銀河戦記/鳴動編 第一部 第八章 犯罪捜査官 コレット・サブリナ Ⅲ
2021.01.10

第八章・犯罪捜査官 コレット・サブリナ




 レイチェル・ウィング大尉を筆頭に、関係者が一同に会している。
 同僚の死亡という姿を目の当たりにして、その表情は暗い。
「事故捜査官の、コレット・サブリナ中尉です。今回の事件、ミシェール・ライカー少尉の死亡について、みなさんの証言を伺いたく集まっていただきました」
「やはり事故なんですか?」
「それは調査中ですので、この場では明らかにはできません」
「そうですか……」
「それではお聞き致しますが。まず、第一発見者は、どなたですか?」
 関係者を一同に集めた中で、開口一番尋ねる。
「カテリーナ・バレンタイン少尉です」
 レイチェルがカテリーナに視線を送りながら答えた。
「では、バレンタイン少尉。事件に遭遇した時、誰か他にいましたか?」
「いいえ、一人でした」
「ジムに一人でやってきて、事件に遭遇したのですね」
「はい、そうです」
「どうしてジムにきたんですか?」
「わたしは当直でした。交代の時間になってもミシェールが姿を見せないので探していたんです」
「当直の担当部門は?」
「艦内放送FM局スタジオ勤務です」
「パーソナリティー?」
「いえ、ADです」
「どういう事をしているのですか?」
「タイムキーパーが主ですが、その日に使う曲のセッティングや、必要備品を用意したりもしています」
「スタジオは何名で?」
「四名です。ディレクターと調整室員が他にいます」
「その方の氏名と所属を教えてください」
「はい」
 メモにカテリーナが言った氏名を記入するコレット。
「ところであなたがジムに、ミシェールを探しにきて、器械に挟まれた姿を発見したのですね」
「はい。てっきり、死んでいると思って、悲鳴をあげてしまったんです」
「その時、まったく遺体には触れなかったんですね」
「恐くて……」
「何か物音がしたとか、不審な点はありませんでしたか?」
「いいえ、何も。気が動転していましたのでなにも……」
「そうですか、わかりました」

 続いて現場立ち会い者達の証言をとることにする。
「そしてウィング大尉達が、カテリーナの悲鳴を聞きつけてやってきたんですね」
「そうです」
「何か不審な点に気づいた事はありますか?」
「いいえ」
「どなたか、遺体には触りましたか?」
「生死を確認するために、わたしが脈を計りました。首筋です」
 レイチェルが名乗り出た。
「他の箇所には?」
「いいえ。触りません。それで死んでいると判って、捜査科に連絡しました。現場保存のために、遺体はもちろん周辺の器械にも触れないよう、物品を動かさないように指示しました」
「おそれいります。捜査協力感謝します」

「ミシェールに最後に会った方は?」
「たぶんわたしだと思います」
 ミシェールと同室のクリシュナ・モンデール中尉が答える。
「ミシェールの死亡直前の行動を教えてください」
「ミシェールとわたし達は、食事前にこのジムで汗を流していました。その後の食事時間に疲れたと言って、食事を拒否して部屋に残ったんです。それが最後でした」
「同室のみなさんは、揃って食事に行かれたのですね」
「はい。当直のカテリーナ以外は一緒でした」
「ミシェールが着ていたレオタードはその時と一緒ですか?」
「はい。同じです」
「最後に姿を見たという正確な時刻が判りますか?」
「うーん。時計を見ていないから……。あ、そうだ! 艦内FM放送で、今流行の『サラサーテの彼方』という曲が流れはじめたから……」
「カテリーナはADでタイムキーパーをやってるそうですが、調べられますか?」
「はい。スタジオで当時のタイムスケジュールを調べれば正確な時刻が判ると思います。スタジオ要員なら誰でも判ります」
「判りました。後でスタジオに寄ってみましょう」
「放送中はスタジオには入れないので、午後五時のスタッフ交代前を見計らって訪ねると丁度良いと思います」
「ありがとう」
 メモ帖に午後五時スタジオと記入するコレット。

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2021.01.10 12:51 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅴ
2021.01.09

