銀河戦記/鳴動編 第一部 第五章 独立遊撃艦隊 Ⅲ
2020.12.16
第五章 独立遊撃艦隊
Ⅲ
「しかしいくら最速のエンジンと最強の火器を有していても、艦隊決戦となった時に困りますよ」
パトリシアが危惧する通り、艦隊リモコンコードは艦隊が一連の運行をするには非常に大切なシステムである。各艦がリモコンコードを旗艦に同調させることによって、旗艦に対してそれぞれが常に一定の間隔できれいに並んで進行することができる。進路変更や退却といった命令もリモコンコードに載せて旗艦から発信すれば、全艦が一度に整然と行動できるというわけである。リモコンコードによって運行する限り、艦と艦が接触事故を起こしたり、艦が戦闘宙域の中で作戦行動を誤ったり迷子になったりすることはあり得ないのである。
「まさか……」
パトリシアは口に出しかけた言葉を飲み込んだ。
「そのまさかさ。我が部隊では艦隊リモコンコードは一切使用しない」
「やはり、艦隊ドックファイトをなさるおつもりなんですね。二百隻の部隊で」
「僕は正攻法は苦手でね。奇襲を主戦法としたゲリラ戦が信条だからな」
「連邦の聯合艦隊をやったときのように」
「ああ」
「それ以前に、士官学校の模擬戦でも使われましたわね」
「まあ、何とかやってみるさ。パトリシア、旗艦についたら各編隊長を呼び寄せてくれないか」
「はい」
旗艦サラマンダーに舟艇が到着する。
到着デッキには副長以下の者が待ち受け、アレックスの乗艦を歓迎した。
「お待ち申しておりました」
「うむ……」
「艦長他全員乗艦を完了し配置に就いております」
「よろしい」
一行は艦橋へと歩き始める。
随行のほとんどが、最新鋭戦闘艦サラマンダーの最新設備に目を輝かせることとなる。
「さすがですね。これが廃艦寸前だったとは信じられません」
「艤装などの設備はトリスタニアの技術の最高峰を寄せ集めたものだ。がしかし、それだけにそれらを統括運営するコンピューターまでは配慮が行き渡らなかった。【仏作って魂入れず】というところだな」
「で、コンピューターを再設計しソフトを開発するよりも、まるごと作り直したほうが手間も時間も、そして製作費も掛からないだろうということですか」
「そういうことだな」
「ならばどうして、そんな木偶の坊(でくのぼう)が今こうして我が部隊に?」
「開発設計課のフリード・ケイスンを召喚したのさ」
「あの天才科学者ですか?」
「そうだ。奴に不可能の文字はない」
アレックスが艦橋に入室すると、中にいたものが一斉に振り向いて敬礼し、自分達の新司令官を出迎えた。新生の艦隊を指揮統合する中枢である旗艦艦橋にふさわしく、全員が生き生きと活気にあふれた表情をしている。もちろん全員女性士官で士官学校の同期生達である。
「司令官殿。艦橋勤務の方々は全員女性みたいですね」
「その通りだ。いってみればハーレム状態というところかな」
「ん、もう……」
と呟いたかと思うと、アレックスの腕を軽く抓るパトリシアだった。
アレックスは指揮官席に陣取ると、指揮パネルを操作して、全艦放送を行った。
「独立遊撃部隊司令官、アレックス・ランドール少佐である。部隊は六時間後に訓練航海に出発する。それまでに全艦万全な体制を整えておくように。以上だ」
旗艦サラマンダーの作戦室。
パトリシアからの伝令によって集まった各編隊長達。
「冗談じゃない。艦隊リモコンコードを使用せずに戦闘をするなんて自殺行為です。不可能な指令です」
開口一番反対意見を述べたのは、副司令官のガデラ・カインズ大尉であった。
一同はアレックスからの指令を受けて驚愕の色を隠せなかった。
ただアレックスの少尉時代からの配下のものだけは例外だった。すでに艦隊ドックファイトの訓練と実戦を経験しており、その戦法によってそれぞれ昇進を果たしたからだ。ゴードン・オニール大尉の他、中尉となった七人の編隊長がそうである。
「訓練もしないうちに不可能とは何事か。現に我々は、ランドール戦法で敵艦隊に大打撃を与え、こうして生きてここにいるじゃないか」
参謀を務めるゴードンが答えた。
「参謀殿。十数隻での作戦と、二百隻からの大部隊での作戦とではおのずから限度というものがあります」
「そうです。あの作戦は、小編隊だったからこそ可能だったのです」
「何をいうか。やりもしないで」
