銀河戦記/拍動編 第五章 Ⅰ 訓練
2023.03.18

第五章


Ⅰ 訓練


 宇宙空間を猛烈な勢いで突き進む戦闘機。
 その戦闘機のコクピットにアレックスが乗り込んで操縦している。
 後部座席にはエダが指南役で着席している。
「次のが来ますよ。良く狙って下さい」
「分かっている」
 前方から戦闘機が飛んでくる。
 機銃の照準を合わせようと、必死に操縦桿を操作しているアレックス。
 なかなか難しいのか汗びっしょりになっていたが、瞬間的に照準中心に戦闘機が入る。
「今だ、発射!」
 機銃が掃射されて戦闘機に当たる。
 炎上してコースを外れてゆく戦闘機。
「命中です」
「こんなもんさ」
 と油断した途端に、激しく揺れる機体。
「撃墜された?」
「そうです。本物のミサイルでしたら命はありませんでした。まだまだ未熟ですね、アレックス様」
「チェッ!」
「ほら、また次の来ますよ」
「ワオッ!」
 危うくミサイルを避けるアレックス。
 冷や汗を拭う。
「今日は、これくらいにして船に戻りましょう」
「分かった。そうしよう」
「今回は、自動運転による戦闘機との訓練でしたが、次回からは人が操縦する戦闘機との訓練に入ります」
「実戦訓練に近づけるということか」
「そういうことです」
「分かった」
 アムレス号の艦載機発着口に、戦闘機を侵入させるアレックス。
 船内に着陸する戦闘機。
「見事な着地です」
「それは皮肉ですか?」
「そう聞こえますか?」
「チェッ。勝手にしやがれ」
 戦闘機から降りるアレックス。
 イレーヌ駆け寄ってくる。
「アレックス!」
「イレーヌか」
 イレーヌ、タオルを差し出す。
「お疲れ様、少しは戦闘機に慣れた?」
「まあね。操縦の方は、BWCCSに任せれば思うように動かすことができるのだが……。ちょっと考え込んだりしようものなら、失速したりエンジントラブルを起こしたりで、慣れないうちは常に精神集中してなきゃならん。手動の方がよっぽど簡単だよ。とにかく疲れたよ」
*BWCCS(ブレイン・ウェーブ・コンピューター・コントロール・システム)
「でもどうして、あなただけにこんな特訓をさせるのかしら」
「さあね。乗員のほとんどが軍人もしくは軍属の人間だからで、戦闘機の経験があるからだろう。今後、宿敵ゴーランド艦隊と戦うことになるだろうし、僕だけが何もできないで見ているだけなんて嫌だからな。とにかく今は退屈凌ぎにはなっているよ」
「でも……」
「気にしないさ。それより食事は済んだのかい」
「まだなの。あなと一緒にと思って……」
「そうか、じゃあ食堂へ行こうか」
 二人連れ立って歩き出す。

 通路で窓辺に寄りかかって寂しそうな表情のルシア。
 他に誰もおらず、窓から外の星々を眺めては涙している。
 そこへビューロン少尉が通りかかる。
「ん……?」
 近づいて、
「こんな所に一人でどうしたんだい?」
「え? 何でもありません」
 ルシア離れようとするが、ビューロンに手を取られて動けない。
「待てよ」
「話して下さい」
「そう逃げることはないだろう」
「いや! 離して」
 ビューロン、厳しい表情になり、ルシアの頬を平手打ちにする。
 ルシア、壁に寄りかかるように倒れる。
 ビューロン、ルシアの前にかがみ込む。
「済まない。ついかっとなった」
 伏したまま動かないルシア。
 頬に手を当てて押し黙ったまま。
「そうやって塞ぎ込んでいたって、死んだ人は帰ってこない」
 ルシアの表情が変わる。
「いつまでお爺さんの死を悲しんでいるつもりだ」
「やめて! その話は」
 耳を塞ぐルシア。
 その手を引き離して、
「いや、聞くんだルシア! いいか君のお爺さんは死んだんだ。その悲しみは良く分かる。しかし、現実から逃避するのはよせ。どうして自分一人殻の中に閉じこもるんだ。もっと目を見開いて」
「あなたに私の気持ちの気持ちが分かるはずがないわ」
「ああ、分からないね」
「分かるはずが……」
 ルシア泣き崩れる。
 ビューロン黙って見守っている。
 インゲル星脱出の際に、囚人の三分の一が逃げ遅れて射殺され、その中にルシアの祖父も入っていたのである。