第十章 反乱





 共和国同盟から独立宣言をしたアルサフリエニ共和国は、鉱物資源豊富なカルバキア共和国、重金属工業都市国家惑星トバ、そして防衛軍事基地のカラカスを拠点とする連合共和国である。
*参照 第二部 第五章 アルサフリエニ

 カラカス基地に軍令部総本部を置いたゴードン・オニール。
「こんな事になるなら、軌道衛星砲を外すべきじゃなかったな」
 司令室の窓から上空を見つめながら呟くゴードン。
「あの時は、カラカスは放棄する予定でもありましたからね」
 副官のシェリー・バウマン大尉が応える。
「タルシエン要塞のガデラ・カインズ准将から何度も会見の要請が出ております」
「会っても無駄だろう。見解の相違は変わるものでない」
 その表情は、かつて『皆殺しのウィンディーネ』と呼ばれ、バーナード星系連邦艦隊を追撃し、降伏すらも認めず皆殺しにしたあの頃の目をしていた。
 征服為政者に対するゴードンの思想は冷酷にして無情だった。
「タルシエン要塞より、銀河帝国政見放送の再放送が流されています」
「今更だな」
 ぶっきらぼうに答えるゴードン。
「一応視聴するだけも」
「勝手にするさ」
 アレクサンダー皇太子こと、アレックスの政権放送。
 やがて核心的な部分となった。
『共和国同盟は元の政体に戻すこととする。相当の準備期間を設けて、評議会議員選挙を執り行う。概ね2年程になると思われるが、その間は軍が暫定政権を敷くこととする』
 その場に居た参謀たちは、一様に耳を疑った。
「前回聴いたのと違っていますよ。確か以前は、
『共和国を帝国領に編入し貴族の所領とする』
とか言ってましたよね」
「どちらが本当の放送なのでしょうか?」
「今の放送は、ランドール提督が日頃から言っていた内容に近いです」
「しかし、権力を手にした途端に豹変して……ということは、過去の例を挙げるまでもないです」

「放送を消せ!」
 慌てて放送を消すオペレーター。
「我々は、共和国同盟から脱退して独立宣言したのだ。今更、尻尾を振って元の鞘に納まろうとするな」

 やがて、ランドール提督がタルシエン要塞に入港したという情報が入った。
「説得しにくるのでしょうか?」
「帝国艦隊併せて一万数千隻を引き連れてかね?説得するつもりなら、せめて旗艦艦隊だけでくるべきだろう」
 旗艦艦隊だけで行こうとしたアレックスであるが、マーガレット皇女などが大反対したからこその帝国艦隊引率なのであるが。
「何にせよ、せっかくの機会だ。一度、アレックスと一戦交えてみたいと思っていたのだよ」
 自分の願望のために、部下を巻き添えにしようというのも考え物だが。

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2021.01.09 15:37 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第八章 犯罪捜査官 コレット・サブリナ Ⅱ
2021.01.08