「司令のとられた作戦は、ランドール戦法と命名され、来年度の士官学校では正規の戦術として講義されることになっているのだ」
「ともかく指令は変えるつもりはない。ゴードン以下のミッドウェイ宙域会戦に参加した編隊長を中心にして訓練航海に出発する」
実際にランドール戦法を戦い抜いて、戦局を大きく同盟側に有利に導いた英雄達を前にしては、結局従わざるをえない状況にあった。
「作戦開始時間は、明日の十時。以上だ、解散する」
「はっ」
全員起立して敬礼をしてから退室をはじめた。
「パトリシア」
アレックスは、パトリシアを呼び止めた。
「なにか」
「君に作成してもらった戦闘訓練のマニュアルなんだが、いま少し手を加えたいことがある。夕食までに仕上げておくからそれを各編隊長に配信しておいてくれないか」
「かしこまりました」
「君の作成したマニュアルはなかなか良いできだよ、感心した」
「おそれいります。しかし、手を加えたいというのは、どこがいけなかったのでしょうか」
「うん。君の作戦では艦隊リモコンコードで行うぶんには申し分ないのだが、手動モードで行う際の将兵達の動揺や緊張にたいする配慮が足りない。ミスを犯しても十分修正ができるような余裕を持たせておかないと、取り返しのきかない事態に陥ってしまう」
「申し訳ありません。以後気を付けます」
「艦隊を動かすのはコンピューターではなく人間であることを忘れてはいけないよ」
「ありがとうございました」
「うん。それではまた後で」
「はい」
パトリシアが敬礼して退出した後、手元の書類に目を通すアレックス。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第五章 独立遊撃艦隊 Ⅱ
2020.12.15
第五章 独立遊撃艦隊
Ⅱ
その翌日。
宇宙空港より、独立遊撃部隊の将兵達を乗せた舟艇が一斉に発進し、大気圏上空へ向かっていた。
大気圏を離脱した舟艇の前に、軌道上に待機する二百隻の艦艇が現れた。巡航艦と駆逐艦を主力にして、軽ミサイル艦、高速軽空母などが従っている。
「あれが、我々の乗り込む旗艦サラマンダーだ」
アレックスは舟艇の窓に映る艦影を指差した。
そこには、艦船の中に伝説上の火の精霊であるサラマンダーの絵を配した艦が一隻、部隊の中心ほどの位置に浮かんでいた。ハイドライド型高速戦艦改造II式、独立遊撃艦隊旗艦「サラマンダー」である。それを取り囲むように「ウィンディーネ」「ドリアード」「シルフィー」「ノーム」と、水木風土を象徴する精霊の名を与えられた同型艦四隻が追従していた。それぞれにゴードン・オニール大尉、ガデラ・カインズ大尉、レナード・エステル中尉、カール・マルセド中尉が指揮官として乗艦することになっている。カインズ大尉を除いて、ミッドウェイ宙域会戦でアレックスの部下だった有能なる指揮官達である。
長期の宇宙航行には重力と宇宙線の問題が避けて通れない。共和国同盟軍は女性士官が全体の三割に達するので、彼女達の健康を損なわないように居住ブロックを設置して、宇宙線を通さない特殊隔壁と重力場の確保がなされている。女性士官はこの居住ブロック内にある、第一艦橋・通信管制指令室・病院などの施設勤務が原則で、無重力の機関部や戦闘ブロックへの立ち入り禁止。すべてにおいて子供を産み育てる女性が優先となっており、男性には冷遇されている。無重力の影響でどんなに骨格からカルシウムが溶出し筋肉が削げ落ちても、おちんちんさえ立てば男としての本分はまっとうできるが、妊娠・出産という命がけの仕事がある女性はそうはいかないからである。
重力を発生させるには、船体の一部に回転モーメントを与えればよい。回転軸と進行方向を一致させれば船体は安定はするのだが、見た目が悪いのと戦闘艦には不利益となるので、亀の甲羅状の円盤型とし、高速性能を発揮できるようにする。
(亀の甲羅とはいったが、本来は空中を滑空する翼竜がデザインのもとである)
ただこの場合問題になるのは、円盤部分のトルクに引きずられて船体自体も回ってしまうという障害がおきる。まさかヘリコプターのようなローターを取り付けるわけにいかないので、どうするか。そこで、円盤部分の内周・外周を逆回転させることによって、トルクを正逆打ち消し合わせるデザインにした。円盤部は二層構造になっており、外層は宇宙線の遮断と隔壁の役目を果たし、超流体ヘリウムに浮かぶように内層の居住ブロックがゆっくりと回転している。
