銀河戦記/鳴動編 第一部 第四章・情報参謀レイチェル Ⅴ
2020.12.10

第四章 情報参謀レイチェル


V

 数日後。
 ダウンタウンの界隈を散策するアレックスとレイチェルの姿があった。
 レイチェルはワンピースに身を包んでアレックスの腕に自分の腕をからませて、
まるで恋人風気分といった感じであった。
「彼はこの建物の地下にいるはずです」
「地下への入り口は?」
「裏手から入れるようになっています」
 二人はビル脇の狭い通路から裏手に回った。
「しかし汚いなあ」
 足元には空き缶などのごみが散乱し、壁には雑多なペイントの落書きで埋め尽く
されていた。
「ダウンタウンですからね」
「君はこういうところに頻繁に出入りしているのか?」
「まさかあ……特別な時だけですよ」
「だろうね」

 中へ入った途端、背後の扉が閉められて、逃げられないよう扉の前に塞がるよう
に男達が立ちはだかった。
 見た目にも柄の悪い、危ない雰囲気の連中が、二人を取り囲んだ。
 その群れをかき分けるようにして、見知った顔の男が現れた。軍のシステムにハ
ッカーしてきたあの男、ジュビロ・カービンである。
「よく来たな英雄さん。ところで俺からの贈り物は届いたかね」
「ああ。さすがだな、あのカウンタープログラムを看破してくるとはな」
「俺の腕前を試したようだが、あれくらいのカウンターで神出鬼没のこの俺を排除
しようと考えるのは甘いな」
 ジュビロに案内されて奥まった場所にあるテーブルに着席する一同。
「君の腕前には感服した」
「だてにハッカーを何年もやってはいないさ。さて……要件を聞こうか」
「レイチェルから大まかな事情は聞いていると思うが、君のそのハッカーの技量を
貸してほしい」
「で、目標は?」
「これが企画書だ。目標はそこに記されている通りだ」
 アレックスは企画書を差し出した。
 ジュビロは企画書を受け取り、内容を確認して驚いて言った。
「こ、これは……!」
 なおも企画書を熟読を続けるジュビロ。
 やがてポトリと企画書をテーブルの上に放り出して尋ねた。
「内容は了解した。しかし、本気でやるつもりか」
「もちろんだ。どうだ。ハッカーとしてのその腕前を存分に発揮してみたいと思わ
ないか?」
「確かに。この目標にアクセスできるならば、やってみる価値はある」
「まだ誰一人として侵入した者がいないそうですわね」
「そりゃそうさ。完全に外部から遮断された独立コンピューター系が支配している
からな」
「そうでしたの?」
「あたしにも読ませてよ」
 仲間の女性の一人が企画書を読もうとしたが、
「だめだ!」
 と叫んでジュビロが企画書を取り上げた。
「なにすんのよ」
 いきまいて怒りだす女性。
「決まっているじゃないか。この計画は、極秘理に進行させなければ意味が無い。
なにせ何十年かかるかわからない計画だ。直接の当事者以外知られてはいけないの
さ。どこから計画が洩れるか判らないからな。おまえもハッカーの一人ならわかる
だろう」
「そりゃそうだけど……」
 しぶしぶながらも納得して同意する女性。
「彼が危険を冒してまで、直接この俺にアクセスしてきたのもそのせいだ。な、そ
うだろう、アレックス君」
「まあね……」
 アレックスは、さすがに切れる男だと察知した。企画書に一度目を通しただけで、
遠大な計画の全容を把握している。

