銀河戦記/拍動編 第四章 V 決戦
2023.03.11

第四章


Ⅴ 決戦


 バンゲル星域に近づくトリスタニア共和国艦隊。
 戦艦三十隻、巡洋艦十五隻、駆逐艦十五隻、その他十隻、総計七十隻という陣容であった。
 旗艦ヴィクトリア艦橋。
 指揮官席に陣取るネルソン提督の指示のもと、艦長アンドレ・タウンゼントが艦を動かしている。
「前方二千宇宙キロに艦影多数あり! スクリーンに表示します」
 レーダー手の声に、ネルソンが下令する。
「全艦戦闘配備!」
 副官のローレンス・ヒュームが復唱して、全艦戦闘配備が伝えられる。
 正面パネルスクリーンに、バーナード星系連邦を主力とするゴーランド艦隊先遣隊と、自国艦隊の戦力分析図が表示された。
「敵艦の総数はおよそ八十隻。戦艦二十、巡洋艦三十、駆逐艦十隻、その他補給艦など二十隻です」
「戦力はほぼ互角というところだな」
 ネルソンが呟く。
「遠路はるばるの遠征なので、補給艦を連れてきているようですが、別動隊を編成して、背後から叩きましょうか? それで何とか長期戦に持ち込められれば勝てるのではないでしょうか?」
 副官が提案する。
「向こうもそう来ると罠を張って、待ち構えているかも知れないぞ」
「隠し玉? だとしたら、中央突破戦法で切り崩しながら、後方にいる補給艦目掛けて突進するとか?」
 不利な戦況を打破するために、色々と思案する副官だった。
「そうだな……。敵の方が数が多い。短期決戦でいくしかないか……防水陣形で中央突破を図るぞ!」
「分かりました! 防水陣形を取れ!」
 自分の提案が採用されて、意気込む副官だった。
「艦隊紡錘陣形!」
 艦長のアンドレが復唱する。
「まもなく射程距離内に入ります」
「主砲発射準備!」

 砲室では自動装填装置で弾頭が装填され、次弾が弾薬庫から運ばれて、装填機構部に入る。
 照準合わせは、艦橋側でセットできる。
「主砲、発射準備完了しました!」
 砲手が艦橋へ連絡する。
『撃て!』
 の合図で、発射ボタンを押すだけだ。
 弾が発射され、薬莢が排出されると同時に次弾が装填される。
 薬莢は電磁石が吸い上げて、廃棄口から宇宙空間に捨てられる。

 ちなみにこの時代は、まだ戦艦に搭載できるほどの小型の粒子加速器は発明されていなかった。無理に乗せようとしても、その長大なる設備で船体内のほとんどの容積を潰してしまう。当然、陽子砲や中性粒子砲などはまだ開発されていない。
 なので旧態依然の大砲やミサイルが主力兵器となっている。
 今だ未踏破の星域や、未開発の惑星があり、侵略国家の存在もあって、未知の科学兵器よりも、艦体のどこにでも設置できて簡単に火力を増強できる既存の大砲やミサイルに限るのである。