なおこの円盤部は、本体から切り離して補助エンジンにより独力航行が可能。
そんなサラマンダーの雄姿を目にして、パトリシアが確認した。
「あれは、ハイドライド型高速戦艦改造II式ですね」
博識なパトリシアだけあって一目で艦種をあててみせた。
「そうだ」
「改造II式は五隻試作されましたが、エンジン制御コンピューターの設計ミスが判明して、すべて廃艦になる予定ではなかったのですか?」
「あえてその五隻をこっちに回してもらったのだよ。改造II式のエンジンは、性能的にはずば抜けている反面、その制御がかなりシビアで、コンピューターの設計をやり直すよりも、新型艦を設計したほうが資金と時間の節約になるということで、廃艦にされることになったものだが」
「よく手当てできましたね」
「まあな、レイチェルのおかげさ。補給編成部局に友達がいるらしくて、手を回してもらった」
「ふーん。レイチェルさんがね……にしても大丈夫でしょうかねえ」
「制御コンピューターの設計ミスといっても、主に艦隊リモコンコードに関する部分であって、艦を単体で動かす分には支障は起きない。何といってもエンジンの性能はずば抜けて素晴らしいんだ。戦艦クラスでは連邦・同盟の中でも最高速だといわれる。もったいないじゃないか。それより何よりも、搭載している原子レーザービーム砲だ」
同盟の各艦に搭載される主力兵器は、光子ビーム砲・イオンプラズマ砲・プロトン砲などがあるが、粒子をビーム状にして放出することから総称して粒子ビーム砲と呼ばれている。それぞれに特徴があり、駆逐艦などの小型艦に搭載される低出力ながらも長射程の光子ビーム砲、戦艦搭載の高出力だが短射程の陽子砲、その中間に位置するイオンプラズマ砲である。
原子レーザービーム砲は、ハイドライド型高速戦艦改造II式の五隻の同型艦のみに搭載された最新型のビーム砲である。ある種の原子を絶対零度に近い極超低温状態にさらした時、原子の固有振動の波長と位相が均一にそろって、いわゆるレーザー状態を呈してくる現象を利用している。レーザーとしての性質を持つに至った原子をビーム状に増幅収束して射出する兵器である。
通常のレーザーがフォトン(光子)であるのにたいし、重粒子である原子を利用するためにエネルギー効果値は桁違いに大きく、その破壊力はすさまじい。なおかつレーザー特有のエネルギー減衰ロスが小さく拡散しないので、光子ビーム砲並みの長射程を誇っている。通常の光子ビームを跳ね返すビームシールドを貫いて敵艦を破壊するために開発されたものである。
原子レーザーを可能にする、極超低温状態にある原子がとる特異現象は、地球歴二十世紀前半において、インドの物理学者ボーズの理論をもとにアインシュタインが予言したもので、両者の名をとってBEC(ボーズ・アインシュタイン凝縮)と呼ばれており、1997年1月27日、MIT(マサチューセッツ工科大学)において最初のレーザー発振実験に成功している。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第五章 独立遊撃艦隊 Ⅰ
2020.12.14
第五章 独立遊撃艦隊
I
レイチェルの献身とも思える仕事ぶりによって、第十七艦隊所属独立遊撃部隊はとうとう再編成を完了して、部隊として正式に始動することとなった。
軌道上には二百隻からなる艦隊が集結し、続々と乗組員が搭乗してやがて出動することになるその日のために訓練が繰り返されていた。それぞれの艦内では整備が進み、艤装は着々とはかどっていた。その陣頭指揮には第十七艦隊より派遣されてきた、ガデラ・カインズ大尉が任についていた。大尉はフランク・ガードナー中佐の配下で、信頼のおける優秀な将校ということで、アレックスも安心して任せられた。
正式に遊撃部隊の司令官となったアレックスは、部隊の参謀として同窓のゴードン・オニール大尉を迎えた。彼も二階級特進で少尉から大尉になっていた。
艦隊司令部に一室を与えられたアレックスは、ゴードンを呼び寄せて部隊の今後について協議することにした。レイチェルも一緒である。
「ところで司令官殿。我が部隊は独立部隊として、艦隊とは独立した作戦任務を与えられるそうですね。本当ですか?」
レイチェルが、アレックスに敬意を払いながら尋ねた。
