銀河戦記/鳴動編 第一部 第七章 不時遭遇会戦 Ⅳ
2021.01.04
第七章 不時遭遇会戦



「どうだ、艦数はわかるか」
「重力測定によれば、通常戦艦換算でおよそ七千隻かと」
「七千隻か……」
「全艦戦闘配備完了しました」
「よし」
「前方にエネルギー反応多数」
 パネルスクリーンに前方で輝く光点の明滅が確認された。
「どうやら敵は我々が放った魚雷を、同盟艦船と思い違いして攻撃しているようです」
「思惑どおりだ」
「司令はこうなることを予測していたのですね」
「いや……可能性を想定していただけだ。万が一を考えて作戦を変更させた。何せ報道部の奴等が、ご丁寧に訓練の作戦予定コースまで発表してくれたからな」
「敵がその報道を傍受して罠を仕掛けて待ち受けていた。その裏をかいたのですね。魚雷を戦艦と同速度で発射して、予定通り作戦コースを進行しているように見せかける。星雲の中にいて索敵レーダーが不能になるのを見越して……そうですよね」
「まあな……全艦にミサイル発射準備」
「司令。星間物質のせいで自動照準装置が作動しません」
「かまわん。手動モードに切り替えて、敵部隊中央に適当にぶち込んでやれ」
「適当にですか? ミサイル巡航艦なら熱源感知ミサイルを搭載していますが」
「通常魚雷で十分だ。まわりが見えない状態で奇襲を受ければ、敵は混乱状態に陥いる。それが目的だ。当たらなくてもいい。とどめは粒子ビーム砲と艦載機攻撃にまかせる」

「まさか敵がこんな身近な所に潜んでいるなんて。カラカス基地を防衛していた艦隊の一部でしょうか」
「そうではなさそうだ。星雲から発せられる電磁界ノイズによって、その背後の領域の探知が困難だからな。いつでも近づいて隠れることができる」
「それにしてもこの濃厚な星間ガスによって探知レーダーが一切使用不可能なのは痛いですね」
「それは敵も同じことだ」
「そりゃそうですが」
「有視界戦闘か……望むところといいたいが。あいにく戦闘経験の乏しい将兵が多い」
「どうなさいますか。反転離脱をはかりますか?」
「反転している余裕はない。敵も我々を探知しているはずだ。側面を見せればそこを叩かれて被害を増やすだけだ。このまま全速前進して敵中突破をはかる」
「紡錘陣形をとりますか?」
「いや。星間物質によって索敵レーダーによる照準が効かないのを逆手にとって、ここは散開して進むのが得策だ。一塊になっていれば、重力探知機によっておよその狙いがつけられる。重力反応の強いところに集中砲火を浴びせれば必ず命中するからな」
「それに同士討ちの危険も回避できます」
「そうだ。全艦、散開体制で全速前進。敵の懐に飛び込んで乱撃戦に持ち込む」
 アレックスは手元の艦内放送のスイッチを入れて、全兵士に状況説明をはじめた。
「各将兵に告げる。訓練の最中に不時遭遇会戦となり、約十五倍の数の敵部隊と戦闘になった。しかし敵艦数が多いことを恐れるにはあたらない。このような状態では、いかに冷静に判断しかつ行動したかによって、勝敗がつくものなのだ。照準がつけられないからといって闇雲に砲撃して弾薬を浪費するな。粒子ビーム砲は、濃密な星間物質に吸収されて威力が半減以下に落ちているはずだ。視界に入った目前の敵のみを確実に撃破するのだ」
 敵艦隊を目前にしても、冷静沈着なアレックスの姿勢に、味方将兵達は混乱することなく、落ち着いて指令に従っていた。
「まもなく有視界射程に入ります」
 その途端、エネルギー波が艦を横切った。
「敵が撃ってきました」
「どうやらあてずっぽうに遠距離射撃しているようだな」
「司令のおっしゃった通りです。粒子ビーム砲は、この距離では威力が半減以下、ビームシールドで十分防げます」
「ミサイルも近すぎて使えないしな」
「はい」
「粒子ビーム砲へのエネルギーチャージ完了」
「よし。そのままアイドリング状態で待機。ビームシールド全開して敵中に侵入せよ」
「撃たないのですか?」
「まだ早い」
「しかし敵は目前です。十分照準範囲に接近しました」
「いや。まもなく敵は、ビーム砲のエネルギーが尽きて、再充填にかかるはずだ。それが完了するのに最低三分。ビーム砲へエネルギー充填している間のビームシールドの防御能力が低下する。そこが付け目だ、勝負は三分で決する」
「敵のビーム攻撃が弱まりました。再充填に入ったもよう」
「よおし! 全艦、粒子ビーム砲一斉発射」
 各艦から放たれたビームが敵艦に襲いかかる。ビームシールドの減衰した相手は、いともたやすく撃破されていく。
「往来撃戦用意。各高射砲準備せよ」
 舷側を守る高射砲に司令が伝わる。
 ものの数分で艦隊同士がすれ違いをはじめ、乱撃戦の様相を呈してきた。
「往来撃戦に突入した。私の指示を待たずに、各艦の艦長の判断で攻撃を続行せよ」
 もはや艦と艦の一騎打ちの戦いである。アレックスの統合指令は意味をなさない。艦長の采配だけが勝負を分けるのだ。

