銀河戦記/拍動編 第一章 V トラピスト連合王国
2022.12.03

第一章


V トラピスト星系連合王国


 地球から、「みずがめ座」の方向およそ四十光年先に、「TRAPPIST-1(トラピスト1)」と呼ばれる恒星がある。
 直径が太陽の約十一パーセント、質量が太陽の約八パーセント、表面温度が摂氏約二千三百度と小さな赤色矮星ではあるが、地球型の七つの岩石惑星が周回している。その公転軌道は、最内側の惑星で約一日半、最外側の惑星でも約十八日である。太陽系の水星軌道の内側に入っていることになる。惑星同士の距離が近いために、互いに重力干渉を受けて、ラプラス軌道共鳴に近い軌道を回っている。
 第四惑星から第六惑星は、惑星表面に液体の水が存在できるハビタブルゾーンに位置しているが、恒星に近すぎるために潮汐ロックを受けて、惑星の半球ずつが常に昼か夜の世界となっていた。
 また潮汐加熱によって、惑星内部に摩擦熱が発生し、地表の至る所で火山噴火を起こし、大気を温めると同時に気体成分を放出していた。水蒸気は冷えて雨となって地表に降り注ぎ海を作った。
 大気は循環して海流と共に、厳寒の夜側へと熱を運んで、気候を温暖化させていった。

 この恒星系にたどり着いた人類は、最も地球環境に近い『トラピスト1e(第四惑星)』を最初の居住惑星とした。
 大気と海洋の存在により、大気循環と海流によって、平衡温度十三度前後と住みやすい環境にあったからだ。
 さらに地球型環境改善化(テラフォーミング)を行って、地球型大気組成となるように開発していった。
 周辺の他の六つの惑星に存在する豊富な鉱物資源を持って、資源大国から工業都市へと発展した。


(提供:NASA/JPL-Caltech)

 トラピスト星系連合王国トリタニア宮殿。
 中央壇上玉座にクリスティーナ女王、それを囲むように重臣と侍女達。
 皆がスクリーンを見つめている。
 映像が変わって、ネルソン提督が現れる。
「……以上が、ビデオコーダーに記録されていたすべてです。この後のアレックス様とエダ、そしてアムレス号については未だ消息不明です」
「そうでしたか……分かりました。ご苦労様でした。よく知らせてくれました」
「また何かありましたら直ちにご報告致します」
「よろしくお願いします」
「かしこまりました。失礼します」
 一人になり、バルコニーに出る女王。
 空には、内合を終えたばかりの巨大な第三惑星が南天に浮かんでいる。
 すぐ近くに見える第三惑星の夜の側には、王国最大の工業都市の夜景が美しく輝いていた。
 突然、警報音が街中に鳴り響いた。
 女官が歩み寄ってきて報告する。
「陛下。トラピストの閃光フレアの兆候が観測されました。安全な場所へお移りください」
「分かりました」
 促されてバルコニーから退避する女王。
 トラピスト1のような赤色矮星は、白色光フレア(可視光を伴う強力なフレア)を頻繁に発生させる。高エネルギー荷電粒子が惑星に襲い掛かり、人々を死に至らしめることもある現象である。地球においても太陽フレアの発生時には、両極地方でオーロラが観測されることでも周知。地球には地磁気があって、これがバリアーとなって荷電粒子を防いでくれている。
 幸いにもフレアは、トラピストの高緯度で発生することが多いので、恒星赤道面上を公転している限り、その影響はかなり減少する。とはいえ、何割かは惑星に向かってくるので、衛星軌道上に磁気シールド衛星を三十六基打ち上げてバリアーを張って防いでいる。
 それでも完全に防ぎきれないので、市民に避難場所に退避するように警報を出しているのである。