「ああ、本当だ。何せ急造の司令官だからな、他の部隊と連携させる作戦では士気統制がとれない、他の部隊司令官達から反対があったそうだ」
「簡単に昇進した人間にたいする嫉妬でしょうか」
「まあな。偶然の幸運に恵まれて昇進した司令官との共同作戦にはついていけないだろうさ」
「そうですね。何せ、司令官として艦隊を運用した実績がまるでないのですから。敬遠されてもしかたがないでしょう。くやしいですが」
「まあ、これは艦隊の士気に大いに関わる問題だからな。独立部隊ということにしておけば、作戦に失敗しても一部隊を失うだけだ」
「まるで信用されていませんのね」
「はは、そんなところだな」
ドアがノックされた。
三人はドアの方に振り向いた。
「入りたまえ」
ドアが開き、見慣れた女性士官が入室してきた。
こつこつと軍靴を響かせ毅然とした姿勢で歩み寄ってくる。
やがてアレックスの手前に立ち止まり、踵を合わせ鳴らして敬礼し、自己申告した。
「パトリシア・ウィンザー少尉。本日付けをもって、ランドール司令の副官として着任いたしました」
「パトリシア!」
アレックスとゴードンはほとんど同時に叫んでいた。
しばし茫然としていた二人にたいして、
「よろしくお願いします」
といってパトリシアはにこりと微笑んだ。
「何だ、君が副官に選ばれたのか。偶然だな」
「偶然もなにも、俺達と違って彼女は首席卒業で特待進級の少尉。独立遊撃部隊の旗艦艦橋勤務を志望すれば、当然副官に選ばれるのは当然じゃないか」
「悪かったな、中の下で。そうか……席次順で配属希望先が優先的に決められるんだったな」
「こうやって三人でいると、士官学校の模擬戦のことを思い出しますね」
「そういえば、そうだな。おっと、紹介するのを忘れるところだった」
アレックスは、レイチェルをパトリシアに紹介した。
「こちらは情報参謀の、レイチェル・ウィング少尉。僕の副官を務めてもらっている」
「レイチェルです。よろしく」
「そしてパトリシア・ウィンザー少尉。同じく副官だけど、こちらは軍令部から派遣された正式な副官。そして僕の婚約者でもある」
「パトリシアです。よろしくお願いします」
二人は、握手した。
「なあ、物は相談なんだけど」
ゴードンが切り出した。
「なんだい」
「レイチェルを俺の副官にくれないか」
「レイチェルを?」
「パトリシアは、士官学校を首席卒業するほどの才媛だし、実績も模擬戦の時で知っての通りだよな。レイチェルもまた、独立遊撃部隊の再編成の仕事を見てもわかるように、その優秀さは保証済みだよ。何も優秀な副官を二人も独り占めすることはないだろう」
「別に独り占めしているつもりはないが……」
「そこでだ、パトリシアは君の奥さんだし、君のそばにいたくて配属希望で副官としてやってきたのを、無理に引き離すのは可哀想だ。だから、レイチェルのほうをね」
「私達、まだ正式には結婚していません」
「とはいっても、事実上の夫婦であるには違いなかろう」
「そうですが……」
とアレックスのほうを伺って、彼が首を縦にするのを確認してから、
「はい」
とパトリシアは答えた。
「とにかく、婚約者にとっては、素敵な女性が常時そばについていては、気が散って仕事にならんだろう」
「こじつけじゃないのか? レイチェルの獲得のための」
「そうかも知れんが、俺は彼女が欲しい」
といってレイチェルを抱き寄せるようにした。
「わかったよ。レイチェル次第ということにしよう。どうだい、レイチェル」
アレックスはレイチェルに二者選択の回答を求めた。
「あたしなら構いませんけれども。パトリシアが副官になるなら、あたしは必要ないと思います。名残惜しい気はしますけれど……」
「決まりだ!」
ゴードンは小躍りして喜んだ。
「そういうわけで、レイチェル。今日までご苦労だった、感謝する。これからはゴードンの副官としてその才能を発揮してくれないか」
「はい。今までありがとうございました」
「ま、同じ部隊の参謀だから、いつでも会えるからさ」
「とにかく、二人ともよろしく頼む」
アレックスは手を差し伸べた。
「はい」
レイチェルとパトリシアは同時に答えてその手に自分の手を重ねた。
「さて、さっそくで悪いのだが、今回の作戦について協議したい」
「いきなりですか?」
「そうなんだな、これが」
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第四章・情報参謀レイチェル Ⅶ