 双方の艦隊が撃ち合い、戦闘が始まった。
 砲弾やミサイルが飛び交う、その間隙が縮まってゆく。
「戦列が交差します」
 ついに双方の先頭が鼻突合せての乱激戦の模様となっていた。
「撃って撃って、撃ちまくれ!」
 アンドレ艦長が連呼する。
「装甲の厚い戦艦を前面に出せ!」
 ネルソン提督は冷静に、状況判断をしていた。
 戦艦だけの数でいけば、敵側二十隻に対して味方側三十隻である。戦艦の厚い壁で押し返そうという判断だ。
 戦闘前半戦は、トラピスト側有利に運ばれていた。
「まもなくすれ違いが終わります」
 なんとか中央突破に成功して、目前に輸送艦が待機していた。
「主砲を前方の輸送艦に合わせろ!」
 副官が小躍りするように叫ぶ。
 自分の発案通りに事が進んで調子づいているようだ。
 しかし、ネルソンの表情は硬い。
 あまりにも作戦通りに進み過ぎるからだ。
「主砲、目標セット完了しました」
「撃て!」
 輸送艦への攻撃が開始される。
 輸送艦を蹴散らして反転攻撃に回るか、このまま全速力で逃げ出すのもありだ。
 順調に輸送艦を撃破しつつ前進するネルソン艦隊。
「撃って撃って撃ちまくれ!」
 副官が興奮しながら連呼する。
 およそ輸送艦の半数を撃破した時だった。
 輸送艦が左右に分かれて道を開けるように動いた。
「なんだ? 逃がしてくれる?」
 首を傾げる副官だった。
 あり得ない敵の行動には、訳があるに違いないと提督が思った次の瞬間だった。
「前方に新たな艦影確認!」
 レーダー手の声に、
「やはり罠だったか……」
 呟くネルソン提督。
「太陽系連合王国軍です。敵の艦数、およそ三十隻! すべて戦艦です」
 艦橋内に絶望の雰囲気が漂い始めた。
 戦艦の数が多いのを頼りに戦ってきたのに、援軍の登場で士気が大下りとなっていった。
「提督、どうなされますか?」
 これまでイケイケどんどんだった副長の威勢とは思えないほどの自信のなさだった。
「ここで足掻いても仕方あるまい。このまま全速前進して、正面の艦隊を突き崩す!」
 正面の艦隊だけでいうなら、戦艦は同数の上に巡航艦などもいて戦力は優勢である。後方の艦隊には目もくれずに、ひたすら正面突破を図れば戦線離脱も可能かもしれない。

 万が一の可能性ではあるが……。


 その頃、アムレス号はとある恒星系の小惑星帯を進んでいた。
 その船橋では、新たに乗員となった者たちが、通信やレーダーなどの機器を操作する任務についていた。
「間モナク、秘密基地ニ到着シマス」
 操舵を担当していたロビーが報告する。
 基地の位置を把握しているのはロビーだけだ。
 小惑星の一つにアムレス号が近づくと、岩盤の一部が開いて進入口が現れた。
「基地ニ進入シマス」
 基地内に入り停止するアムレス号。
 搭乗口が開いて、乗員が次々と降りてくる。
 基地内には、ミサイルや燃料などの補給物資がずらりと並んでいた。
「戦闘機があるぞ!」
 彼らが特に喜んだのは、自らがパイロットとして乗り込む戦闘機だった。
 駆け寄り乗り込んで、機器類を操作してみる。
「すごいぜ! やっぱり最新型だぜ!」
 皆が感動している時、管内放送があった。
『みなさま、これより基地内の補給物資のアムレス号への搬入を開始しますので、お手伝いをお願いします』
 と、アムレス号の搬入口が開いてゆく。
「よし! 皆の者、旧任務に関わる職務に就くがよい。分からないものは、私が配分する」
 長老が指示すると、かつてフライトデッキクルーだった者は、何をすべきかをよく理解しているので、テキパキと段取り良く戦闘機などを運んでいく。
 フォークリフトを起動させてミサイルや弾薬を運ぶ係、ロケット燃料を給油口に注入する係、食料やその他備品を運ぶ係など、各自適材適所に動き出した。


 一方、船橋ではアレックスが船の運用に関する蘊蓄(うんちく)を、エダから教授されていた。
 航行や戦闘における操船術を、船主であるアレックスが知っておかなければならないことは多い。



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銀河戦記/拍動編 第四章 Ⅳ 迎撃開始
2023.03.04

第四章


Ⅳ 迎撃開始


 戦闘機の攻撃を受けている宮殿。
 女王の間で、その状況を冷ややかに見つめている女王。
 時折爆撃を受けて、ヒビが入る窓ガラス。
「女王様、ここは危険です。もっと安全な場所へ」
「いいえ、私はここにいます。どこに逃げても同じこと。それに私は女王です。逃げも隠れもしたくはありません。それより我が軍は何をしているのです。応戦を」
「はい。只今、オリオン号を緊急発進させています」
「そう……。ネルソンはどこに?」
「はい。只今、参謀本部で作戦会議中です。なあに、この程度ならネルソンが出なくても、じきにおさまりますよ」
「そうね」

