銀河戦記/拍動編 第六章 Ⅰ 奴隷星アンガス
2023.04.29

第六章


Ⅰ 奴隷星アンガス


 とある惑星の鉱石採掘場。
 銃で武装した兵士達に囲まれて、多数の奴隷達が鉱石採掘を強制されていた。
 ここはケンタウリ帝国ゴーランド艦隊運営の捕虜収容所だった。
 というのは名目的で、実際は国際捕虜条約に違反して、捕虜を束縛して重労働を課し奴隷化していた。
 精気なく作業を続ける捕虜の男性たち。
 女性たちは、調理室などで看守や捕虜たちの食事や衣服などを作らされ、さらには看守たちの慰め者にもされていた。

 その中に、ここへ連れてこられたばかりのヴィクトリア号艦長のアンドレ・オークウッドもいた。
 慣れない作業に、ふと息をつくアンドレ。
 すると、すかさず兵士がやってきて鞭を振るう。
「何をしているか! 休む暇があったら働け!」
 鞭を打たれて、キッ! と睨みつけるが、
「何だ? その顔は。貴様らは奴隷だ。黙って、身体を動かしているだけでいいんだ。分かったら、さっさと働け!」
 さらに鞭が飛ぶ。
 その鞭を左腕で絡めとるようにして奪い取るアンドレ。
 反撃態勢を取り、逆に鞭を相手に向かって振ろうとした瞬間だった。
 銃声が鳴り響き、鞭を持つアンドレの腕を銃弾が打ち抜いた。
 苦痛に顔を歪ませて、鞭を手から落としてしまう。
「何をしているか!」
 銃を構えた別の兵士が駆けつけてくる。
 さらに抵抗しようとするアンドレに向かって、銃底で頭を殴りつける。
 その場に崩れ倒れるアンドレだった。

 医務室。
 椅子に腰かけ、治療を受けているアンドレ。
「若いね、君は」
 アンドレの腕と頭に包帯を巻きながら、アンドレに向かって諭す医者。
「一応治療はするけど、こんなことが続いたら身が持たないぞ」
 生かさず殺さず。
 捕虜収容所という名ばかりの奴隷星。
 あるとすれば捕虜交換であろうが、最後の砦であるトラピスト連合王国も降伏させた現在、解放されることはないだろう。

 治療を終えて医務室を出ると、兵士が待ち受けていた。
「独房入りだ」
 手錠を掛けられて独房へと連行される。
「今夜は飯抜きだ! 大人しく従っていれば、食事は働いた分だけ出る」
 ガチャリ!
 と扉が閉められ、兵士が去ってゆく。
 一人となり、壁際に腰を下ろして物憂げに考え込むアンドレだった。

 翌日、朝食抜きで労働に駆り出されるアンドレ。
 採石場から鉱石を乗せた手押し車を押して、集積場へと運んでいた。
 その入り口で声を掛けられた。
「昨日はよくやったな。あいつ、監視不注意で減俸になったらしいぜ」
「もう少し手が早ければ、あいつに鞭うちできたのにな」
「残念だな」
 口々に労いの言葉を投げかける捕虜たち。
 そうやって言葉を出せる者は、ここへ連れてこられて日の浅い人々に限られる。数年も経てば精神疲れ果てて無言の境地に陥ってしまう。

 ある夜の独房。
 相も変わらず兵士とひと悶着を起こして幽閉されているアンドレ。
 コンクリート床に寝そべって、明日のために体力回復せんと眠っていた。
 と、廊下の方から足音が近づいてくる。
 カチャリと音がして、扉が開けられる。
 起き上がって身構えるアンドレ。
 入ってきたのは見知らぬ女性だった。
「警戒しないでいいわ。私はあなたの味方です」
「味方? 守衛はどうしたのですか?」
「少し眠ってもらっています。しばらくは起きないでしょう」
「あなたは何者ですか?」
「私の名前は、イブです」
「イブ?」
「ある時は戦闘艦に配属された乗員、ある時は王族に仕える召使い、そして今は捕虜収容所に潜入した工作員というところです」
「工作員?」
「はい。わざと捕まってここへ来れるように小細工をしました」
「優秀なんですね」
「それほどでもありませんよ。それより、あなたに手伝って貰いたいのです」
「手伝う?」
「実は、味方の船が捕虜解放のために、この惑星に接近しつつあります。しかし、強力な防空バリアーが張られていて近づけないのです」
「分かりましたよ。そのバリアーの動力源の破壊工作を手伝ってくれということですね」
「さすが読みが早い、艦長を任されるだけありますね。アンドレ」
「どうして僕の名前を?」
「工作員ですから、容易いことです」

