銀河戦記/拍動編 第五章 Ⅳ 亜空間戦闘
2023.04.08

第五章


Ⅳ 亜空間戦闘


 トラピスト連合王国首都星トリスタニアに近づくゴーランド艦隊。
 決戦で敗れた連合王国には、もはや守備艦隊はいない。

 衛星軌道からゆっくりと地上へ降下してくる揚陸艦隊。
 住民たちは、次々と降下してくる艦隊に、恐れおののき逃げまどいパニック状態になっている。

 宮殿内、女王の間の脇のバルコニーに佇み、制空権を奪われた空を見つめるクリスティーナ女王。
 女王を囲み、不安そうな侍女たち。
「女王様、私たちは、これからどうなるのでしょうか?」
「分かりません……。ともかくいずれここへもやってきます。謁見の間で応対しましょう」
 侍女を引き連れて、謁見の間へと移動する女王。
「城内のものには、一切抵抗しないように伝えてください」

 城内を我が物顔で闊歩する兵士達。
 その中心にセルジオ弁務コミッショナーがゆったりと歩いていく。
 長年の念願であったトラピストを陥落させたことで、意気揚々と闊歩している。
 城内の人々は通路の脇に避けて、彼らの通行を邪魔しないようにしている。
 やがて近衛兵が荘厳な扉の前を警護している場所に出ると、そこは女王の鎮座する謁見の間である。
 セルジオ達が近寄ると、近衛兵は軽く会釈をして、扉を静かに開いた。
 扉から玉座に向かう足元には深紅のカーテンが敷かれている。
 その上を歩いて、女王の前に歩いていくセルジオ。
 玉座の前で、一旦立ち止まり傅いて、
「女王様。この国は我々ケンタウリ帝国の支配下に置きました。弁務コミッショナーとして、直接の治世は自分が治めますが、国民の象徴君主として女王様には今まで通りこの宮殿の主と致します。ご異存ありませぬか?」
 やんわりと支配権の移譲を促すセルジオだった。
「致たし方ありませんね。私はどう扱われようとも構いませんか、国民の安寧を約束して頂きたいのです」
「それは重々承知しております。但し、レジスタンス活動などしなければですが」
「分かります。国民には、重々抵抗しないように、最後の王室放送で布告いたしましょう」
「そうして頂けると助かります」
 立ち上がると、
「では、失礼させていただきます」
 踵を返して、兵士達を引き連れて元来た通路を戻っていく。
 姿が見えなくなって安堵し、女王のそばに集まる臣下達だった。
「陛下の御身を保障すると言っておられたが、本気でしょうかねえ」
「太陽系連合王国では、国王の地位は保障されておりますから、確かでしょう」
「グリーゼラン公国では抵抗運動が激しくて、見せしめに公王が公開処刑されたと聞きます」
*グリーゼ180bを首都とする惑星国家。地球からエリダヌス座の方向に39光年先にある。
 抵抗さえしなければ、王室は安泰なのだという雰囲気が臣下に流れていた。
「しかし、いくら占領した側とはいえ、女王の許可なく謁見の間に土足で入ってくるなんて……」
 興奮を抑えきれないような口調で語り掛ける臣下だった。
「ともかく、事態を国民に知らせる必要があります。王室放送の準備をしてください」
 女王だけが落ち着いて、何をなすべきかを理解していた。


