梓の非日常/第四章・スケ番再び(二)廃ビルにて
2021.03.02

梓の非日常/第四章・スケ番再び(黒姫会)


(二)廃ビルにて

 街中を疾走する三人乗りの自動二輪。
 とある廃ビルの前に停車する。周囲を鉄柵で囲われ解体工事中の看板が掲げられている。
「おら、アジトに着いたぜ」
「倒壊の危険があります。廃ビルの中に立ち入らないでください……ですって」
 自動二輪を降りて、看板の注意書きを読み上げる郁。
「よくもまあこんな危険な場所をアジトにしてるなあ」
 梓が廃ビルを見上げて感心するようにつぶやいた。
「ああ、ビルに入ってくる奴はいないからな。いつも不良達がたむろしていて、工事の邪魔をするものだから。解体業者も工事を一時中断したままだ」
「警察は?」
「ああ、占拠している奴等を、追い出したり補導したりしても、翌日には別の奴が入り込んでいる。いたちごっこなんだ」
「そうか……それであきらめちゃったんだ」
「そういうこと。ほれ。早速のお出迎えだぞ」
 入り口付近にたむろしていた男達がこちらに向かってくる。
「なんや、おまえら」
「ここに女の子が連れて来られたでしょう」
 梓が一歩前に出て尋ねる。
「あん、知らんな」
「ん? その制服は、城東初雁。きさまらお竜の仲間か!」
 梓の着ていた女子制服に気づいて男が叫ぶ。と同時に梓達を男達がぐるりと囲んだ。
「さてはお竜を助けにきたんだな」
「その通り。怪我をしたくなかったら道を開けて頂戴」
「なにをほざけたことを。それはこっちの言うせりふだ!」
 と襲いかかってくる男。
 梓が、ひょいと体をかわすと、男はバランスを崩して、その勢いで慎二に向かっていく。
「およ?」
 いきなり眼前に迫った男にひるむことなく、慎二は正拳を繰り出す。もんどりうって吹き飛ぶ男。
「おい、梓ちゃん」
「ん?」
「中には女達がたむろしているはずだ。俺は女には手を出さない主義だ。ここは俺にまかせて、早く中へいってお竜をたすけてやれ」
「わかった。ここはおまえに任せるよ」
「おう。一人足りとも中へは入れさせねえぜ。安心して女達と遊んでこいよ」
「頼む!」
 といってビルの中へ飛び込んで行く梓。
「郁さんは、あたしの後にぴったりと着いてきてね」
「はい」
 梓の後に郁が続く。
「待て、こらあ」
 と男が捕まえようとするが、慎二が背後からその襟元をむんずと掴んで投げ飛ばす。
「おい。おまえらの相手はこの俺だと言ってるだろ」
「げっ! こいつ、沢渡だ」
「なんで、鬼の沢渡が青竜会とつるんでるんだ? 一匹狼じゃなかったのか」
「一対一じゃかなわんぞ。全員で一斉に飛び掛かれ」
「おう!」
 怒濤のように向かってきた男達によって、さすがに慎二は組み敷かれてしまった……かに見えたが、次の瞬間人塊を押しのけて慎二が姿を現わす。足元に倒れている男達はぴくりとも動かない。慎二は押し倒されながらも、関節技・絞め技・刻み突きなどを連続的に繰り出していたのだ。
 一対一では無論かなわないし、多人数でかかってもやっぱりかなわない。
 残っている男達のとる行動は一つしかない。
「やっぱり、鬼の沢渡だ。退散だ!」
 と蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。
 服に付いた汚れをはたき落としながら、
「なんで面白くねえ。こいつら河商の男子生徒だな。商業高校だけに圧倒的に女性上位なわけで、スケ番の尻に敷かれていて何とも不甲斐ないってところだ。情けねえやつら」
 倒れている男達に蔑視の表情を見せる慎二。全生徒の八割以上が女子という商業高校にあえて入学するのだから硬派はまずいないだろう。同校のスケ番グループの下で、カツアゲや見張りなどの三下的役割を押し付けられている軟弱でこの上ない連中だ。
「中は女達で一杯、俺は女とはやりたくないし」
 竜子は捕らえられて中にいる、当然人質として扱われているのは否めない。
「梓ちゃん、苦戦するだろうなあ……さて、どうするかな」
 周囲を見渡すと、解体工事に使われる建設機械が放置されたままになっている。鉄球クレーン車、ユンボ、大型ブルドーザーなど。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v



にほんブログ村 本ブログ 小説へ
にほんブログ村



11
梓の非日常/第四章・スケ番再び(一)お竜捕われる
2021.03.01

梓の非日常/第四章・スケ番再び(黒姫会)