 軽やかな音楽の流れる食堂。
 食器の触れ合う音。
 食事をしている乗員達。
 その中に混じってアレックスとイレーヌの二人が仲良く並んで食事をしている。
「ねえ、アレックス」
「何だい?」
「あのエダっていう女性、あなたの忠実なる下僕だと言っているけど、一体何者かしら」
「さあな。正直言って戸惑っているんだよ。しかし……」
「しかし……?」
「確信はないんだけど、何だか小さい頃に会っている様な気もするんだ。あの人に会っていると、母を思い出すような、そんな気分になる。母に会ったこともないのだけどね。気のせいかな」
「でもアレックスは、捨て子だったのを拾われたのよ。やはりあの女性の言う事も本当なのかもしれないわ」
「僕が、トラピスト王族の一人である事も? だとすれば地球人である君とは、敵同士ということになる……」
「言わないで! 私達の間には地球もトラピストも関係ないわ。ただ私はあなたの……」
「それもそうだな」
「そうよ」
 食堂に、ビューロンがルシアを連れて入ってくる。
 アレックスのそばに近寄ってくる。
「よう、アレックス。訓練の方は、順調にいっているかい?」
「まあね」
「そうか。ま、しっかりやんな」
 ビューロン調理場の方へ向かう。
 ルシア、アレックスとイレーヌを交互に見つめていたが、ビューロンの後を追ってゆく。
「アレックス。あの女性は誰? 何だか、あなたを見つめていたようだったけど……」
「何だい? 何を気にしているの。あ、さては妬いているのか?」
「ち、違うわよ」
「心配するなよ。彼女とは何でもないさ。彼女は叔父さんを亡くして気を落としているんだ。そっとしておいてあげよう」


 アムレス号コントロームルーム。
 船内チェックをしているエダ。
 ふと大きくため息をつく。
『ドウカシタンデスカ? タメ息ナンカツイテ」
「え? ああ、ロビー」
「アレックス様ノコト?」
「いえ。アレックス様なら大丈夫よ。戦闘機の操縦の上達も目を見張るものがあるわ。後四・五回乗り込めば完全にマスターするでしょう」
「デハ何ヲ悩ンデイルノデスカ」
「インゲル星より連れてきた中でも地球人のことよ」
「地球人?」
「そう。今後、ゴーランド艦隊や地球艦隊と戦うことになりますけど、果たして彼らが私達に味方して戦ってくれるかどうかなのよ。それが心配なの。役に立たない人や、敵対するかも知れない人を乗せてゆくわけにはいかないでしょ」
「彼ラヲドコニ降ロシマスカ?」
「どこへ? 彼らは、トラピスト人にとっては政敵であり、地球人に対しては反逆者なのよ。彼らを受け入れる所がどこにあるの? まさか何もない無人の星に降ろすわけにはいかないわ」
「デハ、仕方アリマセン。共ニ連レテユクノデスネ」
「そうね。それしかないようね。まあ、何とかなるでしょう」


 たくさんの人々が、スポーツ施設で汗を流している。
 その斜め上方にガラス張りの部屋がある。
 そこから、その光景を見つめているアレックスとイレーヌの二人。
「それはね。宇宙空間で無重力状態の中に長い間いると身体が鈍るからさ。いいかい重力のある地上では、立っているだけでも重力に逆らうために、筋肉を使いエネルギーを消費しているんだ。心臓も重力に必死に耐えて血を全身に送り込んでいるんだ」
「重力って大変なものなのね」
「そうさ。宇宙航行するのも、ほんの小さな星の重力だって無視できないんだ。そう、例えば僕と言う物体と君と言う物体の間に働く重力が無視できないようにね」
「まっ。アレックスったら」
 頬を赤らめるイレーヌ。
「さあて、僕も汗を流してこよう」