「だが、どうやって目標に接触するつもりだ。この計画を実行するには、目標に直
接アクセスする必要がある。いくらこの俺でもそれは不可能だ。現状ではどうにも
ならんぞ」
「今はまだ、不可能だが、いずれそれを可能にしてみせる」
「どうやって? どう考えても今のおまえには実現できないだろう」
「今はまだ何とも言えない。今後の情勢によって臨機応変というか、多分に未知数
が多過ぎる。ともかく、この計画は同盟の将来を左右する重大な作戦となることは
確かだ」
「ジュビロ、受けてたってやってやろうじゃない。何だかんだ言ってこの人はあた
し達に挑戦しているのよ」
「そうだ。俺達のハッカーの腕を試そうとしている」
「同盟の将来がどうなろうと、俺達の知ったこっちゃない。だが、不可能といわれ
る巨大なシステムに対してチャレンジするのは、ハッカーの夢だ。いいだろう、依
頼を受けようじゃないか」
 ジュビロは立ち上がって、承諾の意志を表すように握手を求めて来た。それに応
じて同じく立ち上がって手を差し出すアレックス。やさぐれに囲まれているこうい
った状況の中で、手を塞がれる握手に応じることは、相手を完全に信用するという
意志表示でもある。

「ともかく目標の情報が極端に不足している。皆目といっていい。情報はそっちの
方で手当してくれるのだろうな」
「それは軍の情報部に働きかけてみよう。そういった方面は軍のほうが専門だから
な。軍が収集した情報を、君達に直接流せないが、好きなだけハックして取り出す
がいい」
「ハックして取り出せだと? 言ってくれるぜ」
「君達なら、雑作ないことだろう」
「それはそうだが……。司令官殿がこんなことして、事態が表面化すればスパイ容
疑で軍法会議にかけられるのではないか」
「それは間違いないだろう。だが、同盟が存続してこその軍隊であり、司令官の地
位があるのだからな」
「まあいい。ともかく協力すると約束しよう」
「ジュビロ、ありがとうございます」
「とはいっても、目標のシステムのOSすら判明していない。その概要を把握しカ
ウンタープログラムをかいくぐって侵入する手だてを確立するのには、それなりの
周到なる準備が必要だ。軍の情報部の活躍次第というところだが、解明には軍部の
総力をあげても数年掛かるかもしれないがな」

 数時間して、地下室から出てくる二人。
「さて、まだ時間があるな」
「せっかく二人で出てきたのですから。これからデートってのはいかがでしょう」
 といって微笑みながらアレックスの腕に、そのか細い腕をからませた。
「そうか……、それもいいかもしれないな」
「うふふ……」
 ダウンタウンのビル街の谷間を、寄り添って歩きだす二人であった。

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2020.12.10 05:36 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第四章・情報参謀レイチェル Ⅳ
2020.12.09

