銀河戦記/鳴動編 第一部 第三章・模擬戦闘 Ⅸ
2020.12.04
第三章 模擬戦闘
IX
応接室の応接セットに座るアレックスとゴードン。
目の前のテーブルにはマイクが並べられ、周囲をTVカメラが囲んでいる。
「それでは合同記者会見をはじめます」
姿勢を正す二人。
「お二人とも、まずは昇進おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ほぼ同時に礼をいう二人。
「ランドール少佐は、特別名誉昇進で二年後には大佐への昇進も約束されているそ
うですが、この点に関して何か意見がございますか」
「私のような若輩者が、こんな栄誉な地位を与えられて、見に余る光栄というべき
でしょうが、いくらなんでも極端すぎると恐縮してます」
「しかし敗走を続ける同盟軍には英雄の存在が不可欠なのも事実だと思います。軍
の規定ではあり得ない特別名誉昇進という今回の昇進劇も、国会や行政府内閣官房
調査室などの政府からの強い後押しで決定されたものです」
「そうらしいですね。軍部の意向を無視した行政府の勝手な決定で、将校達の猛反
発がいまだに続いているようです」
「オニール大尉はこの件には、どう思われますか」
「そうですね。選挙が近いからでしょう」
ゴードンがそっけなく答えると、場内から笑いが起こった。
「つまり、英雄を担ぎ上げることで自身の評判を高め、次の選挙を有利に戦いたい
という議員達の思惑がからんでいると。そうおっしゃるのですね」
「世間では周知の事実じゃないですか」
「そんなこと、この場所で発言してよろしいのですか。この放送は議員達も聞いて
いますよ」
「別に構いませんよ。議員達のことは、世間にまかせておけばいい。俺達が相手に
しなければならないのは、軍部の好意的ではない上層部の将軍達ですよ。実際、配
属は一応第十七艦隊に所属しているとはいえ、トライトン准将でさえ直接命令を下
せない特別独立遊撃部隊ということになってます。単独でどこへでも出撃させられ
る捨て駒的存在ですよ」
「そこまでも言ってしまわれるのですね」
「まあね。士官学校時代からも、いつも教官から疎まれてきましたからね。慣れっ
こになっているんです。一見常軌を逸したとも取れる行動ばかりとるアレックスと
一緒にいる限り、まともな生き方はできないってね」
「常軌を逸したって、たとえば?」
「スベリニアン校舎祭に、地下室でバニーガールまで集めてカジノを主催したり、
科学実験と称して密造酒を造って売りさばいたり、本人は生活費を稼ぐためだとか
言ってましたがね」
「校舎内でそんなことをやってたのですか?」
「いやあ、どちらもすぐに教官に見つかりましてね。売上金のほとんどを自治会費
の方へ強制的に収納させられたようです」
「少佐殿、今の話し本当ですか?」
「ええ、まあ……そんなこともありましたね」
「しかしお二人は、少尉として特待昇進卒業じゃないですか。そんな状況で、よく
教官が認められましたね」
「生活態度は最悪ですけど、戦術的才能が人並みはずれていたからですよ。士官学
校全校一の天才用兵家と噂されていた、あのミリオン・アーティスを完膚なきまで
に看破しましたからね」
「それそれ、士官学校時代に全国合同で行われる学期末実技試験である模擬戦闘に
おいても、奇抜な作戦を用いて勝利されたんですよね」
「ああ、あの作戦ですか。そうですね、あれは実に楽しかったですよ。罠を張り巡
らしておいて敵が網に掛かるのを待ってただけで、一網打尽で敵を捕獲して戦闘不
能に陥れたのですから。ついでに先に敵基地を攻略したのは、基地を乗っ取られれ
ば逆上して、必ず引っ掛かると思ったからです」
「罠というと基地の管制システムに細工を施して、占領された後も遠隔操作でシス
テムを乗っ取ったのですね」
「そうです」