 宇宙空間。
 輝く星々。
 アムレス号が、ワープして出現する。

 アムレス号艦橋。
「ワープ終了」
「艦内異常なし」
「しかし、百光年もの距離を一瞬にしてワープできるなんて、しかもたった一回で……」
『大シタコトアリマセン。アムレス号ハ、一万光年ヲ一回デワープシマス』
「一万光年だって? 銀河渦状腕間隙を越えて、隣の腕にまで飛べるじゃないか!」
『デスガ一回デ、全テノ燃料ト、エネルギーヲ消費シテシマイマス」
「なんだ……それじゃ役に立たないな。渦状腕間隙の向こう岸は未開の地、跳べても補給ができなきゃな」
「アレックス様はご存じですか? 確かアムレス号は、御父上のフレデリック様がご乗船なさっていたと聞きますが……。今、どうしていらっしゃるのでしょう」
「僕は何も知らない。アムレスの事ならというか伝説というかは知っていたけど……まさか父の船だったとはね。エダ、君は知っているだろう」
「その事に関しては、まだお答えできません」
「どういう意味だ?」
 エダは答えない。
「大変です!」
 通信士担当が驚きの声を上げた。
「どうした?」
「トリスタニアが……トラピスト連合王国が、地球に対して全面降伏しました」
「降伏!」
「トラピストが負けた?」
 一同が口々に驚きの声を上げた。
「まさか?」
「間違いじゃないだろうな」
「いえ、間違いありません。確かです」
「トリスタニアが降伏した……あのクリスティーナ女王が?」
「女王の王室放送が全宇宙に向けて流されています」
 通信士が報告する。
「スクリーンに出してくれ」
「了解。スクリーンに出します」
 正面スクリーンに、バストショットのクリスティーナ女王が映し出されている。
「……トラピストは降伏して、ケンタウリ帝国の支配下に入りました。これ以上無駄な血を流さないためにも武器を捨てて、それぞれの故郷に戻って安寧な生活を取り戻しましょう……」
 女王は、レジスタンス活動を止めて、平和な活動に戻るようにと繰り返し諭していた。
「もういい。消してくれ」
「了解」
 スクリーンが消えて、宇宙空間の映像に切り替わった。
 祖国の敗退にため息をつく一同だった。
「平静を装っているようですけど、陛下の心痛は計り知れないでしょうね」
「おいたわしや……」
「陛下は、無駄な血を流すなとおっしゃられていましたが?」
「今更、ソドム基地を叩いても意味がありません。抵抗の最期の砦だったトラピストが敗れた今、もはやどこも協力してくれる国はないでしょう。孤軍奮闘したところで先細りになります」
 口々に意見具申する一同だった。
「そうですね……。となると作戦の変更が必要ですね」
 エダが進言した。
 皆の視線が、アレックスに集中した。
 どうしますか?
 という表情だ。
「作戦の変更ですか?」
「このままでは、たった一隻で戦うことになります」
「とはいっても、我々はどこの国にも所属せずに戦ってきた。つまり海賊と変わりがないということだ。海賊は処刑されるのが常識だ」
「まさか……」
 その時、レーダー手が警報を鳴らした。
「艦の後方に艦あり! 先ほどの潜航艦かと思われます」
「戦闘配備! まずは追手を蹴散らしてからだ」
「了解! 全艦戦闘配備!」
 ビューロン少尉が復唱する。
「亜空間ソナーで敵艦の位置を探査! 亜空間震動爆雷準備!」
 アレックスが下令する。
「亜空間ソナーで敵艦の位置を探査します」
「亜空間震動爆雷準備!」
 オペレーターが復唱し、反撃態勢に入る。


 アムレス号の遠方後方に姿を現わすノーチラス号。
「アムレス号補足しました。距離二万」
「亜空間魚雷発射準備!」
「今度こそ仕留めてみせるぞ」
「魚雷発射準備完了」
 しかし次の瞬間、艦体が激しく震動した。
 計器の前から投げ出される乗員もいる。
「爆雷です!」
「進路変更! 取舵一杯!」
 爆雷を避けるために、艦を移動させる指揮官。
「進路変更! 取舵一杯!」
 操舵手が舵を勢いよく左に回して、艦を転回させる。
「こちらが攻撃を仕掛ける前に気付かれました。こちらより高性能の亜空間ソナーを装備しているのでしょうか?」
 未知の戦闘艦の能力に意外な表情を見せる副官だった。
 ノーチラス号の戦闘能力を過信し過ぎて、相手方を見くびっていた。
「そうとしか考えられないな。敵艦の現在位置は?」
「右舷側を並走しています」
「右舷ミサイル発射準備!」
「了解」
 右舷のミサイル発射口が開いてゆく。
 発射管に装填されるミサイル。
「発射準備完了!」
「よし、撃て!」
 発射管を射出され、亜空間を突き進むミサイル。
 だが、後少しというところで、突然消えるアムレス号。
 目標を失ったミサイルは、乱れ飛ぶ。
「敵艦消失しました」
「消えた?」
「直前にワープしたのか……」
「ミサイルに気付いたのか?」
「偶然かも知れません」
「とにかく追うのだ!」

