銀河戦記/脈動編 第七章・会戦 V
2022.04.09

第七章・会戦





 艦隊に並走していた敵艦隊が急速後退を始めていた。
「敵艦、後方に下がります」
「敵は総攻撃を開始するつもりだ。反転して応戦する!」
 敵が後方に退いたのを見て回頭するミュータント艦隊。
 やはりというか、好機とばかりに速度を上げて逃走に入ることはなかった。
 回頭するため側面を見せた所を、敵の攻撃が襲い掛かる。
 激しく震動する艦内、立っていた乗員の多くが跳ね飛ばされて床に倒れてゆく。
「艦尾第一エンジン噴射口被弾! 戦闘速度七割低下します」
 艦長が報告する声は震えていた。
「ノルド=アードレル轟沈!」
「トヴョールドィイ航行不能です」
「イオアン=クレスチーテリ大破」
 次々と撃破されてゆくミュー族艦隊。
 やがて旗艦ペトロパブロフスク一隻だけとなった。
 敵艦隊は、ほとんど無傷のようであった。
 次第に包囲陣を敷いて退却路も塞がれてしまっていた。
「やはり火力に差があり過ぎるのか……。これまでの戦闘記録を連絡用通信カプセルで前進基地に送り届ける」
 強力な戦闘力を持つ未確認艦隊の性能諸元なりを、味方に伝えておくことは後に続く者に作戦プランを考案する糧となりうるからだ。
 発射口からカプセルミサイルが、前進基地へ向けて発射された。
「よし、これでいい。後は一隻でも多く敵艦に損害を与えるだけだ。敵艦に向かって全速前進! 体当たりだ!」
 ミュー族には、降伏という二文字はない。
 勝てないなら、相手を道連れにして自沈するというのが彼らのやり方なのだろう。
 戦列艦ペトロパブロフスクが、敵旗艦と思しき艦に急襲特攻を仕掛けた。
 しかし難なくスルリと交わされて、集中砲火を浴びるだけだった。
 エンジンブロックに被弾して、完全に航行不能となった。
「敵艦より交信電波が入電しています」
「敵が接舷して乗り込んでくる気配はないか?」
「ありません。まったく動きなし」
「自爆を警戒しているな……自爆するのを待っているのか? 悔しいが、お望み通りにしてやろう……が、その前に」
 と、カチューシャの方を見る。
 ミュー族にとって、遠隔透視能力を持つ人材は貴重である。
 艦に搭載されたレーダーの3倍から5倍の索敵レンジを持っているのだから。
「俺たちは最後まで戦うが、カチューシャには生き残ってもらう。脱出ポットで逃がす」
 ただ一人の脱出案に反対する乗員はいなかった。
 指令に従って素直に脱出ポットに乗り込むカチューシャ。
 数時間後、通信カプセルの後を追うように、脱出カプセルが発射された。
「さてと……。最後の仕事をやるとしよう」
 副官に目配せするミロネンコ司令官。
 自爆装置のスイッチに歩み寄るミロネンコと、もう一つのスイッチに手を掛けるモルグン副官。
 双方目配せしてからカウントダウンを始める。
「トゥリー、ドゥヴァー、アヂーン、ノーリ」
 二人同時にスイッチキーを回す。
 辺り一面が眩い光に包まれてゆく。

 戦列艦ペトロパブロフスクを含むミュータント族迎撃艦隊の全滅であった。



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銀河戦記/脈動編 第七章・会戦 Ⅳ
2022.04.02