「そのこともそうですが、私が疑問を抱いているのは、敵基地を占領するために、
暗黒星雲の中の原始太陽星ベネット十六の直中を通過したことです。これはもう作
戦というよりも、すべての艦隊や乗員達を危険に巻き込む冒険の何ものでもないと
思いますが、いかがでしょうか」
「艦艇の進撃コースの気象状況は、無人探査艇を数度飛ばして、すべて事前に念入
りに調査を行いました。そのデータをもとに、艦艇の強度や航行能力を熟慮して、
航行には支障がないことを確認しました」
「支障がないとわかっていても、乗員の大半が訓練生じゃないですか。よく最後ま
で逃げ出さずについて来れましたね」
「それがこいつの人徳のなすところですよ。人を集め行動する時、神懸かり的な指
導力を発揮するんですよ。まるで教祖が信者を集めて集団自決さえ実行させるよう
にです」
「集団自決ですか」
「死なば諸共にってね。実際事故を起こせば本当にお陀仏になるところを、こいつ
とならどこへだってついて行こうと思わせる。不思議な能力を持っているんですね」
「ありがとうございます。時間ですので、私の質問は以上です」
記者が、質問席を離れて自分の席に戻ると、司会者が次の質問者を指名した。
「続いてトリスタニア共同通信のスカーレット・カールビンセンさんが質問します」
立ち上がり質問席に歩いて行くタイトスカート姿の女性記者。
「共同通信のカールビンセンです。早速お伺い致します」
「どうぞ」
「ランドール少佐は、深緑の瞳をされていますが、遺伝的に銀河帝国皇帝の血筋に
つながるっていることは、ご存じですよね」
「らしいですね」
「その深緑の瞳は、二十二番目の染色体上にある虹彩緑化遺伝子と、Y染色体上に
ある虹彩緑化遺伝子活性化遺伝子の相乗効果があってはじめて発現するものです。
前者は劣性遺伝子で後者は限定遺伝子のために、男子二百万に一人という、非常に
まれな確率でしか発現しません」
「私は、戦争孤児でして、幼少の頃海賊船に捕われているところを、海賊討伐で巡
回中のトライトン中佐に助けだされました」
質問に丁寧に答えながらも、アレックスの目はパトリシア一人を見つめていた。
TV放映取材が終わった。
だからといって、他の報道陣が放っておいてくれるわけがない。
次から次へと取材攻勢に纏わりつかれるアレックス。
マイクが差し出され、カメラが追いかける。
「アレックス、こっちよ」
通路の曲がり口でパトリシアが手招きする。
確認するが早いか、アレックスがダッシュで駆け出す。
パトリシアと共に逃避行だ。
学園内のことなら学生が一番良く知っているし、報道陣は来たばかりで右往左往
するばかり。
取材陣を撒いて、生徒会長室に逃げ込んだ二人は、鍵を掛けて誰も来ないことを
確認すると、
「お帰りなさい、あなた……」
パトリシアはアレックスの胸に飛び込んだ。
アレックスはその肩を抱くようにしてパトリシアの唇を吸った。
「卒業したらあなたの艦隊に配属させて。ずっとあなたと一緒にいたいから。離れ
て暮らすのはもういや」
「わかってる」
「約束よ」
「待ってるよ」
「あなた……愛してるわ」
無事に再開を果たした二人は、いつまでも抱き合っていた。
第三章 了
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第一章 模擬戦闘 Ⅷ
2020.12.03
第三章 模擬戦闘
Ⅷ
アレックス達が士官学校に戻ってすぐに、模擬戦の結果発表があった。無傷で敵
基地を攻略し艦隊を全滅させた功績から、アレックスの艦隊がだんとつトップの成
績で優勝を飾った。
功績点三万点、叱責点0という文句なしの成績であった。
スベリニアン校舎では、やっかい者のアレックスではあったが、全国一という成
績をあげたことにより、存在価値に変化が生じたようであった。
