銀河戦記/拍動編 第一章 Ⅲ アンツーク星
2022.11.19

第一章


Ⅲ アンツーク星


 帝国も知らない未踏地の小惑星帯にあるアンツーク星の地表、ゴツゴツとした岩場に宇宙戦艦オリオン号と工作艦を含む随伴艦が着陸している。
 クレーン車や走行車が動き回って、艦の修理が行われている。
 オリオン号艦橋。
 技術長に向かって怒鳴っているネルソン提督。
「艦の修理はいつ終わるのだ。予定より随分遅れておるじゃないか?」
「はい。動力炉外壁に必要なテラサイトの採集が思うように進んでおりません。この星の全体におけるテラサイトの含有量が低いからです」
「代用品も見つからないのか?」
「はっ。只今、艦長以下、私の部下が調査している所であります」
「我々が、この星で足踏みしている間にも、本国は敵からの攻撃を受けているのだ。一刻も早く戦線に復帰しなければならない」


 艦長アンドレ以下、調査員の乗った走行車が渓谷を走り回っている。
 修理に必要な鉱石を探しているのだ。
「どうだ、まだ見つからないか?」
 隣の隊員に尋ねるアンドレ。
 計器を操作しながら答える隊員。
「はい。今だ反応がありません」
「そうか……」
 その時、計器が反応音を立てはじめた。
「艦長。反応がありました」
「よし。止めろ!」
 運転手に停止を命じるアンドレ。
「了解」
 走行車が岩山の側で止まっており、調査機器を持った一団が動いている。
「どうだ?」
 アンドレが調査員に尋ねる。
「上々です。質・量とも十分にあるようです」
「よし、早速提督に報告して、採掘機械を回してもらおう」
 通信士、機器を操作して本艦と連絡を入れた。
「それにしても、美しい花の一つなく、動物一匹いない死の星だなあ」
 といいながら辺りを見回している。
「当たり前ですよ。大気がありませんからね。夜ともなれば放射冷却で氷点下マイナス百度まで下がりますから」
「まあ、そうなのだがな」
 と、何かに気が付いた。
「ん? 何だあれは?」
 岩山の中ほどに何か光る物がある。
「どうやら金属物質が光っているようです」
 金属探知機を操作していた乗員が応えた。
「行ってみよう」


 岩伝いに一行が進んでいる。
「確かこの辺りっだったが……」
「あ、あそこにありました」
 指さすところに金属プレートがはまっていた。
「何でしょうね。こんな処に……何かの目印なのでしょうか?」
 と、隊員がプレートに触れた時だった。
 突然、岩盤が音を立てて崩れだしたのだ。
「危ない! 退避しろ!」
 あわててその場を下がる一行だった。
 安全地帯から岩山を確認してみると、中腹に大きな穴が開いていた。
「洞窟か?」
 完全に開ききった洞窟は静まり返っている。
「調べてみよう」
 足元に注意しながら、岩山を登り洞窟へとたどり着く。
「この洞窟は自然にできたものでしょうか?」
「分からんな。ともかく調べてみよう」
 懐中電灯で照らしながら洞窟内を慎重に進む一行。
「この堀具合だと人工的に開けられたようですね」
 やがて頑丈な扉に出くわした。
「扉か……?」
「この扉の内側に何があるのでしょうか?」
「さあな……」
 扉の周辺に開ける何かの手がかりがないかと調べ回る一行。
「艦長! ここを見てください!!」
 隊員の一人が気が付いて指さしている。
 そこには懐中電灯の光を反射して輝く紋章が描かれていた。
「この紋章は……!」


 オリオン号艦橋。
「調査隊より入電!」
「繋いでくれ」
 通信士が調査隊からの通信映像を、ビデオパネルに反映させた。
 隊長が映し出されている。
「どうした。テラサイト鉱石は見つかったか?」
「はい、、発見しました。質・量とも十分です。場所は北緯45度、東経125度のいちにあります」
「よし、ご苦労だった。ただちに採掘車を向かわせる」
「提督。さらに我々は大変なものを発見しました」
「何だ?」
「それは提督ご自身の目でお確かめ下さる方がよろしいかと思います。是非こちらへいらっしゃってください」
「意味深だな。分かった、すぐ行く」