「そろそろ時間ね」
 と呟いたと思うと、しばらくしてから所内に警報が鳴り響いた。
「仲間が騒動を起こして、守衛達の注意をそちらに向けさせているのよ」
「その隙をついて、動力源にたどり着くというわけか」
「そういうこと」
 所内が慌ただしくなり、守衛が騒動の元へと集まっているようだった。
「行くわよ」
 促されて、独房を出るアンドレ。


 騒がしくなった所内通路を忍び足で動力源へと向かう。
 時折出くわした守衛を麻酔銃で眠らせながら突き進み、動力源の手前までたどり着いた。
 さすがに重要施設だけあって、研究員と銃を持った警備員が多数いた。
「どうする?」
 アンドレが小さな声で尋ねる。
「大丈夫です」
 と、言いながら手首に巻いていた時計のようなもののスイッチを入れた。


 所内で銃撃戦が始まっていた。
 捕虜達が、どこからか手に入れた銃を持って、守衛達と撃ちあいをしている。
 倒した守衛の持っていた銃を奪って、さらに先へと進む。
 そのリーダー各と思われる人物の手首の端末が鳴った。
「よおし、場所を変えるぞ!」
 リーダーの合図で、捕虜達が移動を始める。
 目指すは、動力源である。

 動力室前で息を潜めて待機する二人。
 やがて反対側の通路から騒ぎが起こる。
「どうしたんだ?」
 守衛が通路をのぞき込む。
 そこへ伝令が駆け込む。
「奴隷どもが、この動力室に殺到しようとしています。応援頼みます」
「分かった。行くぞ!」
 と仲間に合図をして、守衛が通路へと向かった。

 様子を伺っていたアンドレ。
「加勢がいたのか?」
「その通り。さあ、今のうちに仕事をするわよ」
「分かった」
 室内に残っていた武装していない職員を、麻酔銃で眠らせるのは簡単だった。
 操作盤に取り付いて操作するイブ。
「よし、これでいいわ」
 悲鳴のような作動音を立てて、動力が停止したようだ。



↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v



ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
銀河戦記/拍動編 第五章 Ⅵ 捕虜収容所へ向かえ
2023.04.22

第五章


Ⅵ 捕虜収容所へ向かえ


 ノーチラス号艦橋。
 敵艦の目前に迫っている。
「敵艦に高エネルギー反応有り!」
「エネルギー反応だと! エネルギー兵器なのか?」
「エネルギー増大中!」
「今更引けるかっ! このまま突っ込むぞ!」
 目の前のスクリーンが真っ白に輝いたかと思うと、突然ブラックアウトした。
 次の瞬間、艦内が青白色の光に包まれた。
「こ、これは!」
 それが最期の一言だった。


 粒子砲が炸裂し、強烈なエネルギーが敵艦に襲い掛かる。
 金属が一瞬にして昇華して消えてゆく。
 ほぼゼロ距離射撃なため、敵艦を破壊した衝撃がこちらにも降りかかる。
 激しく震動する船内。
「だ、大丈夫なのか?」
 ビューロン少尉が尋ねる。
『大丈夫デス。バリアー、ヲ最大ニ展開中デス』
 平然と答えるロビー。
「バリアー。い、いつの間に……」


 敵艦が蒸発四散しても、アムレス号は無事に生き残っていた。
「ふう……。死ぬかと思ったよ」
 ビューロン少尉が、肝を冷やしたような声で言った。
 そして、そんな度胸のある強心臓のアレックスを見直してもいた。
「さて、アレックス様。ソドム基地に向かうのは無理と分かりました。どちらへ向かいます?」
 エダが質問する。
「そうだな……。銀河オリオン腕全域は、ケンタウルス帝国の支配下にあると言っていいだろう。ここに居場所はない。だとすれば我々が生き残るためには、新天地に行くしかないだろう」
「新天地? オリオン腕から渦状腕間隙を超えて、隣のペルセウス腕か射手腕へ?」
 ビューロン少尉が驚く。
「この船は一万光年すらもワープできる船だ。行けないことはないだろう」
「それには燃料をすべて消費すると聞いた。向こうにいけても、ただ漂流するだけだろ? 恒星の重力に引かれて燃え尽きるだけじゃないか」
「言ってみただけだ。ただ、渦状腕間隙のどこかに、対岸に渡れる浅瀬のような箇所があるはずだ」
「探すのか? 無駄な時間を浪費している間に、ケンタウルスの連中に見つかってやられるぞ」
「逃げ回るだけならどうにかなるさ」
「それに向こうに行けても、この船には女性がほとんどいない。滅亡は時間の問題だ」
 イレーヌをちらと見てから尋ねる。
 堂々巡りな水掛け論になってきた。
 エダが助け船を出した。
「多くの女性が囚われている強制収容所があります。急襲して解放して上げましょう」
「それ、乗った!」
 目を輝かせて賛同するビューロン少尉だった。
「そうだな。その収容所へ行こう」
 アレックスも同意する。
「しかし、船の収容人数には限りがあります。収容次第、別の秘密基地に向かいます」
「まだ基地があるのか?」
「もちろんです」
「分かった。取り合えず、その強制収容所に向かおう」
『了解。進路変更! 惑星アンガス、ニ向カイマス』
 ゆっくりと方向転換してゆくアムレス号。