校舎のそここでは、生徒達が模擬戦の話題で盛り上がり、作戦の是非について賛
否両論から熱い議論を戦わせていた。自分達の校舎を優勝に導いた同輩であり、先
輩であることから、圧倒的にアレックスの支持派が多いのだが、無論反対派も声を
荒げて非難する。
作戦が奇襲に終始して卑怯であり、騎士道精神に欠けている。まともな艦隊戦に
なっていないというのである。
作戦の騎士道論はともかくも、模擬戦の課題である「敵艦隊を撃滅・降伏にいた
らしめること」ないし「敵基地の攻略・占拠」は、結果だけをいうならば見事クリ
アしている。それがゆえに、優勝を飾ることができたのだが……。
「実際の戦争に卑怯もくそもあるかよ。奇襲だろうが、何だろうが、一隻でも多く
の艦船を撃沈したほうが、戦に勝利するんだ」
「とにかくだ……これで落第の心配はなくなったな、俺もおまえも」
掲示板を見つめていたゴードンが耳打ちした。
「かもな」
士官学校食堂。
「さてと……模擬戦も無事に終了したことだし、後は卒業パーティだな」
「そうだな」
「おまえはもちろんパトリシアと来るんだろうから、俺はフランソワでも連れ添っ
てくるとするか」
「おまえ、よくもまあ女をとっかえひっかえできるなあ。一体本命は誰なんだ」
「さあ……俺自身も誰が本命かわからん。その時々の女性が本命なんだな。おまえ
こそ、パトリシアと同時に休暇とって婚前旅行に出かけたことくらいは、調べがつ
いているんだぞ」
二人が婚約届けを出したのは、届け書の保証人として名を連ねているゴードンは
知っていて当然とはいえ、旅行のことまでは知らされていなかった。
「おまえは戦術士官じゃなく、情報士官になったほうが良かったようだな」
そこへ丁度パトリシアとフランソワがやってきた。
「あら、今わたしの名前がでていたようだけど、陰で内緒話しはいけないわ」
「よっ。ご両人。相変わらず仲がいいな」
「それは皮肉かしら」
「いやいや。仲がいいのは良いことです」
「そうですよねえ。お姉さま」
パトリシアは、旅行から帰ってから生理を見て、妊娠していないことを確認して
いた。良かったと思う感情と、何だか寂しいような感情とが、交錯する複雑な心境
にあった。
もし妊娠していたら、医師の妊娠証明書を提出するだけで自動的に婚姻関係が成
立して、正式な夫婦となれたのだが。
パトリシアは、椅子をアレックスに密着するように引き寄せて、ごく自然な感じ
で腰を降ろした。今この場にいる四人の間では、この両名がすでに夫婦であるとい
う暗黙の了解があったので、パトリシアが持ちよった給食盆の上の食事を分けて、
アレックスに食べさせたのを見ても不思議には思わなかった。
「アレックス。もう、部隊配属希望書を提出したの?」
「ああ、フランク先輩のいる第十七艦隊にしたよ」
「第十七艦隊?」
「それって最前線じゃありませんか」
「こいつは腕に自信を持っているから、昇進の早い第十七艦隊で大活躍して逸早く
准将になって、軍から支給される郊外の一軒家でパトリシアと子供達と慎ましく暮
らそうと考えているのさ」
「おい、自分のことを言ってやしないかい」
やがて卒業パーティーも終わり、ついにアレックスが宇宙艦隊に配属される日を
迎えた。
支度を終えて既婚者用の官舎を出るアレックスを見送るパトリシア。
「行ってらっしゃい、あなた。無事に戻って……」
パトリシアは声に詰まり、アレックスに抱きついてきた。
「ああ。必ず生きて帰ってくる」
アレックスは心配する妻の気を静めるように力強く抱きしめてやった。
「じゃあ、行ってくる」
パトリシアをそっと離して歩きだすアレックス。
「行ってらっしゃい……」
その後ろ姿をいつまでも見送るパトリシアであった。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第三章 模擬戦闘 Ⅶ
2020.12.02