第七章・会戦





 時間を少し遡って、会戦前に戻る。
 P-300VXから敵艦隊の発見が伝えられた。
「敵艦隊は、こちらには気づいていないようです」
「戦闘配備だ」
 テキパキと指令が伝達されて、すべての兵器要員が配置に着いた。
「戦闘配備完了しました」
「VXより敵艦の座標位置が送られてきました」
「戦術コンピューターに入力!」
「敵艦隊が移動を始めました」
「やっと気づいたか。しかし、VXは気づかれていないようだな。電波が通じるかは分からんが、念のために全周波で友好信号を打電してみろ」
 通信士のモニカ・ルディーン少尉に命じる。
「了解しました」
 電離した水素イオンなどによる通信障害があるが、有視界にまで接近すれば通じるかもしれない。
「駄目です。受信している兆候はありますが、応答なしです」
「敵艦の全砲塔がこちらに転回しています」
「問答無用ということか……仕方あるまい、原子レーザー砲で機先を制する」
 下令以下、原子レーザー砲の発射手順が始められた。
「しかし彼らは、どうして交信を拒絶するのだろうか。言語が分からなくても、分からないなりに手立てはあると思うのだが」
「そうですね。戦闘になれば、死傷者も出るだろうし、避けられるものなら交信を受けるのが筋でしょうけど……」
 相手が交信を拒絶している以上、戦闘は不可避だった。
「原子レーザー砲、発射準備完了しました」
 砲手が報告によって、戦端が開かれることとなった。
「撃て!」
 眩い光の軌跡が敵艦へと一直線に向かう。
 そして一隻を撃沈させた。
 その衝撃と残骸が近接する友邦艦にも被害を与えている。
「さて、敵はどう反応するかな?」
「射程はこちらの方が長いようです。断然有利ですね」
「ワープ準備だ」
 トゥイガー少佐はランドール戦法をやるつもりのようだ。
「こんな所で小ワープするのですか?」
「驚かせてやろうじゃないか」
「分かりました。小ワープ準備!」
 ワープ準備に入った途端に、敵艦隊の砲弾が襲い掛かった。
 近接信管が始動して炸裂するその寸前。
「ワープ!」
 空間から消え去る艦隊。

 次の瞬間、艦隊は敵の只中に出現していた。
「舷側にある砲台を叩きまくれ!」
 敵は舷側に砲台を並べた戦列艦であるから、まずは破壊してしまうのはセオリーだろう。
 相手が右往左往している間に、素早く打ち砕いてゆく。
 砲台をほぼ沈黙させたところで、次の指令が下される。
「艦を並走させろ。これだけ近ければ撃てないはずだ」
「こちらからも撃てませんが?」
「もう一度、交信してみろ。これだけ近ければ通じないはずはない」
 機器を操作して、全周波で交信を試みるモニカ通信士。
「だめです。応答なし」
「やはり聞く耳は持たぬか……」
 しばらく並走を続けていたが、
「仕方がない、攻撃を再開する。離艦して攻撃可能位置まで下がる」
 速度を落として、敵艦隊の後方に退いていく。
「敵艦隊、回頭を始めました」
「そのまま速度を上げて逃走するかなと思ったのだが……」
「最期の一隻が撃沈するまでやる気ですよ」
「しかし、一体どうして交渉する気が一切ないのかな。折角交渉できる場を設けたのにな」
「もうどうでもいいですよ。敵が撃ってきますよ」
「そうだな。攻撃開始だ!」
 気が乗らないが、相手がやる気ならこちらも応じるしかない。

 数時間後、戦闘は終わっていた。
「旗艦らしき艦が、何とか生き残っています」
 砲台と動力部を破壊されて、攻撃手段と移動能力を失って漂流する旗艦。
「乗り込んで指揮官を捕虜にできないかな」
「無理ですよ。これまでの情勢から、奴ら自爆するのは目に見えてます」
「やはり、そう思うか?」
 果せるかな、数分後に旗艦は自爆した。
「悲しいな……」



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銀河戦記/脈動編 第七章・会戦 Ⅲ
2022.03.26

第七章・会戦





 戦列艦ペトロパブロフスク艦橋。
「まもなく索敵艦が消息を絶った宙域に入ります」
「カチェーシャ、頼む」
 遠隔透視能力のあるエカテリーナ・メニシコヴァに指示を出す。