 トラピスト連合王国首都星トランター。
 宮殿謁見の間にて、臣下の報告を受けるクリスティーナ女王。
「概ね国民は平静さを取り戻したようです」
「それは良かった」
 何よりも国民のことを安寧する女王には、その報告が一番だった。
 報告は続く。
「放送局などの公共機関の長官が交代し、コミッショナー側から推薦された人物が就任しました」
「評議会には、ケンタウルスから派遣された議員が自動的に三分の一の議席を占めることとなりました。次の選挙から施行されます」
 そんな人事予算に加え、ケンタウルスに支払う拠出金と合わせて、総額は国家予算の三割に達していた。さらに王室財産の約半分が没収され、女王の別邸でもあったグリンガム宮殿は、セルジオ弁務コミッショナーの執務用に徴用された。
「財産の簒奪、悪辣行為や暴行といったものは起きていません。軍の統制が取れているようです」
「我が国の軍はどうなっていますか?」
「解散はさせられていないですが、当然のごとくケンタウルス軍に編入させられました。但し、将軍職は強制退官ということに」
「処分はされていないのですね」
「はい。退職金や年金なども規定通りに支払われます」
 軍の高官を処分すれば遺恨を残し、反乱の糸口とならないようにとの判断だろう。


 グリンガム宮殿、セルジオ執務室。
 部下からの報告をひとしきり聞いた後で、尋ねるセルジオ。
「ところで、アムレス号の行方は分かったのか?」
「アムレスを追っていたノーチラス号が消息を絶ちました。現在、消滅地点に調査艇を派遣しています」
「やられたのか?」
「おそらく……」
「あの艦長のことだ。ただではやられないだろう。何かしら残しているはずだ」
 その時、部下の携帯端末が鳴る。
「失礼します」
 部下がそれに受け答えする。
「……分かった。引き続き続行せよ」
 端末を消して、
「調査艇からの連絡です。ノーチラス号の残骸を発見しました」
「やはり、やられたか。あの艦長とて勝てないアムレス号って何者だ?」
「返り血ならぬ、ノーチラスの残骸を浴びたのでしょう、残骸の跡が一方向へと延びているとのことです」
「その軌跡の延長線上には何かあるか?」
「捕虜収容所アンガスがありますね」
「よし、艦隊を向かわせろ!」
「かしこまりました」



↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v



ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
銀河戦記/拍動編 第五章 V 荷電粒子砲
2023.04.15

第五章


Ⅴ 荷電粒子砲


 通常の宇宙空間に浮上するノーチラス号。
「浮上しました」
「敵艦の位置は?」
「計測中です」
 敵艦の位置が分からない状態ほど、どこから攻撃してくるかと焦り、過度な緊張を強いられる。
「先制奇襲つもりが、逆に先制されるとはな」
「我が艦の後方に反応あり! 浮上する物体あり」
「追いかけてきたか。魚雷は?」
「いつでも発射できます」
「よし、いいぞ。いつでも来い」
 と言いつつ、測距儀(レンジファインダー)に注視していた。
 測距儀を除いて目標に照準を合わせれば、魚雷発射装置にも自動的に数値が入力され、発射ボタンを押すだけになる。
「敵艦浮上点よりミサイル発射確認!」
「まさか、こんなに早く照準を合わせられるのか?」
「退避行動しつつ、迎撃せよ!」
「取舵一杯!」
「ファランクス、撃て!」
 必死の迎撃態勢を取り続けるノーチラス号。
 その間隙を縫って、アムレス号が完全浮上に成功した。
「ミサイル、第二波が来ます!」
「ちきしょう! 攻撃する暇も与えてくれないのか?」
「いかがしますか?」
 副長が焦りながら質問する。
「仕方あるまい。もう一度、潜るぞ」
「分かりました。潜航!」
 再び、潜航を始めるノーチラス号。
「同じ戦うなら、亜空間の方が良いだろう。熟練度から言っても、こちらの方が有利に違いない。先ほどは奇襲を受けて焦ったがな」