第三章 模擬戦闘
Ⅶ
第十二番基地から、索敵レーダーの捕捉圏ぎりぎりの外側領域で待機するアレッ
クス達。ミリオン達が第十二番基地を占領してから約五時間が経っていた。
アレックスは隊員達に交代で休息をとらせながらも、最大速度で引き返してきた
のである。
「どうやら無事に占領されたようだな」
「それって変な言い方ですね」
「そうかな。レイティをここに呼んでくれ」
「はい」
やがて技術将校のレイティ・コズミックが艦橋に出頭した。
「モニターで見ていましたけど、いつもながら鮮やかでしたね」
「それはともかく。さっそく準備にかかってくれ」
「はい、はい」
レイティは定位置について機器を操作した。
「パトリシア。隊員達の士気はどうか」
「はい。交代で休息しておりますので、気力は充分あります。先の第一次作戦の成
功で士気は盛り上がっております」
「そうか、なら心配ないな」
レイティが振り返って報告した。
「大丈夫。いけますよ。準備OKです」
「よし。基地のレーダー管制をこちらへまわせ」
「了解、レーダー管制をまわします」
「勢力分析図を投影」
「パトリシア。敵艦船の配備状況はどうか」
「はい、半数が燃料補給のために地上に降下しているようです」
「ということは、現在戦える戦力は互角というところだな」
「でもそれはあまり関係ないのでしょう?」
持ち点の高い航空母艦と艦隊戦に使用できない突撃強襲艦を連れているために、
アレックス達は戦艦数で半数であり艦隊戦では不利であった。しかし敵艦船の半数
が地上に降下している今が攻撃のチャンスといえた。
「まあな。さておっぱじめるとしようか」
「はい」
「レイティ、基地の無線を封鎖しろ」
「はっ。無線封鎖します」
「パトリシア。全艦に、ミサイル発射準備だ」
「はい」
「敵はこちらを捉えることすらできないが、こちらは目標をロックオンしてミサイ
ルを発射できる」
「敵は驚くでしょうね」
「全艦、ミサイル発射準備完了しました」
「よし。ミサイルを敵艦に目標ロックオン」
「ミサイル、目標ロックオンします」
パネルスクリーン上にミサイルの制御数値が表示され、刻々と変化していた。
「上下角微調整一・七秒」
「全艦。発射体制に入りました」
「ようし。叩きこんでやれ」
「はっ。全艦、ミサイル発射」
全艦から一斉にミサイルが発射される。
ミリオン達の背後をミサイルが襲った。
「艦尾にミサイルです!」
オペレーターが驚愕の声を上げて報告する。
「なんだと!」
ミリオンが驚いてオペレーターの方向を向いた途端に、ミサイルが舷側に命中し
て炸裂音が艦内に轟く。
「警報!」
金切り声でミリオンが叫ぶ。
艦内に突然鳴り響く警報に、あたふたと自分の持ち場へと走りまわる隊員達。一
体何事が起こったのかと、事態の収拾がつかめない表情。
ミサイルといっても炸薬のない模擬弾であるから、艦が多少へこむくらいで直接
な被害は及ぼさない。しかし模擬戦用にシュミレートされた艦のコンピューターは、
実弾だった場合の被害想定を算出して、艦橋のモニターに仮想被害結果を映しだす
仕組みになっている。
「左舷に損傷。被害は軽微」
「管制レーダーに敵影は?」
「いえ。一艦たりとも映ってはいません」
「馬鹿な。基地の管制レーダーは艦船に搭載されているレーダーよりはるかに索敵
能力があるのだぞ。今のミサイルは明らかに目標ロックオンされている。敵は管制
レーダー捕捉圏内に入らねば、我が艦隊を目標ロックオンできるわけがない」
「しかし、敵は間違いなく我が艦隊の位置を正確に捕捉しております」
「なぜだ!?」
「わ、わかりません」
「ミサイル第二波がきます。第三波、続いています」
「待避せよ、取り舵三十度だ」
艦はゆっくりと旋回をはじめるが、その待避先にもミサイルが飛んでくる。
「しまった! 待避行動を読まれた」