 シミュレーション室で、コクピットに座り懸命にスクリーン上の敵機に向かっているルシア。冷や汗を搔き、必死に照準を合わせようとしている。
 その脇で見つめているビューロン。
「今だ! 撃て!」
 ルシア、発射ボタンを押して、スクリーン上の敵機を撃墜する。
「いいぞ、その調子だ」
 次々と撃墜され爆発炎上する敵機。

 しばらくしてマシンから出てくるルシア。
「素質がいいね、君は。ようし、今度は第二シミュレーションだ」
「第二?」
「そう。今のは第一で、前方から向かってくる敵機を撃ち落すだけだが、第二の方は四方から飛んでくるミサイルを回避しながら敵機を撃ち落とす。第三となると、味方の編隊も加わり敵も編隊で襲い掛かってくる。敵の攻撃を避け、味方と接触しないように、協力し合いながら敵機を撃ち落してゆく。要するに段々と実戦に近づいてゆくというわけ」
「じゃあ、第三シミュレーションをマスターしたら?」
「そりゃ、後は実戦本番だよ……まさか君、実戦に出ようというんじゃないだろうな」
 ルシア黙ったままで微笑む。


 寝室1、六人部屋。左右の壁際にある三段ベッドに横たわる兵士。
 イビキをかく者。寝相の悪い者、様々な格好で寝ている。

 寝室2、すこやかに眠るイレーヌ。

 寝室3、女子用二人部屋。きれいに片付けられた部屋。
 ベッドに横たわる女性。
 その隣のベッドの縁に腰かけて考え込んでいるルシア。



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銀河戦記/拍動編 第四章 V 決戦
2023.03.11

第四章


Ⅴ 決戦


 バンゲル星域に近づくトリスタニア共和国艦隊。
 戦艦三十隻、巡洋艦十五隻、駆逐艦十五隻、その他十隻、総計七十隻という陣容であった。
 旗艦ヴィクトリア艦橋。
 指揮官席に陣取るネルソン提督の指示のもと、艦長アンドレ・タウンゼントが艦を動かしている。
「前方二千宇宙キロに艦影多数あり! スクリーンに表示します」
 レーダー手の声に、ネルソンが下令する。
「全艦戦闘配備!」
 副官のローレンス・ヒュームが復唱して、全艦戦闘配備が伝えられる。
 正面パネルスクリーンに、バーナード星系連邦を主力とするゴーランド艦隊先遣隊と、自国艦隊の戦力分析図が表示された。
「敵艦の総数はおよそ八十隻。戦艦二十、巡洋艦三十、駆逐艦十隻、その他補給艦など二十隻です」
「戦力はほぼ互角というところだな」
 ネルソンが呟く。
「遠路はるばるの遠征なので、補給艦を連れてきているようですが、別動隊を編成して、背後から叩きましょうか? それで何とか長期戦に持ち込められれば勝てるのではないでしょうか?」
 副官が提案する。
「向こうもそう来ると罠を張って、待ち構えているかも知れないぞ」
「隠し玉? だとしたら、中央突破戦法で切り崩しながら、後方にいる補給艦目掛けて突進するとか?」
 不利な戦況を打破するために、色々と思案する副官だった。
「そうだな……。敵の方が数が多い。短期決戦でいくしかないか……防水陣形で中央突破を図るぞ!」
「分かりました! 防水陣形を取れ!」
 自分の提案が採用されて、意気込む副官だった。
「艦隊紡錘陣形!」
 艦長のアンドレが復唱する。
「まもなく射程距離内に入ります」
「主砲発射準備!」

 砲室では自動装填装置で弾頭が装填され、次弾が弾薬庫から運ばれて、装填機構部に入る。
 照準合わせは、艦橋側でセットできる。
「主砲、発射準備完了しました!」
 砲手が艦橋へ連絡する。
『撃て!』
 の合図で、発射ボタンを押すだけだ。
 弾が発射され、薬莢が排出されると同時に次弾が装填される。
 薬莢は電磁石が吸い上げて、廃棄口から宇宙空間に捨てられる。

 ちなみにこの時代は、まだ戦艦に搭載できるほどの小型の粒子加速器は発明されていなかった。無理に乗せようとしても、その長大なる設備で船体内のほとんどの容積を潰してしまう。当然、陽子砲や中性粒子砲などはまだ開発されていない。
 なので旧態依然の大砲やミサイルが主力兵器となっている。
 今だ未踏破の星域や、未開発の惑星があり、侵略国家の存在もあって、未知の科学兵器よりも、艦体のどこにでも設置できて簡単に火力を増強できる既存の大砲やミサイルに限るのである。