 アンツーク星。
 パネルスクリーンに映るクリスティーナ女王に敬礼するネルソン提督。
 通信を終えて、スクリーンが切られる。
 その時だった。
 警報音が鳴り響き、赤色灯が点滅を始めた。
「どうした?」
「これをご覧ください」
 半自動防空管制装置の監視スクリーンに、このアンツーク星に接近する艦影が映し出されていた。
「敵か味方か?」
「拡大投影してみます」
 技術士官が機器を操作する。
 スクリーンに近づきつつあるのはケンタウリ艦隊だった。
「敵艦隊だ。しかし大した数ではない」
「敵はこちらに気づいていないようです」
「オリオン号に知らせて戦闘配備させろ! 但し、気づかれるまでは静観だ。それと走行車などは隠せ!」
「了解しました」
 この場にいる者すべてに緊張が走る。
「ここの施設には警戒迎撃管制装置もあるんだよな。動かせないか?」
「はい。私も、そう思って迎撃の起動装置を探しているのですが……だめです、見つかりません」
「馬鹿な。迎撃管制装置があるのに、迎撃できないってどういうことだ?」
「しかし、どこを探しても見当たりません」
「提督、もしかしたら別の場所にあるのではないでしょうか」
「別の場所だと?」
「そうです。ここには最終判断を下すメインコンピューターがありません。近づいてくる艦がいれば、一応迎撃態勢に入りますが、それが味方か敵か判断して、攻撃するか否かを決断するメインがないのです」
「つまり中枢は他の場所にあって、そこから遠隔操作されているというわけか?」
「可能性はあります。その場所とは」
「まさか、アムレス号のマザーコンピューターか?」
「多分そうだと思います。私の知る限りでは、艦載型のコンピューターでは銀河一優れているということですから」
「アムレス号か……」
「とにかく、ここの武器が使えないとなると、我々で奴らを叩くしかありません」
「よし、直ちにオリオン号に連絡。発見される前に攻撃する。総員艦に戻れ!」


 オリオン号ブリッジ。
「全艦、戦闘配備完了しました」
「敵艦の位置は?」
「それが……。位置関係が悪くて、こちらのレーダーに反応なく、位置の確認が取れません」
「何だと!」
「只今、先ほどの場所の管制システムに連結させて、データを送ってもらっている所です。まもなくパネルスクリーンにデータが映されます」
 スクリーンに敵艦隊の位置情報が次々と送られてくる。
「敵艦隊の情報入力完了。丁度この星の反対側です」
「反対側か、どうりで気づかないわけだ。艦の修理はどこまで進んだか?」
「一戦やるくらいなら大丈夫ですよ」
「なら、やるぞ! 発進だ!」
 静かにアンツーク星を離陸してゆくオリオン号。


 帝国軍艦隊旗艦の艦橋。
「まもなくアンツーク星です」
「うむ。謎の電波を受信したというのはここか?」
「はい。間違いありません」
「こんな辺鄙な星に何があるというのか……」
 司令、アンツーク星を見つめている。
 スクリーン上の惑星の縁がキラリと輝く。
「今のは何だ!」
 司令、目を凝らしてスクリーンを凝視する。
 やがてオリオン号が出現する。
「あれは! オリオン号です」
「こんな所に隠れていたのか! 全艦戦闘配備!」
「ミサイル接近中!」
「機関全速。取り舵一杯! デコイ発射!」
「駄目です。間に合いません、命中します」
 吹き飛ぶ乗員達。
 ブリッジ内爆破し続ける。

 奇襲を掛けられて右往左往する敵艦隊。
 ミサイルによって撃沈する艦、異常接近し互いに衝突して大破する艦。
 まったく統制の取れていない艦隊の末期だった。

 オリオン号艦橋。
「敵艦隊全滅しました」
 飛び上がって喜ぶ乗員達。
「やったあ! 勝ったぞ」

「それにしても、あの設備を放っておくてはないと思うのですが……」
「いや、女王様のご命令だ。トリタニア王家の人物だ、そっと静かに眠らせておいてやろうじゃないか」
「それもそうですね」
「念のためだ。あの洞窟の入り口を封印しておこう。魚雷一号発射準備だ!」
「了解! 魚雷一号発射準備!」
 オリオン号の魚雷発射管が開いてゆく。
「発射!」
 魚雷が発射されて、洞窟上部の岩盤に命中して、山が崩れて洞窟入り口を塞いだ。
「これでいい」
「提督。艦の修理が終わりました。巡航速度出せます」
「よし、発進準備に入れ!」
「了解!」

 オリオン号艦橋。
 スクリーンに映るアンツーク星が次第に遠くなってゆく。
 ネルソン提督見つめながら、敬礼を施す。
「安らかに眠りたまえ」
「アンツーク星の重力圏より離脱します」
「只今より五分後にワープに入ります」
 加速してゆくオリオン号。
 やがてワープして消える。


 洞窟内、プライベートルーム。
 カプセルの中で静かに眠る二人。
 自動消灯装置が働いたのか、ルームの照明が静かに暗くなってゆく。



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銀河戦記/拍動編 第一章 Ⅳ フレデリック第三王子
2022.11.26