次の瞬間、艦内の照明がすべて消えて真っ暗になった。機器の点滅する光だけが
闇を照らしている。
「貴艦ハ撃沈サレマシタ。コレヨリ戦列ヲ離レマス」
艦内のコンピューターが告げていた。
やがて再び照明がついたかと思うと、自動運行装置が作動して、ゆっくりと戦列
を離れはじめた。
「やられましたね」
「ああ……」
ミリオンは、軌道上に残った艦隊が次々と姿なき敵艦隊に撃滅されていく様を、
モニターに食い入るように見つめていた。
「あ、最後の艦が落とされました」
「負けたな……」
「そうですね」
やがてモニターに、勇壮と進駐してくるアレックスの艦隊が映しだされた。
基地を占拠していた連中が、事態をすべて把握して降伏勧告を受諾したのは、そ
れから二十分後であった。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第三章 模擬戦闘 Ⅵ
2020.12.01
第三章 模擬戦闘
VI
「隊長。オニールの隊の自動操舵装置が切られました」
「なに、自動操舵装置がか……」
アレックスはしばらく考え込んでいたが、
「それは、妙案かも知れないな……よし、全艦に指令を出せ。自動操舵装置を解除
して、手動操艦にて進行せよ」
「了解」
通信士が全艦に指令を伝達する。傍受される恐れのある電磁波系の通信ではなく、
特殊音声伝送信号を利用した通信である。電話回線でデジタル信号を送るとき、ア
ナログ変換器(モデム)が、ピーガーという音を立てるあの信号に近い。濃密なガ
スが存在する場所で、かつ艦船が接近している時のみ利用可能な伝送通信である。
もちろん通常の宇宙空間では、音波は伝わらないので情報が漏れることはない。
「いいんですか?」
「こういうことは実戦派のゴードンの方が、一枚も二枚も上手だからな。現場にお
いては現場責任者の感や判断がものをいうこともある」
「だからこそ、強襲部隊の指揮を任せたのですね」
「まもなく、ベネット領域を脱出します」
「索敵レーダーに捕捉されませんか」
「大丈夫だ。背後にあるベネット十六の強力な電磁界ノイズによって攪乱されて艦
影がかき消されてしまう。奴等がこちらに気がついた時には、制空権はすでにこち
らにあるというわけさ。危険を冒してまで、ベネット十六を突破してきたのも索敵
レーダーを無力にするためだった」
「全艦、戦闘配備。最大戦速」
アレックスの指令が下った。
艦内に警報が鳴り響き、緊張した空気の中、戦闘配備が完了した。
「航空母艦に連絡。艦載機全機発進、敵基地上空に展開して制空権を確保せよ」
「はい」
航空母艦には航空参謀として、ジェシカ・フランドルが搭乗していた。戦術シミ
ュレーションでは、航空母艦とその航空戦力の絶妙な運用で、常勝のアレックスさ
えもてこずらせ、容易には勝たせてくれなかった相手であった。
「艦載機を全機発進させてください」
ジェシカが下令すると、三隻の航空母艦から一斉に艦載機が発進して、敵基地上
空へむかった。地上発進の戦闘機から艦船を守るために、制空権を確保するのが役
目である。
「ここまでくれば、成功間違いなしね」
とつぶやいて、旗艦を見やるジェシカ。
そこには自分の後輩であるパトリシアが搭乗している。かつて同室となり、夜を
明かして手取り足取り戦術理論を教えこんだこともある。自分が惚れていたアレッ
クスと電撃婚約をして驚いたが、自分よりも彼女の方がふさわしいと、喜んで身を
引き祝福したものだった。今回の作戦にしても、いくら才能豊かなアレックスで
あっても、それら作戦のすべてを計画書としてまとめ、艦隊編成の書類を提出する
など、デスクワークに関しては、パトリシアがいなければ、今日のこの日は来な
かったかもしれない。先輩として誇らしげな気持ちは真実であった。
「ジェシカの艦載機が制空権を確保しました」