 アムレスを探して急速発進するノーチラス号。
 その真後ろに、アムレス号が再び姿を現わした

 アムレス号船橋。
『敵艦ノ後方ニ着キマシタ』
 ロビーが報告する。
「うまくいった。亜空間魚雷発射準備!」
 事の成り行きに信じられないという表情をする他の乗員。
「この船は亜空間潜航できるのか?」
 ビューロン少尉が驚く。
「先ほどは、一万光年をワープできるとも言っていました。化け物じゃないですか」
『宇宙一位ト二位ヲ争ウトモ呼バレタ天才工学者ガ設計シマシタカラ』
「天才工学者というと?」
「トラピスト連合王国クリスティーナ女王の第三王子、アルフレッド殿下夫妻です」
 エダが答えた。
「王族が工学者?」
「王立科学アカデミー首席卒業、それも歴史上最高の成績でした」
「天才じゃないですか」
 そんな会話をしている間にも、アレックスは次なる指令を出していた。
「亜空間魚雷発射準備!」
『船首発射管ニ亜空間魚雷装填シマス』
 亜空間での戦闘など行ったことのない乗員たちは、ただ息を飲むしかなかった。
『発射準備完了! 目標設定完了!』
「撃て!」
『発射します!』
 船首から魚雷が発射されて、敵艦へと向かう。


 ノーチラス号艦橋。
「後方より急速接近する物体! 魚雷です!」
「なんだと?」
「う、後ろに奴らの船が!」
「主舵一杯! デコイ発射!」
 おとり魚雷を発射しつつ、旋回するノーチラス号。
「第二弾発射されました!」
「ちきしょう! この体勢では不利だ。通常空間に浮上する」
「浮上!」



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銀河戦記/拍動編 第五章 Ⅲ ネルソン提督の最期
2023.04.01

第五章


Ⅲ ネルソン提督の最期


 宇宙空間をアムレス号が進んで行く。

 じっとスクリーンを見つめているアレックス。
 イレーヌが側に寄ってくる。
「アレックス……」
「ん? 何だい?」
「変わったわね」
「何が?」
「あなたよ。まるで別人みたいよ。昔のアレックスとは違うみたい」
「そうかな……。僕は変わってないつもりだけど」
「見違えるほど立派になったわ。ここ二三日のうちによ」
「やっぱり戦争のせいかな……」
「アレックス……」


 バンゲル星区、トラピスト星系連合王国軍は、前面に太陽系連合王国軍が進路を塞ぎ、後方からはバーナード星系連邦軍が追い打ちを掛けてくる。
 まさしく前門の虎後門の狼状態である。
 ただでさえ正面突破の際に、戦艦の半数を失い残った艦も満身創痍状態である。とても正面の敵艦と戦える状態ではなかった。
 さらに敵艦の後方には、空母エンタープライズを中心とした編隊が展開して、艦載機を射出させていた。


 ヴィクトリアの艦内で忙しく動き回る乗員達。
「提督、まもなく前方艦隊との戦闘宙域に入ります」
「敵空母から艦載機が発進したもようです。高速で接近中!」
「全艦に指令、第一戦闘配備。マルチ隊形で突撃せよ」
「はっ!」
「行くぞ、アンドレ」
「はい。ヴィクトリア突撃します。高射砲・対空機関砲は敵戦闘機を、主砲は敵艦を狙え! 三十秒後に一斉掃射だ」