 双方の艦隊が撃ち合い、戦闘が始まった。
 砲弾やミサイルが飛び交う、その間隙が縮まってゆく。
「戦列が交差します」
 ついに双方の先頭が鼻突合せての乱激戦の模様となっていた。
「撃って撃って、撃ちまくれ!」
 アンドレ艦長が連呼する。
「装甲の厚い戦艦を前面に出せ!」
 ネルソン提督は冷静に、状況判断をしていた。
 戦艦だけの数でいけば、敵側二十隻に対して味方側三十隻である。戦艦の厚い壁で押し返そうという判断だ。
 戦闘前半戦は、トラピスト側有利に運ばれていた。
「まもなくすれ違いが終わります」
 なんとか中央突破に成功して、目前に輸送艦が待機していた。
「主砲を前方の輸送艦に合わせろ!」
 副官が小躍りするように叫ぶ。
 自分の発案通りに事が進んで調子づいているようだ。
 しかし、ネルソンの表情は硬い。
 あまりにも作戦通りに進み過ぎるからだ。
「主砲、目標セット完了しました」
「撃て!」
 輸送艦への攻撃が開始される。
 輸送艦を蹴散らして反転攻撃に回るか、このまま全速力で逃げ出すのもありだ。
 順調に輸送艦を撃破しつつ前進するネルソン艦隊。
「撃って撃って撃ちまくれ!」
 副官が興奮しながら連呼する。
 およそ輸送艦の半数を撃破した時だった。
 輸送艦が左右に分かれて道を開けるように動いた。
「なんだ? 逃がしてくれる?」
 首を傾げる副官だった。
 あり得ない敵の行動には、訳があるに違いないと提督が思った次の瞬間だった。
「前方に新たな艦影確認!」
 レーダー手の声に、
「やはり罠だったか……」
 呟くネルソン提督。
「太陽系連合王国軍です。敵の艦数、およそ三十隻! すべて戦艦です」
 艦橋内に絶望の雰囲気が漂い始めた。
 戦艦の数が多いのを頼りに戦ってきたのに、援軍の登場で士気が大下りとなっていった。
「提督、どうなされますか?」
 これまでイケイケどんどんだった副長の威勢とは思えないほどの自信のなさだった。
「ここで足掻いても仕方あるまい。このまま全速前進して、正面の艦隊を突き崩す!」
 正面の艦隊だけでいうなら、戦艦は同数の上に巡航艦などもいて戦力は優勢である。後方の艦隊には目もくれずに、ひたすら正面突破を図れば戦線離脱も可能かもしれない。

 万が一の可能性ではあるが……。


 その頃、アムレス号はとある恒星系の小惑星帯を進んでいた。
 その船橋では、新たに乗員となった者たちが、通信やレーダーなどの機器を操作する任務についていた。
「間モナク、秘密基地ニ到着シマス」
 操舵を担当していたロビーが報告する。
 基地の位置を把握しているのはロビーだけだ。
 小惑星の一つにアムレス号が近づくと、岩盤の一部が開いて進入口が現れた。
「基地ニ進入シマス」
 基地内に入り停止するアムレス号。
 搭乗口が開いて、乗員が次々と降りてくる。
 基地内には、ミサイルや燃料などの補給物資がずらりと並んでいた。
「戦闘機があるぞ!」
 彼らが特に喜んだのは、自らがパイロットとして乗り込む戦闘機だった。
 駆け寄り乗り込んで、機器類を操作してみる。
「すごいぜ! やっぱり最新型だぜ!」
 皆が感動している時、管内放送があった。
『みなさま、これより基地内の補給物資のアムレス号への搬入を開始しますので、お手伝いをお願いします』
 と、アムレス号の搬入口が開いてゆく。
「よし! 皆の者、旧任務に関わる職務に就くがよい。分からないものは、私が配分する」
 長老が指示すると、かつてフライトデッキクルーだった者は、何をすべきかをよく理解しているので、テキパキと段取り良く戦闘機などを運んでいく。
 フォークリフトを起動させてミサイルや弾薬を運ぶ係、ロケット燃料を給油口に注入する係、食料やその他備品を運ぶ係など、各自適材適所に動き出した。


