銀河戦記/鳴動編 第一部 第十八章 監察官の陰謀 Ⅰ
2021.04.02

第十八章 監察官の陰謀




 アレックスは敵艦隊の新たなる情報を得て、幕僚達を集めて基地防衛の作戦について協議することにした。
「さて、以前にも話したとおりだが、連邦軍の総攻撃の詳細が判明した」
 その後をレイチェルが補完する。
「その総数は八個艦隊におよび、うち二個艦隊がフランク・ガードナー提督の守るクリーグ基地へ。このシャイニング基地には三個艦隊が向かっているという情報がはいりました」
「三個艦隊!」
「とても数では太刀打ちできない」
「でも提督なら……」
 作戦会議初参加のフランソワが言いかけたが、
「馬鹿ねえ。奇襲攻撃で背後を襲うのではないのよ。カラカス基地からシャイニング基地に至る間に奇襲を掛けられるような要衝となる地域は存在しないわ。防衛戦となれば正面決戦とならざるをえないでしょ。つまりは数が物をいうのよね」
 とジェシカがたしなめる。
「そうなんですか?」
「それでよくも首席卒業できたわねえ。まさかカンニング常習犯ということでもないわよねえ」
 新人いびりが好きなジェシカだった。
「う……。ひ、ひどい」
 今にも泣き出しそうなフランソワ。
「ジェシカ先輩。新人のいじめはやめてください」
「あらん。楽しみにしているのに……」
「おい。作戦会議中だぞ」
 そんなやりとりに粛清を促すゴードン。
「ところでカラカス基地の方は、どうなのですか」
 カラカス基地方面の守備を任されているカインズが尋ねた。自分の管轄する基地がどうなるかを知りたいのは当然であろう。
「今の所そちら方面に向かったという情報は得られていない」
「カラカスは銀河乱流の中洲に取り残された恒星系です。そこから共和国同盟に進撃するには、航行不可能な宙域で囲まれた隧道を通らねばなりません。テルモピューレ宙域会戦で手痛い敗北を喫した経緯から、無理してそこを通過する危険を冒すことはしないと思われます。結局シャイニング基地方面に転進しなければならない。だったら最初からシャイニング基地を攻略したほうが得策です。それに軌道衛星砲というやっかいな代物で武装されているからでしょう。たかが無人の装置にたいして多大な被害が想定できる作戦に艦隊を派遣するわけにはいかないでしょう」
 パトリシアが自分の考えを述べた。
 これまでの連邦側の行動体系から導かれる方程式から、さらなる推論を加えて熟慮された答えは誰しもが納得した。
「パトリシアの考えは九割は正しいと言えるだろう。残りの一割にかけてカラカス基地を陥落させて隋道を強行突破して進撃しないとも限らないが、それを阻止する手立ては我々にはない。シャイニング基地だけで手一杯だ。両基地のどちらかを選択するとなれば、より戦略的価値の高いシャイニングに決まっている」
「それで、残る三個艦隊は?」
「あ、それは補給のための輸送ルート確保や、惑星攻略部隊そして占領後の基地確保などの後方作戦部隊のようですね」
「どうやら連邦は本気のようだな。後方支援部隊まで連れてきていることは、確実に基地を陥落して拠点とし、共和国同盟に進軍する戦略だ」
 敵側の動静がほぼ確定された。
 次に考えるべきことは、味方がどうこれに対処するかである。
「さて、どうしたものかねえ。困ったものだ」
 アレックスは呟くが、それが単なる口癖であり、少しも困っていないだろうと推測する一同であった。すでに作戦の概要を固めているようだ。
 しかしだからといってすぐには公表しないアレックスであった。何のために作戦会議を招集したのか、意味をなさなくなるからである。部下の考えの中にも自分の考えたことよりも優れたものがあるかも知れない。だから、まずは部下の意見から先に発表させるというのが常だった。
 無論、ゴードンたちも重々承知のことだった。
 参謀長であるパトリシアが口火を切った。
「こうしてはどうでしょう。ここは一端退いて、クリーグ基地の援軍に回ります。それだと丁度二個艦隊同士の決戦となりますし、たぶん敵も我々が援軍に来るなんて知る由もないでしょうから、敵の背後を突くこともできるでしょう。さすれば敵を壊滅させることも可能かと。その後でガードナー提督の艦隊と合わせて二個艦隊で、シャイニング基地に戻って三個艦隊と対峙します。この場合防衛にたつのは敵側、攻撃側のこちらには作戦的には有利に運べます」
「確かにそうかも知れない。しかし、長距離を往復して休む暇なく戦闘に駆り出される兵士達の疲労度のことを失念しているな」
「そうか。最初に同数の敵と戦って、休む間もなく引き返して数で優る敵と再び戦わ
なければならない……心理的にとてもまともに戦える状況ではありませんね」
「クリーグ基地での一戦目はともかく、シャイニング基地での戦闘は最悪の環境になる」
「だめですか……」
「いや、作戦の主旨は要点を突いて巧妙だ。諦めるのはまだ早い。もっと練りあげれば何か解決策があるかもしれない」
「はい」
「参謀長の意見は再検討ということで、他に案があるものはいないか」
 アレックスは一同を見回すが、頭抱えたまま動く気配はなかった。
「うむ……やはり、難しいか」
 一同、言葉に詰まっていた。

