梓の非日常/第二部 第八章 小笠原諸島事件 (八)火と水
2021.03.12

梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件


(八)火と水

「火起こしかかりの方はお集りください!」
 呼ばれて、梓と慎二らが集まる。

 火起こしの方法は、火打石法と木による摩擦熱法がある。
 火打石には、鉄分を含む黄鉄鉱や白鉄鉱などが挙げられるが、無人島にはまずないので摩擦熱法ということになる。
 これには、きりもみ式とひもぎり式がある。
 きりもみ式は、とんでもなく手や腕が痛くなるので、ひもぎり式をお薦めする。
 必要な物は、
1、ハンドピース(軸受け)
2、弓と蔓(弓は硬くてあまり曲がらないものが良い)
3、火きり棒
4、火きり板
5、適当な葉一枚(火種を移すために使う生のもの)
6、台座板(作業を安定させるための台となるもので無くてもよい)
 などである。
 この他に火種を移す枯草やシュロなどの樹皮をほぐした繊維などが必要。
「下準備として、枯草をシュロ樹皮繊維で包むようにしておきます」
 藁苞(わらづと)納豆をご存じだろうか?
 あの藁苞のように、納豆の替わりに枯草を詰め込んで火種を移すものだ。
 火種が風で飛び散らないようにするとともに、保温効果を持たせる。
「本当は道具も手造りして欲しいところですが、それだけで日が暮れてしまいますので、すでに用意してあります。火おこしの作業だけ体験して頂きます」
 梓がIRの説明する通りに、火おこしにチャレンジする。
「ええと……ハンドピースの窪みに、弓蔓を絡ませた火きり棒を噛ませて、火きり板に押し当てながら、弓を引いて回転させる……」
 やがて煙を発生させながら、火きり棒と板から火種となる熱せられた黒焦げのおが屑が出てくる。頃合いよしとみて、おが屑を先に用意していた藁苞に中へ移す。
「あちちっ!」
 うっかりおが屑に触れてしまった。
 なんとか移し終えて、藁苞の中の火種が大きくなるように、フーフーと息を吹きかける。強く過ぎても弱すぎてもダメで、頃合いを見ながら慎重にフーフーする。
 やがて藁苞の中から炎が燃えがる。
「やったあー!」
 後は、その小さな炎を、焚火へと大きくするだけだ。


 一方の水採取係の絵利香の方も、IRの説明を聞きながら、道具をセットしていた。
「水を採取する方法は、いろいろとありますが、一番有名なのが蒸留法ですね」
 砂漠や海岸などで有効なのが、穴を掘っておいて上に弛ませるようにビニールシートで覆って、太陽の熱で地面から蒸発する水分を凝縮させて、滴下する水を瓶などに受け止めるという方法である。地面が乾燥していたら、おしっこを穴の中にという手もある……。
 砂浜ならいくらでも海水が浸透して入ってくるので好都合だ。
 早速穴を掘ってシートを被せる作業に入る。

 後は、時間が経つのを待つだけである。
「別の方法もあります」
 ビニール袋の中に、島に生えている青草を入れて、日に当てておくと草に含まれる水分が抽出できるという方法だ。
 早朝ならば、足にタオルなどを巻いて草むらを歩き回れば、朝露を吸収して絞れば水が採取できる。一時間ほど歩けば、一リットルほどの水を集めることができる。
 他にも、ろ過方法もある。
 小石や砂、焚火の燃えカス、布切れなどを筒状のものに、層をなすように積み重ねて濾過器が作れる。海水の塩分は濾過できないが、泥水などを濾過するのには良いだろう。
 参考画像

 食料採取班は、IRから提供された道具で魚釣りしていたり、木の実などを集めたりしている。食用になるかどうかは、後でIRが選別することになっている。

 もう一つの宿営地設営係は、十人用テントの組み立てを始めている。
 強烈な太陽を避けるために適当な木陰で下草があまり生えていない場所が良い。下草が多い場所は、湿気も多いからである。
 作業中には、木の上からの落下物にも注意する。虫や樹液などが落ちてくることもあるから。

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梓の非日常/第五章・音楽教師走る(三)送迎はキャデラック
2021.03.11