第四章 情報参謀レイチェル


IV

 翌日。
 アレックスはオフィスの椅子に腰掛け、相も変わらず苦手な書類を懸命にこなし
ていた。
 インターフォンが鳴った。
「レイチェル・ウィングです。ご命令により出頭いたしました」
「入りたまえ」
 扉が開いてレイチェルが入室してきた。
 その服装を見るなり、
「やはりか……」
 という風に目を伏せるアレックス。
 レイチェル・ウィング少尉は、軍服のタイトスカートからのぞく足並みもまぶし
いくらいに、その身のこなしかたも女性士官としてすっかり様になっていた。
「ご命令により、出頭いたしました」
「辞令で伝えてあるとおり、君を副官としておくことにした」
「はい。存じております」
「ご苦労。早速で悪いのだが、部隊の再編成について打ち合わせしたい」
「はい。わかりました」
 二人は再会のあいさつもそこそこに、いきなり仕事に入ることになった。それは、
アレックスが私情にかかる懸念を避けるために、わざとそうしていたのである。
「とにかく我が部隊は、高速運航できることを主眼におきたい。艦載機を搭載でき
てより高速移動できる軽空母や巡航艦を主体とした部隊編成が必要だ」
「つまり足の遅い主戦級の攻撃空母や重戦艦はいらないとおっしゃるのですね」
「その通り。艦載機を多数搭載できる攻撃空母は魅力ではあるが、防御力が小さい
ため護衛艦を配置しなければならん。直接戦闘できない艦をおくのは無駄だ」
「ただでさえ造船費や維持費のかかる空母よりも、安くて速い巡航艦を多数配置し
たほうが良いというわけですか」
「本格的な艦隊戦ならともかく、遊撃部隊として行動することが主体の我が部隊に
は必要ないし、足手まといになるだけだからな。いかに早く戦闘宙域に到達しかつ
迅速に撤退できるかといった高速性能が必要なのだ」
「司令官がミッドウェイ宙域会戦でとられたような作戦を今後もとられるおつもり
ですか」
「まあな。時と状況によるさ」
「わかりました。現部隊所属の攻撃空母を放出して巡航艦と等価交換すればよろし
いのですね」
「君には手数をかけるがよろしく頼むよ」
「攻撃空母はどこの艦隊でも欲しがっているので、そう苦労することはないと思い
ますよ」
 それからこまごまとした内容を打ち合わせて、ほぼ今日の分が終わりかけたとき
にレイチェルが言った。
「話しは変わりますけど、例のハッカーとの連絡が取れました」
「本当か」
「はい。お会いになられますか」
「もちろんだ」
「まもなく相手からアクセスがあると思います」
「なに。軍のネットにわざわざ侵入してくるというのか」
「はい。挨拶代りに出向いてくるそうです」
 その時丁度、端末が受信を知らせた。
「来たようですわ。出ますか?」
「頼む」
 レイチェルは端末を操作して受信体制を整えた。
 ディスプレイに相手の顔が映しだされた。
「よお、レイチェル。来てやったぜ」
「待っていましたわ。さすがですわね」
「司令官を出してくれないか。俺も忙しい身でね」
「わかったわ。替わります」
 レイチェルに代わってアレックスがディスプレイの前に立った。
「あんたが、噂の英雄さんか」
「アレックス・ランドールだ。君が、レイチェルの言っていたハッカーだな」
「それは、ご覧の通りだ。厳重な軍のネットにこうして侵入してきているのだから
な。ジュビロ・カービンだ。よろしくな」
「要件は直接会って話したい。どうすれば会えるか?」
「俺は、あんたを信用しているわけではないからな。ここで居場所を教えるわけに
はいかない。会見方法は後日レイチェルを通してあんたに伝える。今日はともかく
あんたの顔を確認したいのと、俺の腕前を証明するためにアクセスしたのだ」
「いいだろう。連絡を待っている」
「じゃな」
 といって通信は一方的に途切れた。逆探知を恐れてのことだろうか、名前と顔を
確認するだけの極端に短い通話であった。
「印象は、いかがでしたか?」
「なかなか好男子だったじゃないか」
「それってどういう意味ですか?」
「いやなにね」
「もう……そんな関係ではありません。変にかんぐらないでください」
「ははは。悪い、悪い。ところで、技術部システム管理課のレイティ・コズミック
少尉をここへ呼んでくれないか」
「コズミック少尉をですか?」
「そうだ」

 それから数時間後。
 端末を操作しているレイティ。
「ふう……これでいいですよ」
「完了か?」
「はい。こんど彼がアクセスしてきたらきっと驚くことになります」
「何をなさったのですか?」
「いやなにね。レイティに特別なカウンタープログラムを組んでもらったのさ」
「カウンタープログラム?」
「通常の手段によらないでアクセスしたものの端末を逆探知してそのシステムを破
壊するプログラムです」
「逆探知して破壊ですって。そんなことが出来るのですか?」
「可能ですよ」
 レイティはきっぱりと答えた。
「システムをハッカーから守るには、二種類の方法があります。システムを厳重に
ガードして侵入を防ぐ方法と、それでも侵入された場合のためにカウンタープログ
ラムで退治する方法とです」
「カウンタープログラムを作るためには、システムのハードとソフトのすべてを熟
知していなければできないんだ。通常の方法でアクセスしてくる一般のシステム運
営者との区別を厳密にしなければならないからな。システム管理部にいるレイティ
だからこそできる技ということさ」
「でも、そんなことをして相手を怒らせることになりませんか。相手にハッカーの
依頼をなさるおつもりなのでしょう?」
「確かに自分のシステムを破壊されて怒らない奴はいない。しかし、それだけこち
らが真剣だと悟るだろう。そのうえでレイティの作り上げたカウンタープログラム
を看破してくるような腕前がなければ、この計画を実行し成功させることはできない」