パトリシアが、先輩のジェシカから報告を受けて、アレックスに伝えた。
「予定通りだな。ゴードンを呼んでくれ」
パネルスクリーンにゴードンの姿が現れた。
「準備はどうだ」
「万全だ。いつでもいける」
「では、よろしく頼む」
「わかった」
艦隊から突撃強襲艦が抜け出して基地のエネルギーシールドに突入した。
激しい電撃火花を上げながら、次々とシールドを突破していく。
一方、アレックスの敵であるジャストール校の指揮官ミリオン・アーティスは、
一向に索敵による敵発見の報告がないのにいらだっていた。
「まだ、見つからないのか」
「はい。いまだ発見できません」
「通信班。敵の交信は傍受できないのか」
「は、今のところは何も入ってきません。敵は完全に沈黙状態を保っているもよう
です」
「敵指揮官は、何を考えているのか」
「さあ……指揮官は、アレックス・ランドールですが」
「ランドールか、一体どんな奴なんだろう」
ミリオンは、敵指揮官であるアレックスの素性を一切調べることはしなかった。
自分の作戦によほどの自信を持っていたからである。戦術シュミレーションでは連
戦連勝、他校との交流試合でも負けたことはなかった。
アレックスがミリオン達との接触を避けて迂回しながらも敵基地に全速力で向
かったのに対し、ミリオンは艦隊戦のために索敵行動を取りつつ進行していた。そ
のために艦隊の行き足が大幅に遅れていた。いまだ両基地の中間に位置するあたり
を、アレックス達を探しまわってどこ行くあてなく移動していた。彼の得意とする
のが、正面決戦による正攻法であったからである。しかし、相手が出てこなければ
本領を発揮することもできなかった。
「おい、聞いたか?」
「ああ、本当かな」
通信士がひそひそ話ししている。
「おい。私語を謹め、今は戦闘中だぞ。報告は正確に伝えろ」
私語を聞きとめて、通信士に注意を促すミリオン。
「は、すみません」
「一体、何事であるか」
「実は、我々の基地が攻撃を受けているらしいのです」
「らしいとは何だ。正確に報告しろ」
「それが、基地の通信状態が騒然としていて、正式な報告送信がなされていないの
です。悲鳴のような混乱した言葉を、口々にただわめいているといった感じでして」
「それをスピーカーに流してみよ」
「はい」
通信士は、基地からの受電をスピーカーに切り替えた。
『やつらがそっちに行くぞ。迎撃しろ』
『迎撃ってどうすりゃいいんだ(爆音)。な、なんだ。やつら、迫撃砲を撃ってき
やがる』
『迫撃砲だと、どこからそんなもん持ち出したんだ。大丈夫か』
『大丈夫も何も……(咳き込んでいる)畜生、催涙弾だ』
『だめだ。これ以上、持ちこたえられん……』
『どうした! 返答しろ』
『……(雑音だけが聞こえる)』
それらの通信を聞きながら呆然としているミリオン。
「どういうことなのだ……一体何が起こっているというのだ」
まるで事態の全容を把握できないミリオンはどう行動すべきかさえ失っていた。
第八番基地。
基地のあちこちから白煙が昇り、催涙弾にたまりかねて士官候補達が次々と投降
して出てくる。
外で待ちかねていたゴードンの部隊が銃を構えてそれを取り囲む。もちろん麻酔
銃であるから人体に危害は与えない。
「ゴードンの部隊が基地の管制塔を占拠しました」
「成功です。指揮官殿」
「どうやら第一段階は無事終了したようだな」
「はい」
「よし。直ちに作戦の第二段階に入る。後はゴードンの班に任せて、我々の班は敵
艦隊の攻略に向かうぞ。総員、艦に戻れ」
「はい」
数分後にアレックス率いる艦隊が基地を後にして発進を開始した。
ゴードンは管制塔からそれを見送っている。
「成功を祈る」
とつぶやいて上空に向かう艦隊にたいして敬礼した。
一方、敵艦隊の艦橋では、苦虫を潰したような表情のミリオンがいた。
「もう一度言ってみろ」
「は、我が基地は完全に敵の手に落ちたもよう。音信不通」