 宇宙港。
 発進するオリオン号。
 艦橋では、テキパキと指示を出しているドルトン新艦長がいる。

 造船ドック。
 広々とした構内を、働きまわる技術者達。
 中央に最新鋭戦闘艦『ヴィクトリア』が据えられている。
 構内の搭乗デッキをアンドレが走っている。

 ヴィクトリア艦橋にたどり着くアンドレ。
「発進の準備はどこまで進んでいるか?」
「艦長! 現在、乗員はすべて搭乗を終え、艦内チェックもほぼ終了しています。ただ、燃料補給の方が……」
「敵は目の前なんだぞ! 宇宙へ出るわけではないんだ。補給の終わってる分だけでも飛ばすぞ」
「は、はい」
 歯ぎしりをするアンドレ。
「何をそんなに焦っているのだ、アンドレ」
 背後から声が掛かった。
 振り返るアンドレ。
「ネルソン提督!」
「いつもの君らしくないぞ。冷静になれ!」
「しかし敵が……」
「たかが前衛の遊撃艦隊ではないか。これくらいで参るようなトラピストではないことは君も十分承知のはずだ。それともドルトンを信頼できないとでも言うのか? 見ろ! 立派に戦っているではないか」
 とスクリーンを指さす。

 そこには、オリオン号が敵艦隊と交戦中で、戦闘機の集中砲火を浴びながらも、次々と撃ち落していく姿があった。
 オリオン号艦橋では、奮戦し的確な指示を下している新艦長のドルトンがいた。
「俺だって、オリオンの艦長なのだ。だてに艦長に任命されたのではない」
「敵が退却を始めました」
 副長が報告する。
「まあ、そんなところだろう。トラピスト軍を舐めるなよ」

「アンドレ。燃料補給・艦内チェックは十分すぎるぐらいにやらせろ。発進してから気づいては、取り返しのつかないことになることぐらい分かっているだろう」
「は、はい……」
 ネルソンがアンドレの肩に手を置いて諭す。
「冷静になれよ」
 アンドレ、スクリーンを見つめたままだった。

 三時間後、先遣隊は殲滅された。
 建物の多くが焼け落ちた惨状の街のあちこちから市民たちが現れて、空を仰いでは口々に話し合っている。
「敵はもういないのか?」
「今度はいつ攻めてくるのかしら」
「軍は何をしているの?」
「これからどうなるの?」
「地球軍はすぐそばまで侵攻しているってのは本当だったのね」
「おしまいよ。トラピスト王国は滅亡するのよ」
 死体にすがって泣く者、放心状態になっている者、様々な人々が当てどもなく彷徨っている。

 宮殿前広場に群衆が集まり喚き立てている。
 宮殿内に侵入しようとして、近衛兵に取り押さえられる人々。
 パニック寸前の状態であった。

 宮殿女王の間で静かに群衆の成り行きを見つめているクリスティーナ女王。
「御前会議のお時間です。各国領主さま皆お集まりで、女王様をお待ちになっております」
 侍女が伝えにきた。
「すぐ行きます」
「群衆の方は、いかが致しましょうか」
「見たところ大したことはなさそうです。そのうちに静まるでしょう。ヴィクトリアの発進はいつですか?」
「丁度、一時間後です」
「そう……」

 宮殿大広間に集まった王国集団を形成する各国領主の代表達の面々が、口の字形式に並べられた長机にセッティングされた椅子に腰かけている。
 隣り合った者同士が、王国の行く末を語り合っている。
 クリスティーナ女王が入場し、主席に着席すると会議が始められる。
「よりによって、我々が集まった日を狙って攻撃してくるとはね」
「まったくだ。一時間到着が遅れていたら、危うくやられるところだったよ」
「この中に敵のスパイでもいるのではないか」
「それは君のことではないのかね」
 一同笑う。
「皆さん、お静かに!」
 今は冗談など言っている暇などないのですよ。議長、初めて下さい」
「はっ。では……」
 議長が開会宣言をし、最初の報告者が立ち上がった。