2020.12.12
第四章 情報参謀レイチェル
Ⅶ
翌日、アレックスが起きて満員でごったがえすような食堂にいくと、レイチェル
は同室のジェシカや同僚の女性士官達とグループで集まって楽しそうに談笑していた。
「あ、司令。ここが空いてますよ」
と士官学校同窓のジェシカが、手を振ってアレックスを呼び寄せて、レイチェル
の隣を指し示した。
「今、パトリシアのこと話していたんですよ」
「パトリシア?」
といいながら席に腰を降ろした。レイチェルを横目でちらりと見ると、彼女は微
笑みながらこちらを見つめている。
「はい。彼女、士官学校を首席で卒業したそうです」
パトリシアはジェシカと寄宿舎を同一にした後輩である。だから直接パトリシア
から連絡が届いても不思議ではない。
「ふーん。首席か……、やはりというところだね」
卒業のことは知っているが、首席ということは聞かされていなかった。遠慮して
のことだろうが、普段から首席を通していたので納得する。
「よかったですね」
「何が、よいんだ」
「だって、首席ということは、部隊配属希望が一番乗りで選ばれるわけですよね」
「そりゃ、そうだが」
「パトリシアは、もちろんここへの配属を希望したそうです。当然、首席だから希
望通りここへ来れるはずです。また一緒に生活できるじゃないですか」
「なにいってるんだ」
「だめ、だめ。あなたとパトリシアのことはばれているんですから。模擬戦の後、
二人で旅行に出たこともみんな知っていますよ。夫婦として一緒に生活してるくせに」
「ちぇっ。ジェシカにかかったら、形無しだな」
彼女達はアレックスを魚にするように笑った。レイチェルも屈託なく彼女達と一
緒に笑っている。
その時艦内放送が鳴った。
『遅番の食事交替まで後十分です』
「あら、もうそんな時間なの。じゃあ、レイチェル、また後でね」
といって彼女達は、遅番と食事交替するためにそれぞれの部署へと戻っていった。
レイチェルは、アレックスの副官なので早番・遅番の交替勤務というものはなく、
規定の時間内に済ませればよいので、そのまま残って食事を続けることができた。
「ところでいい情報を、つかみましたわ」
レイチェルが口を開いた。昨夜のことはまるで意識にないといった表情であった。
こういうことは意外と女性の方が、覚めているのかもしれないし、アレックスにし
てもそうであってくれたほうがありがたい。いつまでも糸を引くような関係では
後々に問題を残すだろう。アレックスにはパトリシアがいるし、レイチェルもその
ことをよく理解してくれているのであろう。
「いい情報?」
レイチェルは特務科情報処理課に勤務する情報将校である。
「ええ、試作のハイドライド型高速戦艦改造II式が廃艦になるそうです」
「例のあの高速戦艦が?」
「はい。ここに改造II式の仕様書をお持ちしました」
「どれ、拝見させてくれ……」
「どうぞ」
手渡された仕様書を読み終えて、アレックスは腕組みしながらしばらく考えてい
たが、やがて目を輝かせて言った。
「レイチェル、この高速戦艦を何とか僕の部隊に持ってくることは出来ないだろう
か」
「出来ないことはないでしょうけど……難しいと思いますよ。廃艦が決定している
のですから」
「何としてでも欲しい。申請書を出してくれないか」
「わかりました。なんとか、努力してみます」
「よろしく、たのむ」
技術部開発設計課を訪れたアレックスは、親友であるフリード・ケイスンに面接
した。
「よお、久しぶりだな。司令官になったそうだね、おめでとう」
「ありがとう」
「で、司令官殿が開発設計課に何用かな」
「君に特殊ミサイルの設計をやってもらいたくてね」
「特殊ミサイル?」
「ここに概要の資料を持ってきている」
といって、手書きの簡単な設計図と仕様説明書、そして特殊ミサイルを使用する
作戦企画書を手渡した。フリードは企画書に目を通して驚いたように尋ねた。
「おいおい。本気でこの作戦を実行するつもりか?」
「もちろん」
「だが、この作戦目標だが……その強大なる防衛力から、攻略には少なくとも三個
艦隊以上の兵力が必要だと言われている。今までにも、准将や少将クラスの提督が
何度か攻略を試みて、散々の体で逃げかえっているのだぞ。君は諸提督から煙たが
れて独立艦隊に追いやられている身じゃないか。この目標に対する任務を与えられ
