銀河戦記/拍動編 第四章 Ⅰ 新たなる航海
2023.02.11

第四章


Ⅰ 新たなる航海


 ロビーに案内された部屋で、ベッドに寝そべり話し合っている人々。
「少尉殿。これから俺達どうなるんでしょうねかね」
「どうかな。少なくとも命だけは保障されているようだがな」
「あの女性、一体何者でしょうねえ。この船にしたって、誰が何の目的のために建造されたのか。全く分からない事だらけだ」
「ま、その内に明らかになるさ。彼女もいずれ説明すると言っていたしな。とにかく考えてみたってしようがない。寝ようぜ、明日のためにな」

 コントロールルーム。
 指揮官席に鎮座するアレックスとその傍に立つエダとイレーヌがいる。
 最初、指揮官席に座ることを躊躇したアレックスだったが、
「この船はあなた様の船ですから」
 エダに優しく諭された。
 船のことは何も知らないので、当面の間は参謀役としてエダが務めることとなった。
「艦の損傷のチェックは終わって?」
 エダが確認する。
『終了シマシタ。全ブロック、大シタ損傷ハアリマセン。機器ニモ異常見アタラズ。航行ニ支障ハアリマセン』
「敵の動静はいかが?」
『追撃シテクル気配ハアリマセン』
「よろしい。警戒態勢はそのままに、目的地へ直行します」
『了解。コース設定シマス』
「エダ……って言いましたっけ。これからどこへ行こうというのですか?」
 イレーヌが尋ねる。
「補給基地です」
「補給基地?」
「そうです。この船には十分な水や食糧がありません。それに先の戦闘で失った艦載機の補充も必要です」
「その基地はどこに?」
「そう遠くはない所……とでも言っておきましょう。ロビー、ワープ準備して」
『ワープ準備ニ入リマス』
 アムレス号、一気に加速して、ワープして消えた。

 アムレス号船橋内。
 モニターと手元の操作盤と睨めっこするアレックス。
 アムレス号の運用を任されたことで、船の詳細を知るべくマニュアルを読んでいたのである。
「どれくらい頭に入りましたか?」
 エダが尋ねる。
「どうだろうな。詰め込み教育は大したことにはならないからな」
 正直に答えるアレックス。
「でしょうね。どこまで理解できたか、戦術シミュレーションで試してみますか?」
「戦術シミュレーション? いいだろ、やってみよう」
「それでは、こちらへどうぞ」
 別室にあるシュミレーターに案内されるアレックス。
「これがシュミレーターか?」
「はい。起動するといろいろな戦闘場面の作戦が与えられます。最適と思われる指示を音声入力で行ってください」
「音声入力なのか?」
「はい。その指示に従って、コンピュータがシミュレーションを行い、戦術効果を算出して勝ち負けを判定します」
「分かった。ともかく一度、やってみよう」
「それでは、起動します」

 起動すると同時にモニターに漆黒の宇宙が広がり、前方に一隻の戦艦が現れた。
「戦力分析!」
『敵艦ノ主砲ハ重イオンビーム砲三門、ミサイル発射管六門、機関砲多数』
 重イオンや陽電子のような荷電粒子を使用するビーム砲は、恒星近くなどの磁場や恒星風(荷電粒子)がある所では曲げられたり弱められたりするので、使用制限がある。
 それに対してアムレス号の主砲は、陽子と電子を二基の粒子加速器でそれぞれ亜光速に加速して発射直前にミックスして、中性な原子として利用する【中性粒子ビーム砲】が搭載されている。また粒子加速器を一基だけ使って荷電粒子砲としても利用できる。
『艦ノ速力二十八宇宙ノット、デ接近中デス』
「戦闘体勢!」
『敵艦、火器管制レーダー照射確認! ロック、サレマシタ』
「先手を取られたか。ビームバリアーを前方に展開せよ」
『敵艦撃ッテキマシタ』
「次弾を撃つまでの時間を計測!」
 敵艦のビームエネルギーがバリアーに妨げられて閃光を生じるも、アムレス号には損傷はなかった。
 さらに攻撃は続く。
『敵艦ノ砲撃間隔ハ0.5秒』
 やがて十発ほど撃ったところで沈黙した。
「燃料チャージ時間に入ったようだな。ミサイルを警戒しつつ、こちらから反撃するぞ。」
『敵艦カラ、ミサイル発射サレマシタ』
「フレア発射! 右へ十五度旋回しつつ、こちらもミサイル発射準備!」

 このようにして、戦闘指揮能力の向上のためにシミュレーションを続けるアレックスだった。


 プライベートルーム。
 六人部屋の各ベッドで眠っている一同。
 その中で一人、天井を見つめながら静かに思考するビューロン少尉。
 おそらく今後のことを思慮しているのだろう。