 採掘隊がテラサイト鉱石を採集して、オリオン号の方へと次々に運んでゆく。
 その傍らの洞窟の前には歩哨が二名立って警戒している。
 ネルソン提督一行が洞窟内を進んでいる。
「こちらです」
 アンドレ艦長が案内している。
 やがて一行の目前に例の扉の前に出る。
「何でこんな洞窟に扉があるのだ?」
「不思議でしょう? 中に入ったらもっと驚きますよ」
 艦長が扉の脇にある仕掛けを作動させると、鈍い音とともに扉がゆっくりと開いた。
 あちらこちらで明滅する光が無数にあった。
「これは?」
「提督、よく見てください」
 ネルソンが目を見開いて見つめた先には、
「これはコンピューターか?」
「そうです。壁面のすべてがコンピューターです。こちらのディスプレイを見てください」
 艦長が機器を操作すると、ディスプレイにはオリオン号がこの惑星に接近するところから、着陸し修理を開始する様子が鮮明に映し出されていた。
「これは一体なんだ?」
「半自動防空管制装置のようです。あちらの方には、警戒迎撃管制装置もあるみたいです。どうやら岩山にミサイル発射管も巧妙に隠されているみたいです。もしオリオン号が敵だと判断されていたら、撃墜されていたことでしょう」
「つまり我々は、一部始終を監視されていたのか?」
「しかし我々は迎撃されることなく、ここに招き入れられている。少なくとも敵とはみられていないようだな」

「提督こちらへ来てください」
 アンドレが手招きする。
 先に立って歩き、隣室への扉を開けて入っていく。
 ネルソン、彼に続いてゆく。

 うって変わって落ち着いたムードのある部屋にたどり着いた。
 壁に額があり、赤子を抱えた夫婦の写真が収まっている。
「プライベートルームのようだな」
「そうですね。あの額の人物が暮らしていたのでしょう」
「あの機械を作り上げたのも、この人たちでしょうか?」
「それにしても、人っ子一人いないのはどうしてだろうか」
「隣にもまだ部屋があるようです。行ってみましょう」
 一行再び歩き出す。
 アンドレが扉の前の計器を操作して扉を開ける。

 そこにも計器類が並んでいる部屋だった。
 部屋の中央に横長のカプセルが二つ並んでおり、中に男女が横たわっている。
 覗き込んでみると、隣室の額縁の夫婦だった。
「これは?」
「死んでいるのでしょうか?」
「まるで眠っているかのような死に顔だった」


 トラピスト星系連合王国首都星トランター、トリタニア宮殿。
「女王様、ネルソン提督より入電しました」
「ビデオスクリーンに映してください」
「かしこまりました」
 スクリーンに、ネルソン提督が映し出される。
「どうなさったのですか?」
『フレデリック様が見つかりました』
 驚いて身を乗り出す女王。
「それは本当ですか?」
『はい。しかし残念ながら、すでにお亡くなりになっておいででした』
「ええっ! フレデリックが?」
 女王崩れるように、玉座に深々と座りなおした。
 慌てて駈け寄る侍女たち。
 介抱を受けて、やがて気を取り直して聞き直す。
「そう……。フレデリックは亡くなっていたのね……」
『ここにフレデリック様が記録されたビデオコーダーがありますのでご覧ください』



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銀河戦記/拍動編 第一章 Ⅱ 惑星間戦争
2022.11.12

第一章


Ⅱ 惑星間戦争


 時間は遡る。


 漆黒の宇宙空間。
 激しく明滅する光の乱舞。
 宇宙戦艦同士の戦いが繰り広げられていた。。
 優勢に戦闘を続けるケンタウルス帝国軍。
 対するは圧政からの解放を唱えるネルソン提督率いる反乱軍だった。

 ネルソン提督の乗艦するオリオン号。
 艦体の損傷激しく至る所で炎と煙を噴き出している。
「エンジン出力低下! 機動レベルを確保できません!」
 機関長が悲鳴にも近い声で報告する。
「もはやこれまでか……。撤退する」
 全艦に撤退命令が出される。
「提督! 私がしんがりを務めます!」
 駆逐艦の艦長が進言して、帝国軍の前に立ちはだかって、オリオン号の撤退を促すようにしながらも、敵艦隊に攻撃を開始した。
 激しい攻撃に晒されながらも、提督を逃がそうと奮戦する駆逐艦。
 しかし集中砲火を浴びて、奮戦むなしく撃沈してしまう。
 その間に、オリオン号は無事に戦線の離脱に成功するのだった。
 艦の後方で閃光が広がるのを、唇を嚙みながら見つめるネルソン提督。
「君の尊い犠牲は無駄にしない」
 と駆逐艦が消えた宇宙空間に向かって敬礼する。