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2021.04.02 09:12 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十七章 リンダの憂鬱 Ⅷ
2021.04.01

第十七章 リンダの憂鬱




「諸君、そのまま聞いてくれ」
 と一言置いてから、静かに言葉を紡いでいく。
 食堂は静まり返り、提督の話を聞き漏らさないようにと、耳を澄ましていた。
「すでに諸君らも聞いていると思うが、連邦の艦隊がついに出撃を開始した」
 ざわざわとどよめきが沸き起こる。
 とうとう来たかというため息が漏れる。
「このシャイニング基地には三個艦隊が押し寄せていることが判明した。しかしだからと言って、恐れおののき、慌てふためくことだけはしないで貰いたい。今後の作戦は、これから参謀達と協議して決定するが、すべてを私と配下の有能なる指揮官に委ねて欲しい。私には君達の生命を守り、家族の元へ送り届ける義務がある。無駄死にするような戦いに誘い、悲惨な結果となるようなことは決してしないから安心してくれたまえ。そしていざ戦いとなった時は、己の能力のすべてを引き出してそれぞれの任務を全うして欲しい。諸君の健闘を期待する。以上だ」
 ざわめきが去り、静けさが食堂を覆いつくした。事の重大さに動くものはいなかった。
 それぞれにアレックスの語った内容を吟味しているのであろうか。
「さて、食事だ」
「え? すぐにでも作戦会議を招集するのでは?」
「それは食事の後だ。戦闘の前にはちゃんと腹ごしらえしなくちゃな。それも軍人の責務だ」
「はあ……そういうものでしょうか?」
「そうだよ。食べられる時に食べておくもんさ」
「わたしもご一緒してよろしいですか?」
「ああ、かまわんよ」
 放送を終えて、テーブルに戻ろうとした時だった。
「提督。質問があります」
 一人の下士官が勢い良く手を挙げて立ち上がった。
「何かね。アンドリュー・レイモンド曹長」
「え?」
 いきなり名前と階級を当てられてびっくりしているレイモンド曹長。
「提督は、どうして一介の下士官である自分の名前をご存知なのですか?」
 本来の質問の前に、確認してみる。
「作戦大会議に召集されたにも関わらず寝坊して遅刻し、罰として会議室の後方で立たされた上に、居住区の男子トイレ全部の清掃を命じられた君の事は忘れるはずがなかろう」
 食堂に大爆笑が湧き上がった。
「そ、そんなことまで覚えてらっしゃるのですか?」
「遅刻してきたのは君だけだ。しかもぐっすり眠っていたなんて、よほどの図太い精神を持っていると感心していたのだ。それで覚えていた」
 食堂のあちらこちらから、くすくすという笑い声が聞こえている。
 便所掃除をさせられている当人をからかったりした者もいるだろう。しばらく艦内の話題の人となっていた。そんな思い出し笑いが続いている。
「提督って意外と物覚えがいいんですね」
 フランソワがレイチェルに囁いている。
「あら、知らないの?」
「何がですか?」
「提督の記憶力は艦隊随一なのよ。一度覚えた将兵の顔と名前は絶対に忘れないわ」
「え? お姉さまが一番じゃなかったんですか」
「一応そういうことになってるだけ。記憶力はパトリシアの十倍以上は軽くあるんじゃないかしら」
「う、うそでしょ?」
「計算能力でも、艦隊一と言われているジェシカをはるかに凌いでいるのよ。類まれなる記憶力と計算処理能力があってこそ、不時遭遇会戦での突然の敵艦隊との戦闘が起こっても、あれだけの完璧な作戦を考え出し、見事な勝利へと導いてくれることができるのよ」
「知りませんでした」
「いいこと、この事は他言無用よ。提督はご自身の自慢話になるようなことはあまり公表されたくないらしいの。艦隊参謀長の副官であるあなただから教えてあげたのだから」
「判りました」

