修理に戻って来て
いたミネルバだった。
「ミネルバ……?あれは大気圏専用の空中戦艦ではなかったのですか?」
「誰がそう言ったのですか?」
「ええ、いや……」
 うろたえる副官。
「一つ講義しましょうか」
「講義……ですか?」
「そもそもミネルバは、超伝導磁気浮上航行システムによって惑星磁気圏内を飛翔するこ
とのできる戦艦です」
「そう聞いております」
「さて磁気圏とは、どこからどこまでを言いますか?」
「磁気圏ですか……。ああそうか、判りました。磁気は大気圏内だけでなく、宇宙空間ま
で広がっており、磁束密度を無視すれば永遠の彼方まで続いています。重力と同じです
ね」
「よくできました。L4ラグランジュ点までは、十分な磁力密度があるということです」
「問題があるとしたら、真空に近い宇宙空間ということですが、水中に潜航できるくらい
ですから真空に対する気密性や耐圧性も高そうですね」
 管制室の窓から覗ける、ミネルバの整備状況を見つめながら、ランドール提督からの指
令をフランソワに伝える。

 ミネルバの艦橋にいるフランソワの元に、ランドール提督からの指令がレイチェル経由
して届いていた。
「というわけで、宇宙そらへ上がります」
 とフランソワが下令すると、
「やったあ!」
 オペレーター達が、小躍りして喜んだ。
 宇宙へ上がれば、憧れのランドール提督に会えるという期待感。
 新しい戦場への転進は、惑星上での戦いと違って、艦が撃沈されれば即死が待っている
という厳しい環境ではあるが、彼らの本来の主戦場は宇宙であったはずだ。
 士官学校を卒業して、志願してランドール艦隊へ配属されるのを希望したのだから。
 それが何の行きがかりか、パルチザン組織であるメビウス部隊配属となってしまった。
「修理、完了しました。いつでも出航できます」
 恒久班からの報告を受けて、
「ミネルバは、これよりワープゲート奪取作戦の任務を遂行する。全艦出航準備に入れ」
 フランソワが出撃命令を出す。
「全艦出航準備」
「ウィンザー大佐より連絡」
「繋いでください」
 正面スクリーンにレイチェルの姿が映し出された。
「今回の任務は、反攻作戦の天王山です。心して掛かるように」
「判っております。全精力を注いで任務遂行します。では、行って参ります」
 と返答して、ビシッと踵を合わせて敬礼する。
「気をつけて行ってらっしゃい」
 レイチェルも敬礼を返して見送る。
「出航準備、完了しました」
「よろしい、潜航開始」
「潜航開始!」
「メインタンク注水」
 基地内部の外界に通ずるプールに浮かぶミネルバが、ゆっくりと沈んでゆく。
「ハイドロジェット機関始動、微速前進!」
「ハイドロジェット機関始動!」
「微速前進!ようそろ」
 進入通路を潜航して進むミネルバの前方に壁が立ちはだかる。
「基地外壁ゲートをオープンせよ」
「外壁ゲートオープン」
 開いたゲートから、ミネルバが勇壮と出てくる。
「二十分このまま潜航を続ける」
 基地を出てすぐに海上に出れば、基地の位置を特定される危険を避けるために、しばら
く潜航を続けて基地から離れるようだ。
「二十分経過しました」
「浮上してください」
「浮上!」
「メインタンクブロー」
 やがて海上に姿を現すミネルバ。
「周囲に総督軍の艦艇は見当たりません」
 ベンソン副長が報告する。
「それでは、行きましょうか、宇宙そらへ」
「行きましょう!」
 ベンソン中尉も大乗り気であった。
「浮上システム始動!」
 やがて上空へ、さらに上空へと上昇するミネルバ。
「成層圏を通過します」
「各ブロックの耐圧扉を閉鎖」
 惑星大気圏と宇宙空間との境は明確にはないが、だいたい成層圏をもって境とするのが
一般的である。
「ハイドロイオンエンジン始動!」
 水中ではハイドロジェットとして活躍したエンジンであるが、宇宙空間ではイオンエン
ジンとしての両用可能となっている。
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