 太陽系連合王国首都星地球。
 アースウィンド城から小道がゆるゆると続く丘の上。
 一本の木がポツンと生えているその枝の上に一人の青年が腰かけてハーモニカを吹いている。
 と、丘の下の方から白馬に乗った女性が駆け上がってくる。
 木の下で馬を降りて、木の上を見上げながら、
「アレックス! また、ここにいらしたのね。降りてらっしゃいませ」
 声を掛ける。
「今、降ります」
 ゆっくりと木を降りようとする青年だったが、途中で枝がポキリと折れて地面に落下する。
「キャー!」
 悲鳴を上げる女性。
 地面に伏していた青年、土ぼこりを払いながらゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫ですか?」
 心配そうに見つめる女性。
「ええ、大丈夫……いっつ!」
 思わず肩に手を当てる。
 小枝で傷ついたのだろう、肩口から血が流れている。
「た、たいへん!」
 女性はポシェットの中からハンカチを取り出して傷口に当てがった。
 それだけでは流血が止まらないだろうと、青年はシャツの袖を引きちぎって、止血するように肩口をきつく巻いた。
「たぶんこれで大丈夫だ」
 ふと見ると、その肩口に、紋章のような痣(あざ)があった。
「これは?」
「この痣かい? 物心ついた頃から、すでに付いていたんだ」
 と言いながら痣を一撫でする。


 オリオン号提督室。
 スクリーンに映るアンツーク星を見つめている提督。
 艦の修理と資材調達を行うために、立ち寄ることにした星である。
 ヴィジホーンが鳴る。
 振り向いて操作スイッチを入れる。
「なんだ?」
『本国より入電。女王様が提督をお呼びです』
「うむ。繋いでくれ」
 やがてヴィジホーンのパネルに女王の姿が映し出される。
 提督、姿勢を正して敬礼する。
『戦時の急務の最中、わざわざお呼びして申し訳ありません』
「いえ。女王様のためなら、このネルソン。いついかなる時も、命を捨てる覚悟にございます。して、ご用件のほうは?」
『アムレス号の行方を極力手を尽くして探させていますが、今だ何一つ手がかりが掴めません。そちらでは何か掴めていませんか?』
「残念ながらこちらでも同様でございます「
『そうですか……。では、何かちょっとした事でも分かった時は直ちに連絡して下さい』
「かしこまりました」
 通信が途切れた。


 トラピスト星系連合王国首都星トランター、トリタニア宮殿。
 豪華に飾られた大広間の壇上に鎮座する女王。
 その周りを囲む大臣達。
 皆正面の大パネルスクリーンを見つめている。
 そこにはネルソン提督が映し出されている。
『それでは女王様。何かありましたら、至急ご連絡差し上げます』
「くれぐれも宜しくお願いします」
『はい。かしこまりました』
 ネルソン提督の姿が次第にぼけてゆき、パネルスクリーンは漆黒の宇宙空間に切り替わった。
「女王様。フレデリック様は、きっとご無事でございます。あの星々のどこかに、アウゼノンの手を逃れて生きていらっしゃいます。いつの日か、必ずお会いになれますとも」
 大臣の一人が慰めるように言った。
「そうだといいんだけど……」
 宇宙の遠方をどことなく見つめている。