第一章


Ⅳ フレデリック第三王子


 地球人類が太陽系を脱出した数百年の間に、生息域を広げていった結果、銀河系渦状腕の中のオリオン腕と呼ばれる領域にほぼ行き渡った。
 宇宙航行術や航続距離などの問題で、星のない渦状腕間隙を越えて渡ることが出来なかったからである。研究者たちは、すぐ隣にあるペルセウス腕に渡るための宇宙航行術の開発競争に明け暮れていた。


 その中にあって、三つの国家勢力が栄えていた。
 母なる地球のある太陽系連合王国、六光年離れたプロキシマ・ケンタウリ星系にあるケンタウリ帝国、四十光年離れたTRAPPISTー1星系にあるトラピスト星系連合王国である。
 ケンタウリ帝国皇帝アウゼノンは、覇権を求めて周辺国家への侵略を開始した。
 隣国のバーナード星系連邦を勢力下に置いたのを皮切りに、ティーガーデン惑星国家(12光年~太陽)、ウォルフ惑星国家(14光年)、グリーゼ諸国連邦(22光年)、そして太陽系連合王国も支配下に置いた。
 次なる目標は、トラピスト星系連合王国だったが、四十光年という遠距離にあり、補給の問題から攻略に苦慮していた。
 そんな中トラピスト女王クリスティーナの命を受けたネルソン提督率いる解放軍が、ケンタウリ勢力下の各地に出没して抵抗を続けていた。ちなみに帝国では反乱軍と称している。

 クリスティーナ女王の第三王子フレデリックも解放軍に参加して奮戦していた。
 広大な宇宙をアムレス号が進んで行く。
 艦体外壁に大きな損傷があり、航行というよりも漂流に近かった。
 艦橋内は整然としており、損傷は内部までには至らなかったようだ。
「まもなくアンツーク星に着きます」
 エダが報告する。
「そうか……。何とかたどり着けたな」
 パネルスクリーンに投影されたアンツーク星を見つめるフレデリック。
「着陸態勢に入ります」
「よし」
 アンツーク星に着陸しようとするアムレス号。
 岩山に近づくと岩盤の一部が割れて、船は地下基地へと進入する。

 基地内にある子供部屋。
 ゆりかごに赤子が眠っており、それを揺すっている母親のリサがいる。
 その表情は優しく赤子の顔をじっと見つめている。
 そこへロボットが入ってくる。
「フレデリックサマガ、オ戻リニナリマシタ」
 合成音声でフレデリックの帰還を告げた。
「本当に?」
「ハイ」
 リサは立ち上がって、
「ロビー。アレックスを見ててね」
 ロビーに子守を任せて、出迎えに走った。

 基地内ドックにアムレス号が着艦しており、乗降口からフレデリックとエダが降りてくる。
「エダ。早速だが、船の修理を頼む」
「ええっ! 今すぐですか? 帰ったばかりですよ」
「つべこべ言わずに、言われた通りにしてくれ」
「分かりました」
 後ろ向きになり立ち去りながら呟く。
「まったく人使いが荒いんだから……」
「今、何か言ったか?」
 フレデリックに聞き咎められてしまう。
「いえ、何も!」
 スタスタと元来た道を戻ってゆくエダ。
 正面の扉が開いて、リサが現れる。
「あなた!」
 二人駆け寄って抱き合う。
「あなた、会いたかった」
「寂しかったかい?」
「ええ……」
 見つめ合い、二人ともしばらく動かない。