梓の非日常/第五章・音楽教師走る


(三)送迎はキャデラック

「日本に滞在するようになってしばらくした頃、突然護身術を習いたいと言い出した時、わたしは渚さまと相談して条件を出しました。ピアノの腕前は毎日弾いていないと鈍ってしまう。そう危惧した渚さまは、護身術を教えるかわりに、ピアノの練習も欠かさないようにとご指示をだされたのです。ピアノが上達していなければ道場出入り禁止ってね」
「護身術を身につけていられたのですか?」
「コロンビア大学やお嬢さまの通われていたセント・ジョン教会は、治安の悪いハーレムの近くにありましたからね。まあ護身術は必要かなと思って身につけていたのですが。結局たいして腕を振るうことなく、アメリカを離れてしまいました。ただ一度だけ不良にからまれていたお嬢さまを助けたことがありましてね。そのことを覚えていらしたようです」
「しかし護身術と空手では内容が違うと思いますが」
「わたしの教える護身術をほぼ身につけられたお嬢さまは、次ぎなる武道の道をお探しになられたようです。お嬢さまの通われている学校には武道といえば剣道、柔道、そして空手部があります。竹刀という武器を使う剣道、身体と身体を密着させる柔道は、お嬢さまには肌が合わないようで、自然に空手をお選びになられたようです。もっとも渚さまとの約束がありますから、手先を傷めるようなことはしないはずです」
「でも護身術はもう教えてらっしゃらないのでは」
「いえ、護身術は毎日の生活の中にも修行があります。直接には教えていませんが、今も約束は生きています」
「そうでしたか、それを聞いて安心しました」

 玄関先に二人がでてくる。
「それにしても広い屋敷ですね」
 改めて感想をのべる幸田教諭。それに見送りに出てきている麗香が答えた。
「そうかも知れませんが、ここは梓お嬢さまが日本での教育をなされる間の別宅となっております。ニューヨークのブロンクスにある本宅は、ここの二十倍はありますし、巷ではブロンクスのベルサイユ宮殿と呼ばれています。私設国際空港もすぐ隣に併設されてますしね。さらに広大な自然緑地が屋敷を取り巻いていて、真条寺家の所有ですが一般に解放されて、市民の憩いの場となっております」
「本当ですか?」
「本当ですよ」
「ここが別宅であの調度品、本宅がここの二十倍で飛行場と自然緑地付……真条寺家って一体、何者なの」
「ついでに申しますと、この川越におきましては、絵利香さまのお屋敷の方が広いですよ」
「絵利香さん? 篠崎絵利香さんですか」
「そうです。篠崎本家は三百年前ほどの豪商が建てた総檜の真壁造りで、何でも二尺角ほどもある二本の大黒柱だけでも、現在の価値で八千万円かかると言われています。もっとも今時これだけの檜の大柱を手に入れるのは不可能とさえ言われていますね。そんな立派な柱が支える堅牢な造りですから、三百年たった今でも多少の修繕を重ねて、快適に暮らせる住環境を保っています。そうそう、四季折々の風情が楽しめる広大な日本庭園も見事ですよ。庭園は午前九時から午後五時の間、一般に開放されているので、一度訪ねられるとよろしいでしょう。茶会や句会、団体での鑑賞には事前の承認が必要ですが、個人での散策はいつでも可能です」

 玄関から幸田教諭と麗香が出てくる。
「幸田様、お役に立てなくて申し訳ありませんね」
「いいえ。充分役に立ちましたよ」
 客人用の送迎車が待ち受けており、運転手が後部ドアを開けて促している。
「外車のことは良く知らないけど、たぶんキャデラック? こんな高級車を用意するなんて」

 雲の上の人たちだ……。

 来る場所を間違えたようである。
 しかし、コンクールの成功のためにも梓は是が非でも欲しい。

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梓の非日常/第五章・音楽教師走る(二)家庭訪問
2021.03.10