 太陽系連合王国首都星地球、アースウインド城。
 満々と水をたたえた湖があり、湖畔には美しく咲き乱れる草花が生い茂っている。
 イレーヌとアレックスが白い馬に跨ってやって来る。
 イレーヌを抱えるようにて、アレックスが手綱を取っている。
「アレックス。もう痛くない?」
「大丈夫です」
「でも、どうして木に登ったりしたの? 危ないでしょ、もう二度と登っちゃだめよ」
 アレックス、しばらく黙っていたが、
「僕は赤ん坊の頃、あの木の根元に捨てられれていた所を、たまたま通りがかった王妃さまに救われて、貴女の遊び相手として育てられ今日まできました。しかし、幼い頃の僕は、いつしか母親が迎えにくるのではと、あの大木の側でずっと立っていました。僕は幼少の頃を大木と共に生き、共に遊びました。だからあの大木は僕にとって、母に似たものであって、この年になっても、今だ離れられないのです」
「アレックス……」
 空を見上げる二人。
 その空の一角が一瞬輝いたと思うと、やがて黒光りした宇宙戦艦が現れ、二人の頭上を大音響を上げて通り過ぎてゆく。
 イレーヌ、耳を塞ぎながら、
「お父様がお帰りになったんだわ」
 アレックス、黙って戦艦を凝視して動かない。
 やがて戦艦は丘の彼方宇宙空港のある方へと消えてゆく。
「アレックス、馬を出して。早く宮殿に戻って、お父様をお迎えしなくちゃ」
「分かりました。飛ばしますから、しっかり掴まっていて下さい」
「ええ」
 白馬に跨った二人は、宮殿の方へと急いでゆく。


 宮殿王女の間。
 椅子に腰かけたままイレーヌが髪を梳かせている。
「イレーヌ様。今宵の晩餐のお召し物はこちらなどいかがでしょうか? とってもお似合いでございますよ」
 従者がイレーヌの前にドレスを翳(かざ)してみせる。
「私の好みの色じゃないわ。別のにして頂戴」
「そうですかねえ。お似合いだと思いますけど……」
「いいから、別のにして」
 強い口調で断るイレーヌ。
「は、はい。では、こちらなど」
 とっかえひっかえドレス選びを続けるイレーヌだった。


 宮殿食堂。
 大広間の中央に大きな食卓があり、沢山の豪華な料理が並べられている。
 その上座にクロード王、角を挟んで王妃イサドラが座っており、その向かい側が王女イレーヌの席である。
 食卓を囲い込むように従者が並んでおり、末席にアレックスの姿もあった。
「イレーヌはまだか?」
 クロード王は苛立っていた。
「はっ。まもなくお見えになりますので……あ、只今お見えになりました」
 イレーヌ入ってくる。
 アレックスをチラリと見つめつつ、父親の側へ。
「おお。イレーヌか」
「お父様、お帰りなさいませ」
「うむ。お前はいつ見ても美しい。いや、前よりも増して美しくなった。まるで女神さまのようだ」
「ありがとうございます」
 従者が王女の椅子を引いて座らせる。


 晩餐が始まる。
 ふと思い出したように切り出すクロード王。
「そうだ! イレーヌに良い話があるぞ」
「まあ、いいお話とは何でございましょう」
 尋ねてはいるようだが、実は知っているような口調と表情のイサドラ王妃だった。
「実は、イレーヌの縁談じゃよ」
「縁談ですって!」
 驚きの表情を見せるイレーヌだった。
「その通り。相手は、アウゼノン陛下の甥にあたるお方だよ」
「まあ! 皇帝陛下の甥ですって?」
 相手の事までは知らされていない風の王妃。
「どうだ! 素晴らしい話だろ」
「ほんと、夢みたいなお話ですわ」
 イレーヌ、先ほどから黙り込んだままで、時々アレックスの方に訴えかけるような視線を投げかける。
「どうしたイレーヌ。嬉しくないのか?」
「え、ええ……」
「イレーヌには、結婚ということがまだピンと来ないのでしょう」
「そうだな。本人に会ってもいないし、喜べといっても無理なことかも知れぬ。とにかく祝杯だ!」
「おめでとうございます。イレーヌ王女様」
 従者一同が祝いの言葉を述べる。
 その中にあって、イレーヌとアレックスだけが見つめあったまま微動だにしなかった。


 宮殿庭内。
 イレーヌ、庭木の根元でしょんぼりと座っている。
 アレックスは、木にもたれかかるようにして、静かにハーモニカを吹いている。
「アレックス……」
 イレーヌの声掛けに、笛を吹くのを止めて、
「何でしょうか?」
「私、どうしたらいいのかしら……」
 ボソリと呟くイレーヌに返答の仕様がないと困ったように答える。
「どうしたらって?」
「結婚のことよ。このままだと私、皇帝陛下の甥とかいう方と結婚させられてしまうわ」
「そ、それは……」
 返答のしようがないアレックス。
 宮殿に住まわせて貰っているとはいえ、アレックスは一介の従者でしかないのだから。
「アレックス。平気なの? 私が、他の男性と結婚してもいいの?」
 イレーヌ、アレックスの目を見つめ、迫りよる。
 たじろぐアレックス。
「私、他の男性と結婚するくらいなら、死にたいわ」
「イレーヌさま……」
「どうして国王の娘として生まれてきたのかしら……」
 高貴な身分に生まれたことを嘆く王女だった。
 自分の意にならない政略結婚を迫られるのも高貴であるから。