 アレックスは、ジュビロ・カービンとの共同計画となる作戦概要を示した企画書
を、レイチェルとともに作成した。もちろんこのような機密書類をレイチェルに作
成させたのは、彼女を信頼している証でもある。
「それにしても遠大な計画ですね。これを実行する機会は到来するのでしょうか」
「さあな。何年かかるか、僕にも検討もつかないさ。十年掛かるか二十年かそれ以
上か……。少なくとも僕が提督と呼ばれる地位に就くまでは実現しない計画なのか
もしれない。しかし前もって準備万端整えておいて、即実行できるようにしておか
なければ、いつやってくるかわからない千載一隅の機会を失ってしまうかもしれない」
「わかりました」
 それから数時間後、司令官室から出て来るレイチェル。
 戸口で敬礼をしてかる、ゆっくりとそのばを立ち去る。
「しかし遠大な計画だわ……果たしてそれを実行できる機会は本当にやってくるの
かしらね。その日の為に用意周到に今から着手しておくことは必要だけど……ま、
さすがアレックス、あたしが惚れるだけの人物ね」
 といいつつ、つい顔を赤らめるレイチェルだった。

 とある部屋。
 端末を操作しているジュビロ。ふとその手を止めて、
「レイチェルに連絡とってみるか……」
 いつものように軍のホストコンピューターにアクセスを試みる。以前レイチェル
の軍籍を改竄したことがあるので、さほどの苦労もなく容易に侵入に成功した。
「ええと、レイチェルのIDはと……」
 端末を叩いてレイチェルのメールボックスにたどりつく。
 だが、その途端だった。
 ディスプレイが一瞬輝いたかとおもうと真っ白になってしまったのである。
「な、なんだあ……」
 慌てて端末を操作しようとしてもキーを一切受け付けなくなっていた。
 やがてディスプレイに文字が浮かび上がってきた。
『ごめんなさいね。あなたのシステムは破壊させていただきました。このカウン
タープログラムを看破して再度挑戦してみてください』
「ちきしょう、カウンタープログラムか。いつのまに……それにしてもなんちゅう
カウンターだ」
 システムは、完全に死んでいた。
「だがな、この俺をそんじょそこらのただのハッカーと思ったら大間違いだ。こっ
ちにはカウンタープログラムを看破する支援システムがあるのだ」
 それはジュビロが開発した支援システムで、メインシステムの状態を常時監視追
跡しながら独立に作動する。カウンタープログラムによってメインシステムが破壊
されても、自動的にそれを修復すると同時に、そのカウンタープログラムを解析ま
でしてしまうというジュビロ自慢のシステムプログラムであった。つまり一度はカ
ウンターを食らっても二度目のアクセスでは、それを回避する手段をとることがで
きるのである。つまりプログラムを解析してそれを無効にしてしまうワクチンを処
方してしまえばいいのだ。
「さてカウンタープログラムを拝見させていただくとするか」

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2020.12.09 09:13 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第四章・情報参謀レイチェル Ⅲ
2020.12.08

第四章 情報参謀レイチェル




 基地に戻ったアレックスは早速軍籍コンピューターにアクセスして、レイチェル
の素性を確認した。もちろん真っ先に確認したのは、その性別である。
「FEMALEか……本当だ」
 ハッカー存在は確かなようであった。
 誕生日や出身地といった性別以外の項目には、幼少時代のアレックスにも周知な
事実が記されている。間違いなくあの「泣き虫レイチェル」本人であった。
 アレックスは、少佐のIDカードを差し込んで、さらに詳細なデータとこれまで
の勤務評定を読んでみた。
「ふうん。結構優秀じゃないか」
 一通り読みおわって、しばらく考えたあと、アレックスは彼女の配属項目に自分
の名前を入力した。すなわち自分の副官として採用することにしたのである。とに
かく独立遊撃部隊の再編成に忙しい自分が、現在もっとも欲しいのが自分の仕事を
補佐してくれる人物であったからだ。
 もちろん副官採用は命令であり、軍人としてレイチェルにはそれを拒否すること
はできない。