 迫りくる艦隊・戦闘機。
 それらに照準を合わせて動く各砲塔・銃座。
「撃て!」
 一斉射撃され火を噴く各砲台。
 次々と撃墜される戦闘機と敵艦。
 壮絶なる決戦が繰り広げられている。
 敵も味方も次々と戦力を失ってゆく。
 しかし空母七隻を有し、戦闘機による攻撃を続ける太陽系連合王国軍の方が格段に優れている。
 次々と艦船を失っていくトリスタニア連合王国軍。
 ヴィクトリアもかなりの損傷を受けている。
「戦艦グレート・ハリー撃沈されました」
「巡洋艦グラスゴー大破!」
「我が艦隊の有効戦力はどれくらい残っていますか?」
「はっ。有効戦力はヴィクトリアとオリオン号以下、巡洋艦七隻、駆逐艦四隻です」
「たったそれだけか……敵の戦力は? エンタープライズはどうなっているか」
「敵勢力は三割ほど削り取りましたが、空母エンタープライズ以下の主力艦は健在です」
「圧倒的というわけか……」
 前方を塞がれたことによって進行速度が落ちて、引き離したはずの後方のバーナード星系連邦軍が追い付いてきた。
 
 その頃奮戦するオリオン号の艦橋では、ドルトンが必死の応戦をしていた。
「第七ブロック被弾!」
「ええい。弾幕が足りんぞ! 撃って撃って撃ちまくれ」
「機関室がやられました。出力70%低下、ビーム砲・主砲共に使用不能です」
「畜生! 撃てないなら弾除けになる。ヴィクトリアの側に着けろ!」

 ヴィクトリア艦橋。
「駆逐艦リバプール撃沈」
「我が方の艦隊は何隻残っているか?」
「我が艦とオリオン号だけです」
「艦長! 機関室に火災発生」
「大至急消火に当たらせろ」
「駄目です。人員が不足し、かつ火の勢いが強くて……」
 その瞬間、爆風で吹き飛ぶ乗員。
「フレンダー!」

 機関室では、勢いよく燃え広がる火災の消火に当たっており、戦闘行為に着ける人員がいなかった。
 そこへ消火器を持ってあたふたと入ってくる乗員。
 機関長が怒鳴りたてる。
「何をしてたんだ!」
「そんな事言ったって、我々は恒久応急班じゃありません」
「生活班炊事課所属ですよ」
「手が足りないからって借り出されたのです」
「どうでもいい。つべこべ言う暇があったら早く火を消せ!」
「分かってますよ」
 このままでは自分たちの命もないので、とにかく消火を始める乗員だった。

 通路に倒れている人々。
 その人々を避けながら駆けてゆく乗員。
「副長!」
「君は技術部の……」
「はい。緊急事態発生です」

 艦橋。
「まだ通信回路は直らないのか?」
「は、はい。回線がズタズタに破断されていて」
「このままでは何もできないじゃないか」
 副長が駆け込んでくる。
「艦長、大変です」
「どうした?」
「空気清浄装置が破壊されました。修理不能です」
「何だって?」
「空気清浄機が働かなければ、有毒ガスの除去が出来なくて、艦内に充満したガスで全員死んでしまうぞ」
「それで、後どれくらい持つのか?」
「はい。このままでは三十分持つかどうか」
「そうか……」
「艦長。このままでは我々全員窒息死してしまいます。すでに後部機関室付近では、シアン化ガスが発生して倒れる者が続出しています」
「提督……」

 宇宙空間で完全に沈黙してしまったヴィクトリア。
 それを盾になって擁護するオリオン号。

 艦橋。
「これまでだな……」
「提督……」
 涙を流している乗員達。
 ネルソンの周りを囲んでいる。
「オリオンは無事か?」
「はい。まだ何とか持ちこたえています」
「うむ……アンドレ!」
「白旗信号を打ち上げろ! 総員に退艦命令を出せ!」
「提督、降伏するのですか?」
「そうだ、アンドレ。何をしている、早く退艦命令を出せ! 全員を窒息死させるつもりか!」
「は、はい。総員に退艦命令を出します」
「よし、副長。投降信号を打ち上げろ!」
「分かりました」