るには、君自信が提督のクラスに昇進しない限り無理だろう。少佐になったばかり
の君が作戦を立てるのは時期相応ではないのか」
「確かにそうかも知れない。しかし、今から作戦の準備をしておいてもいいんじゃ
ないかな。たとえそれを実行するのが十年先の話しであったとしてもね」
「まったく君は気が速すぎるな」
「用意周到と言ってほしいね」
「まあいい、要件は飲んだ。で、見返りは頂けるのかな」
「パトリシアをくれ、という要求以外なら考慮しよう」
「誰が人妻なんかいるもんか」
「あ、それから……君は、第十七艦隊独立遊撃部隊の技術要員として転属が決定し
たから……そこんとこ、よろしくな」
「なんだとお! ちょっと、待て」
「辞令は、たぶん明日あたり届くと思う」
「何てことしてくれたんだよ。俺が無重力アレルギーなのを知ってんだろが。だか
ら艦隊勤務にならない技術部開発設計課を選んだんだ」
「おまえのは、ただの宇宙船酔いだろ。大丈夫だ、旗艦サラマンダーには重力居住
ブロックがあるから、船酔い程度なら軽減できるさ」
「しかし、なんで俺がおまえと同行しなければならないんだ。ミサイルの開発設計
なら地上でできるじゃないか」
「そうもいかない。特殊ミサイルを実際に使用する前に、数度の演習が必要だしそ
の度に改良を重ねて万全を期したい。つまり改良設計のために君が必要というわけさ」
「こうなりゃ、見返りをたっぷりもらわんといかんな」
「それにだ……君の持っている次元誘導ミサイルの開発援助をしてもいい」
「次元誘導ミサイル?」
「確か、ミサイル一発の開発生産に戦艦三十隻相当分の予算がかかるんだったよな」
「あ、ああ……極超短距離のワープ誘導システムがね……」
「そうだろうな。一飛び一光年飛べる戦艦で、目の前一メートル先にワープするに
等しいことをするんだからな」
「まあね。ミサイル一発作るより、実物戦艦三十隻のほうが実益があるとかで、ど
こからも製作依頼がこない」
「そりゃそうだろう。戦艦なら撃沈されない限り何度でも戦闘に参加できる。たっ
た一発限りの消耗品に戦艦三十隻分の予算をつぎ込むことなど、具の骨頂というも
のだ」
「だが、作戦次第では、絶対に三十隻以上の働きをできるはずなのだ」
「たとえば?」
「あの強大堅固なタルシエン要塞を内部から簡単に破壊できる。反物質転換炉ない
しは貯蔵システムにぶち込んでやれば、一発で木っ端微塵にできる。でなくても動
力炉、メイン中枢コンピューター、中央管制センターなどの主要部分を攻撃すれば、
数発のミサイルで機能停止して簡単に落ちる」
「それは無理だな。同盟軍中枢部は要塞を破壊するのではなくて、攻略して手に入
れることを考えているから、主要部分への攻撃は許されていない」
翌日。
「ベンソン課長……」
「おお、ケイスン。転属の挨拶か」
「はい。しかし……ベンソン課長。私の転属をよくお認めになられましたね。今開
発中の機動戦艦の設計中で一人でも多くの人手が欲しいはずなのに」
「ああ……その機動戦艦なんだが……。実は、ランドール少佐の部隊に配属が決ま
っているのだ」
「ちょっと待ってください。機動戦艦は宇宙戦艦じゃありませんよ。大気圏内防衛
専用の空中戦艦です。アレックス、いえランドール少佐には必要ないと思いますけ
ど。何せ彼は最前線ですから」
「わしにもわからんが、わしの機動戦艦の仕様を読んだランドールがぜひ自分の部
隊に配属させたいと上層部に申請して受理されたんだ。何せ、開発は始まってはい
たが、配属先が決まらず宙に浮いたままだったからな。すんなり決まってしまった」
「しかし、なんで空中戦艦なんか……」
「輸送艦に積んで占領地の掃討作戦にでも使用するつもりかもな」
「無理ですよ。こんな巨大な機動戦艦を積んで大気圏突破できる輸送艦なんてあり
ません」
「そういわれればそうだな。ともかく。わしとしては、配属先が決定して喜んでい
る。だから君の転属依頼があった時でも、断り切れなくてね。ま、君の担当のメイ
ンエンジン部門はほぼ完了しているから」
壁に貼られた機動戦艦の設計概要図を見つめているベンソン。
「それから君には、少佐が旗艦として乗艦するハイドライド型高速戦艦改造II式の
エンジンの改良を手掛けてもらうそうだ」
「ハイドライド型高速戦艦改造II式……? それって廃艦に決定したんじゃ……」