 地球からみずがめ座の方向29光年に恒星グリーゼ849があり、その最も近い軌道を回る地球型惑星は、惑星国家グリーゼとして発展していた。トラピスト連合王国とは近傍のため、親しく交流していたのだが、覇権国家ケンタウリ帝国によって占領され、トラピスト侵略への足掛かりとして艦隊が集結していた。


 造船ドックではヴィクトリア号の発進準備が進んでおり、技術者たちが忙しく動き回っている。
 ヴィクトリアの機関室。
 メインエンジンの周りで計器類をチェックする乗員達。

 艦橋では計器類を操作する乗員達を指揮するアンドレ。
「発進十分前! ゲートオープン。乗員以外は速やかに退艦せよ」
 ゆっくりと天井が開いてゆき、青空が広がってゆく。
 光を浴びて燦然と輝くヴィクトリア。
「発進五分前! 発着ゲートの管制員は退避せよ」
「発進二分前! 補助エンジン始動」
「回転数正常に上昇中」
「メインエンジン始動三十秒前。シリンダー閉鎖弁オープン」
「発進十秒前! メインエンジン始動点火」
「ガントリーロック解除」
「微速前進!」
 ゆっくりと動き出すヴィクトリア。
 浮上して徐々に加速してゆく。

 ポッカリと開いた発進口。
 そこからヴィクトリアが出てくる。
「ヴィクトリア、ドックを出ました」
「まもなく空港上空に達します」
「よし、上空管制を怠るなよ」
「全艦隊、発進せよ。ヴィクトリアに続け」

 次々と発進する軍艦。
 空港周辺でそれを見つめる人々。
 その中に、心配そうにヴィクトリアを見つめるエミリアもいる。

 紺碧の大空を進むヴィクトリア。
 それを取り囲むようにして集まってくる艦隊。
「大気圏を離脱する」
 大気圏を脱して、宇宙空間に突入する艦隊。
 後方にはトリタニアが美しく輝いている。
 ヴィクトリア艦隊に接近するオリオン号率いる防衛艦隊。
 その艦橋ではドルトンが指揮している。
「ヴィクトリアに接近します」
「アレが、旗艦ヴィクトリア号か……。よし、我々も右翼に展開しよう」

 続々と各国の艦隊が集合しつつあった。
 各国代表が集まっていたのもそのためだったのだ。
「アビロン艦隊司令より入電、ネルソン提督宛です」
「繋いでくれ」
「了解」
 正面スクリーンにアビロン艦隊司令が映し出される。
「アビロン侯国軍艦隊司令グレーン大佐です」
「トラピスト星系連合王国艦隊司令ネルソン少将です」
「本国指令により、我が艦隊は提督の指揮下に入ります」
「よろしく頼みますよ。グレーン司令」
「はっ。こちらこそ」
「左舷二十度よりハムラーン侯国の艦隊が接近してきます。後方からはマライヤ侯国の艦隊」
 ヴィクトリーに接近する、ハムラー・マライヤ両侯国艦隊。
「全艦隊、集結完了しました」
「敵艦隊の本隊は、バンゲル星域に集結しているようです」
「よし、トラピスト星系連合王国艦隊司令として命令する。全艦、バンゲル星域に向けて進路を取れ!」
 進撃を開始する連合艦隊。



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銀河戦記/拍動編 第四章 Ⅲ 空襲警報
2023.02.25

第四章


Ⅲ 空襲警報


 ネルソン提督邸。
 宇宙艦隊勤務で不在がちな提督の代わりに、息子夫婦が住んでいる。
 久しぶりの休暇で屋敷に戻った提督だったが……。
「あなた」
 妻のメリンダが夫のデリックに耳打ちする。
「なんだ」
「お父様、いつまでここにいらっしゃるのかしら?」
「ん? どういう意味だ?」
「だから……せっかく親子三人水入らずの生活を送っていたのに……」
「すると何かい? お父さんは、邪魔者ってわけかい?」
「そうじゃないわ」
「おまえは、どうしてお父さんを毛嫌いすんだ。軍人だからか?」
「そうじゃないのよ」
「とにかくだ。お父さんが、我々と一緒に居たいという限り、俺はそうするつもりだし、我々がこうして平和に過ごせるのも、お父さんたちが戦ってくれているからこそなのだ。おまえが軍人嫌いなのはわかるが、俺にとっては唯一の肉親なのだ」
「あなた……」
 彼女にとって、自分の家のように過ごしてきたので、義父の邸宅であったとしても、もはや邪魔者でしかなかったのだ。
 邸主元気で留守が良い。
 といったところである。

