銀河戦記/鳴動編 第一部 第七章 不時遭遇会戦 Ⅱ
2021.01.01

第七章 不時遭遇会戦




 アレックスは、カラカス基地に旗艦部隊三百隻を残してロイド少佐に任せ、ゴードンとカインズ配下の両部隊を引き連れて、キャブリック星雲へと訓練航海に向かった。
 旗艦サラマンダー以下総勢四百隻のうちの半数が、カラカスにおいて搾取した艦船を同盟仕様に改造したものであり、乗組員も不慣れな新人が多かった。
「ウィンザー中尉」
「はい」
「君が出航の指揮を取りたまえ」
 というと立ち上がって、指揮官席を開けた。
「わたしが……ですか」
「そうだ。今回の訓練航海は君達参謀だけで練り上げた作戦で動く。私は傍観するだけにしておくよ」
「わかりました」
 代わって指揮官席に腰を降ろすパトリシア。
 指揮パネルを操作して指令を下す。
「パトリシア・ウィンザー中尉である。これより訓練航海の指揮を取る。全艦、当初作戦通りにキャブリック星雲にコース設定」
「キャブリック星雲にコース設定しました」
「よろしい。全艦微速前進」
「全艦、微速前進」
 パトリシアの指令を、艦橋オペレーターが復唱しながら、全艦に伝えている。
 そろそろと慎重に動きだす艦艇。
 もちろん出発当初より、艦隊リモコンコードを使用しないのは無論のこと、自動操舵装置も解除した手動操艦によって、運行されていた。
「全艦、微速前進で航行中。異常ありません」
 部隊編成当時には接触事故が多発したものだが、操舵手・副操舵手が操艦にも慣れていくうちに、めっきり事故は減ってきていた。
「巡航速度へ移行します。速力三分の一」
「巡航速度。速力三分の一」
 訓練航海なので、いっきに全速力を出すことはしない。操舵手や機関課の乗員に慣れてもらうことが大事だからだ。
 航海が順調に滑り出したのを確認して、アレックスは一時艦橋を離れることにした。
「スザンナ!」
「はい!」
「しばらくパトリシアのそばにいてやってくれないか。私はしばらく司令室にいる。何かあったらすぐ連絡するように」
「わかりました」
 と答えて、艦長席から副指揮官席に移動するスザンナ。
 巡航時における艦隊運用の経験は、一年先輩のスザンナの方が豊富である。アレックスは、戦闘時や訓練以外では、スザンナに運航の指揮を執らせていた。

 司令室。
 キャブリック星雲の投影されたパネルスクリーンを凝視しながら、何事か思慮にふけっているアレックス。
 ノックの音がした。
「レイチェル・ウィングです」
「入りたまえ」
 扉が開いてレイチェルが入ってくる。
「早速だが、報告してくれ」
「はい。やはり、敵の一個艦隊が隠密裏に動いているようです」
「行き先は?」
「不明です。時間が足りなくてまだ確認できていません。しかし、司令の推測通りに行動している可能性はかなりの確率であると思います」
「そうか……ありがとう、助かったよ。敵艦隊の動静を逸早く察知するなんて、さすがレイチェルだな」
「いえ。どういたしまして」
「となると……」
「訓練は中止か延期なさってはいかがでしょうか?」
「そうもいくまい。カラカス基地の防衛という任務がある以上、逃げているわけにはいかないのだ」
「でしょうねえ。となると、司令のお手並みを拝見できるわけですね」
「あのなあ、気楽に言うなよ」
 といったまま、再びスクリーンのキャブリック星雲に視線を移すアレックス。
 その時、
「司令! 前方にキャブリック星雲が見えてまいりました」
 艦橋のスザンナから報告がなされた。
「わかった。今いく」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



2021.01.01 12:43 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第七章 不時遭遇海戦 Ⅰ
2020.12.31

第七章 不時遭遇会戦




 ディープス・ロイド少佐と配下の二百隻の艦船を加えて、アレックスの独立遊撃艦隊はさらに陣容を高めた。
 アレックスは新生部隊の今後を検討するために、司令室において三名の少佐及び大尉、そして各参謀らを交えて協議を計ることとした。
「カラカス基地という要衝を得たことで、当面の我々の課題はこれを死守することである……と、統帥本部の命令ではあるのだが……。そこで今後を鑑みて、我々が直面する問題点と解決方法などについてみんなと協議したい。活発なる意見交換を期待する」
 と言い終えて席についた。
「正直なところ、当基地を守り抜くには艦数が極端に不足しているのは明白なる事実でしょうね」
 ゴードンが最初の口火を切った。
「不足なんて比ではありませんよ。たった七百隻でどうしろというのですか」
「レナード・エステル大尉の言うとおりです。守備にたかだか七百隻。軌道衛星砲を有効に活用するためには、最低一個艦隊は必要です。敵迎撃ミサイルによる衛星砲の破壊を守り、艦隊の接近を許さないためにも」
「衛星砲には攻撃力はあっても、防御力はないに等しいからな」
「衛星砲の攻撃力と守備艦隊の防衛力があってこそ、相乗効果をもたらして堅固な要塞としての機能を果たすことができるのです」
 カール・マルセド大尉の発言に頷く一同。
「レナードとカールの言い分はわかるが、ないものねだりしても詮無いこと。出来る限りを尽くし、やるだけのことをやるだけじゃないのか」
「そうはいいますがね……」
「いっそのこと燃料採掘プラントを破壊して、軌道衛星砲を引き揚げてシャイニング基地に戻るというのは?」
「それはいいかも知れない。元々我々は第十七艦隊に所属しているわけだし、シャイニング基地に軌道衛星砲を取り付ければ守備力は増強されます」
「それは無理だよ。軍部が許すはずがない。チャールズの野郎は、無茶苦茶な作戦指令を与えて、我が部隊をあわよくば殲滅させようと考えているんだ。そんなことしたら敵前逃亡罪だぞ。奴に格好の題材を与えるだけじゃないか」