 ノーザンプトン号艦橋。
 ヴィクトリアから上げられた発光信号を確認した副長。
「発光信号です。あれは、投降信号。司令、ヴィクトリア号が降伏しました」
「よし。全艦に戦闘中止命令を出せ」
「はい。全艦に指令、第一戦闘配備解除。警戒態勢で、次の指令を待て!」
「ヴィクトリアから救命艇が発進しています。船を放棄するようです」
 正面スクリーンには、ヴィクトリアから次々と救命艇が発進して、オリオンとの間を往復していた。
「機関部かどこかが故障して航行不能になったのでしょう」
「あの程度の巡洋艦では、ヴィクトリアの乗員を全員収容できないだろう」
「空母サラトガに、残りの乗員を収容させましょうか?」
「そうだな。サラトガと数隻の護衛艦を残して、全艦トラピストへ向かう」
「はっ!」
 敬礼して、全艦に指令を伝える副長。


 全艦隊発進するゴーランド艦隊。
 オリオン号艦橋のドルトンは、ゴーランドの進撃開始の様子をただ見つめているしかなかった。
 ヴィクトリア艦橋。
 じっとスクリーンを見つめるネルソン提督。
 副長がアンドレに話しかける。
「総員退艦完了しました。ゴーランド艦隊からも救援が届いています。艦長達も早く!」
「ちょっと待ってくれ」
 アンドレ、ネルソンに歩み寄る。
 ネルソン、スクリーンを見つめながら、
「私はいい。君こそ早く退艦したまえ」
「提督……いやです。提督が残るなら、自分も残ります」
「君は艦長だ。将兵達の指揮を執らねばならんだろう」
「艦長だからこそ、艦と運命を共にします」
「馬鹿な、時代遅れだ」
「しかし提督……」
「これは命令だ。第一、君には待っている女性がいるだろう。彼女を悲しませるつもりなのか?」
 アンドレ、はたと気が付く。

 アンドレの空想の中。
 青空の下、美しく咲き誇る花の園。
 エミリア、髪をなびかせ微笑みながら走っている。
 後方からアンドレが追いかけている。
「ほら、捕まえたぞ!」
 エミリアの手を掴むアンドレ。
「アンドレ!」
 勢いで花園に倒れ込んでしまう二人。
「あはは!」
 軽やかに笑う二人。

 ヴィクトリア艦橋。
 我に返るアンドレ。
「君は、その女性を悲しませるつもりか?」
「艦長、早くしてください。時間が……」
「も、もう少し待ってくれ」
「しかし……」
「提督もご一緒に」
「何をしている。命令だと言ったはずだ。退艦しろ」
「艦長早く!」
 艦橋に爆風が吹き荒れる。
 副長、アンドレを引き連れて行こうとする。
「提督……」
 アンドレ、心痛な思いで、敬礼して艦橋を離れる。
 提督も静に敬礼を返してきた。


 ヴィクトリアから、ゆっくりと最後の救命艇が発進する。
 救命艇の中から、ヴィクトリアを見つめるアンドレ。
「ネルソン提督……」
 ヴィクトリア漂流している。
 やがて、遠く離れた場所で閃光が走る。



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銀河戦記/拍動編 第五章 Ⅱ 亜空間戦闘
2023.03.25

第五章


Ⅱ 亜空間戦闘


 宇宙空間、遠方に小惑星が浮かんでいる。
 アムレス号が入港している秘密基地である。
 突如、何もない空間に姿を現した潜望鏡。
 やがて艦橋が現れてくる。
 亜空間潜航艦ノーチラスの一部分である。
「こんなところに、秘密基地があったとはな」
 指揮官が呟く。
「敵基地との距離は?」
 副官が尋ねると、
「三十二宇宙キロ。まもなく魚雷の射程距離に入ります」
 レーダー手が答える。
「確かに例の宇宙船が入港したのだな?」
「はい。間違いありません。たぶん秘密基地があるのでしょう」
「よし。第一戦闘配備だ。このまま直進、亜空間誘導魚雷発射用意!」
「しかし、これだけ接近しても敵に感ずかれないのが不思議です」
「当り前だ。このノーチラス号が、そう簡単に発見されてたまるか」
「魚雷発射準備完了しました」
「敵基地、射程内に入りました」
「よし、連続発射!」
 魚雷発射管より射出され、亜空間を突き進む魚雷。