 寝室では、パジャマにガウンを羽織ったネルソン提督が、窓辺に立ってガラス越しに星を眺めていた。

 同じ頃、宿舎で軍服姿のまま星を眺めているアンドレ・オークウッドもいた。


 翌日。
 参謀本部の広い作戦室。
 中央正面にパネルスクリーンがあり、銀河系オリオン腕におけるトラピスト星系連合王国と隣国バーナード星系連邦の占領区分が表示されていた。
 今発言台に立っているのは、アンドレ・オークウッド少佐であった。

「太陽系連合王国の前衛艦隊であるバーナード星系連邦軍は、トラピスト星系連合王国絶対防衛圏内の外側二百光秒の所に進駐しており、空母エンタープライズを旗艦とする主力艦隊もオルファガ宙域より後を追って進軍中であります」

「バーナード星系連邦の前衛艦隊は、我がトラピスト星系連合王国の外側二百光秒に位置するバンゲル星区に進駐しており、その遊撃艦隊は絶対防衛圏内にまで入り込んで各地に攻撃を加えております」

「敵の主力艦隊の位置と戦力は?」
「主力艦隊である地球軍第七艦隊は、オルファガ戦域を出発したばかりです。戦力は空母エンタープライズを主力艦として、戦艦五隻、駆逐艦九隻、巡洋艦三十二隻。前衛艦隊との接触推定日時は十二日後です」
「十二日後か……。ご苦労だった、席に戻り給え」
 アンドレ、敬礼して席に戻る。
 ここで参謀長が立ち上がった。
「さて……。戦況はオークウッド少佐の報告通り、決戦の日まで我々に与えられた猶予は十二日間というわけだ。敵の主力艦隊を我々の絶対防衛圏内に入れてはならないのは明白であり、それを許すのは我がトラピスト星系連合王国が滅ぶ時なのだ。こういている間にも敵は着々と進行している。一日一秒として無駄にはできないのだ」
 ここで一息ついて水を飲んでから、
「ところで諸君らも承知の通り、技術部の方で準備を進めていた最新鋭戦艦が完成した。技術部長たのむ」
 参謀長は座り、指名された技術部長が立ち上がった。
「この戦艦の概要を簡単に説明します。火力は三連装主砲が艦首側に二門、艦尾に一門を配置。三連装副砲二門。そして主力の艦首プロトン砲を搭載していますが、従来のものより射程距離を二倍に伸ばし、エネルギー充填時間も半分に短縮することに成功しました。両舷に艦載機発着口があり、二十機の艦載機が発着できます。これにより総合火力は遥かに強化されたものと思われます。艦名ですが、『ヴィクトリア』です。これは女王様の希望により命名されたものです。以上です」
「ご苦労だった」
 技術部長、敬礼して席に戻った。
「さて、この最新鋭戦艦『ヴィクトリア』だが、決戦に際して再編成される艦隊の旗艦として配属されることに決まった。その艦長だが……オークウッド少佐!」
「はいっ!」
 起立するアンドレ。
「君を任命する。この時点より、君を中佐に昇進させる。頼むぞ、オークウッド中佐」
 アラン姿勢を正して最敬礼する。
「はっ。アンドレ・オークウッド『ヴィクトリア』の艦長の任を拝命します!」
「うむ。次に艦隊総司令長官にはネルソン少将に任に就いてもらう。ネルソン君いいかね?」
「結構です。やりましょう」