 しばらく一同の会話に耳を傾けていたアレックスであったが、弱気な意見ばかりにたまりかねて、喝をいれるべく発言した。
「君達は戦う気があるのかね。聞いていれば先程から、艦の絶対数が足りないとか、援軍を要請できないのかとか、弱気な発言ばかりじゃないか。もっと前向きな意見はでてこないのか」
「そうはいいましても……」
「それでは司令には、よい試案がおありなのですね」
「もちろんだ。私は、君達がまるで足りないと愚痴をこぼしているたった七百隻をもって、敵艦隊を撃滅する作戦を考えている。たとえそれが一個艦隊だろうが三個艦隊だろうが、相手にとって不足はない作戦をね」
 一同から感嘆の吐息が漏れた。
「司令の作戦を聞かせていただけませんか」
「話してもいい。だが、君達はそれでいいのかね。作戦会議と称してこれだけの人数が集まりながら、最初から諦めてかかって何ら建設的な意見を述べないまま、結局司令である私の作戦に従うだけとは、悲しいとは思わないか。それで作戦が実行され勝利を得てもすべての戦果は私一人の功績になってもいいのだな。功績をあげ昇進したいという武人の心構えがまるでない。情けないことではあるが、私は君達の任を解き、新たなる参謀を選ぶことにする。それでいいんだな」
「ま、待ってください」
「待ってどうする」
「もう一度、考えなおさせてください」
「いいだろう。だがな、今この瞬間にも敵艦隊がこの基地に押し寄せているかも知れないのだ。一秒の遅れが命取りになることを、君達は理解していないのか。基地を防衛するということは、基地周辺に待機して迎え撃つことばかり考えているようだが、何も敵が接近するまで待っている必要はないではないか。極論をいえば、こちらから出向いていって敵艦隊が要塞を出撃するその瞬間を叩く、発進口に向けてミサイルをぶち込むということも、作戦の一つと考えられないか。誰しもが不可能だと考えられる作戦を可能にする手段を講じられないか、尋常ならざる作戦でもどこかに突破口はあるものだ。先程私は敵艦隊を撃滅する作戦を考えていると言ったが、そのためには第一に、敵艦隊がいつ・どこから・どれくらいの兵力で出撃してくるか、という情報の収集。第二に、進撃ルートの割り出しと攻略ポイントの策定。第三として、最終防衛ラインの設置。そして、すべてを看破された場合のための、カラカス基地からの安全なる撤退マニュアルが必要だ。これらの何一つ欠けても作戦は成り立たない」
 いっきにまくしたてるように論じていたアレックスだが、一息つくように声の調子を落としながら話しを続けた。
「私の考えを理解できない者或は賛同できない者は、直ちにこの場を退出したまえ。そうしたからといって誰も非難はできないはずだ。そもそも我々に課せられている任務自体、常識を逸脱しているくらいだからな。五分待とう、その間に結論を出し給え。退出するもしないも、君達の自由だ」
 そういって、アレックスは立ち上がり窓際に歩み寄った。
 一分立ち、二分立ち、そして五分が過ぎ去った。
 誰も動かなかった。
 ゆっくりと振り向き、再び席に戻るアレックス。
「どうやら私の考えを理解してくれたようだな。さて……カラカス基地の防衛にかかる作戦は、ひとまず宿題としておこう。まずはその前にやらねばならない、キャブリック星雲での戦闘訓練のことを先に片付けよう」
 一同を見回しながら言葉を続けるアレックス。
「ともかく新しく配属されてきた隊員達の訓練が必要となるだろう。特に搾取した敵艦船に搭乗する隊員はなおさらだ。ということで……訓練航海のことは私は口を出さないでおこうと思う。作戦立案からすべて、君達にまかせることにする。作戦が決まったら一応報告したまえ。それではこれで私は失礼する」
 というと、参謀達を残して会議室を退室してしまった。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



11
2020.12.31 15:25 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第六章 カラカス基地攻略戦 Ⅹ
2020.12.30