梓の非日常/第五章・音楽教師走る


(二)家庭訪問

 真条寺邸。
 学校の講堂くらいはありそうな広い応接室に待たされている幸田教諭。
「はあ、下条先生から聞いてはいたけど、これほどとは」
 天井から垂れ下がったシャンデリア。バロック・ロココ様式で統一された調度品の数々。ウォールナット材金華山布張りの応接セットに腰を降ろし、メイドが出した茶をすすっている幸田教諭。
「この応接セットだけでも三百万円はしそうね……でもここの人達にとっては金額なんか無意味なんでしょうねえ。しかも掃除も行き届いているし、塵一つないように毎日丁寧に拭き上げられているみたいね。これだけ広い屋敷だもの、すべての調度品をきれいにするには、やっぱり数十人のメイドが必要だわ」
 思わず口に出してしまう。そばに控えているメイドに聞こえていると思うのだが、彼女は無表情のままで、感情を現さない躾が行き届いているようだ。
 応接室の重厚な扉が開いて麗香が入室してきた。
「お待たせ致しました。梓お嬢さまの世話役を仰せ付かっております、竜崎麗香と申します。お嬢さまの日本での教育と日常生活のすべてを、母上の渚さまに代わり取り仕切っております」
 ……この人が、二十歳の若さでコロンビア大学の博士課程を終了したという才媛の……学年首席と次席の学力を持つ篠崎さんと真条寺さんを育てたのもこの人ということなのね……。
 立ち上がり挨拶を交わす幸田浩子。
「学校の授業では音楽を担当しております。幸田浩子と申します」
「珍しいですわね。音楽の先生が家庭訪問とは。先日も担任の先生がお見えになられたばかりだというのに。日本の教育者ってまめなんですね。私、アメリカですべての教育を受けましたので、日本の事情が解りません」
 そう言って、応接セットを指し示しながら幸田に腰掛けるように促す目の前にいる二十三歳の麗香、飛び級制度のない日本でならまだ大学院の学生のはずである。しかも使用人の一人であるはずなのに、周囲の雰囲気によく解け合って、まるで屋敷の主人であるかのような風格と気品を兼ね備えていた。
「いえ、そういうわけではないのですが……」
 恐縮しながら再び腰を降ろす幸田教諭。
「さて、ご用件をお伺いいたしましょうか」
「単刀直入に申しますと、梓さんがやっておられる空手ですか、いつか怪我をされるんじゃないかと心配で、できればやめていただきたいと思っております」
「確かにお嬢さまにはふさわしくないとは、わたしも思ってはいるのですが。音楽教師のあなたさまと、どういう関係がありますの?」
「実は、梓さんにピアノ奏者として音楽部に入っていただこうと考えています。あれだけのピアノを弾ける技術をお持ちなのに、それを活かすことなく、あまつさえその奇麗な指先を壊してしまうような空手をやっておられるなんて。音楽教師として見過ごすわけには参りません」
「なるほど、そうでしたか。お嬢さまは九歳にしてニューヨークのセント・ジョン教会の正式なオルガニストとして認められるほど、抜群の音感性をお持ちになっておられますからね」
「九歳で教会のオルガニスト? だったらなおさらじゃないですか。何とかなりませんか」
「私とて、ただの使用人ですから。お嬢さまがお決めになられたことやその意志に反することはできません。また母上の渚さまもお嬢さまの意志は尊重するお方ですしね」
「やはりだめですか」
 がっくりとして肩を落とす幸田教諭。

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梓の非日常/第五章・音楽教師走る(一)音楽教師
2021.03.09

梓の非日常/第五章・音楽教師走る


(一)音楽教師

 廊下を歩く梓と絵利香。音楽室の戸が開いたままになっており、ふとグランドピアノに 目が止まった梓は、そばに歩み寄り蓋を開けてみる。
「鍵かかってないね」
「ねえ、ひさしぶりに聞かせて」
「え? ここで弾くの?」
「教室の戸も、ピアノの蓋も開いていたということは、神のお導きよ」
「どういう意味よ。まあいいわ。今日は気分がいいから」
 椅子に腰を降ろし鍵盤に手を置き、ひと呼吸おいてからゆっくりと弾きはじめる梓。
 優雅な旋律が教室内に響き渡り、それは廊下の方にも洩れて、波紋のように静かに広がっていく。
 いつのまにか窓の外で聞き惚れている生徒達が立ち並びはじめているが、梓達は気づいていない。
「あれ、真条寺さんじゃない?」
「そうね。ピアノが弾けるなんて、やはりお嬢さまの気品って感じね」
「しかもとってもお上手よ」
 うっとりとした表情で窓辺に寄り掛かり、聞き入っているクラスメート達。