「いや、こいつも少佐の部隊に配属されたそうだ」
「一体何を考えているんだ。アレックスは……」
「ああ、それから。旗艦サラマンダーに乗艦したら、娘のスザンナに渡してもらい
たいものがあるのだが、頼んでもいいかな」
「サラマンダー?」
「知らなかったのか。ハイドライド型高速戦艦改造II式のうちの一隻がサラマン
ダーと命名されて、ランドール君の旗艦に決まったのだよ。その旗艦の艦長になっ
たのが、スザンナというわけさ」
「そうでしたか。しかし、旗艦の艦長とは素晴らしいじゃないですか」
「まあな。娘はミッドウェイ宙域会戦はもちろんのこと、士官学校での模擬戦闘大
会当時から、ずっとランドール君の乗艦の艦長やってるんじゃよ。絶大なる信頼関
係というところかな」
第四章 了
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第四章・情報参謀レイチェル Ⅵ
2020.12.11
第四章 情報参謀レイチェル
VI
数日後。
アレックスは本格的に部隊の再編成に大車輪で取り組みはじめた。情報処理が専
門のレイチェルという優秀な副官を得て、仕事は順調かつスピーディーにはかどっ
ていた。
そんな女性士官の軍服を着込んでアレックスの副官としてかいがいしく働くレイ
チェルの姿を横目でちらちらと眺めながらも、その美しい容姿に思わず変な気分に
ならざるを得ない自分自身を異常かなと思ったりもした。タイトスカートの裾から
のぞく白くて細い足に思わずどきりとすることが、何度あることか。
「紅茶はいかがですか?」
「ああ、頼む」
レイチェルはアレックスから依頼される仕事をてきぱきとこなしながらも、個人
的なアレックスの身の回りのせわもしてくれていた。司令官として与えられたアレ
ックスの個室の掃除や、衣類の洗濯といったこまごまなことも率先してやってくれ
ていた。女性特有のこまやかな心配りを忘れない、副官として有能な人物であった。
アレックスは彼女をその他の女性士官達と区別することなく扱った。女子更衣室
や浴室、トイレの使用まですべてに渡ってである。無論女性士官達は彼女が性転換
者であることも知らずに、仕事を共にしていることになるのだが。実際彼女と同室
になったジェシカ・フランドル少尉などは、時々衣類などの取り替えっこをするく
らいの大の仲良しになるほどで、それほど完璧に女性になりきっていたのである。
いや、なりきっていたという表現は彼女にたいして失礼であろう。アレックスとレ
イチェル本人にとっては、女性そのものに相違なかったのである。第一、軍籍上は
女性として登録されている以上、そうするよりになかったのではあるが。
ある日、アレックスはレイチェルが副官としてよく尽くしてくれるので、その労
をねぎらう意味で、二人とも非番となる明日にデートへ誘うことにした。ジュビロ
との面談の後にデートらしきものはしたが、正式なデートはまだであった。
「え? あたしとですか」
「うん。どうかな」
実は誘いの言葉をかけたものの、冷や汗ものであったのだ。形成手術を施して身
体は女性として生まれ変わり、言葉使いや態度は完全に成りきっているものの、心
の中までは覗くことはできない。精神的にも男性を受け入れることのできる真の女
性であるかどうかがわからなかったからだ。一部の性転換者の中には、男でいるの
がいやだからとか、女性の素敵なドレスを自由に着てみたいからとか、そういった
理由で手術を受ける者もいると聞く。当然異性としての男性には全く興味を持たな
い、自分本意だけの完全な女性になりきっていない者もいるわけだ。
しかし、レイチェルは、身も心も完璧な女性であった。それはアレックスも幼少
の頃から気付いていたことだ。レイチェルは昔から女っぽい性格をしていた通り、
異性のアレックスから誘いを受けて、その心情を包み隠さず表情にさらけ出すよう
にして喜んだ。
「うれしいわ。あなたが誘ってくださるなんて」
「いつもよくやってくれるから、感謝をこめてね」
「じゃあ。ホテルのプールに泳ぎにいきません?」
「プール?」
「ええ。その後はホテルで一緒にディナーをいただくの」
アレックスは、いいのかな……と当惑した。プールに行くとなればもちろん水着
になることになる。わざわざ水着になることを希望したということは、自分の身体
