銀河戦記/脈動編 第十二章・追撃戦 V
2022.10.01

第十二章・追撃戦





 軽巡洋艦スヴェトラーナ艦橋。
 正面スクリーンに、サラマンダーが円盤部を切り離している姿が映されていた。
「あれは、どうしたことでしょうか? サラマンダーが分離しようとしています」
「内部に火災でも発生して、爆発炎上する前に切り離したのか? そういえば、円盤部は居住区とか言っていたな」
「円盤部を攻撃しますか?」
「いや、非戦闘員は攻撃しないと約束したからな。本体を先に攻撃しなけりゃ隙を与えるだけだ」
「しかし、ちょこまかと動き回って中々止めを刺すことができません。すでにグロムイコとオサトチフは限界です」
 予知能力(プレコグニション)を持っているヴァレンチナ・グロムイコ、そして遠隔念動力(テレキネシス)でワープしているチムール・オサトチフのことを言っているのでろう。量子乱数自動制御に対抗して、予知能力で次の行動を読み、遠隔念動力で艦をワープさせていたのである。しかし精神力をかなり消耗するようだ。
「私がテレパスなので回避行動を読み取れないようにしているのだろう。今度は、後方に回って攻撃しよう。済まないが、二人とも頼むよ。これで最後にする」
「了解しました」
 疲れ切って息苦しい声ながらも応えるグロムイコとオサトチフ。

 予知能力での敵艦の予想位置に対して、背後を取れる位置に能力ジャンプする。
 ジャンプアウトした空域には、予想通りにサラマンダーが艦尾を見せていた。
「よし! 背後を取ったぞ!」
「ちょっと待ってください。あれを見てください!」
 と副官がスクリーンを指さした先には、サラマンダーの三連装レールガンの砲口がこちらを狙っている姿があった。
「なんだあれは?」
 次の瞬間、レールガンが火を噴いた。
 と同時に、激しく振動する艦体。
「どこをやられたか?」
「機関部です! 直撃!」
「機関部に火災発生!」
「機関停止しました。電源喪失! 全砲塔使用不能です!」
 そして照明と全機器がブラックアウトした。
「補助電源に切り替えろ」
 照明が再び点いたが、乗員の表情は暗かった。
 機関部をやられては、ただ漂流するだけで敵艦の餌食となるだけだった。
「随伴の艦隊は?」
「攻撃を受けています」
 サラマンダーは、行動不能となったスヴェトラーナへの攻撃を一時停止して、随伴艦を攻撃していた。
 能力ジャンプのできない通常の戦列艦には、サラマンダーの相手にはならなかった。
 伝家の宝刀であるランドール戦法で縦横無尽に動き回って翻弄していた。
 ものの数十分でそれらを完全に無力化に成功したのであった。
「友軍、全艦行動不能に陥りました」
「行動不能? 撃沈は?」
「一隻もありません。すべて機関部直撃で起動停止にされたもよう」
「命は奪わない……か」
 ゆっくりとスヴェトラーナに艦首を向けるサラマンダー。
 そして停止した。
「原子レーザー砲がこちらを狙っています」
「止めを刺すつもりか?」
「サラマンダーより入電」
「繋げ」
「繋ぎます」
 通信用スクリーンに映し出されるトゥイガー少佐。
「隠し玉を持っていたとはな。恐れ入ったよ」
『奥の手は、最後の最後まで取っておくものですよ』

「で、どうすればいいか」
『まずは全艦に投降の指示を出してください』
「分かった、降伏しよう」
 副官に目で合図して、全艦に連絡を入れさせた。
『惑星アグルイスの衛星軌道に乗れますか? このままではどこへ流されるか分かりませんからね』
「大丈夫だ。それくらいはできる」
『護送艦を呼んでおります。到着次第、移乗してもらいます』
「それで君たちの本星に連行するのか?」
『いえ、最も近いあなた方の星に送りますよ。我々には捕虜を収容できるだけの余裕がありませんから』
「それで、アルビオンを救助するために、惑星に降下するのだな」
『そういうことです』
「そうか……頑張りな」



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銀河戦記/脈動編 第十二章・追撃戦 Ⅳ
2022.09.24

第十二章・追撃戦





 惑星アグルイスに近づくサラマンダー。
 すでに戦闘は終了したようだった。
「全滅させられたのか?」
「惑星大気の中に、大火球を確認しております。地上に降り立った可能性があります」
「逃げ落ちたかな」
「衛星軌道に国際遭難信号を出しているブイが回っています」
「敵味方を問わず助けを求めている者の声に応えないのは、海の男として恥ずべき行為だ。救助に向かうぞ、衛星軌道に入るコースを取れ!」
 進路変更した時だった。
「前方にワープアウトの反応があります」
 重力加速度計を監視していたオペレーターが警告した。
 進路を塞ぐように現れるミュー族旗艦スヴェトラーナ。
「スヴェトラーナより入電!」
「繋いでくれ」
 通信モニターに族長ドミトリー・シェコチヒンが映し出される。
「どういうつもりだ?」
 と怪訝そうなドミトリーだった。
「それはこちらが聞きたい」
 オウム返しに聞き返すトゥイガー少佐。
「アルビオンを助けるつもりだな」
 とのドミトリーの質問に、
「もちろんだ!」
 きっぱりと答える。
「奴らは、我らの宿敵だ。一人残らず根絶やしにするのが、我らの宿願。奴らを助けるというのなら、ここで戦うのも辞さずだ」
「助けを求めている者を見放さないのが我々の信条です」
「そうか、ならば仕方がない」
 そういうと通信が途切れた。