 独立遊撃部隊が駐屯する基地からほど遠くないところに女性士官専用の寮がある。
 基地に艦隊が駐留している間、女性士官達が寝泊まりする施設である。
 女性士官の軍服を着たレイチェルがその門をくぐりぬけた。
 施設に入るには受け付けで登録をしなければならない。
「レイチェル・ウィング少尉です。認識番号は……」
 受け付けの係官は、そばの軍籍コンピューターに接続された端末に認識番号を打
ち込み、ディスプレイに現れた顔写真と本人とを照合した。もちろんその顔写真や
性別などの登録情報は、レイチェルがハッカーに依頼して後から書き直したもので
あるが、受け付けが気付くわけもなく照合はすんなりとパスした。
「確認しました。レイチェル・ウィング少尉、あなたのお部屋は二階の二百五号室です」
「ありがとうございます」
「それから、ランドール少佐からの辞令が届いています」
「辞令?」
「はい。これです」
 レイチェルは辞令を受け取ると、二階へあがり自分にあてがわれた部屋を見つけ
て入った。
 荷物を床に置いて、早速辞令を開けて読んでみると、自分をランドール少佐の副
官に任命するとあり、明朝午前九時にオフィスに出頭せよとあった。
「あたしが、アレックスの副官か……なんか楽しくなりそうね」
 レイチェルは思わず含み笑いを浮かべ、荷物をロッカーにしまい軍服から私服に
着替えをはじめた。
 スカートを脱いで下着姿になったところで、ドアがノックされた。
「どうぞ」
 振り返って返事をすると、片手に荷物を持って女性士官が入ってきた。ここでは
全員相部屋になっているので、どうやら同室となる相手なのだろう。
「あなたが同室なの?」
 彼女はレイチェルの姿を見て確認した。
「そうみたいですわね。あたしは、レイチェル・ウィングです。今日からよろしく
お願いします」
「あたしは、ジェシカ・フランドル。こちらこそ、よろしくね」
 彼女も荷物をおいて、レイチェルの目前で着替えをはじめた。もちろんレイチェ
ルの素性など知るはずもなく、女同士とすっかり信じこんでいるからである。レイ
チェルもまた女性の心を持っているためにジェシカの下着姿には興味を抱くことも
なかった。
「ねえ、レイチェル。あなたはどうしてアレックスの部隊に転属を申し出たの?」
「アレックス?」
「ああ、あたしは彼と士官学校が同じでね。恋人同士だった時もあったけど……と
にかく、アレックスから直接来てくれないかと連絡があったのよ」
「そうですか……。あたしのほうは、広報をみて応募しましたのよ。英雄なんて呼
ばれるお方がどのような人物なのか、何となく興味あるじゃないですか、やっぱりね」
「ふうん……そんなものかな」