 軽空母セイレーンから艦載機編隊の指揮を統括していたジェシカ。
「艦載機は母艦を視認できる範囲内から外に出ないようにしてください。帰ってこれなくなります」
「了解!」
 艦載機の奮戦ぶりを応援しながらも、
「まさか、こんなことになるなんて思いもよらなかった……アレックス」
 司令官アレックスの乗る旗艦サラマンダーに視線を移すジェシカ。
「やはり、あなたはただ者じゃないわね」

「敵が撤退をはじめました」
 やったー!
 という歓声が、艦橋中に沸き上がる。
「追撃しますか」
「その必要はない。もう十分に戦った。これ以上将兵達に、負担を強いることもないだろう。それよりも被弾した味方艦船の救護を優先する」
 敵を叩くよりも、まず味方を助けることを第一に考えるアレックスであった。現状からすれば敵部隊を全滅させることも十分できたはずである。
「逃がした敵はいずれ叩くことが出来るが、失った将兵を生き返らせることは出来ない。一刻も早い救援で一人でも多くの将兵を助けることの方が大切だ。もちろん敵味方の区別はしない」
 そういった処置を見せられて、人命尊重を掲げるアレックスの人徳を知る隊員達であった。
 その後、数日をかけて星雲内がくまなく捜索されて、味方艦艇や将兵の救助はもちろんのこと、被弾し航行不能となって漂流している敵艦船の拿捕と乗員の捕虜収容が行われた。拿捕した敵艦船のうち再利用可能と判断された六百十三隻はカラカス基地へ曳航され、残りは魚雷攻撃が加えられて撃沈処理された。
 当然として搾取し修理運用可能となった六百十三隻はすべてアレックスの部隊の所属となり、配下の三人の部隊に編入されることとなった。これによってアレックスの遊撃部隊は、ゴードン及びカインズの分艦隊それぞれ四百五十隻に、ロイドの旗艦部隊四百隻を合わせて、総勢千三百余隻に膨れあがったのである。


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2021.01.04 08:11 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第七章 不時遭遇会戦 Ⅲ
2021.01.03