「こんなことが許されていいのか」
ミリオンは身体を震わせながら、敵指揮官がとった作戦を呪った。
「基地に攻撃を加えるなんて今まで一度もありませんよ。だいたい艦隊戦をテスト
するのが模擬戦の主旨ではないのですか?」
「一般論を説いてみても始まらんさ。常識なんか通用しない」
「しかし、どうしますか。探している艦隊は我々の基地を包囲しているだろうし、
引き返すにしても、待ち伏せをしていて奇襲されるのは目に見えています」
「ようし、やつらが基地を攻略したのなら、我々も同じことをするだけだ」
「では、敵基地を」
「そうだ。我々は中間点にいる。今から敵基地へ向かえば、敵より早く基地を攻略
できるだろう。全艦、敵基地へ向かえ」
「了解。このまま前進して敵基地に向かいます」
数時間後、ミリオン達は第十二番基地に到着していた。
「敵基地が見えてきました」
「敵の艦隊は近くにいるか」
「いえ、一隻も見当たりません。静かなものです」
「一応、リッキーに基地の様子を見に行かせよう」
艦より一隻の上陸舟艇が降下していく。
「管制塔に到着しましたが、基地には誰一人いません。全員我々の基地攻略に出撃
したものと思われます」
「管制塔は正常に機能しているか」
「はい、しているようです」
「そうか、ご苦労だった。我々も燃料補給のために降りる、そのまま待機していろ」
「はい」
「よし、艦隊の半数ずつを順次降下させて燃料補給させよう」
艦隊の半数にあたる艦船がゆっくりと地上へ降下をはじめていく。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第三章・模擬戦闘 Ⅴ
2020.11.30
第三章 模擬戦闘
V
ジャストール校に与えられた第八番基地は、演習場の中程に位置し、アレックス
達の基地より距離にして二百七十天文単位のところに浮かんでいた。
背後には濃密なガスが集まって雄大な輝きを見せる「ベネット散光星雲」があっ
た。
青白く燦然と輝く非常に若い高温の恒星からの紫外線の放射によって、水素が電
子を剥ぎとられて電離し、特有の赤い輝線スペクトル光を放って、一帯が薄紅の
ベール状となって美しく輝いている。付近一帯は一万度Kほどの高温になっており、
その内側にはさらに高温の酸素が放つ鮮やかな緑色の領域が広がっている。さらに
安定なはずのヘリウム原子までもが電離して青く発光することもあるが、青い部分
の実体は反射星雲と呼ばれる星間塵などの雲が近くの星々の光を反射している姿で
ある。なぜなら青い光ほど効率的に散乱されるからである。
参照「ロブスター星雲ngc6357」
その散光星雲に入り組むようにして暗黒星雲が隣接しており、より濃密なガスや
塵が背後の光を遮って真っ黒に見えている。暗黒星雲の温度は二百十度Kと低温だ
が、さまざまな原子と分子が激しくぶつかり合いながら、重力収縮によって中心に
向かって落ち込みつつ新たなる恒星を形成しようとしている四つの原始太陽星雲が
あった。
星間ガスが中心に落ち込む際に解放される位置エネルギーが熱となって中心付近
の温度を上げていく。現在の最中心温度は三千七百度K、この段階ではまだ核融合
は起こらず発光にも至らないが、電波や赤外線を使って観測すれば激しい活動の息
吹を知ることが出来るだろう。やがて星が誕生すれば付近の暗黒星雲もいずれ散光
星雲として輝きはじめることになる。
十六番目に発見されたということからベネット十六と名付けられた領域の、その
ただ中を進行する百隻ほどの艦隊があった。
強烈な稲光が炸裂するたびに、濃密なガスを伝って、耳をつんざくような大音響
が艦内を揺るがす。
「だ、大丈夫でしょうか」
艦橋にあって、指揮官席に陣取るアレックスのそばに控える副官のパトリシアが、
心配そうな声で尋ねた。生まれてこの方経験したことのない、荒々しい天候に動転