「奴さんはやる気ですね」
 ジョンソン准尉が緊張した声で言う。
「戦闘配備!」
 仕方がないなといった表情でトゥイガー少佐が応える。
「カニンガム中尉は、スヴェトラーナの行動パターンを記録しろ!」
 技術主任のジェフリー・カニンガム中尉に指示する。
 ドミトリーの行動の癖を記録して、ワープする場所を先読みできるようにするためである。
「回避行動を戦術コンピューターの量子乱数自動制御にしろ!」
「了解! 量子乱数自動制御にします」
 操舵手のジャクソン・フロックハート中尉が応える。
「回避行動をドミトリーに読まれないようにですね」
 副官のジェレミー・ジョンソン准尉が察知。
「戦闘配備完了しました!」
 艦長のマイケル・ヤンセンス大尉が立ち上がって報告した。
「どこから現れるか分からん。警戒を怠るな!」
 いつ戦闘が始まるのか?
 と息を飲むオペレーター達。
 額から汗が滴り落ちる。
 非情な時間だけが過ぎていく。

「右舷後方四時の方向に感あり! 何かがワープアウトしてきます」
「回避行動!」
「了解」
 操舵手が、量子乱数自動制御のスイッチを入れた。
 即座に自動制御による回避運動が始まる。
 ドミトリーは相手の考えていることを読み取る能力を持っているから、回避行動を先読みされたら意味がない。量子乱数による自動回避が必要不可欠なのである。
 サラマンダーは、姿勢制御ブースターを噴射して、糸の切れた凧のように乱れ飛んでいた。
 スヴェトラーナも現れては消えを繰り返して、サラマンダーを射程に捕らえようと苦心しているようだった。
「舷側砲塔の修理状況はどうなっているか?」
「左舷三番、右舷二番のレールガンが修理完了しています」
 輸送艦から呼び寄せた兵装技術官が報告した。
 舷側砲塔は、左舷には奇数番号と右舷には偶数番号が割り振られている。
「分かった。一旦作業を中止して、戦闘が終わり次第残りの砲塔の修理を続けてくれ」
「かしこまりました」
「二番・三番砲塔は、敵艦が目前に現れたら一斉射撃せよ」

 しばらく両艦のいたちごっこが続いていた。
 両舷の砲塔が適時火を噴くが、中々敵艦に命中できないでいた。

 激しい衝撃が艦橋を襲った。
「どこをやられた?」
「エンジン部に被弾! 火災発生! 出力ゲイン低下します!」
「機関要員は消火活動に専念しています」
「エンジンをやられたら奴の動きに合わせられません」
 ジョンソン副官が焦った様な声を出した。
「仕方がない。後方円盤部を切り離して、前方戦闘艦橋で戦う」
 そういうとトゥイガー少佐は、指揮官席を離れて前方部にある戦闘艦橋に通ずる転送装置に飛び込んだ。
 ゆっくりと円盤部が切り離されてゆくサラマンダー。
 円盤部の指揮を任された航海長のラインホルト・シュレッター中尉。
「円盤部切り離し完了! これより後方に下がる」
 戦闘宙域から離脱しはじめる円盤部。
 非戦闘員の多く残るこちら側を狙い撃ちされたらひとたまりもないが、国際人道法の順守を相手方が守ってくれることを祈るだけである。


 戦闘艦橋にたどり着くと同時に
「格納式三連装レールガンを出せ!」
 と即座に下令するトゥイガー少佐。
 艦尾よりからレールガンを載せた旋回砲塔が出現する。
「このレールガンは、奴さんも気づいていないはずだ」
 トゥイガーの潜在意識を読まれたとしても、封印していたこの兵装のことまでは読めてはいないだろうと考えたのだ。
 射程範囲は水平三百六十度、垂直方向百八十度、艦体をぐるりと回せば死角はない。

「スヴェトラーナのワープのデータが揃いました」
 カニンガム技術主任が声を上げた。
「よし、待ちかねたぞ。次に奴がワープしたら、出現予想地点に砲口を向けるように旋回せよ」
「了解」
 砲塔が旋回しはじめ、敵艦の予想出現ポイントに方向を向けて静止した。
「敵艦ワープアウト!」
「予想地点です!」
「撃て!」
 三連装レールガンが火を噴いた。



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銀河戦記/脈動編 第十二章・追撃戦 Ⅲ
2022.09.17