 情報センター。。
 立ち並ぶ計器類、明滅するランプ。
 宇宙の各地区に仕掛けてある隠しTVからの映像と音声が流れている。
「バルカン星区はどうか?」
 フレデリックが尋ねる。
「そこも駄目です。解放軍はほぼ壊滅です」
「グリード星系パストラール、ヨリ入電デス」
 ロビーが伝える。
「ビデオパネルに出してくれ」
「リョウカイシマシタ」
 地球より22光年離れたグリーゼ667C星系にある惑星国家パストラールは、今まさに帝国軍との最前線に位置していた。
「おお! フレッド無事だったか」
 相手は、パストラール大統領ベルフォールだった。
「久しぶりだな、ベルフォール。どうだ、そちらの戦況は?」
「思わしくない。ここはオリオン腕の中心に位置していて解放軍の最大拠点だ。帝国も全勢力を上げて大艦隊を送り込んでいる。。パストラールの全機能を振り絞り、かつまたトリタニアからの多大なる援助を受けて、何とか死守してはいるが、いつまで持つかは時間の問題だ」
「そうか……。トリタニアにとっては最後の砦だ。頑張って欲しい」
「それは分かっている。ところで、クリスティーナ女王様から、君について尋ねられるが、どうお答えしたらいいかな?」
「済まない。母上には、まだ秘密にしておきたいのだ。とにかく君の方も大変だろうが、私も私なりにやっているつもりだ」
「分かった。女王様には適当に答えておこう」
「済まない」
「時間が来たようだ。これから私も戦列に加わって指揮を執らなければなれない。そういうわけで、君ともっと話していたいがそうもいかない。では、君も頑張ってくれたまえ。私は行く、宇宙のどこかでまた会おう」
「ああ、宇宙のどこかでな」
 パネルの映像が消える。
 ため息をつくフレデリック。
 その次の瞬間、胸を押さえて倒れる。
「フレデリック様!」
 エダが駆け寄る。


 プライベートルーム。
 椅子の背もたれに身体を預けて、苦しそうに目を閉じているフレデリック。
 その側で看病しているエダ。
「エダ……」
「はい」
「いいか。私の病気のことは、リサには内緒にしておいてくれ」
「分かっております……」
 エダ、暗く押し黙っている。
「どうしたエダ? いつもの君らしくないぞ」
「私は……私の力のなさが憎い……」
「何を言う……」
「私は、フレデリック様がお生まれになられた時から、ずっとお傍にお仕えしておりました。お守り役から始まって遊びのお相手をしたり、本を読んで差し上げたり、さらには勉強のお手伝いをしました。最後には、ロケット工学・コンピュータ工学の手ほどきを、私の持てるすべての知識を、フレデリック様にお教え致しました」
「そういえばそうだったな……その事に関しては、私も深く感謝している今日の私がいるのは、すべて君のおかげだ」
 エダ、瞳を潤ませている。
「エダ、泣いているのか? 涙が……」
「え? 涙……?」
「そうだ、涙だ。涙を流さないはずの君が涙を流している」
「フレデリック様のご病気のことを思うと……。自分がもっとお身体に注意していればこんなことにならなかったのに……。そして、どうすることも出来ない自分の無能さが歯がゆくて……拭っても拭っても涙が……」
 フレデリック、エダの両肩に手を置いて、
「もう何も言うこともない。ありがとう、エダ」
「フレデリック様……」
 エダ、フレデリックの胸の中で泣く。

 アレックスの眠る揺り篭を囲んで話し合うフレデリックとリサ。
「よく眠っているわ」
「ああ……。世の中では醜い戦いが起こっている事などまるで知らない。幸せな眠りだ」
「戦争が終わり、本当の幸せが来るのはいるかしら……。私たちが死んで、この子だけが生き残ったら、一体誰がこの子の世話をしてくれるというの?」
「何を言うんだ、リサ!」
「あなたこそ、私に隠していらっしゃる事があるのではなくて……?」
「リサ!」
 見つめ合ったまま黙り込んでしまう二人。
 時間だけが静かに過ぎてゆく。

「気づいていたのか……」
「ええ……。あなたの妻ですもの。あなたが無理して不通を装っていることぐらい、私には分かります」
「そうか……」
「それで、どうなんですの?」
「宇宙線病だ。正直言って手の施しようもなく、そう長くはないらしい」

 医療センター。
 ベッドに横たわるフレデリックと、すぐ傍で看病を続けるリサ。
 その脇では、エダがアレックスを抱いている。
 エダの顔に悪戯するアレックス。
「リサ……」
「ここにいるわ。あなた、しっかりして」
「アレックスをここに……」
 エダ、黙ってアレックスをフレデリックの顔の前に差し出す。
 アレックス、一瞬ポカンとしていたが、やがてフレデリックに向かって、
「パーパ、パーパ」
 と、その小さな手で顔を撫でまわす。
「アレックス……リサやエダの言うことを聞くのだよ……」
 アレックス、首を傾げる。
「リサ、アレックスを頼む」
 エダに向き直って、
「後のことはすべて君に任せる。私の指示した通りにうまくやってくれ」
 エダ頷いて、アレックスを再び抱え上げる。
「リサ、愛しているよ」
「あなた……」
「リサ……そして私の……」
 静かに目を閉じるアルフレッド。
「あなた!」
 リサ、アルフレッドに覆いかぶさって泣き崩れる。
 アレックス、その姿を見てポカンとした表情をしている。