 アムレス号船橋。
「第一撃、効果ありましたが、敵艦は潜航して逃げました」
 エダが報告する。
「逃げたのではなく退避しただけだろう。また攻撃を仕掛けてくるはずだ」
「トラピストが降伏したのは向こうも知っているはずなのに、停戦要請するでもなく攻撃してくるのはいかがなものでしょうか」
「好戦的な無頼漢な指揮官がいるのだろう」
「平和になれば、真っ先に失業か閑職に回されるから、思い切り戦えるのはこれが最後と考えているのでは?」
 敵が退避して一時的な緊張感で口も滑るが、次のレーダー手の一言で我に返る。
「亜空間レーダーに感あり!」
「やはり引き返してきたか」
 アレックスが呟くと、オペレーター達が注視する。
「また潜りますか?」
 副長が尋ねる。
「それだと相手が浮上して、浮いたり沈んだりのイタチごっこになる」

 アムレス号の後方の亜空間に出現したノーチラス号。
「やっと後ろに取り付いた。今度こそ、逃がさないぞ。亜空間魚雷発射準備だ!」
 発射管より発射される亜空間魚雷。

 アムレス橋船橋。
「亜空間ソナーに感あり! 右舷後方より我が艦に直進してくる物体あり!」
「機関全速! 面舵一杯!」
「デコイ発射! 亜空間震動爆雷用意!」
「了解!」
「間に合うか?」
「何とも言えない」
 アムレスより発射されたデコイ。
 数発は接触して爆発するが、それを交わしてアムレス号に直進する魚雷。
「右舷後方に魚雷出現! 七秒で接触します。五・四・三・二・一……」
 激しく揺れる艦体だが、何とか軽微で済んだようだ。
「エダ。確か三人乗りの亜空間対潜哨戒機あったよね」
「はい、あります」
「発進させよう」
「しかし、扱い方が分からなくては」
「私が行きましょう。戦闘機乗りだから、哨戒機の扱い方にも慣れている」
 戦闘機乗りのキニスキー・オルコット大尉が名乗りを上げた。
「自分もいきます!」
 と、ビューロン少尉ともう一人名乗り出た。


 格納庫。
 哨戒機のコクピットに乗船しているキニスキー以下の三名の隊員。
 エダが、簡単な説明を施していた。
「いいですか?」
「分かりました。何とかやれそうです」
「エダさん、降りてください。後は我々に任せてください」
「はい。後はお願いします」
 エダが哨戒機から離れて避難する。
「ブリッジ、発進口を開けてくれ」
『了解した』
 ゆっくりと発着艦口が開いてゆく。
『ゲートオープン。哨戒機発進せよ』
 スクリーンにキニスキーの姿が映っており、
「哨戒機、発進します」
 敬礼すると共に、哨戒機を発進させた。

 宇宙空間に躍り出る哨戒機。
 機体を操作するパイロット、ソノブイなどを投下したりする探知担当、もう一人は爆雷や対潜ミサイルを発射する攻撃手、三人体制で運用する。
 しばらく旋回した後、潜航艦が潜んでいそうな場所にたどり着いて。
「亜空間ソノブイ投下!」
 射出口より投下されるソノブイ。
「捜索を開始します」
 機器を操作する乗員。
「いいか、どんな小さな物でも見落とすなよ」
「了解」


 アムレス号船橋。
「左舷三十度に魚雷出現」
「パルスレーザーで撃ち落せ」
「遅い! 間に合いません」
 激しく揺れる艦内。
 火花を散らす計器類。
 弾き飛ばされる隊員。
「早く消火しろ!」
 慌てて消火器を持ち出して消火する隊員。
 やがて鎮火する。
「敵潜水艦の位置はまだわからないか?」
「まだです。敵も前回攻撃されたのを警戒して、用心しているようです」
「哨戒機から報告は?」
「ありません」
「そうか……一刻も早く見つけ出さないと」
「哨戒機より入電。敵潜水艦を発見したもようです。敵艦の位置座標入電」
「よし、爆雷連続発射!」
「了解」
 次々と亜空間爆雷が投下されてゆく。


 ノーチラス号艦橋。
 激しく震動している。
「敵艦の爆雷攻撃です」
「回避運動! 面舵二十度変針」
「後部魚雷発射。撃って撃って撃ちまくれ! 敵の爆雷に怯(ひる)むな!」
「はっ!」
「回避、回避運動!」
「駄目です、艦長。こちらの動きを完全に読まれています」
「あの哨戒機のせいだな。撃ち落せないものか……」
「航空機は早すぎて、あれを打ち落とせる武器は装備していません」
「しかないな。正面の敵艦に集中する。魚雷発射!」