第七章 不期遭遇会戦




 艦橋に再び姿を現したアレックス。
「よし。ウィンザー中尉、ここまでよくやってくれた。及第点だ。後はわたしがやる。かわってくれ」
「はい」
 アレックスに指揮官席を譲るパトリシア。スザンナも艦長席へと戻っていく。
 ひと呼吸おいてから、毅然とした表情で発令するアレックス。
「全艦に告げる。これより、当初予定の作戦を変更する」
 え? というような表情でいぶかしがるパトリシアにお構いなしに指令を下すアレックス。
「全艦、艦首発射管一号から四号、魚雷発射準備だ。発射角度十二度、雷速を五分の一に設定せよ」
「雷速を五分の一に落とすのですか?」
 オペレーターが、指令を聞き正した。
 雷速を五分の一に落とすということは、戦艦と同速度で魚雷を発射することである。発射された魚雷は、母艦を離れることなく寄り添うように進むことになる。オペレーターが聞きただしたくなるのも当然であろう。
「復唱はどうした!!」
 しかしアレックスは毅然として怒鳴った。
「わ、わかりました。全艦、艦首発射管一号から四号まで魚雷発射準備。発射角度十二度、雷速五分の一に設定します」
 オペレーターは、復唱した指令を各艦に伝達した。艦隊リモコンコードを使用していれば、指令を暗号コードにして発信すれば一瞬にして済むことであるが、コード使用を禁じている部隊においては、いちいち口頭による伝達と確認復唱を繰り返さねばならない。伝達を終えるが早いか、各艦の艦長から即座に反問が返って来る。
「ちょっと、待て。雷速五分の一とはどういうことだ?」
「いちいち聞き返さないで、言われたことを実行してください」
「理解できん。司令を出してくれ」
「これは、司令からの直接命令です。変更はありません」
「馬鹿野郎!」
 艦橋内に突然怒号が響き渡った。
「何度言ったらわかるんだ。五分の一と言ったら五分の一だ」
 艦長のスザンナ・ベンソン中尉が電送管を通して魚雷長に怒鳴っている。ミッドウェイ宙域会戦からその操艦の腕前を買われて、アレックスの坐乗する指揮艦の艦長を務めているのだ、その人となりを知り尽くしているから、微塵の疑いも持っていない。
 正式型式名称、ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式。かつて廃艦の運命にあったじゃじゃ馬も、フリード・ケースンとレイティ・コズミック二名の連携によるシステム改造によって、共和国同盟軍最速にして最強の戦艦に生まれ変わっていた。その艦長としての誇りと自信がスザンナ・ベンソンを動かし、アレックスに対しては忠実なる部下の一人として、旗艦サラマンダーの要人となっていた。
 各艦の魚雷発射管室では、発射管制員が指令に従い魚雷の雷速調整を行いつつも、不満をもらしていた。
「おい、おい。聞いたかい。雷速五分の一だとよ。それじゃ戦艦のスピードと同じだぞ」
「つまり発射してもミサイルと一緒にお付き合いしたまま進行するということだよな」
「上は一体何を考えているんだろうか」
「魚雷長も魚雷長だよ。なんで簡単に承服しちゃったんだ」
「しようがないよ。魚雷長、艦長に頭上がらないんだ」
「なんで?」
 急にひそひそ声に変わっている。
「ここだけの話し、艦長に借金がしこたまあるんだとさ」
「そ、そうなんだ……」
 魚雷長に視線を集中させる魚雷発射管制員。

「全艦。艦首魚雷発射準備完了しました」
「よし。第一列陣から順列順次に、魚雷発射と同時に急速右転回、全速前進でキャブリック星雲を右側に迂回コースをとる」
 立方陣で進む部隊のまず最前列が魚雷を一斉発射すると右へ急速転回して離脱する。その後に第二列陣が続き、第三列以降も同様に次々と魚雷を発射しては右転回していく。結果、当初の作戦コース上を雷速五分の一で突き進む魚雷群と、それらを左舷に見る位置方向へ転回し全速前進で星雲を迂回するアレックスの部隊という、二つの隊列に別れて進行することになる。これは艦隊リモコンコードを使用しないからこそ出来る芸当であった。
「全艦、魚雷を発射して当初作戦コースを離脱、キャブリック星雲を迂回するコースに乗りました。脱落艦はありません」
「よし。艦首発射管に魚雷再装填せよ。雷速を通常に戻せ!」
「了解。艦首魚雷発射管、再装填急げ。雷速、マキシマムスピード!」
 パトリシアが質問を投げかけてきた。
「お聞かせいただけませんか」
「作戦を変更した理由か?」
「はい。作戦立案をまとめた者としては気になってしかたがありません」
「だろうな。だが今は説明している暇はない。いずれわかることだ」
 その言葉が終わらないうちにオペレーターの報告が入る。
「魚雷群、まもなく星雲に突入します」
「よし。こちらも星雲に突入するぞ。全艦、コースターンだ。取り舵一杯、左九十度転回。最大戦速で星雲に突入する。全艦に、戦闘配備発令」
 報告がある度に、次々と指令を出し続けるアレックス。
 これはただ事ではない!
 という雰囲気が艦橋を覆い尽くし、次第に緊迫感を増していく。
「取り舵一杯、左九十度転回」
「最大戦速」
「全艦、戦闘配備」
 矢継ぎ早の発令に、艦橋オペレーター達も息つくひまもない。
「キャブリック星雲に突入します」
「前方に重力反応!」
「やはりいたか」
「はっ。この反応からすると、おそらく敵艦隊かと」
 艦橋にいたオペレーターのほとんどが息を飲んだ。
「パネルスクリーンに前方拡大投影せよ」
「前方拡大投影します」
 しかし、スクリーンには濃密な星間ガスの渦が広がっているだけであった。
「やっぱりだめですね……」
「わかっている。全艦に発令だ。訓練体制から実戦体制に変更!」
「はい。直ちに実戦体制での戦闘配備発令します」
 パトリシアやゴードンら参謀達が驚愕している。訓練航海のはずが実戦になってしまったのだから。まさか星雲の中に敵艦隊が潜んでいたなどとは予想もしていなかった。
「訓練ではないことを繰り返せ」
「全艦に伝達。訓練体制は解除された。実戦体制での戦闘配備に移行する! これは訓練ではない。不期遭遇会戦である。実戦体制での戦闘配備。繰り返す、これは訓練ではない。実戦である」
 アレックスが発令すると同時に艦内に警報が鳴り響き、慌てふためいて将兵達が駆け回っている。
 部隊全般を指揮するアレックス達のいる統合司令室の階下では、スザンナ・ベンソン艦長が各部署への適確な指示を出していた。
「原子レーザービーム砲への回路開け」
「原子レーザービーム砲の回路開きます。BEC(ボーズ・アインシュタイン凝縮)回路に燃料ペレット注入開始」
「レーザー発振制御用超電導コイルに電力供給開始」