 演奏を終えて、ぱたりとピアノの蓋を閉める梓。
 その瞬間、周囲から拍手の渦が沸き起こった。演奏に聞き惚れ集まった生徒達の数二十人ほどが、一斉に喝采の拍手を送ったのだった。
 驚きのあまりに固まっている梓。
「お上手だったわよ」
 と拍手をしながら女教師が近づいて来る。
「幸田先生!」
 幸田浩子、梓達の音楽担当の教諭で、音楽部の顧問をしている。
「ご、ごめんなさい。あたし」
 慌てて椅子から立ち上がり、ピアノのそばを離れる梓。
「あ、いいのよ。あなたのような女の子が弾くためにピアノは置いてあるのだから。昼休みや放課後だったら、いつでも弾いていいわよ。許可します」
「そ、そんなこと……」
「あなた、一年A組の真条寺梓さんよね」
「は、はい」
「今時、これだけ上手に弾ける女の子なんていないのよね。うちの音楽部にもいないわ。そうだ、あなた!」
 といって詰め寄る幸田教諭。
「音楽部に入らない?」
「音楽部?」
「高校生音楽コンクールで、合唱のピアノ伴奏をしてくれる子を探していたのよ。あなたほどの腕前ならピアノの練習は必要ないと思うから、すぐにでも生徒達の合唱の伴奏をやってもらえるとありがたいんだけど」
「でも、あたしは他のクラブに入ってますから」
「どこのクラブですか?」
 幸田教諭の目がきらりと輝いた。
「空手部です」
「空手っていうと、瓦を十数枚重ねて素手で割ったり、戸板に縄をぐるりと巻いて拳で叩くとかいうあれでしょう」
「え? まあ……それも、確かにあるけど……」
「だめよ、だめ。あなたのこのしなやかな細い指先が壊れちゃう」
 幸田教諭は梓の指先をさするようにしている。
「今すぐ、空手部はやめなさい。女の子がするクラブじゃないわ。そして音楽部に入るのよ」
「あ、あたしの勝手じゃないですか。それにテニス部からも勧誘されているんです」
「テニス部? うん、テニス部ならいいでしょ。ともかく空手部というと、顧問は下条先生よね。いいわ、私が掛け合ってあげる」
 と言うなり、すたすたと職員室の方へ歩いていった。
「ちょ、ちょっと、幸田先生」
「行っちゃったね。聞く耳持たないって感じね」
 絵利香が呆れたように言った。

 一年A組の教室。
 上級生らしき女生徒が入って来る。
「ねえ。真条寺さんは、どなたかしら」
「え? 真条寺さんですか?」
 上級生の声が聞こえた生徒達が一斉に梓の方を振り向いていた。
「ああ、あの子ね」
 つかつかと歩いていって、梓のそばに立つ上級生。
「真条寺さん?」
「え? はい。そうですけど」
 振り向いた梓を見て驚く上級生。
 ……か、かわいい……
 職員室で幸田教諭から言われた言葉を思い出す。
「そういうわけだから、あなた達の方からも、音楽部に入るように説得して欲しいのよ。とっても可愛い女の子だから、一目見たら絶対音楽部に欲しくなるわよ。テニス部も欲しがっているらしいから、早いとこ手をうってこっちに入れなくちゃ」
 ……幸田先生の言ってたこと本当だったんだ……ほ、欲しい……テニス部に先を越されないようにしなきゃ……
「私、三年の山下冴子です。音楽部の部長しています」
 ……部長……いやな予感……
「幸田先生から聞いたわ。あなたピアノが上手だそうね。どうかしら、音楽部に入らない?」
「いやだ。入らない」
 梓は、間髪入れずに答えた。そして、
「行こう、絵利香ちゃん」
 と手を引いて教室をさっさと出ていった。
「ちょっと、待ちなさいよ」
 梓は答えない。あの強引な幸田教諭の教え子なら似たり寄ったり、へたに相手になるとつけ込まれる恐れがあると判断したのだ。

 職員室。
「申し訳ありません。玉砕しました」
「仕方ありませんね。でも、可愛い子だったでしょ」
「はい。欲しいです」
「となると、あとは……」

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梓の非日常/第四章・スケ番再び(七)黒姫会
2021.03.08

学園長編小説/梓 第四章・スケ番再び(黒姫会)