 要塞寝室で寝ているアレックス。
 突然激しく揺れる艦内。
 ビックリして飛び起きるアレックス。
「何だ? どうしたんだ……」
 艦内を浮遊している兵士達。
「一体、何が起きたんだ?」
「敵の攻撃か?」
「重力発生装置が破壊されたのだな」
「とのかくアムレス号へ行こう」
「そうだな」
 館内放送が鳴り響いている。
『総員、アムレス号に乗船せよ! 戦闘配備!』
 あたふたとアムレス号へと向かう兵士達。
 その中にアレックスがいる。
 イレーヌのいる部屋の前で立ち止まり、
「イレーヌいるかい? 入るよ」
 ドアを開けて、中へ入るアレックス。
 そこには怯えて立っているイレーヌがいた。
「アレックス!」
 アレックスの元に駆け寄るイレーヌ。
「何があったのアレックス」
「僕にもはっきりは分からない。ここは危険だ、アムレス号へ行こう」
「ええ、分かったわ」


 アムレス号、コントロームルーム。
 エダとロビーがいる。
「敵の位置は?」
『分カリマセン。確認不能デス』
 アレックス、ビューロン達が駆け込んでくる。
「アレックス様」
「敵は地球かゴーランドか?」
「どうやらゴーランドの機動部隊のようです」
 何も映っていないスクリーンを見つめながら、
「どこから撃ってくるんだ?」
「それが予想もしない所から出現するのです」
「亜空間誘導魚雷か……」
 ビューロン少尉が呟く。
 彼は、軍艦のことにくわしいので、ここでは副官の役割を担っていた。
「そうです。亜空間潜航艦が近くに潜んでいたようです」
『基地ノ核融合炉ノ制御装置ガ破壊サレマシタ』
「何だって! それじゃ、炉が暴走して爆発するぞ」
「基地を放棄して脱出します。第一戦闘配備、各自それぞれの持ち場に着いてください」
 各自持ち場へと走り出す。
「アムレス号発進して下さい。ドッグゲートオープン」
『微速前進、0.5』
「亜空間震動爆雷用意。亜空間ソナーの準備を」

 基地からアムレス号が出てくる。


 ノーチラス号艦橋。
「奴らが出てきました」
「右舷方向に逃げてゆきます」
「追え! 逃がすな」
「はっ。進路二十度転進。速力20%加速」
 加速してアムレス号を追撃するノーチラス号。

 アムレス号。
『敵艦追撃シテキマス』
「亜空間ソノブイ射出を」
『ハイ』
 射出口より投下される亜空間ソノブイ。
 ソナーを見つめる隊員。
「どうですか?」
「もう少し待って下さい」
「左舷後方に魚雷出現。五秒で接触します」
 激しく揺れる艦体。
「敵の位置はまだ分からんのか?」
「待って下さい……。判明しました。左舷三十度、距離二千。付近の亜空間に潜んでいるもよう」
「よろしい。亜空間震動爆雷セット!」
「反撃するぞ!」
「爆雷発射!」
 射出される爆雷。
 アムレス号の後方で爆発する。

 ノーチラス号艦橋。
 激しく揺れる艦体。
 一瞬真っ暗になるが、すぐに元に戻る。
「何だ!」
「敵の攻撃です。亜空間震動爆雷です」
「馬鹿な。亜空間爆雷を装備しているのか、敵は。やはりトラピストの艦船ではないのか……」
「艦長どうしますか? このままでは、いかにノーチラスでもやられてしまいます。ここは一旦退却して」
「分かった。敵を甘く見過ぎた。撤退しよう」
 進路変更して、アムレス号から離れていくノーチラス。