 公園のベンチに腰かけて考え込んでいるアンドレ。
 そこへ頬を紅潮させてエミリアが掛けてくる。
 アンドレ立ち上がる。
「アンドレ!」
「エミリア……」
「遅れてごめんなさい。待った?」
「いや……呼び出して悪かったな」
「ううん。嬉しいわ」
「エミリア……」
 二人抱擁し合う。
「そうだわ……」
 バックから包みを取り出し、アンドレに差し出す。
「はい、これ」
「何だい?」
「中佐に昇進したお祝いと、ヴィクトリアの艦長就任のお祝いよ」
「どうしてそれを?」
「ドルトンから教わったのよ。彼もあなたの後任として、オリオンの艦長になったのね。やっと少佐になれたって喜んでいたわ」
「しようがないなあドルトンの奴。まったくお喋りなんだから」
「そんな事ないわ、いい人よ。それより突然こんな所に呼び出したのはなぜ?」
「う、うん。実は……」
 その時、眩しい閃光と共に大きな物体が空を横切った。
「あれは!」
 見上げる二人。
「どうしたの?」
「あれは、ゴーランド艦隊の強襲突撃艦だ!」
「ええ?」
「ちきしょう。絶対防衛圏を突破されるなんて!」
「アンドレ!」

 空襲警報が鳴り響く街を攻撃する戦闘機。
 逃げ回る市民。
 車で逃げる人々。
 交通事故があちらこちらで発生し、火災でパニック状態の街。

 宇宙軍港。
 戦闘機がスクランブルで次々と発進してゆく。
 そうはさせじと飛来した艦載機群が攻撃を加えてゆく。
「早くしろ! 何をグズグズしている!」
 地上管制員がパイロットにはっぱを掛けて搭乗を促している。
「そんなこと言われても」
「つべこべ言うな!」
「下がって、発進します」
 急速発進する戦闘機。


 ネルソン邸でもひと騒ぎが起きていた。
 玄関の扉を勢いよく開けて子供が駆け込んでくる。
「ママ! ママ、大変だよ!」
「どうしたのレオン」
「飛行機がいっぱい飛んでるよ。街が真っ赤に燃えてるよ」
「え?」
 慌てて外に出てみるメリンダ。
 心配そうに戦火に燃える街を見つめる親子。
 街の方からエアカーがやってくる。
「あ! パパだ!」
 エアカーが止まり、デリックが降りてくる。
 メリンダ駆け寄る。
「あなた……」
「大丈夫だ。ここまでは敵もやって来ない」
「あなた、これから一体どうなるの? トラピストは滅ぶの?」
「心配するな。お父さんたちが何とかしてくれるさ」
「お父様が……」
「そうだよね。お爺ちゃんが、敵を追っ払ってくれるよね、パパ!」
「ああ、そうだとも」
 三人、燃える街を黙って見つめている。
 軍人嫌いのメリンダも、少しは……。
 と考えるデリックだった。


 公園。
 エミリア、恐怖に慄(おのの)き、アンドレに抱き着いて震えている。
 そこへ、一機の戦闘機が襲い掛かってくる。
「危ない!」
 エミリアを庇うように地に伏せるアンドレ。
 次の瞬間、戦闘機が爆発炎上して、コースを変えて木に激突する。
 後を追ってきていた味方の戦闘機が撃墜してくれたのである。
 戦闘機旋回して再びアンドレの前を通り過ぎる。
 乗員、アンドレに敬礼をしていた。
「トルーガ曹長!」
 通り過ぎる戦闘機。
 二人の元にエアカーが数台やって来て止まる。
「オークウッド中佐! 探しましたよ」
「おお」
「速やかに艦に搭乗するようにとの命令です」
「分かった!」
「アンドレ……」
「心配することはない。君、この女性を避難所へ連れて行ってくれ」
「かしこまりました」
 アンドレ、迎えのエアカーに乗り込む。
「アンドレ……」
「大丈夫だ」
 エアカー、発進する。
 見送るエミリア。
 もう一台のエアカーの運転手が促す。
「さあ、お乗りください。ここは危険です」
「は、はい」
 ゆっくりと乗り込むエミリア。



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