「敵艦がいます……こちらに近づいてきます」
「近づいて?」
「はい、まっすぐに」
「向こうの方が先にこちらに気づいたというのか?」
「まさか、この宙域は電離した水素イオンのせいで電波探信儀は使えないはずです」
 レーダー手が疑問を投げかけた。
「敵にも遠隔透視能力を持った者がいるのでしょうか?」
「分からんが……とにかく戦闘配備だ!」
 カチューシャの遠隔透視能力が、P-300VXを認識できなかったのは何故か?
 VXの搭乗員に対する精神感応ではなく、直接の物体感知なのだろうか。

 やがて有視界に敵艦が入ってきたのを確認した。
「敵は単縦陣で迫ってきます」
「よし、左右に展開しつつ、左翼と右翼を前に出して応戦する」
 いわゆる鶴翼の陣で迎え撃とうという算段のようだ。
 突撃してきた敵軍に対して集中攻撃を加え自軍の被害を抑えることができる陣だ。
「敵艦、隊列を左先梯形(ていけい)陣に移動しています」
「このまま行く! 有視界戦闘である、各砲台は目視で手動で撃て!」
 電磁波レーダーが使用不可であるから、それに連動した兵器も自動攻撃はできないので手動に切り替えが必要だ。
 双方の艦隊が距離を縮めてゆく。
「射程距離まで三十五秒」
 目前に敵艦隊が迫っている。
「砲撃用意!」
 砲台が一斉に敵艦を捕えようと回り始める。

 その時だった。

 眩いばかりの光が艦体を包み込んだ。
 砲台が蒸発するように消えてゆく。
「な、なんだ今の光は?」
「こ、攻撃です! 敵が攻撃してきました」
「馬鹿な! まだこちらの射程外だぞ。敵の射程は我々より長いのか?」
「優に五割は超えるようです」
「このままではやられる一方だ。相手の懐に飛び込むぞ! 機関一杯、全速前進だ!」
 速度を上げて敵艦隊に突撃する。
 鶴翼陣で包囲殲滅しようとしていた隊形が崩れてゆくが、致し方のない所だろう。
「射程内に入りました!」
「よし、撃て! 撃ちまくれ!」
 勇躍として総攻撃を開始する艦隊。
 無数の砲弾が敵艦隊に向かって襲い掛かる。
「着弾します」
 砲弾が炸裂して、辺り一面が硝煙で埋め尽くされ、艦隊の姿もかき消された。
「砲撃中止、様子を見る」
 双眼鏡を覗きながら、敵艦隊のいる場所を注視している。
 やがて硝煙が治まった時、艦隊の姿は消えていた。
「敵がいないぞ!」
「まさか、あれだけの攻撃で消滅するはずがありません」
「しかし、残骸すら消えてなくなったぞ」
 首を傾げていると、艦に大きな衝撃が走った。
「な、なんだ?」
「艦尾に被弾!」
「敵か? 別動隊でもいたのか?」
 艦の周囲を映し出すスクリーンに、次々と被弾していく友軍艦隊の姿があった。そして取り付いて攻撃を加えている敵艦。
「いつの間に、こんなすぐ傍にまで接近されたのか?」
「フラーブルイ撃沈!」
「サラートフ航行不能になりました」
 次々と損害報告が挙げられてゆく。
「砲台がすべて破壊されました!」
「ここまでか……」
「スクリーンを見てください!」
 ミロネンコ司令官が乗員が指さすスクリーンを見ると、並走して進行する敵艦がいた。
「敵艦からと思われる無線が入電していますが……言語が分かりません」
「無線だと? どうせ『直ちに降伏せよ』だろ。聞く耳もたぬわ」
「しかし、このままでは……」
「また、奴隷にされたいのか? 俺達の祖先がされた屈辱は忘れてはならないのだ。砲台が使えないのなら体当たりだ。一対一で当たれば、勝つことはできなくても負けはしない」
 奇形や遺伝子異常、精神薄弱によって虐げられたという記憶が、潜在意識の奥深くまで浸透しているミュータント族。
 人類との和解など眼中になかったのだ。



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