 一方、船橋ではアレックスが船の運用に関する蘊蓄(うんちく)を、エダから教授されていた。
 航行や戦闘における操船術を、船主であるアレックスが知っておかなければならないことは多い。



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銀河戦記/拍動編 第四章 Ⅳ 迎撃開始
2023.03.04

第四章


Ⅳ 迎撃開始


 戦闘機の攻撃を受けている宮殿。
 女王の間で、その状況を冷ややかに見つめている女王。
 時折爆撃を受けて、ヒビが入る窓ガラス。
「女王様、ここは危険です。もっと安全な場所へ」
「いいえ、私はここにいます。どこに逃げても同じこと。それに私は女王です。逃げも隠れもしたくはありません。それより我が軍は何をしているのです。応戦を」
「はい。只今、オリオン号を緊急発進させています」
「そう……。ネルソンはどこに?」
「はい。只今、参謀本部で作戦会議中です。なあに、この程度ならネルソンが出なくても、じきにおさまりますよ」
「そうね」

 宇宙港。
 発進するオリオン号。
 艦橋では、テキパキと指示を出しているドルトン新艦長がいる。

 造船ドック。
 広々とした構内を、働きまわる技術者達。
 中央に最新鋭戦闘艦『ヴィクトリア』が据えられている。
 構内の搭乗デッキをアンドレが走っている。

 ヴィクトリア艦橋にたどり着くアンドレ。
「発進の準備はどこまで進んでいるか?」
「艦長! 現在、乗員はすべて搭乗を終え、艦内チェックもほぼ終了しています。ただ、燃料補給の方が……」
「敵は目の前なんだぞ! 宇宙へ出るわけではないんだ。補給の終わってる分だけでも飛ばすぞ」
「は、はい」
 歯ぎしりをするアンドレ。
「何をそんなに焦っているのだ、アンドレ」
 背後から声が掛かった。
 振り返るアンドレ。
「ネルソン提督!」
「いつもの君らしくないぞ。冷静になれ!」
「しかし敵が……」
「たかが前衛の遊撃艦隊ではないか。これくらいで参るようなトラピストではないことは君も十分承知のはずだ。それともドルトンを信頼できないとでも言うのか? 見ろ! 立派に戦っているではないか」
 とスクリーンを指さす。

 そこには、オリオン号が敵艦隊と交戦中で、戦闘機の集中砲火を浴びながらも、次々と撃ち落していく姿があった。
 オリオン号艦橋では、奮戦し的確な指示を下している新艦長のドルトンがいた。
「俺だって、オリオンの艦長なのだ。だてに艦長に任命されたのではない」
「敵が退却を始めました」
 副長が報告する。
「まあ、そんなところだろう。トラピスト軍を舐めるなよ」

「アンドレ。燃料補給・艦内チェックは十分すぎるぐらいにやらせろ。発進してから気づいては、取り返しのつかないことになることぐらい分かっているだろう」
「は、はい……」
 ネルソンがアンドレの肩に手を置いて諭す。
「冷静になれよ」
 アンドレ、スクリーンを見つめたままだった。

 三時間後、先遣隊は殲滅された。
 建物の多くが焼け落ちた惨状の街のあちこちから市民たちが現れて、空を仰いでは口々に話し合っている。
「敵はもういないのか?」
「今度はいつ攻めてくるのかしら」
「軍は何をしているの?」
「これからどうなるの?」
「地球軍はすぐそばまで侵攻しているってのは本当だったのね」
「おしまいよ。トラピスト王国は滅亡するのよ」
 死体にすがって泣く者、放心状態になっている者、様々な人々が当てどもなく彷徨っている。

 宮殿前広場に群衆が集まり喚き立てている。
 宮殿内に侵入しようとして、近衛兵に取り押さえられる人々。
 パニック寸前の状態であった。

 宮殿女王の間で静かに群衆の成り行きを見つめているクリスティーナ女王。
「御前会議のお時間です。各国領主さま皆お集まりで、女王様をお待ちになっております」
 侍女が伝えにきた。
「すぐ行きます」
「群衆の方は、いかが致しましょうか」
「見たところ大したことはなさそうです。そのうちに静まるでしょう。ヴィクトリアの発進はいつですか?」
「丁度、一時間後です」
「そう……」

