銀河戦記/拍動編 第三章 Ⅲ 救援
2023.01.28

第三章


Ⅲ 救援


 宇宙空間。
 態勢を整えて、砲門を未確認戦に向ける地球艦隊各艦。
 対するアムレス号からは無人戦闘機群が発艦している。

 アムレス号船橋。
 スクリーンを前に腕を組むエダ。
 その後方で心配そうな表情のイレーヌ。
「敵ガ応戦シテキマシタ。エネルギービーム接近!」
 たちまち集中砲火を浴びるアムレス号。
 船橋内はビームの閃光で眩いばかりになっていた。
 しかし、船内の機器は正常に作動しており、損傷はないようだった。
「ビームバリアー、正常ニ動作中! 船ニ損傷ハ、アリマセン」
「攻撃続行します。但し、国王の乗られているノーザンプトンは外して」
 イレーヌの父親であるクロード王を死なせるわけにはいかない。
 敵ではあっても、将来において和平交渉となったときに、生きていてくれなければならない。
「了解シマシタ。ノーザンプトン、ハ外シマス」
 引き続き攻撃を続けるアムレス号。


 ノーザンプトン艦橋。
「ビ、ビーム砲がまるで歯が立たない」
「バリヤーか!」
「そのようです」
「ミサイルに切り替えて攻撃しろ!」
「バリヤーを張れるとは、よほど高性能のエンジンを搭載しているようです」
 スクリーンに映る戦艦の一つが、艦載機によって撃沈された。
 次々と沈められてゆく味方艦隊。
「戦艦ミディアムがやられました」
「続いて巡洋艦アマンダ」
「現在の味方の戦況は?」
「はっ。現在味方の五分の一が撃沈もしくは大破。残りもかなりの損傷を受けています」
「馬鹿な。たった一隻の敵艦に我が艦隊が手も足も出ないというのか?」


 ビーグル号艦橋。
 アムレス号が、太陽系連合王国艦隊に対して優勢に戦っているのを、驚愕の視線でモニターを見つめている囚人達。
「たった一隻で、あれだけの艦隊と互角に戦えるとは」
「互角どころか、かなり優勢に戦っていますね。あ、またやられた」
「あれは、巡洋艦アトランタだったな」
 ビューロン少尉が呟く。
「地球艦隊はすでに戦力の五分の一を失ったもよう」
「先が見えてきたな」
「どこの所属の船なんでしょうねえ」
「分からんな。ただ言えることは、我々の敵ではないということだ」
「ケンタウリ帝国でも太陽系連合王国でもなさそうです。となると……トラピスト星系連合王国ですかね」
 奮戦する宇宙船を見つめるアレックスに視線が集まる。


 ノーザンプトン艦橋。
「我が方の損害は?」
「はっ。戦力の四分の一を失いました」
「そうか。たった一隻の船に、歯が立たないというのか……」
「こちらにも艦載機があれば十分戦えるのですが」
「うむ。第七艦隊のエンタープライズは、今オルファガ宙域でトラピスト軍と戦っておるしな。空母はすべて戦線に出ておる」
「駆逐艦フレッチャーが撃沈されました」
「陛下、このままでは全滅してしまいます」
「うーむ。あと一息でビーグルをやれたというのに……」
「陛下……」
「分かっておる。撤退すればいいのだろう。インゲル星に降下しろ。そこまでは追ってはこないだろう」
「了解。全艦、百八十度回頭! インゲル星へ降下せよ」
 全艦インゲル星へと降下してゆく。
「イレーヌ……」
 アムレス号に捕らわれている王女を気遣う国王だった。


 ビーグル号艦橋。
「見ろ! 地球艦隊が退却を始めたぞ」
「ざまあみろ!」
「俺たちは助かったんだ!」
 口々に喜びの声を上げている。
「果たして助かったと言えるかどうか……」
 アレックスが呟く。
「そのだ。この船は、もはやポンコツ同然だし、修理しようにも技師がいない。あの宇宙船だって地球艦隊から救ってくれはしたが、真に味方とは言えないしな」
「一体どこの国の宇宙船でしょうか?」
「分からんな。ただ言えるのは、我々の敵ではなさそうだということだけだ。アレックス殿はご存じないですか?」
「いえ……」
「宇宙船が、こちらへ向かってきます」
「我々をどうしようというのか……」
 一同疑心暗鬼になっていた。


 ビーグル号に接近する宇宙船アムレス号。
 すぐそばに迫ったアムレス号の雄姿に唖然としている一同。
「すげえ!」
「これほどの宇宙船は、ゴーランド艦隊にだって見当たらないぜ」
「宇宙船より入電です」
「映像回線に映せ!」
 ビューロン少尉が指示すると、スクリーンにエダが映し出される。
 一同が注目する。
「あなたは?」
 ビューロン少尉が尋ねる。
「話はこちらに来てからにしましょう。これより救助艇をそちらに向かわします。ドッキングロックから脱出して下さい」
「分かりました。感謝します」
 もはや航行不能に近いビーグル号にいつまでも乗船しているわけにもいかない。ここは好意に甘えて移乗するしかない。
 不審船であることには変わりがないが、ここにいても埒があかない。
「総員。速やかに脱出の用意をしろ。負傷者から先だ! 急げよ、いつ敵が体勢を整えて攻撃を仕掛けてくるやも知れんからな」
 ただ一人、スクリーンを見つめるアレックス。
 エダの背後に見知った人物を確認した。
「イレーヌじゃないか……」

 イレーヌの方もアレックスに気が付いて、スクリーンに近寄る。
 手を胸に当てて、アレックスを見つめている。
「アレックス……生きていたのね……」
 涙を流すその肩に手を置いて、エダが宥める。
「さあ、迎えに行きましょう」



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