 その日の夕刻、寮の食堂において自己紹介及びミーティングが行われた。夕食を
とりながら一人ずつ氏名と出身校などの自己紹介が進められていく。その後、門限
や入浴時間そして服装や化粧などといったこまごまとした寮生活の規律・注意事項
の確認が伝達される。
 若い女性ばかりが集まっているのだ、寮母の話しなどに真面目に耳を傾けている
者は少ない。それぞれてんで勝手に近くの者とわいわいと内輪話しに夢中になって
いる。レイチェルも、ジェシカらの仲良しグループに混じって、仲良くやっていた。
アレックスと同校であるジェシカをはじめとするスベリニアン校出身の女性士官全
員が、独立遊撃部隊転属を希望してやってきていたのである。顔見知りの彼女達が
すぐに仲良しグループを作るのは当然といえた。
「レイチェル、ちょっとこちらにいらっしゃい」
 突然寮母がレイチェルを前に呼び寄せた。
「は、はい」
 何事かと皆の視線が集中するなか、レイチェルはゆっくりと前に進み出た。
「改めて紹介しておきます。このレイチェルは、ランドール少佐の副官として任命
されました」
「ええ!」
「うそお……?」
 という黄色い声が飛び交った。
「というわけで、みなさんの部隊内での配置転換などの希望や、諸々の要望書など
の受け付けはこのレイチェルが窓口になります」
「実はあたしも、副官に任命されたなんて今日知らされたばかりなのです。どうし
てかしらと、みなさんに変なかんぐりされるのもいやなので白状しますと、少佐と
あたしは幼馴染みなのです。きっとその縁であたしを副官に選ばれたのと思います。
なにせ一緒にお風呂なんかにも入った中で、少女時代から良く知り合っていました
から。そういうわけで、みなさんお手柔らかにお願いしますね」
 そう言って軽くお辞儀をすると微笑んでみせるレイチェルであった。
 ジェシカ達のグループに戻ったレイチェルは、早速吊し上げにあうはめに陥った。
「ずるいわよ。少佐とのこと隠しておくなんて」
「別に隠していたわけじゃありませんもの。話す必要がないと思っていましただけ
よ」
「ね、ねね。少佐とはどこまで進んでいるの?」
「それって男と女の関係で、という意味でしょうか?」
「もちろんに決まっているでしょ」
 仲が良いということになると、その親睦度までかんぐりたくなるのが、世の女性
達の常であった。AだのCまでいっただのと、きゃーきゃー言いながら憶測で判断
し、おひれがついてその噂話しが広まっていく。
「あのですねえ、幼馴染みだからって特別な関係に発展するとは限りませんわよ」

 その夜。
 部屋に戻って就寝着に着替えたレイチェルとジェシカは、アレックスを肴にして
昔話を花咲かせていた。レイチェルはアレックスの幼少の頃を、ジェシカは士官学
校の頃のそれぞれの話題を交換していた。
「……というわけでアレックスとパトリシアは夫婦なのよ。まだ子供はいないけど」
「そうでしたの……もういい人がいらっしゃったのですね」
「がっかりした?」
「少しばかりね……。でも、ジェシカさんもお好きだったのでしょう?」
「まあね。しかし親愛なる後輩のためと思って、いさぎよくあきらめたわよ」
「パトリシアさんか……」
「いずれ会うことになるわよ。どうせ士官学校を首席で卒業するでしょうから、間
違いなくアレックスの部隊に配属されてくるわ」
「早くお会いしてみたいですわね」
「ところでさあ……」
「なんでしょう」
「あなたが副官になるということは、配属に関してもある程度融通を利かせること
ができるのよね」
「それってつまり……」
「お願いしちゃおうかなと思ってさ」

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2020.12.08 11:52 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第四章 情報参謀レイチェル Ⅱ
2020.12.07