 さすがに情報参謀のレイチェルだと実感したフランソワであった。自分の素性のすべても把握されているんじゃないかしらと少し不安にもなる。がどうなるでもなし、取りあえずは意外な提督の素性を知ったことを胸にしまって置くことにした。
 フランソワとレイチェルが小声で囁きあっている間、レイモンド曹長は顔を赤らめその時の状況を思い起こしているようだった。
 頭を掻きながら謝るレイモンド。
「そ、そうでしたか……その件では申し訳ありませんでした」
「それはいい、もう済んだことだ。質問を続けたまえ」
「あ……は、はい」
 敵艦隊の来襲を告げられて緊迫感に押し潰されそうだった乗員達だったが、二人のやりとりですっかりリラックスしてきていた。
 それはアレックスが場の雰囲気を和ませようと、とっさに機転を利かした話題転換だったのである。
「たった今、三個艦隊もの敵艦隊が押し寄せてきていることを伺いました。提督はいかがなされるおつもりですか? この後参謀達を交えて具体的な作戦を練られると思いますが、作戦会議においては事前に提督ご自身の考えをいつも用意していると聞きうけております。今回の場合も、すでに作戦の概要をまとめておられるのではないですか? できればこの場で率直なご意見をお伺いできないでしょうか?」
 別の隊員が乗り出すようにして尋ねる。
「徹底抗戦ですか? 策略を巡らしての奇襲ですか? それとも撤退しますか?」
 他の隊員達も思いは同じようで、聞き漏らさないようにと聞き耳を立てているようであった。
「残念だが、今はまだ君達に言えることは何もない。不確かなことをここで言っても不安を駆り立てる結果となるだけだからだ。いずれ作戦が本決まりになれば、君達に発表するからそれまでおとなしく待っていてくれたまえ」
「提督のことを、私達は信じております。提督が何時如何なる時も私達のために、精進努力してらっしゃることも重々承知しております。しかしこの情勢下にあっては、少なからず不安を抱いております。せめて、攻めるのか守るのかだけでも知ることが出来れば、安心して枕を高くして眠れるというものです」
 枕を高くして眠るという言葉が、宇宙でどれほどの意味があることなのかを理解して使ったのではないだろうが、本人にしてみればぐっすり眠れるという単純な意味合いだろうと思う。
「曹長、提督をこれ以上、困らせないでください。いずれ作戦は発表されます。おとなしく待っていてあげてください」
 レイチェルがやんわりとたしなめた。
 こういった場を収めるのは、レイチェルの得意であった。乗員達の間のもめごとや騒乱を丸く治めることも主計科の任務の範疇に入っている。
 憧れの的でもあるレイチェルに、そう言われればおとなしく引き下がるよりなかった。
 女性士官達だけでなく、男性士官達の間でもレイチェルの人気は抜群だったのである。
 やがて食堂内は、いつものざわめきが戻り始めていた。
 アレックスを信じ、すべてを任せよう。
 絶大なる信頼関係に裏打ちされた上官と部下達との心温まる食堂での一件であった。

「ところでレイチェル」
 アレックスが小声で囁く。
「リンダの事、ありがとう」
「いいえ。どう致しまして」

 第十七章 了

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2021.04.01 13:13 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十七章 リンダの憂鬱 Ⅶ
2021.03.31