 インゲル星軍港。
 空港に係留されているノーザンプトン号。
 貴賓室で、窓の外を眺めながら朝の紅茶を飲んでいるセルジオ。
 その側にはガードナー少佐が控えている。
 下士官が入ってくる。
「コミッショナー。陛下がお会いしたいと訪ねてきています」
「そろそろ来るだろうと思ったよ」
「私は、耳に栓をしておきましょう」
「ま、その方が賢明だな」
 下士官に入れろという手ぶりを見せる。
 下士官退場し、替わりにクロード王が入ってくる。
 セルジオ背を向けたまま椅子に座り、紅茶を啜り続けている。
「閣下……」
 セルジオ返答をしない。
「閣下! 聞いていますか?」
「聞いているよ。何の用かね、クロード殿」
「例の宇宙船が……。私の娘を捕えられている宇宙船が現れたというのに、なぜ地上基地のミサイルで援護してくれなかったのですか? それよりもビーグル号が脱出するのを、捨て置けと仰られたとのことですが、どういうことなのですか? 納得のいくお答えのない限り、ここから一歩も動きませんぞ」
「だから……なに?」
「は……?」
「そんなだから、ゴーランド艦隊に地球を乗っ取られるのだよ、クロード王。ただ闇雲に動き回るだけが能ではない。黙って見ているだけでも、敵を落とすことも、意のままに操ることもできる。ようなここだよ、分かるか?」
 と自分の頭のこめかみ辺りを、指先でツンツンと小突いている。
 クロード王、返す言葉もなく押し黙っている。


 トラピスト星系連合王国首都星トリスタニアに近づくオリオン号。
 艦橋でスクリーンに映る、青く美しい惑星に魅入っているネルソン提督。
「実に三年と六か月ぶりだな。アンドレ艦長」
「その通りですね。まもなく大気圏突入態勢に入ります」
「コース、オールグリーンです」
「よし、着陸だ」

 トリスタニア宇宙空港に次々と着陸する艦隊、そしてオリオン号。
 周辺を群衆が取り囲んで歓声を上げている。
 その様子を、宮殿の窓辺から眺めているクリスティーナ女王。
「ネルソン提督をこちらへ呼んで下さい」
 侍女に命令する。
「かしこまりました」
 うやうやしく頭を下げて退室する侍女。

「着陸完了。艦体に異常ありません」
「全艦、着陸完了しました」
「うむ、ご苦労だったな。整備班を呼び寄せて、艦の修理を急がせてくれ。それと将兵に半舷上陸を与えてくれ」
「かしこまりました」
「提督、女王様より、宮殿への招聘が届いています」
「分かった。すぐ行くと伝えてくれ」
「了解」

 トリスタニア宮殿廊下を、近衛兵に従いながら歩いてゆくネルソン提督。
「第七艦隊、ネルソン提督到着!」
 重い扉が開けられて、ネルソン入廷する。
「ネルソン入ります」
 クリスティーナ女王立ち上がって歓待する。
「おお、ネルソン。よくぞ参った」
「只今戻りました。女王様」
 敬礼して挨拶するネルソン。

 オリオン号艦内では、あちらこちらで修理が行われていた。
 アンドレ艦長が、技術長と共に見回りしながら、技術者達に指示を与えている。
「ここが、最も酷くやられています。完全修復には七か月は掛かるでしょう」
 と技術長が報告する。
「七か月だって! もう少し早く三か月でできないか?」
「無理ですよ。この数字だってギリギリの線なんです」
「そ、そうか……。とにかく、できる限り早く修理を急がせてくれ。今は一日でも遅れただけ、戦況は不利になってゆくのだからな」
「分かっております。それよりも艦長。あなた自身こそ休息してはいかがですか。副長もいることですし、少しは身体を休ませなくてはな」
 艦内放送が呼び出ししている。
『艦長、いらっしゃいますか!」
 身近のインターフォンに出る艦長。
「艦長だ。何の用か?」
「艦長に面会したいとご婦人が見えております」
「面会? それも女だと!」
「はい。第四桟橋で待っておられます」
 考え込んでいる艦長。
「どうしたんです、半舷上陸の許可が出ているのです。会いに行かないのですか?」
 技術長が尋ねる。
「え……。あ、ああ」
 そこへ副長のドイルがやってくる。
「アンドレ。交代の時間だぞ。引継ぎを」
「そうか、分かった」
「ところで、エミリアが来ているぞ」
「やはりか……」
「ああ、ここは俺に任せて早く行ってやれよ」
「しかし……」
「いいから行け!」
 アンドレの尻を蹴飛ばす振りをして促すドイル。
「分かったよ。行けばいいんだろが」


 第四桟橋で手すりに片手を掛け、オリオン号を見つめる美女。
 髪をたなびかせ、その表情には虚ろな陰りを秘めている。
 オリオン号より、後ろをチラチラと振り返りながら出てくるアンドレ。
「アンドレ!」
 エミリア、手を小さく振りながら駆け寄ってくる。
「エミリア……」
「お帰りなさい、アンドレ」
「ああ。心配かけさせたね」
「とっても心配してたのよ。帰っていたのなら、どうして連絡して下さらないの?」
「それは……」



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