して、アレックスのそばから離れないようにして、その右腕を両手でしっかりと握
り締めていた。万が一の時には、夫と共にあるということが、せめてもの慰みとい
うところである。
「心配するな。これくらいの嵐では、艦はびくともしないさ」
安心させるように自分の右腕をつかむパトリシアの両手にそっと左手を添えてな
だめるアレックス。
実際にはアレックスとて、逃げ出したい心境は同じであったのだ。しかし指揮官
が震えていては全体の士気に影響する。自分自信を奮い立たせ、やせ我慢している
のを気付かれないように、冷静を装っていた。
艦橋では、オペレーター達は比較的冷静に振る舞っているが、艦内のあちらこち
らでは、詳しい事情を知らされていない乗員達の怒号や悲鳴が繰り返されていた。
「誰だよ。極めて安全性は高いとか言った奴は! これのどこが、流れがゆるやか
だと言うんだ」
「こんな作戦を考えたのは、誰なんだ?」
「指揮官殿か、作戦参謀のウィンザー女史だろうな」
「ったく。何考えてんだか」
「といったところで、ここまで来ちまった以上。後戻りはできめえ」
「行くっきゃないってかあ」
「そん通りだ」
とにもかくにも、行けと命令されれば行くしかない軍人の定め。指揮官アレック
スの戦術能力は誰しもが知っていること、大船に乗ったつもりで命運を彼に託すし
かなかった。
「スザンナ。現在の艦の状況はどうか」
「はい。艦に損傷は見られません。システムは正常に作動中。現在の艦内温度は二
十五度で、ほぼ三十分に一度の上昇が見られます」
一方突撃強襲艦上のゴードン・オニールも冷や汗流しながら、自分の艦をアレッ
クスの艦に平行して進行させていた。
突然激しく艦が大きく揺れて軋んだ。
「どうした」
「はい。並進する艦が接触してきました」
というが早いか、再度の衝撃が襲ってきた。
「副隊長」
ゴードンの艦に同乗する参謀が話し掛けてきた。
「なんだ」
「せめて艦隊リモコンコードを作動させませんか。このままでは、敵基地に到着す
る以前に、このベネット領域内で接触事故を起こして自沈する艦も出るかもしれま
せん」
「だめだ。この領域には強力な電磁界ノイズがあって、艦隊リモコンコードは正常
に作動しない」
「わかってはいるのですが……」
「ならば聞くな! いいか。俺達は装甲の厚い強襲艦だからまだいいが、駆逐艦に
乗ってる奴等は、もっとひどい状態になってるはずなんだぞ」
再三の衝撃に号を煮やしたゴードンは、操艦手のところへ走り寄った。
「俺にやらせろ」
操縦手を押しのけるように操縦席につく、ゴードン。
「操艦の経験はあるのですか?」
「シミュレーションは五回やった」
「実戦の経験はないんですね」
「いいかい。こういう状況の時、物を言うのは経験ではなく度胸なんだぜ。ジャス
トールの点取り虫のミリオン坊っちゃんにはわからんだろうがな」
「ベネット十六の最深部に入りました」
ゴードンは操縦桿を握り締めながら、艦内放送のマイクを取った。
「これより自動操舵装置を解除する。総員、船の震動に注意しろ。立っているもの
は、投げ出されない工夫をするように」
「自動装置を解除するですって!」
「自動装置を作動させていてもこの程度だ。どうせなら、解除したほうがましかも
知れんだろう」
艦内のあちこちではそれぞれが震動への対策を取っていた。機器にしがみつく者、
紐で機器のでっぱりに身体を縛り付ける者。
「いくぞ。自動操舵装置解除」
ゴードンが装置のスイッチを解除する。
ガクンと揺れる機体。
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2020.12.04 10:15
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