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2021.01.03 12:52 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅳ
2021.01.02

第十章 反乱





 アルサフリエニ方面への道行きのため、艦隊編成と補給が急がれた。
 同行するのはサラマンダー艦隊二千隻の他、マーガレット艦隊から五千隻、ジュリエッタ艦隊から同じく五千隻が編成された。いずれも帝国の中でも精鋭を選りすぐった艦隊である。
 今回の遠征には、TV放送局の艦艇は同行を許されなかった。かつての仲間で骨肉相食む戦闘となるのだ。横やりが入っては集中できないし、相手方に情報を漏らすことにもなる。
 アレックスが決断して三日後に出航準備は完了した。
「アルサフリエニ方面に出撃する!」
 進軍を下令するアレックス。

 こうして準備を終えた一万二千隻の艦隊は、静かにアルデラーンを出立した。
 途中トランターに燃料補給で立ち寄るも、ワープゲートを使用することなく、そのまま通過した。
 ワープゲート不使用は、要塞側のゲートがハッカーに乗っ取られた場合を考慮したのである。
「ワープはしたが、出口側が消失して異次元空間を彷徨うことになりたくないからね」
 タルシエン要塞へと急ぐ艦隊。
 二日と七時間を要して、ついに要塞に到着した。
「入港許可願います」
 通信士が入港許可申請を出す。
「許可します。十一番ゲートから入港願います」
「十一番ゲート。了解した」

 要塞駐留司令官ガデラ・カインズ中将が出迎えた。
「早速、詳細を聞かせてくれないか」
「分かりました。会議室へどうぞ」
 アレックス及びパトリシア以下の二人の皇女と参謀たちが従った。
 提督や参謀が全員揃ったところで、会議ははじまった。
「それでは、事の発端となった皇太子礼のTV放送を流します。まず最初は、要塞で受信した映像からです」
 映像の中から核心と思われる部分が流された。
『帝国皇太子及び共和国同盟最高指導者たる身分をもって、共和国同盟を銀河帝国に併合し、帝国貴族にその所領を与えるものとする。貴族の末端にまで公正に分配する』
 息を飲む参謀たち。
「どうです。間違いありませんか?」
「うむ。見た通りだった」
 他の要塞参謀が頷く。
「それでは、アルデラーンでの本放送の録画です」
『共和国同盟は元の政体に戻すこととする。相当の準備期間を設けて、評議会議員選挙を執り行う。概ね2年程になると思われるが、その間は軍が暫定政権を敷くこととする』
「以上がアルデラーン本放送です」
 比較して全く違う内容になっているのに、憤りを覚えずにはいられない参謀だった。
「まるで反対ではないか!」
「アルデラーン本放送から要塞での放送に至るまで、一時間ほど時間差があります。その間に映像を改造して偽放送データを送り、ハッキングされた要塞側が偽放送を流したと思われます」
「つまり要塞では、本来の放送は遮断されていたのだな?」
「その通りです」
「そして、その偽放送を信じたアルサフリエ側が叛旗を掲げたということか……」

「しかし偽情報だけで、裏切るなどありうるのでしょうか?普通なら、情報の信憑性を確認しますよね」
「そうでもないだろ。孤児として拾われて以来立身出世で共和国同盟軍の最高の地位にまで上り詰めたのは賞賛者で伝記の主人公となっても不思議じゃない。がしかし、実情は皇太子でした。ってことになれば、賞賛から嫉妬に一変するものだ」
「そうですね。特に『皆殺しのウィンディーネ』と言われていた時は、連邦に対する激しい憎悪は並大抵のものではありませんでした」
「信じていた親友の心変わりに対して、裏切ったのはランドール提督の方だという感情が沸くのも当然かもしれません」
 次々と持論を述べる参謀たちだった。
 果たしていずれが正解なのかは、本人に直接会って確認するよりないだろう。

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2021.01.02 08:19 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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