第四章 情報参謀レイチェル


II

「でね。あたしが受けたのは非合法な方法よ。卵巣や子宮などは、すべて本物の臓
器を移植したの。それでも移植した卵巣の女性ホルモン分泌量が足りないから、体
内に女性ホルモンが封じられたカプセルが植え込んであって、一定量ずつ徐々に溶
けだすようになっていますのよ。だから時々年に一回、カプセルを取り替えなけれ
ばいけませんの。手術から三年経ったかしら、卵巣とカプセルから分泌される女性
ホルモンのおかげで、こうして自然に胸も発達したというわけよ。シリコンなんか
入れていないのよ」
「つまりほとんど本物というわけか」
「そうですわ。嘘だとお思いになるなら、触ってもいいですわよ」
「遠慮しとくよ」
「ふふふ……」
「ところで、君は何の仕事してるのかい。やっぱりその道の仕事?」
「いいえ。あなたと同じ軍に入っておりますわ。これでも少尉ですのよ」
「少尉? ということはやはり女性士官の軍服を着るのか。軍籍は男のままなんだ
ろう。よく上官が許したな」
「いいえ。あたしのお友達にハッカーやっている人がいましてね。その人にお願い
して、軍籍登録しているコンピューターに入り込んで、性別を女性に書き換えても
らいましたの。つまり現在のあたしは、軍籍上では女性ということになっています
の。もちろん国籍上もです」
「本当かよ。軍のコンピューターっていうのは、外部からの侵入は絶対不可能とい
われているほどガードが固いはず。よく侵入できたなあ」
「その人がいうには、オンラインで外部に接続している限り、必ず侵入する手だて
はあるそうですわ」
 確かに、そういったことがあるのはアレックスでも知っている。特に知られてい
るのが、プログラム開発者などが、自分専用の裏道コードを設定している場合など
である。そのコードが判れば、ハッカー監視システムに引っ掛かることなく、簡単
にガードを突破して侵入できるという。
「ふうん……」
 アレックスは、しばらく黙り込んでいた。もし、レイチェルのいうことが本当な
ら、これは使えるかもしれない。アレックスの配下にもコンピューターウィルスを
専門に駆除する担当の技術者がいる。士官学校時代、模擬戦において基地のコンピ
ューターに細工をして、ミリオン達に気付かれることなく手玉にとった影の功労者、
あのレイティ・コズミック少尉である。駆除するのが専門とはいえ、その逆もまた
得意中の得意であり、絶対に誰にも気付かれないようなウィルスを作成できること
を自慢していた。
 もしそのハッカーとレイティがコンビを組めば……例えば、敵軍のコンピュー
ターシステムに侵入して、こちらに有利となるようなウィルスを忍び込ませること
が出来れば。
「レイチェル。そのハッカーを紹介してくれないかな」
「かまいませんけど……。でもハッカーという人達はガードが非常に固いから、会
ってくれるかどうかわかりませんわよ」
「とにかく接触さえ出来れば、後は僕がなんとかする。もし彼が協力してくれるな
らば、ハッカーとしての腕を存分に発揮できうる活躍の場所を提供できるだろう。
そう伝えてくれないか」
「わかりましたわ」
「よろしく、頼むよ」
 ふと時計をみると、午後三時を回っていた。
「あ、もう時間だ。行かなければならない所があるから、これで失礼するよ」
 と立ち上がり去ろうとした時に、レイチェルが切り出した。
「そうそう。あたしね、あなたの部隊に配属されることが決まりましたから」
「え? 僕の部隊に」
「独立遊撃部隊が再編成されるというので、転属希望を出してみたら通ってしまい
ましたのよ。書類はたぶんもうそちらの部隊の人事課に回っていると思いますから、
目を通しておいてくださいませね」

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2020.12.07 08:33 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第四章 情報参謀レイチェル I
2020.12.05

第四章 情報参謀レイチェル


I

 部隊に戻ったアレックスは独立遊撃部隊の再編成に大車輪で取り掛からねばなら
なかった。なにせ独立部隊のためすべてを自分自身で行わなければならなかったの
である。
「ああ、副官が欲しいな……」
 アレックスは少佐であるから、本来なら副官がついても良いのだが、あまり急な
ため適当な人物がいなかったのである。作戦を立てるのはお手のものであったが、
それを正式な書類などにしたためることは苦手であった。言ってみればキーボード
やプリンターなどの周辺機器の接続されていない高性能パソコンみたいなものである。
 再編成にあたり、必要な艦船リストや装備・備品の申請など、ことあるごとに書
類が必要になってくるのに、その方面の手際が鈍臭いアレックス。時間ばかりかか
って少しも再編成は進まなかった。こんな時パトリシアがいればと思うのだが、彼
女はまだ士官学校の学生である。
 少佐になったことで勤務時間が終了すれば、いつでもパトリシアの待つ官舎に戻
ることができるようになったとはいえ、軍規には学生を徴用してはならないと定め
られている。ゆえにパトリシアが代筆して手続き書類などの作成をすることは許さ
れていない。
「ごめんなさい。お役に立てなくて……」
 夫のために何かしてあげたいと思うパトリシアにしても、卒業して任官されるま
では手の出しようがない。