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銀河戦記/拍動編 第一章 Ⅰ 王女イレーヌ
2022.11.05

第一章


Ⅰ 王女イレーヌ


 太陽系地球は、西暦二十一世紀に勃発した第三次世界大戦で核兵器使用により灰燼に帰し、放射能汚染でまともに住めない星となった。数百年の年月を経て生き残った人々によって国家は再建された。
 再び戦火を交えることのないようにとの強い願いから、すべての民族が一つに纏まり、統一政府地球連邦の成立となった。
 さらに数百年後、月や火星などの地球外惑星などへの植民が開始され、それぞれ新たな惑星都市が誕生した。
 それらをまとめ上げ、太陽系連合王国を設立させたのが、現国王クロードの直系で初代の女王、クロード・ド・ヴァロワ陛下である。


 小高い丘の上に燦然と輝くアースウィンド城。
 城を見上げる麓に広がる城下町の郊外にアースウィンド宇宙空港がある。。
 空港に向かう道路には、黒山のような人だかりがあって、遥か先に空港が見えている。そこへ護衛艦七隻を引き連れたセルジオ艦が、今着陸しようとしているところだった。
 砂塵を舞い上げながら、空港に着陸するセルジオ艦。
 と同時に、昇降口にタラップが掛けられて、空港職員が空港ロビーまでの間にレッドカーペットを敷き詰めた。
 空港ロビーからクロード王、イサドラ王妃、そしてイレーヌ王女が従者を引き連れて、タラップ下に並んで、弁務コミッショナーを出迎えている。
 やがて、艦の乗船口が開いてセルジオが降りてくる。

「これはこれは、セルジオ閣下。こんな遠い所へ、わざわざ足を運んで頂いて誠に恐縮です」
 クロード王が丁重な言葉で挨拶する。
「うむ。ところで、おまえがイレーヌか?」
 イレーヌの方を向くが、黙ったまま答えない。
「はい。これが娘のイレーヌでございます。これ、ご挨拶なさい!」
 イサドラ王妃が、焦ったような表情で、イレーヌを促す。
 仕方なくといった表情で、軽く礼をするイレーヌ。
「ふむ。少し気の強いところがあるようじゃの」
「申し訳ありません。躾が至りませんで」
 平謝りするイザベル王妃。
「気にするでない。なよなよし過ぎるのも面白みがないからの」
「は、はあ。その通りで……」
 平謝りするクロード王。


 とある酒場の密室。
 テーブルを囲んで五人の男たちが話し合っている。
「やはり駄目だ! どうしてもセルジオに近づけない」
 頭を抱える男。
「何を弱気なことを言っているんだ。どんなに警戒厳重でも、人間どこかに落とし穴があるもんだ」
「しかし、どうやってその落とし穴を見つけられるんだ」
「だから、それを探しているのじゃないか。とにかく、今回のチャンスを逃せば、二度とセルジオを倒すことは出来なくなるんだ! おい、アレックス! おまえはどうなんだ?」
 後ろの暗闇に向かって男が叫ぶと、のっそりとアレックスが出てくる。
 一同がアレックスに注目する。
「まず宮殿内にいるセルジオを討つことは出来ないだろう。やるならばセルジオが帰る時、宮殿から空港へ向かう途中だ」
 理路整然と答えるアレックス。
「そうだ。その時以外に奴を倒すことはできない」

 扉の外で、ゴトンと音がした。
 皆が一斉にそちらを向く。
 次の瞬間に扉が吹き飛び、銃を構えた兵士たちがなだれ込んでくる。
 一人が銃を構えようとするが、兵士の銃撃がそれを弾き飛ばした。
 苦痛に歪む男。
 一同、兵士に銃を突き付けられ身動きできず、声をたてる者もいない。
「諸君らを反逆罪で逮捕する」
 隊長らしき兵士が冷たい表情で銃を突きつける。
 手錠を掛けられて連行されていくアレックス達だった。