 宮殿大広間に集まった王国集団を形成する各国領主の代表達の面々が、口の字形式に並べられた長机にセッティングされた椅子に腰かけている。
 隣り合った者同士が、王国の行く末を語り合っている。
 クリスティーナ女王が入場し、主席に着席すると会議が始められる。
「よりによって、我々が集まった日を狙って攻撃してくるとはね」
「まったくだ。一時間到着が遅れていたら、危うくやられるところだったよ」
「この中に敵のスパイでもいるのではないか」
「それは君のことではないのかね」
 一同笑う。
「皆さん、お静かに!」
 今は冗談など言っている暇などないのですよ。議長、初めて下さい」
「はっ。では……」
 議長が開会宣言をし、最初の報告者が立ち上がった。

 地球からみずがめ座の方向29光年に恒星グリーゼ849があり、その最も近い軌道を回る地球型惑星は、惑星国家グリーゼとして発展していた。トラピスト連合王国とは近傍のため、親しく交流していたのだが、覇権国家ケンタウリ帝国によって占領され、トラピスト侵略への足掛かりとして艦隊が集結していた。


 造船ドックではヴィクトリア号の発進準備が進んでおり、技術者たちが忙しく動き回っている。
 ヴィクトリアの機関室。
 メインエンジンの周りで計器類をチェックする乗員達。

 艦橋では計器類を操作する乗員達を指揮するアンドレ。
「発進十分前! ゲートオープン。乗員以外は速やかに退艦せよ」
 ゆっくりと天井が開いてゆき、青空が広がってゆく。
 光を浴びて燦然と輝くヴィクトリア。
「発進五分前! 発着ゲートの管制員は退避せよ」
「発進二分前! 補助エンジン始動」
「回転数正常に上昇中」
「メインエンジン始動三十秒前。シリンダー閉鎖弁オープン」
「発進十秒前! メインエンジン始動点火」
「ガントリーロック解除」
「微速前進!」
 ゆっくりと動き出すヴィクトリア。
 浮上して徐々に加速してゆく。

 ポッカリと開いた発進口。
 そこからヴィクトリアが出てくる。
「ヴィクトリア、ドックを出ました」
「まもなく空港上空に達します」
「よし、上空管制を怠るなよ」
「全艦隊、発進せよ。ヴィクトリアに続け」

 次々と発進する軍艦。
 空港周辺でそれを見つめる人々。
 その中に、心配そうにヴィクトリアを見つめるエミリアもいる。

 紺碧の大空を進むヴィクトリア。
 それを取り囲むようにして集まってくる艦隊。
「大気圏を離脱する」
 大気圏を脱して、宇宙空間に突入する艦隊。
 後方にはトリタニアが美しく輝いている。
 ヴィクトリア艦隊に接近するオリオン号率いる防衛艦隊。
 その艦橋ではドルトンが指揮している。
「ヴィクトリアに接近します」
「アレが、旗艦ヴィクトリア号か……。よし、我々も右翼に展開しよう」

 続々と各国の艦隊が集合しつつあった。
 各国代表が集まっていたのもそのためだったのだ。
「アビロン艦隊司令より入電、ネルソン提督宛です」
「繋いでくれ」
「了解」
 正面スクリーンにアビロン艦隊司令が映し出される。
「アビロン侯国軍艦隊司令グレーン大佐です」
「トラピスト星系連合王国艦隊司令ネルソン少将です」
「本国指令により、我が艦隊は提督の指揮下に入ります」
「よろしく頼みますよ。グレーン司令」
「はっ。こちらこそ」
「左舷二十度よりハムラーン侯国の艦隊が接近してきます。後方からはマライヤ侯国の艦隊」
 ヴィクトリーに接近する、ハムラー・マライヤ両侯国艦隊。
「全艦隊、集結完了しました」
「敵艦隊の本隊は、バンゲル星域に集結しているようです」
「よし、トラピスト星系連合王国艦隊司令として命令する。全艦、バンゲル星域に向けて進路を取れ!」
 進撃を開始する連合艦隊。



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