第六章 カラカス基地攻略戦




 準旗艦ウィンディーネに戻るゴードン。
 副指揮官のレナードが挨拶する。
「お帰りなさいませ。オニール少佐殿」
 すでにゴードンの昇進は知らされていたので、新しい階級で呼びかわしていた。
「どうだい、シルフィーネを追い出された気分は?」
 レナードは大尉に昇進したものの、実質的な指揮統制の経験がほとんどなかった。準旗艦シルフィーネにいても、上からの指令をそのまま伝達するだけでしかなかったからだ。上官であるアレックスの昇進にともなって自動的に大尉までになったばかりなのだ。ゴードンの下で指揮統制の研修中である。
「からかわないでくださいよ。ところでそちらの女性は?」
「ああ、彼女は……」
「シェリー・バウマン少尉です。オニール少佐の副官を仰せ付けられました」
 自ら自己紹介をするシェリー。
「こちらこそ、レナード・エステル大尉です」

 ガデラ・カインズが準旗艦ドリアードに戻ると、第二分隊副指揮官のカール・マルセド大尉からの報告を受けた。
「第二分隊の編成艦数二百隻。乗員の配備及び弾薬以下食料・燃料等の積み込を完了し、いつでも出航可能です」
「ご苦労だった」
「あ、とそれから……」
「ん?」
「佐官に昇進、改めておめでとうございます」
「あ、ああ。ありがとう。君も大尉だったな」
「はい。本来なら後四・五年はかかるはずでした。それもこれもランドール中佐のおかげといえるでしょう。ランドール司令が着任してきた当初は、カインズ大尉を差し置いてと憤慨もしましたが、今では正直に感謝したいと思います」
「そうだな……」
 確かにカールの言うとおりである。ランドールの奇抜な作戦と決断力が、大勝利をもたらして、結果的に昇進を早めたのは間違いない。
 特にクラスの変わる大尉から少佐への昇進には、監査委員会が実施する昇進試験(実戦を含む)や面接が行われ、司令官としての作戦能力や適正が調査されたのちに、承認されてはじめて官位が与えられることになっている。
 しかし、ランドールがそうであったように、名誉十字勲章が授与されるような素晴らしい戦功を挙げた場合などは、特例として無監査で官位が与えられる。
 カラカス基地の奪取という功績により、ゴードン及びカインズ両名は、無監査による昇進を認められたのである。
「おっと、そうだ。紹介しておこう。今度、俺の副官として着任することになった。パティー・クレイダー少尉だ」
「パティー・クレイダーです。よろしく、お願いします」
「こちらこそ。副指揮官のカール・マルセド大尉です」
「マルセド大尉は、準旗艦ノームにいたのだが、エステル大尉と同様に、佐官昇進の準備のため、私のドリアードに第二分隊副指揮官として来ることになったのだ」

 そしてディープス・ロイドが、準旗艦シルフィーネの艦橋に現れた時、艦長以下の艦橋勤務要員から熱烈歓迎を受けたのであった。
「少佐殿。よくおいでくださいました。我々一同、ご命令とあれば即座に最善をもってお仕えいたします」
 シルフィーネの乗員達は、自分達が敬愛する司令官がディープス・ロイドを指揮官として自艦に乗り込ませたことで、彼が信用に足りる人物であることを悟ったのであった。
 サラマンダー以下のハイドライド型高速戦艦改造II式には、アレックスが少尉時代に指揮していた艦長以下の乗員達が乗り込んでいる。つまりはアレックスと共に生死を分かちあってきた懐刀といえる存在なのである。その大切な艦を任せるということは取りも直さず、ゴードンやカインズそしてジェシカに並ぶ者として、作戦部隊の要として位置付けているということであった。
「それでは艦内をご案内いたします」
 バネッサはロイドを連れて、艦内の重要施設を案内して回った。
「ここが、少佐殿のお部屋になります」
 施設を一通り説明して、最後に居住ブロックの私室に案内した。
「一つ確認したいが……ここの艦橋要員は、女性士官ばかりなのか?」
「はい。交代要員も含めて全員女性です。もちろん旗艦サラマンダーを含めて準旗艦すべてが指揮官を除いてそうなっています」
「そうか……」
「指揮官殿は、女性に偏見を?」
「いや。そんなことはない。がしかし、男が俺だけという境遇に慣れるのが大変だなと思ってね。お手柔らかにたのむ」
「はい。でも、旗艦サラマンダーに比べれば、男女比はまだそれほどでもありませんよ」
「まあ、旗艦となれば、戦闘そのものよりも、作戦・通信・管制が重要な役割を背負
っているから、自然女性オペレーター士官も多くなるだろうな」
「少佐に関わる施設などの案内は以上です。艦橋に戻りましょう」
「そうだな」
 バネッサに従い艦橋へと戻るロイド。
「アレックス・ランドールか……ついていく価値のある人間であることは確かなようだ」

 第六章 了

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング



11
2020.12.30 15:16 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

- CafeLog -