 王女の間。
「いやよ! 絶対に嫌!」
「イレーヌ。そんな事言わずに『はい』と答えておくれ」
 王妃が懇願する。
「そうだぞ。何が不服なのかね。セルジオ閣下は、皇帝陛下の甥なのだよ。この話がまとまれば、我が王家も安泰を保証されたのも同然なのだよ。属国としてではなく、血縁で結ばれた対等の王国として認められることなのだ」
 クロード王が説得する。
「何と言われても嫌なものは嫌!」
「イレーヌ! おまえという奴は!」
 国王が平手でぶとうとするが、何者かによってその手を封じられる。
 振り向いてみると、そこにいたのは……。
「セルジオ閣下!」
「どうやら随分と嫌われたようだな」
「申し訳ございません」
 平謝りするしかない二人。
「いやいや、益々気に入ったぞ。じゃじゃ馬をならすのもまた楽しいものだ」
 と高らかに笑うセルジオ。
 二人も恐縮して苦笑するしかない。


「失礼します」
 近衛兵が入ってきて、報告書をセルジオに手渡す。
 それに目を通して、
「うむ。これは面白い」
 とニヤリとほくそ笑むセルジオ。
「いかがいたしましたか?」
「今しがた入った報告によると、我らがアウゼノン皇帝陛下に反抗する地下組織の一味を捕えたそうだ」
「地下組織ですって!」
 驚きの声を上げるイザベラ王妃。
「まさか我が王国に皇帝陛下に背く者などいるはずが……」
 クロード王も冷や汗をかいている。
「だが事実として、こうして一味を捕えておるのじゃ」
「信じられません」
「無理もないな。宮殿内にスパイがいた事にも気づかなかったのだからな」
「スパイ?」
 セルジオはイレーヌの方を向いて意味深な言葉を吐く。
「ところでおまえの側近は、今どうしておる? ほれ、背の高い若者だよ」
 イレーヌ驚き、セルジオの言わんとしていることに気づく。
「まさか……アレックスが……?」
「そう、そのアレックス君だよ。ここに呼んできてはくれまいか?」
「あの……。今、城の外に……。ちょっと用事があるからって……」
 イレーヌを嘗め回すように、
「ほう。城の外ねえ……」
 と含み笑いをする。


 牢獄の廊下。
 暗く冷たい感じの牢獄の廊下。
 所々に歩哨が立っている。
 その廊下の向こうから数人がこちらへと歩いてくる。
 その顔は分からない。
 独房内。
 暗く汚い部屋。
 壁際に作り付けのベッドのようなものがあるだけ。
 そのベッドの上にアレックスが腰かけている。
 廊下の方で足音がする。
 その音にドアの方に振り向くアレックス。
 扉が開いてイレーヌが入ってくる。
「イレーヌ様!」
 驚くアレックスと涙するイレーヌ。
「アレックス」
 イレーヌ、アレックスの前に跪くように崩れ、見上げるように声を絞り出す。
「どうして……どうしてなの?」
 アレックスが収監されていることを信じられない表情だ。
 見つめあったまま動かない二人。
「私、お父様にお願いしてみます。出してもらえるように」
「それは無理だな」
 背後から声がして、二人が振り向くとセルジオが立っていた。
「セルジオ様……」
 セルジオ、一歩前に出ながら、
「こやつは反逆者だ。明朝に即決裁判に掛けられる。まあ、死刑は免れないだろうな」
「そんな……」


 貴賓室。
 壁一面のガラス窓から美しい夜景を見つめているセルジオ。
 その後方で立ち尽くすイレーヌ。
 セルジオ、振り返りながら、
「すると何かね。アレックスを釈放してくれというのかね」
「はい。それが叶えられないと仰るなら、せめて死刑だけはお許し下さい、お願いします」
「いくら王女の願いでも、これだけは難しいな。国家反逆罪は死刑というのが決まりなのだよ」
「そこを何とか……。もしお許し下さるならば、私……」
「うむ」
「私、セルジオ様との結婚を承諾しても……。だからアレックスをお許しください」
「イレーヌ。おまえと私との結婚は、すでに決まっているのだ。それを交換条件に出されてもなあ……」



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