第十二章・追撃戦





 激しく損傷して宇宙空間を漂流している艦がある。
 アルビオン旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルグである。
 機関室では炎を上げて燃えるエンジンを消火しようと奮戦する乗員達。
 艦橋では悲痛の表情で事態を収拾しようとしている司令がいた。
「どうだ?」
 報告を受けて尋ねる司令に、副官のゲーアノート・ノメンゼン中尉が答える。
「だめです。メインエンジンが完全に破壊されて、起動レベルを確保できません」
「そうか……」
「このままでは、惑星アグルイスの重力に引かれてゆきます」
「アグルイス……。植人種の星じゃないか」
「不可避のようです」
「そうか、それでミュー族は攻撃を止めたのか」
「撃沈してやすらかに眠らせるより、植人種の星で最後まで苦しませようという魂胆のようです」
「脱出艇での離脱は可能か?」
「味方艦は全滅、アグルイスの重力からの脱出は不可能です」
「そうか……アグルイスに不時着するしかないか」
「しかし、あの星は……」
「わかっている」

 しだいに惑星アグルイスへと引き寄せられてゆくハンブルグ。
「完全に重力に捕らわれました」
「仕方あるまい。救難信号ブイを衛星軌道に投入し、大気圏突入準備せよ!」
 各ブロックの気密ドアが遮蔽されてゆく。
 艦尾から射出される救難ブイ、衛星軌道を周回しつつ救難信号を打電し続ける装置である。
「総員宇宙服着用せよ!」
 艦内のあちらこちらで、宇宙服を着こみ始める乗員達。
「大気圏突入コース設定!」
 突入コースが浅ければ大気に跳ね返されるし、深ければ燃え尽きないにしても艦内は生存不可能なほどに熱せられるだろう。
「まもなく大気圏に突入します」
「総員衝撃に備えよ。立っている者は何かに掴まれ!」
 大気圏に突入し、大気の断熱圧縮熱によって艦体が急上昇、火球に包まれて墜落していくハンブルグ。この状態では、艦の制御は不可能であり、自然落下運動に任せるしかない。
 艦内では、投げ飛ばされないように何かに掴まり、激しい震動に耐えている乗員達。
 艦橋内では、必死の形相で生き残るための手段を講じていた。
「艦内温度上昇中!」
「冷却装置のパワーを最大に上げろ!」
「成層圏突破まで二十四秒!」
「逆噴射準備!」
「まもなく圏界面を通過します」
 圏界面とは、地球において成層圏と対流圏の境目にあたる場所である。
 地表から上へ昇っていくと気温が下降していくが、地上十キロのあたりから成層圏に入ると、逆に気温が上昇していくという現象が起きる。その境界面のことを圏界面という。
 ここらあたりまでくると、断熱圧縮熱による艦体温度上昇も止み、冷えてくる。真っ赤な灼熱状態から、黒光りの艦体へと変化する。
「よおし、逆噴射! 緊急制動開始!」
 対流圏に入り、やっとこ艦体制御が可能になって、全力で姿勢制御を開始する。
 雲海の隙間をくぐり抜けて、海上へと姿を現わすハンブルグ。
「海上に出ました」
「陸地を探せ!」
「了解しました」
 レーダー手のナターリエ・グレルマン少尉が探知機を操作する。
「右舷二時の方角に陸塊の存在を確認しました」
「分かった。面舵六十度転回、陸地に向かえ!」
 しかし損壊した艦体が軋み音を立てる。
「陸まで持ちこたえられません!」
「艦を軽くするんだ! 弾薬を捨てろ! とにかく生命維持に必要な物資以外はすべてだ!」
 弾薬が次々と投下され、海面で爆発を繰り返す。
 廃棄物処理投下口から、雑貨類が投下されてゆく。
 荷物を捨てて軽くなった艦は、一直線に陸地へと向かった。
「海岸線近くの海に着水しつつ、慣性で陸地に着陸する」

 数時間後、海岸線の砂浜に打ち上げられて停船したハンブルグがあった。
 艦橋には、衝撃で倒れている乗員達。
 しばらく身動きしなかったが、一番に気が付いたのがケルヒェンシュタイナーだった。起き上がり、指揮官席に座りなおす。
「無事な者はいるか?」
 辺りを見回しながら尋ねる。
 その声を聞いて、副官のゲーアノート・ノメンゼン中尉が、よろよろと起き上がって、
「わ、私は大丈夫です」
「傷を負っているようだが」
「かすり傷ですよ」
「そうか。艦内の損害を調べてくれ。気密性を最重点にな」
「かしこまりました」
 艦長のランドルフ・ハーゲン上級大尉が各部署に連絡を入れ始める。
「総員に告げる。気密性が確保されるまでは、宇宙服を着用して作業に当たれ!」
 暑苦しいながらも、黙々と作業を続ける乗員達。

 そんな中、レーダー手が声を上げた。
「近づく物体があります」
「なんだと?」
「生命反応です」
「外部モニターに繋げ!」
 モニターには、緑色に染め上げられた動く植物のようなものが多数近づいていた。
「植人種だ!」



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