 椅子に腰かけて放心状態にあるリサ。
 目の前には、アルフレッドの遺体が収容された冷凍カプセルがあり、その下側の周りでアレックスが遊んでいる。
「マーマ、マーマ」
 アレックスが這ってリサの足元からスカートの裾を引っ張る。
「アレックス……。パパがいなくなって、ママはどうしたらいいの?」
 抱き上げるリサの頬に涙が流れる。
「アレックス……」

 扉が開いて、ロビーがワゴンを押しながら入ってくる。
「オ食事ヲオ持チシマシタ」
「食べたくありません」
「デモ、モウ一週間モ召シアガッテイラッシャイマセン。オ身体モ弱ッテイラッシャイマス」
「食べたくないものは、どうしようもないのです。下がっていなさい」
「シカシ」
「これは命令です!」
「ハイ、カシコマリマシタ」
 ロビー、ワゴンを押して退室する。

「どうでしたか?」
「ダメデス。王女サマハ、生キル気力ヲナクサレテイマス」
「そう……お可哀そうに……」

 ベッドにリサが弱々しく横になっている。
 目は虚ろで視点が定まっていない。
「エダ……」
「はい」
「アレックスをお願いします」
「分かりました」
「ありがとう、エダ……」
 そう言うと、静かに目を閉じた。



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銀河戦記/拍動編 第一章 Ⅲ アンツーク星
2022.11.19

第一章


Ⅲ アンツーク星


 帝国も知らない未踏地の小惑星帯にあるアンツーク星の地表、ゴツゴツとした岩場に宇宙戦艦オリオン号と工作艦を含む随伴艦が着陸している。
 クレーン車や走行車が動き回って、艦の修理が行われている。
 オリオン号艦橋。
 技術長に向かって怒鳴っているネルソン提督。
「艦の修理はいつ終わるのだ。予定より随分遅れておるじゃないか?」
「はい。動力炉外壁に必要なテラサイトの採集が思うように進んでおりません。この星の全体におけるテラサイトの含有量が低いからです」
「代用品も見つからないのか?」
「はっ。只今、艦長以下、私の部下が調査している所であります」
「我々が、この星で足踏みしている間にも、本国は敵からの攻撃を受けているのだ。一刻も早く戦線に復帰しなければならない」


 艦長アンドレ以下、調査員の乗った走行車が渓谷を走り回っている。
 修理に必要な鉱石を探しているのだ。
「どうだ、まだ見つからないか?」
 隣の隊員に尋ねるアンドレ。
 計器を操作しながら答える隊員。
「はい。今だ反応がありません」
「そうか……」
 その時、計器が反応音を立てはじめた。
「艦長。反応がありました」
「よし。止めろ!」
 運転手に停止を命じるアンドレ。
「了解」
 走行車が岩山の側で止まっており、調査機器を持った一団が動いている。
「どうだ?」
 アンドレが調査員に尋ねる。
「上々です。質・量とも十分にあるようです」
「よし、早速提督に報告して、採掘機械を回してもらおう」
 通信士、機器を操作して本艦と連絡を入れた。
「それにしても、美しい花の一つなく、動物一匹いない死の星だなあ」
 といいながら辺りを見回している。
「当たり前ですよ。大気がありませんからね。夜ともなれば放射冷却で氷点下マイナス百度まで下がりますから」
「まあ、そうなのだがな」
 と、何かに気が付いた。
「ん? 何だあれは?」
 岩山の中ほどに何か光る物がある。
「どうやら金属物質が光っているようです」
 金属探知機を操作していた乗員が応えた。
「行ってみよう」


 岩伝いに一行が進んでいる。
「確かこの辺りっだったが……」
「あ、あそこにありました」
 指さすところに金属プレートがはまっていた。
「何でしょうね。こんな処に……何かの目印なのでしょうか?」
 と、隊員がプレートに触れた時だった。
 突然、岩盤が音を立てて崩れだしたのだ。
「危ない! 退避しろ!」
 あわててその場を下がる一行だった。
 安全地帯から岩山を確認してみると、中腹に大きな穴が開いていた。
「洞窟か?」
 完全に開ききった洞窟は静まり返っている。
「調べてみよう」
 足元に注意しながら、岩山を登り洞窟へとたどり着く。
「この洞窟は自然にできたものでしょうか?」
「分からんな。ともかく調べてみよう」
 懐中電灯で照らしながら洞窟内を慎重に進む一行。
「この堀具合だと人工的に開けられたようですね」
 やがて頑丈な扉に出くわした。
「扉か……?」
「この扉の内側に何があるのでしょうか?」
「さあな……」
 扉の周辺に開ける何かの手がかりがないかと調べ回る一行。
「艦長! ここを見てください!!」
 隊員の一人が気が付いて指さしている。
 そこには懐中電灯の光を反射して輝く紋章が描かれていた。
「この紋章は……!」