第八章・犯罪捜査官 コレット・サブリナ




 共和国同盟軍情報部特務捜査科第一捜査課艦隊勤務捜査官。
 それがコレット・サブリナ中尉に与えられた正式称号である。
 事故であれ殺人であれ、人が死ねばまずは第一捜査課(殺人課とも呼ばれている)の彼女が呼ばれて現場検証にあたることになっている。配下の捜査員とと共に現場検証にあたるコレット。
 すでにアスレチックジムは関係者以外立入禁止の処置がとられている。
 ミシェールが死んでいたマシンは、滑車からロープに繋がったウェイトを、持ち手を引っ張って持ち上げていくというものである。
 レオタード姿で死んでいる。
 一見、手が滑って持ち手が器械に引っ掛かったところに、ロープが首に掛かりウェイトの重みで首が締まって、窒息死したようにも見える。
「ウェイトの質量は片方ずつ五十キロか……。艦の重力は地上の六分の一程度しかないから、実質十キロ弱分の筋力ゲージね……。これくらいの重量で首が絞まって窒息死するだろうか」
 重力六分の一で、ウェイトが軽くなるのと同じように、人の体重も六分の一になるから、五十キロのウェイトでも人の体重を支えて、首吊り状態を十分維持できるが……。筋力十キロあれば、首に絡んだロープを外せるはずだ。
「ロープが絡んだときの勢いで、急に首を絞められて気絶したんじゃないですか。そしてそのまま……」
 しかし、明らかに不自然だ。持ち手は前へ引っ張っていくものだが、たとえ手が滑っても、反動で持ち手が首に掛かるようにカーブを描いて後方へ飛ぶとは考えにくい。落下するウェイトに引っ張られてまっすぐ戻るはずだ。
「誰か、遺体に触らなかった?」
「いいえ」
「だとしたらおかしいな」
「何がおかしいのですか?」
「この膝の傷だよ」
 タイツで隠れていて注意深く観察しないと気がつかないが、明らかな擦過傷を負っていた。
「ああ、これね。アスレチックジムですからねえ。擦り傷くらいは日常茶飯事じゃないですか?」
「そう思うか?」
「ええ、まあ……」
「いや、違うな。この傷は、たぶん死後に負ったものだ」
「え? どうしてですか?」
「それは、解剖にかければはっきりするだろう」
「教えてくれないんですか?」
「憶測で物事を判断するものじゃない」
 遅れて臨検医が到着して観察をはじめた。こうした場合の当然として、特に首筋を重点的に調べている。
「頸椎損傷の形跡はありますか?」
 気絶するほどのショックが首に掛かっていたかを判断するためである。
「外見からでは判断できませんねえ。解剖してみないことには」
「直接の死因は?」
「首筋に絡んだロープによって頸動脈が圧迫され、脳への血流停止による脳酸欠死というところです。死後およそ一時間というところですかね」
「何か不審な点は発見できませんでしたか」
「つまり、他の場所で殺された後に偽装工作として、マシンに括りつけられたような跡が見られなかったどうかということですね」
「お察しの通り」
「こういった場合ではよくあることなので、その点は念入りに調べました。結論は解剖の結果を踏まえて慎重に判断しなければなりませんので、私の管轄を外れます。私は事故現場の証拠を集めたり保存したりするのが任務ですから。ただ、個人的見解でよろしければ……」
「どうぞ、それで結構です」
「まずは首筋を見ていただきましょう」
 臨検医が指し示す首筋に注目するコレット。
「ごらんの通り、ロープの絡んだ箇所の下側に紫斑が見られると思います」
「そう言えばそうですね」
「この紫斑が直接の死因となったもので、頸動脈にかかっているのが判ります。これはつまり、首が締って死んだか気絶した後でロープが緩んでずれたか、或は誰かに首を絞められて殺された後で、改めてロープに吊るされたことを意味しています」

 医師は手近なロープを取って、コレットの首に巻くようにして軽く絞めて見せた。
「人の首を絞めて殺そうとした場合の絞殺班は、被害者と犯人の身長差、或はどのようにして首を絞めたかによって変わってきます。例えば天井の張りに渡したロープで吊るし首にするとかですね。もし背の低い犯人が背後から襲った場合、このように丁度鎖骨の上辺りにかかります。この位置はミシェールの場合と同じですね」
「つまりミシェールは自分より背の低い相手に首を絞められた可能性があるということですね」
「あくまで可能性ですがね……」
「ところで、ロープの位置と紫斑の位置がずれている点ですが、本当は事故で首が締まってぐったりとなった後で、ずれたということはありませんか」
「否定はできません。解剖してみないことには結論は出せませんから。最初に申しました通りに、これはあくまで私個人の見解なのです」
「わかりました。どうもありがとうございました。あ、そうだ。膝の擦り傷の鑑定をお願いしておきます」
「擦り傷? ああ、これですね……。判りました。調べておきます」
 自分なりの調査を一通り終えたので、被害者のそばを一旦離れて、発見者達の証言を取ることにした。
「発見者達とミシェールと同室の者は集めたのか?」
 配下の捜査員に確認する。
「はい。隣の部屋に」
「よし。早速尋問しよう」
「司令官に報告は?」
「後だ。記憶が鮮明なうちに証言をとっておくのがセオリーだよ」

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2021.01.08 07:19 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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