 アムレス号。
「敵の攻撃が止みました」
「退却したな」
「そのようです」
「しかし、態勢を整えて第二波攻撃を掛けてくるはずだ」
「基地が……」
 乗員の一人がスクリーンを指さす。
「なに?」
 一同が指さしたスクリーンにくぎ付けになる。
 爆発する要塞。
 次々と誘爆を繰り返している。
 そして眩い閃光となって広がってゆく。
「基地が消えてゆく……」
 コントロームルーム内も閃光で真っ白になっている。
 イレーヌ、アレックスに寄り添いながら、消えゆく要塞を見つめている。

 そして大爆発を起こして砕け散った。

 誰も言葉を発せず、じっと要塞の消えてしまった宇宙空間を見つめている。
「基地が消滅してしまった今、我々はどこへ行けばいいんだ。教えてくれエダ。君はどこへ行くつもりなのだ?」
 ビューロン少尉がエダに向かって尋ねる。
「その事なら、私ではなくアレックス様にお尋ねください」
「アレックスに? それはどういう意味だ」
「前にもお話したはずですが、このアムレス号の所有者であり、船長はアレックス様なのです」
「僕が、このアムレス号の船長?」
「そうです。アレクサンドル・グリフィズ様」
「アレクサンドル・グリフィズだって? 僕が?」
 今度はアレックス自身が驚きの表情を見せる。
 王族とかなんとかで祭り上げられていたが、
「おい。グリフィズ家といえば、クリスティーナ女王に繋がる王位継承権の最有力候補じゃないか」
 女王直系の
「とすると、クリスティーナ女王の次に、彼が王位に就くこともありうるわけか」
 全員、アレックスに注目している。
 トラピスト人の一人が歩み出る。
「アレクサンドル様、どうか我々をお導き下さい」
「あなたはトラピスト人?」
「はい。以前はクリスティーナ女王の従臣として仕えておりました」
「こいつ、侍女に手を出して前線に飛ばされたんだとよ」
 横やりを入れる者がいる。
「何を!」
 飛び掛かろうとするし、相手も身構える。
「待って!」
 アレックスが仲裁する。
「今は、喧嘩している場合ではないでしょう」
「はっ。申し訳ありません」
「あなたは?」
 敬礼してから、
「トラピスト星系連合王国第四艦隊所属、キニスキー・オルコット大尉……でありました。アレクサンドル殿下」

 インゲル星を脱出する時の崇拝者も集まってくる。
「それでこれからどちらへ?」
「トラピストに帰るのですか?」
 アレックス、暫く考え込んでいたが、
「いや、トラピストには行かない」
「どうしてですか?」
「この船には、バーナード星系の人もいるからね」
「しかし、アレクサンドル様」
「僕は、アレックス・ランドールだ! アレクサンドル・グリフィズではないし、トラピストやバーナード星系とは無関係だ」
「アレックス、ならどこへ行くつもりだ?」
「ゴーランド前衛基地のあるソドムに向かう」
「ゴーランドと戦うおつもりですか?」
「そうだ。我々の真の敵は銀河系外からの侵略者ゴーランドだ。地球もトラピストも同じ銀河の仲間じゃないか。なぜ仲間同士が血を流して戦わなければならないのか。そうだろう? 僕はゴーランドの前衛基地を叩く!」
「そうか、分かった。ゴーランドこそ我々の真の敵だ」
「我々に地球もトラピストもない」
「ああ、我々は皆、同じ銀河の仲間なのだ」
 ビューロンがキニスキーに手を差し出す。
 キニスキー、その手を握り返す。
「エダ!」
「はい。アレックス様」
「アムレス号をソドムへ」
「かしこまりました」


 アムレス号発進する。
 やがてワープして消え去った後に、ノーチラス号が姿を現した。
「アムレス号、ワープしました」
「ソドムへ向かったのか?」
「はい。間違いないでしょう」
「まさか、アムレス号一隻だけで、ソドムを叩こうというのか? 馬鹿な」
「いかが致しますか?」
「追え! アムレス号を追うのだ」
「はっ! 亜空間潜航! 十分後に亜空間ジャンプする。準備急げ!」
「この事態を一応、弁務コミッショナーのセルジオ様に報告しよう。通信長頼む」
「かしこまりました」
 ノーチラス号、再度亜空間潜航に入る。



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