 オリオン号艦橋。
「調査隊より入電!」
「繋いでくれ」
 通信士が調査隊からの通信映像を、ビデオパネルに反映させた。
 隊長が映し出されている。
「どうした。テラサイト鉱石は見つかったか?」
「はい、、発見しました。質・量とも十分です。場所は北緯45度、東経125度のいちにあります」
「よし、ご苦労だった。ただちに採掘車を向かわせる」
「提督。さらに我々は大変なものを発見しました」
「何だ?」
「それは提督ご自身の目でお確かめ下さる方がよろしいかと思います。是非こちらへいらっしゃってください」
「意味深だな。分かった、すぐ行く」


 採掘隊がテラサイト鉱石を採集して、オリオン号の方へと次々に運んでゆく。
 その傍らの洞窟の前には歩哨が二名立って警戒している。
 ネルソン提督一行が洞窟内を進んでいる。
「こちらです」
 アンドレ艦長が案内している。
 やがて一行の目前に例の扉の前に出る。
「何でこんな洞窟に扉があるのだ?」
「不思議でしょう? 中に入ったらもっと驚きますよ」
 艦長が扉の脇にある仕掛けを作動させると、鈍い音とともに扉がゆっくりと開いた。
 あちらこちらで明滅する光が無数にあった。
「これは?」
「提督、よく見てください」
 ネルソンが目を見開いて見つめた先には、
「これはコンピューターか?」
「そうです。壁面のすべてがコンピューターです。こちらのディスプレイを見てください」
 艦長が機器を操作すると、ディスプレイにはオリオン号がこの惑星に接近するところから、着陸し修理を開始する様子が鮮明に映し出されていた。
「これは一体なんだ?」
「半自動防空管制装置のようです。あちらの方には、警戒迎撃管制装置もあるみたいです。どうやら岩山にミサイル発射管も巧妙に隠されているみたいです。もしオリオン号が敵だと判断されていたら、撃墜されていたことでしょう」
「つまり我々は、一部始終を監視されていたのか?」
「しかし我々は迎撃されることなく、ここに招き入れられている。少なくとも敵とはみられていないようだな」

「提督こちらへ来てください」
 アンドレが手招きする。
 先に立って歩き、隣室への扉を開けて入っていく。
 ネルソン、彼に続いてゆく。

 うって変わって落ち着いたムードのある部屋にたどり着いた。
 壁に額があり、赤子を抱えた夫婦の写真が収まっている。
「プライベートルームのようだな」
「そうですね。あの額の人物が暮らしていたのでしょう」
「あの機械を作り上げたのも、この人たちでしょうか?」
「それにしても、人っ子一人いないのはどうしてだろうか」
「隣にもまだ部屋があるようです。行ってみましょう」
 一行再び歩き出す。
 アンドレが扉の前の計器を操作して扉を開ける。

 そこにも計器類が並んでいる部屋だった。
 部屋の中央に横長のカプセルが二つ並んでおり、中に男女が横たわっている。
 覗き込んでみると、隣室の額縁の夫婦だった。
「これは?」
「死んでいるのでしょうか?」
「まるで眠っているかのような死に顔だった」


 トラピスト星系連合王国首都星トランター、トリタニア宮殿。
「女王様、ネルソン提督より入電しました」
「ビデオスクリーンに映してください」
「かしこまりました」
 スクリーンに、ネルソン提督が映し出される。
「どうなさったのですか?」
『フレデリック様が見つかりました』
 驚いて身を乗り出す女王。
「それは本当ですか?」
『はい。しかし残念ながら、すでにお亡くなりになっておいででした』
「ええっ! フレデリックが?」
 女王崩れるように、玉座に深々と座りなおした。
 慌てて駈け寄る侍女たち。
 介抱を受けて、やがて気を取り直して聞き直す。
「そう……。フレデリックは亡くなっていたのね……」
『ここにフレデリック様が記録されたビデオコーダーがありますのでご覧ください』



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