 亜空間哨戒機では、次の行動に移っていた。
「敵艦は?」
 機長のキニスキー大尉が尋ねる。
「まだ動いています。機関は損傷していないもようです」
 レーダー手が答える。
「なかなかしぶとい奴だな」
「亜空間誘導魚雷を使用しましょう」
 ビューロン少尉が進言する。
「そうしよう。投下最適ポイントに移動する」
 旋回して好適位置に哨戒機を移動させるキニスキー。
「敵艦の位置座標を送ってくれ」
 魚雷発射装置を操作しながら、レーダー手に指示を出すビューロン。
「今送ります」
「よし来た! 安全装置解除。亜空間魚雷発射用意……3.2.1.発射!」
 哨戒機から、魚雷が発射され、数秒後に亜空間に消え去った。

 ノーチラス号艦橋。
「急速接近する物体あり! 右舷後方」
「回避運動!」
「間に合いません!」
 激しく震動する艦。
 あちらこちらで転倒する乗員。
「損害報告を急げ!」
 立ち上がりながら損害調査に走り出す乗員。
 改めて指揮官席に座りなおす、ため息をつく司令。
「敵艦と哨戒機とからの挟み撃ちか……」

「大変です! 亜空間震動航行装置が停止しました!」
「何だと!」
 一同立ち上がり、不安そうな表情。
「今のところは、サブの方で何とかなっておりますが、いつまで持つか……」
「このままサブコントロールまでが破壊されては、亜空間の無限の時間に閉じ込められてしまいます」
「で、どうしろと言うのだ!」
「浮上しましょう。それから戦うなり、停戦もしくは撤退しましょう」
「浮上か……」
「艦長!」
「分かった、浮上しよう。浮上と同時に艦首魚雷をぶっ放す」
 オペレータが復唱する。
「浮上!」
「艦首魚雷用意! 浮上と同時に発射する!」
「照準は?」
「いらん! 発射と同時に全速前進だ!」
「正面に敵艦がいたら?」
「かまわん。ぶち当たる!」
「特攻ですか?」
「そうだ! 火力ではこちらが劣勢だ。まともに戦えば負ける。一か八かだ」
 迫真の命令に、一同も息を飲む。

 アムレス号船橋。
「敵潜水艦が浮上してきます」
「敵艦に損害を与えたようだな」
「降参のために浮上してくるのであればよいのですが……」
「念のためだ。粒子ビーム砲用意」
 アレックスの頭の中には、学習装置によってアムレス号の武器システムのすべてが記憶されていた。
『了解。荷電粒子砲ニ電力供給シマス』
 その命令に驚く乗員たち。
「荷電粒子砲だと? まだ研究段階じゃなかったのか?」
「その通り、一発撃つだけでトラピストの全発電量の電力が必要だと聞くが」
 その疑問にエダが答える。
「このアムレス号のビーム砲は、そんなに電力を使用しません。省エネでコンパクトなものですから」
「それでも莫大な電力を必要とするはずだがどうやって?」
「アムレス号に搭載された超小型縮退炉から、ほぼ無尽蔵に発電できます」
「縮退炉! ブラックホールを積んでいるのか?」
 驚きで言葉を紡げない乗員だった。
『加速器へ燃料ペレット充填、超伝導回路ヘノ電力供給マックス到達』

「敵艦浮上! 目の前です」
「粒子砲は?」
『チャージ完了マデ、十二秒。マモナク撃テマス』
「敵艦、撃ってきました」
「撃ち落とせ!」
 近接防空火器システム(CIWS/シーウス)が火を噴き、敵弾を撃ち落としてゆく。
「敵艦、急速接近中!」
「退避行動!」
 ビューロン少尉が指示する。
 しかし、アレックスが制止する。
「待て! このままだ」
 なぜという表情のビューロン少尉。
「撃つには、船の軸線上で捉えなければならん」
 粒子砲は、船の正面に固定されているため、軸線上のものしか撃破できない。
 さらに敵艦は近づく。
 近すぎてミサイルは撃てない距離だ。
『チャージ完了マデ、七秒』
 乗員達は、固唾を飲んでスクリーンを凝視している。
 スクリーン上に映る敵艦が次第に大きくなってゆく。
『チャージ完了マデ、三秒』
 すでに敵艦は目と鼻の先にあり、スクリーンをはみ出すほどだった。
『チャージ完了!』
 すかさず下令するアレックス。
「撃て!」



↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v



ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11

- CafeLog -