第十七章 リンダの憂鬱




「どうぞ、メニューです」
 ウェイトレスよろしく、アレックスの目の前に、すっとメニューを持った手が差し出された。
 無意識にそれを受け取り、ページを開くと、料理メニューではなかった。
「何かね、これは?」
 ふと視線をあげて、メニューを差し出した本人を見ると、
「提督の体力トレーニングメニューです。それとこちらがフランソワの分です」
 艦長のリンダだった。その隣にはウェイトレスが控えている。
「な、なによこれ?」
 メニューを見るなり悲鳴のような声を出すフランソワ。
「今までの二倍の基礎筋トレーニングに、肺活筋の強化トレーニング……」
「こっちは、脚力と腹筋トレーニングが増えているな」
「お二人とも、トレーニング不足とという健康診断が出ております。それに基づきトレーナーと相談して、運動メニューを決定いたしました。艦内に居住するすべての将兵の健康管理を取り仕切るのも艦長の任務の一つです。どうかご理解くださいませ」
「判った……納得いかないが納得するしかないようだ」
 艦長としての責務を果たそうとしてるリンダには従うしかないと判断するアレックス。警報が出てから自分の持ち場へ、急ぎ馳せ参じる運動能力を維持しなければ、自分の役目を果たすことができないのは必至である。それが全艦隊の運命を左右する指揮官たる者なら当然の責務の一つである。命令を下すべき指揮官が遅れれば、指揮統制も乱れ混乱する。
 積極的な行動に出たリンダ。
「そうか……レイチェルが動いてくれたようだな。将兵達の心を掴み揺り動かせる才能。さすがにレイチェルだな」
 感心しきりのアレックスだった。
「ありがとうございます。それではこちらが今日の料理メニューです。鯛の香草風味焼き、あさりと春野菜のクリームソースがお奨めです」
「そうか、それを頂くとしよう」
「あたしもそれでいいわ」
 アレックスが承諾したので、おのずと自分も従わざるをえなくなったフランソワ。つっけんどんに答えていた。
「お二人とも、鯛の香草風味焼き春野菜のクリームソースでよろしいですね?」
 ウィトレスがメニューを確認する。
「ああ、よろしく頼む」
 と言いながらIDカードを差し出すと、ウェイトレスが持っているカードリーダーに差し込んで、メニューを打ち込んでいる。これで厨房への調理指示と、給料天引きが自動的になされる。

 ここの食堂のようなファミリーレストラン風なシステムを採っているのは、第十七艦隊だけである。他の艦隊の食堂は、日替わりでメニューが決められていて、選択の余地がなかった。自慢のシステムであるが、このシステムを考案し採り入れたのが、主計科主任であるレイチェルであった。コンピュータ技師のレイティー及び厨烹科のナターリャ・ドゥジンスカヤ料理長と共に、システムと携帯端末の設計開発を行った。
 ランジェリーショップの経営、女性士官制服制定委員会などと、レイチェルは常日頃から気を配って、メンタルヘルスケアを実践していた。
 このような乗員にやさしいレイチェルに対し、女性士官達は憧れをもって接しており、艦内における意見具申などはすべてレイチェルに届けられていた。

 そのレイチェルが食堂に入ってきた。
 士官達の敬礼を受け流しながら、アレックスの姿を見つけると、一直線に歩み寄ってくる。
「提督。お食事中のところ申し訳ありません」
 と辺りを気にしながら話しかける。一般の将兵達には聞かせたくない内容のようだ。
「ここで、構わん。報告してくれ」
 気を遣っているレイチェルだったが、そう言われては仕方がない。
「はい、では。報告致します」
 姿勢を正して報告をはじめるレイチェル。
「バーナード星系連邦のタルシエン要塞から敵艦隊が出撃を開始しました。二個艦隊がクリーグ基地へ、三個艦隊がシャイニング基地に向かっています。その他、占領機動部隊や後方支援部隊を含めて、総勢八個艦隊です」
「そうか……最初の情報どおりというわけだな」
「その通りです」
「判った、ご苦労だった。引き続き情報の更新を頼む」
「かしこまりました」
 それから少し考えてから、
「レイチェル。今ここにいる全員に待機命令を出してくれ。外に出ないように」
「判りました」
 足早に食堂前方に移動するレイチェル。
「フランソワは、食堂にある艦内放送をセットし、全艦放送の手配を取ってくれ」
「はい!」
 同様に、食堂後方にある放送施設に掛けて行くフランソワ。
 レイチェルが大声を張り上げて、食堂にいる全員に伝える。
「みなさん。お静かにお願いします。これから提督のお話があります。食堂から出ないようにしてください」
 何事かと、レイチェルやアレックスに注目する一同。
 その間に放送室にたどり着いたフランソワが、艦橋にいるパトリシアに連絡する。
『艦橋。ウィンザー少佐です』
「あ、先輩。食堂の艦内放送システムを全艦隊放送に流してください。提督からのお話があります」
 ディスプレイにパトリシアが現れると同時に話しかけるフランソワ。
「判りました。全艦放送の手配をします」
 パトリシアにもレイチェルの報告が届いているのであろう。アレックスの意図をすぐさま理解して、全艦放送の手配をはじめた。
 つかつかと歩いて食堂の一番前に来るアレックス。
 食堂の職員がマイクスタンドを運んできて、アレックスの前に立ててから小声で言った。
「接続は完了しています。どうぞお話ください」
「判った」
 アレックスはマイクを軽く叩いて、改めて接続が完了しているのを確認し、深呼吸してから話し出す。

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2021.03.31 13:26 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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