に自身を持っているということになるわけだ。そんな彼女の水着姿を見たい気もする。
レイチェルが勤務を終えて、女子更衣室で着替えをしていると、ジェシカが話し
掛けてきた。
「ねえ、レイチェル。明日非番でしょ。一緒にどこか遊びにいかない?」
「ごめんね。先約があるの」
「え。誰なの、相手は」
「内緒」
「わかったあ。少佐とね、彼も非番だもの」
「想像におまかせするわ」
といってレイチェルは微笑んだ。
「やっぱり、そうなのね。いいなあ……『ただの幼馴染みよ』とか言っておきなが
ら、結局仲良くやってるのね」
「言っときますけど、あたし達は健全な関係ですから。第一少佐には、れっきとし
た婚約者がいるんですからね」
「それくらいは、あたしも知っているわ。パトリシアよ。あたしの後輩なんだから」
翌日、レイチェルは下着姿で鏡台に座って簡単に化粧を済ませると、白い木綿の
ドレスを着込んだ。デートだというのに化粧を簡単にしたのはどうせプールにつけ
ば化粧を落とさねばならないし、念入りな化粧はディナーの前に施すつもりだった。
そのディナーの時に着るためのドレスもすでに別に用意してある。
今回のデートの場所にあえてホテルのプールを選んだのにはわけがあった。奇麗
な身体になった自分自身をアレックスに見て欲しかったのである。ごく自然な場所
でとなると、水着になれるプールしかない。
待ち合わせの場所にそろそろ行かなければならない時間になっていた。鏡に自分
の身体をもう一度映して、衣類の乱れなどの最後のチェックをしてから、レイチェ
ルは部屋を出た。
女子寮から歩いて五分ほどの所に、小さな公園があった。その入り口近くの噴水
のそばのベンチが待ち合わせ場所であった。
約束の時刻丁度にアレックスは、エアカーで迎えに来た。
「さすがにアレックスね。時間厳守だわ」
「その荷物は?」
プールに行くにしては、大きな荷物に疑問を抱いたアレックスが尋ねた。
「水着と、ディナー用のドレスよ」
男性と違って女性は衣装には気を遣うものだ。ホテルで食事となれば、それなり
の衣装が必要だ。
「ああ、そうか……じゃあ、行こうか。女子寮の連中に見つからないうちに」
「そうね」
レイチェル自身にしてみれば、別に見つかっても構わないと思っていたが、アレ
ックスには部隊運営にかかわる重大問題事であった。上官と副官との情事なんて取
りだたされれば、士気にかかわるし、世間の週刊誌が放っておかないだろう。なに
よりパトリシアに言い訳がつかない。
アレックスはレイチェルの荷物を抱えると、エアカーの後部座席にしまった。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
レイチェルが助手席に乗り込み、アレックスはエアカーを走らせた。
プールサイドに置かれたビーチベッドに横たわっているアレックス。女性の着替
えは時間がかかるものであり、先にプールサイドに来てレイチェルのおでましを待
つことにした。果たして彼女はどんな水着を来てくるかというのが、アレックスの
感心事であった。ワンピースかビキニか。目を閉じレイチェルの水着姿を想像して
いた。
「お待たせ」
そこへ黒い生地に縁に金ラインの入ったビキニの水着姿でレイチェルは現れた。
はじめて見るレイチェルの水着姿。身体のラインがくっきりと手に取るように見
えている。
まさしく完全な女性の肢体が目の前にあった。
何せ自分からプールに行こうと言い出した彼女である。身体のラインには相当の
自信があったのだろう。
「きれいだよ」
開口一番、誉め言葉を述べるアレックス。
「どっちが?」
レイチェルが尋ねたのは、きれいなのは水着か、自身の身体のことか、と確認し
たのである。
「もちろん両方さ」
「ありがとう」
といって隣のビーチベッドに横たわるレイチェル。
数時間後、ホテルのレストランに二人はいた。
ピンク系のドレスを身に纏い、しとやかに料理を口に運ぶ仕草は、まさしく女性
のそれであった。
身体的・精神的なものに加えて、立居振舞に関しても完璧な女性であった。
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2020.12.16 05:58
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