 忙しく働き回るアレックスが、図書館で調べものをあさっている時のことであった。
 そこへ褐色の瞳に黒い艶のある長い髪の身長百六十五センチほどの小柄な女性が、
親しげに話しかけてきた。
「こんにちは、アレックス」
 自分の名を呼ぶところを見ると、どこかで会っているのであろうが、まるで記憶
がなかった。いくら自分が物忘れの天才であろうとも、これだけの美人なら忘れる
はずがないのだが。
「おわかりになりません? あたしです、レイチェルです」
「レイチェル?」
「わかりませんでしょうか。ほら、あなたの幼馴染みの」
「え……、まさか……あの泣き虫の」
「そう、その泣き虫のレイチェルです」
「しかし、彼は……男の子だぞ」
「そうでしたわね」
「そうでしたって、まさか」
「性転換手術を受けましたの」
「性転換した?」
 驚きのあまりアレックスは二の句を継げることが出来なかった。
 静かな図書館では会話がまわりに筒抜けになるのを心配して、二人は場所を変え
ることにした。

 図書館を出てすぐ近くにある喫茶店に入って話しの続きをすることにした。
「その胸はシリコンが入っているのかい」
 アレックスはレイチェルの豊かな胸の膨らみをまじまじと見つめながら尋ねた。
相手が本物の女性なら失礼にあたるだろうが、かつて一緒に遊んだことのあるもと
は男だった幼馴染みである。それにわざと見せ付けているふしも見られた。
「いいえ。この胸は本物よ」
 レイチェルは、アレックスにも判るように簡単な説明をしてあげた。
 性転換手術にも何種類かの方法がある。
 完全性転換術として、性転換を臨む男女両性が、性転換移植バンクに登録して、
免疫的な血液型の合った者同士が、それぞれの生殖臓器を交換移植しあう方法があ
る。卵巣・子宮・膣等の女性生殖臓器と、精巣・前立腺・陰茎等の男性生殖臓器を
そっくり交換するために、生殖的な性別の完全転換が行える。反面子孫を残す自分
自身の遺伝子をも相手と交換するために、本来自分自身でない子孫を産み出すこと
になる。
 この手術法による性転換を受けるには、最低三年間のカウンセリングを受けつつ、
性ホルモン投与などによる段階的な外観的異性化といった予備治療を経た後、本人
の意志が確固として変わらないことを認めた場合。なおかつ遺伝子的に違って生ま
れる子供を、自分の子として認知することを誓約する念書、及び国籍上の性別変更
許可申請書に署名し、裁判所がこれを受理した場合。
 他人の精子や卵子をもらって体外受精を施し生まれた子を、自分の子として養育
してきた過去の例を見ても、この点に関しては問題を生じたケースはほとんどなか
った。当人達にとっては、自分自身の遺伝子情報よりも、妊娠し子を宿せる真の女
性の姿に、また女性を妊娠させる能力のある真の男性になることのほうが重大なの
である。
 ただこの術法の問題点として、性転換を希望する男女の比率が同等である必要が
あることだが、女性から男性へよりも男性から女性へと希望する数の方が圧倒的に
多いという現実があった。当然、男性化を希望する場合はほぼ百パーセントで適え
られるが、女性化を希望するものはなかなか適えられない者もいるわけである。
 そんな人達のために、女性ホルモンが関与する癌の進行抑制のために摘出された
卵巣、脳死状態に陥った患者からの子宮や膣などの臓器移植などが行われている。
さらには形成外科的に造成する手術もある。
 これらは臓器の供与者となる患者本人の同意や念書などが得られていないので非
合法扱いであり、性転換者に国籍上の性別を変更する許可は与えられない。それで
も性転換を望む者が後を立たないために、闇の臓器ブローカーが暗躍する土壌を産
み出している。

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2020.12.05 08:55 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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