(七)黒姫会

 放課後の教室。
 今日も今日とて、喧嘩談義の二人。
「なあなあ。もう一度見せてくれよ。あの聖龍掌」
「だめよ。あの技は、人に見せるためのものじゃないのよ」
「そういわずにさあ」
「しかし、なんであんたがその技の事知っているの?」
「そ、それは……」
「あなた沖縄唐手のこと結構知ってるわね。それに喧嘩してる時にも、唐手の技を使っているのを見たわ。誰に教わったの?」
「ひ、秘密です」
「そう……じゃあ、あたしも秘密よ」
「う……そうだよなあ。沖縄古武術の奥技は一子相伝的にこれぞという優秀な弟子にのみ伝えられるんだ。うちのばあちゃんなんか、最後の弟子に奥技を教えたから、おまえにはもう教えないよ。とか言いやがって」
 ぶつぶつと独り言を呟いている慎二。
「へえ、おばあさんから教わったんだ。古武術の師範代やってるの?」
「な、なんで知ってる? 俺の秘密を」
「自分から独り言喋ってたじゃない」
「げげ、俺の悪い癖がでたか」
 そんなやりとりを遠巻きにして聞いている生徒達。
 絵利香も窓際の席に腰を降ろして、二人が話し終わるのを待っている。
 階下が騒がしいと思って下を眺めると、校門付近に人が集まっているのが見える。
「ねえ、梓ちゃん。来てみて」
「なに?」
 絵利香に言われて窓際に寄る梓。
「ほら、校門の所。人が一杯集まってるよ。あれ、お竜さん達じゃない」
「げげっ! ほんとだ」
「校門の外にも、うちの学校じゃない生徒が集まってるね。あの制服は川村女子校と河越女子校、星雲女子校そして河越商業だよね」
「ああ……、どうやら黒姫会の連中みたいだ」
「黒姫会? 見たところスケ番グループみたいだけど……どうしよう。校門前で乱闘騒ぎになっちゃうの?」
「かもね。とにかく、このまま放っておくわけにもいかないでしょ。双方ともあたしと関りがあるんだよね」
「ええ? また何かやらかしたの? あ、もしかしてあの一件のこと?」
「行くよ」
 すたすたと歩いて教室を出ていく梓。
「ちょっと待ってよ。説明してよ」

 校門前。
 梓が玄関から歩いてくる。
 それを見届けて、スケ番達が整列して梓の到来を迎えた。
「お疲れ様です」
 一斉に頭を下げて最敬礼する一同。
「これは一体何事なの?」
 竜子が一歩前に出て説明をする。
「先日は、黒姫会からあたいを助けていただきありがとうございます。今日は、その黒姫会のリーダー、『チェーンのお蘭』こと黒沢蘭子が、一族郎党を引き連れてご挨拶に参っております」
 言われて竜子の肩越しに校門の外を見ると、廃ビルで出会ったあの蘭子が、ミニのブレザーの女子制服を着て、かしこまって立っていた。竜子が合図を送ると、ゆっくりと梓の所まで歩いて来て、足元に傅いた。
「ご存じだと思いますが、あらためて自己紹介します。私は、川村女子校の黒沢蘭子と申します。配下の黒姫会には……」
 蘭子の背後にそれぞれの制服を着た三人の女子生徒が整列している。たぶん各校の代表なのだろう。
「県立河越女子校、新庄温子」
 ごく普通なセーラー服の女子が前に一歩出てくる。
「星雲女子校、諏訪美和子」
 普通のスカート丈のブレザー服。
「河越商業、山辺京子」
 チェック柄ミニスカートにリボンタイのセーラー服。
「以上の三校に、私のところの川村女子校を合わせ統合したグループが、黒姫会の全容です」
「へえ、黒姫会って四校統一会派だったんだ」
「はい。川越市駅と本川越駅周辺地区を拠点として活動しております」
「青竜会は、川越駅周辺だったよね」
「その通りです」
「で、その黒姫会が、あたしに何の用かしら」
「単刀直入に申しますと、我らが黒姫会のリーダーになっていただきたく参上いたしました」
「またなのお!」
「部下を気遣って単身敵地に乗り込み助けようとするその心意気と度胸っぷり。大勢の人数に囲まれながらも、何ら臆することなく戦いに望み、楽しんでさえいらっしゃった。そして苦もなく我々を撃破したその腕前、まことに感服いたしました。この私すらあなたにかなわなかった。はっきり覚えていないのですが、なんかものすごい大技をあびて吹き飛んだらしい」
「それは忘れてください」
「ともかく、黒姫会の総意です。反対者は一人もおりません。お願いです、リーダーになってください」
 といいながら、土下座する蘭子。各校の代表達もそれにならった。
「ちょ、ちょっとお、やめてよ」
「お願いします」
 一斉に嘆願する蘭子と代表達。
「もう……好きにして頂戴」
 吐き捨てるように承諾の言葉を投げかける梓。
「で、では……」
 顔を上げる蘭子達。
「お竜さん」
「はい」
「後はまかせるわ」
「かしこまりました」
 すたすたと歩きだす梓。
「お疲れさまです」
 スケ番達の再度の挨拶に見送られ、裏門へと続く道に入っていく。
 梓が立ち去った後、蘭子のそばにより、握手を求める竜子。
「これで梓さまは、東の青竜会と西の黒姫会をまとめあげて、川越最大の派閥を組織する事になります。蘭子さん、これからは仲良くやっていきましょう」
「はい。これからもお願いします」

第四章 了

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