銀河戦記/拍動編 第三章 Ⅱ 戦闘
2023.01.21

第三章


Ⅱ 戦闘


 宇宙空間を飛ぶセルジオ艦ビーグル号。
 艦橋では、元囚人達によって計器は操作され、インゲル星から遠ざかりつつあった。
「プラズマエンジン大気圏外出力から惑星間航行速度へ」
「インゲル星重力圏突破しました」
 パネルスクリーンに離れてゆくインゲル星を見ながら歓声を上げる囚人達だった。
「やっと解放されたぞ!」
「我々は自由になったんだ!」
 一同口々に叫んでいる。
「それはまだ早いぞ」
 ビューロン少尉が注意勧告する。
 それと同時に艦が激しく揺れる。
 あちこちに飛ばされ動揺する囚人達。
「何だ。一体何が起こったんだ?」
 レーダー担当になっていた者が叫ぶ。
「右舷後方に敵地球艦隊接近中!」


 インゲル星の背後から現れた、クロード王率いる地球艦隊。
 旗艦ノーザンプトンの艦橋内。
「いいか。絶対に逃がすなよ」
「はっ!」
「巡洋艦前へ。駆逐艦は両翼に展開して、魚雷で徹底的にやれ!」
 艦長がテキパキと指令を下している。
 その様子を見つめながら、スクリーンを眺めている。
「それにしても、セルジオ様ともあろうお方が、簡単に艦を奪われるとは……」

 ビーグル号艦橋内。
「追尾装置セットオン!」
「いいか。よく狙って撃て」
 ビューロン少尉が注意する。
「方位修正右0.2秒。上下角そのまま。敵艦主砲軸線上に乗りました」
「よし。攻撃開始」
 攻撃を開始するビーグル号。
 ビーム砲が地球艦隊に当たって砕け散る。

 ノーザンプトン艦橋。
「敵が撃ってきました!」
 副官の報告にクロード王が応える。
「なあに大したことはない。相手は戦艦ではないのだ。たとえ高性能のゴーランド艦とてたかが一隻。我々の方が数・火力とも上だ」
「それに、ビーグル号をまともに操縦したことのない連中ですからね」
「そういうことだ」

 ビーグル号艦橋。
 濛々(もうもう)と煙を上げる艦内。
 時折起こる爆風。
 倒れている兵士と囚人達。
「機関部損傷。エネルギーゲージ70%ダウン」
 機関部からの連絡が入る。
「クソォ! ここまで来ながら……」
「諦めるのは早い。最後まで戦うのだ」
 次々と被弾し、損傷の酷くなってゆくビーグル号。
「第一主砲被弾。第七副砲……全砲使用不能」
「もはやこれまでか……」
 老人が掛かりかける。
「アレックス様」

 ノーザンプトン号艦橋。
「敵は完全に沈黙しました」
「よし。ビーグル号に打電しろ。降伏か死か選ばせるのだ」
「了解」
「脱獄者は処刑あるのみではないですか?」
「本来ならばな。しかしビーグル号はセルジオ様の船でもあるしな……。通信士、収容所のセルジオ様との連絡は取れたか?」
「はっ。それがセルジオ様はお休みになられたとかで、応対に出られないとのことです。代わりにガードナー少佐が出られて、ビーグル号に関しては一切口出し無用捨て置けとの返答です」
「何だと! 一切関知するなと言うのか?」
「その通りです」
「一体何を考えているのだ。こんな重大事にセルジオ様が眠っておられる。その上、奪われたビーグル号も捨て置けとは……」
「陛下。ビーグル号が逃げていきます」
「通信士、先ほどの打電の返答は?」
「ありません。応答なし」
「よし、撃ち落せ」
「しかし、ガードナー少佐は捨て置けと」
「たかが将校ごとき聞く耳持たぬわ。セルジオ様直々のお言葉なら別だがな」
「どうしますか?」
「ええい! かまわん撃破してしまえ」
「了解。主砲発射用意! 目標ビーグル号」
「しかし陛下。敵に奪われはしたものの、ビーグル号はセルジオ様の船です。いいのでしょうか?」
 副官が確認する。
「かと言って、囚人をこのまま逃がしてもいいというのか?」
「それは……」
「お前は黙っていろ!」
「陛下、主砲発射準備完了しました」
「よし。発射しろ!」

 ビーグル号艦橋。
「敵がまた撃ってきました」
「なすすべもなしか……」
「それにしても、これだけ攻撃を受けても良く持っているのが不思議だ」
「そりゃそうですよ。これはゴーランド艦ですよ。地球艦とは比べものにならぬ程、材質・技術が違います。がしかし、こうも集中攻撃を受けては、さしものゴーランド艦とて……」
 その瞬間、艦内を爆風が襲う。
 吹き飛ぶ囚人達、そして老人。
 濛々たる黒煙が立ち込める。
「おじいさま!」
 老人のもとに駆け寄るルシア。

 ノーザンプトン号艦橋。
 正面スクリーンを見つめるクロード王。
「よし。そろそろ止めを刺せ」
「はっ。ミサイル艦前へ」
 前進するミサイル艦。
「ミサイル発射!」
 多数のミサイルがビーグル号に襲い掛かる。

 ビーグル号艦橋。
 老人の身体に触れ伏して泣いているルシア。
 それを見つめているアレックス達。
「ミサイルだ!」
 誰かが叫ぶ。
「あれにやられたら一たまりもないぞ!」
 ミサイルがビーグル号に襲い掛かる。

 ノーザンプトン艦橋。
 まばゆい光に目を細めるクロード王。
「命中です」
「うむ……」
 次第に光が薄らいでゆく。
「むっ?」
 スクリーンを凝視するクロード。
 そこにはビーグル号が生存していた。
「どうしたんだ? ビーグル号は健在だぞ!」
「そんな馬鹿な! ミサイルは直撃しました。木っ端微塵になっているはずです」

 ビーグル号艦橋。
 床に伏して震えている者、耳を押さえて目を瞑っている者。
 皆やられたと思ってかじっとして動かない。
 ゆっくりと立ち上がるアレックス。
「どうしたんだ?」
「ん……ミサイルは?」
 ビューロン少尉も不可思議な表情をしている。
 倒れている者も、次々に起き上がりスクリーンを見つめる。
「助かったのか?」
「ミサイルがぶつかる寸前に爆発したみたいだけど……」
「あ、あれは何だ?」
「どうした?」
 囚人の一人がスクリーンを指さす。
 そこには見知らぬ宇宙船が映っていた。
「あの船が迎撃してくれたのか?」
「地球の船ではないようね」
「ケンタウリの船でも、トラピストの船でもないようだ」

 ノーザンプトン艦橋。
「右舷三十度に未確認艦発見!」
「何だと?」
「ミサイル接近中! 五秒で接触します」
「迎撃しろ!」
「駄目です。間に合いません!」
「機関全速、取り舵一杯!」
 眩い閃光と共に、護衛艦の一隻が轟沈した。
「第二波接近します」
「全艦、主砲をあの宇宙船に標準合わせ! 機関砲、ミサイルを撃ち落せ!」
「あれは! 地球を脱出した例の宇宙船ですよ」
 副官が気付いて報告する。
「何、本当か!」



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