(一)お竜捕われる

 教室で談笑する梓と慎二。慎二は椅子に逆座りして背もたれに両腕をかけている。
 梓は手を屈伸させながら、どうやら拳法についての話しをしているようす。
「で、腕をこう」
 いきなり慎二の顔めがけて正拳を繰り出す梓。あわてず騒がず掌で軽く受け止める慎二。
「ちっちっち。もっと腕を捻るようにリストをきかせるんだ。こんな風にな」
 ぐいっと腕を突き出す慎二。首を傾けてそれをかわす梓の髪が風圧でたなびく。
「でも、あたしは腕力ないからね。どっちかっつうと」
 梓の右足が蹴り上げられる。慎二はそれをスウェイでかわすが、視線が下にいっている。梓の短いスカートからのぞく白いショーツがまぶしい。
「こら。どこ見てんだよ」
「な、何も。見てねえよ」
 首を横に振って否定する慎二。
「レースのフリルが可愛いだろ」
「そうだね」
「やっぱり見てるじゃないか」
 誘導尋問に引っ掛かった慎二の頭を、鞄で叩きはじめる梓。
「ご、ごめんよお」
 しばらくそんな調子が続いていたが、
「ふふふ」
「がはは」
 突然高笑いする二人だった。
 そんな二人を、拳法談義に加われない絵利香と相沢愛子やクラスメート達が眺めている。
「ところで、空手部に入ったスケ番の連中は、どうしてる?」
「一人抜け、二人抜けてな具合で、今はたった一人だけ残ってるよ」
「だろうなあ。汗水流してスポ根よりも、街中でカツアゲやってる方が性に合ってる連中だからな」
「こうなるだろうとは思っていたけどね。残った一人が熱心に欠かさず稽古に出てるし、同じ一年生だから、それだけでも拾い物だよ」
「そうだな。女の子はおまえ一人だったからな。稽古相手ができてよかったじゃないか」
「まあね。ほんとに真面目でさあ、なんでスケ番グループに入ってるか不思議なくら
い。家庭の事情があるらしいけど」
 その時、勢いよく扉を開けて、血相変えて飛び込んできた女子生徒がいた。
「梓さん。大変です!」
「郁{かおる}さんじゃない。どうしたの?」
 話題にでていた、たった一人残っているというスケ番空手部員だ。
「お竜さんが、黒姫会の連中に捕まって連れてかれたんです」
「黒姫会?」
「ああ、知ってるぜ。おまえんとこの青竜会と島争いをしているスケ番グループだよ」
「その通りです」
「たぶんおまえがスケ番達を空手部にさそって稽古に励んでいる間に、やつらは勢力を広げていたんだな。そこへお竜達が空手に飽きて舞い戻ったところを襲ったんだろな」
「お竜さんは、身を呈してわたしを逃がしてくれたんです」
「それで、どこに連れていかれたの?」
「わからないんです。逃げるので精一杯で」
「やつらのたまり場なら、俺が知ってるぜ」
「ほんとうか?」
「ああ、案内してやるよ」

 裏門近くの駐車場にやってくる三人。
「こんなところに連れてきて、一体なんなのよ」
「まあ、見てなって」
 駐車場すみの茂みに入ったと思うと、自動二輪車を引き出してくる慎二。
「バイク?」
「どうだ、すごいだろ」
「どうだはいいが、どうやって乗るんだ?」
「後ろによいしょっと跨ればいいんだよ」
「それくらいは、わかるぞ。言いたいのは自動二輪車は二人までしか乗れないんだろ。しかもヘルメットも余分にない」
「なあに身体の細い女の子二人なら余裕で乗れるし、パトカーの巡回ルートを熟知している友達がいてね、サツに合わずに目的地まで行けるよ」
「大丈夫かなあ……」
「おいおい。そんな悠長なこと言ってていいのか。手をこまねいていたら彼女どうなるかわからんぞ」
「わかった。ちゃんと運転しろよ」
 疑心暗鬼ながらも自動二輪車に跨る梓。
「郁さんは後ろにね。こいつのすぐ後ろだと何されるかわからんからな」
「はい」
 梓の後ろに、落ちないようにぴたりとくっつくように乗車する郁。
「おい。今なんと言った」
「いいから、早く出せ」
 ぽかりと沢渡の頭を叩く梓。
「わかったよ。ヘルメットはおまえが被ってろ」
「いらないよ。自慢の髪に匂いがついちゃうじゃないか」
「そうか……じゃあ」
「あ、わたしもいいです」
「そっか、んじゃ。飛ばすぞ、しっかりつかまってろよ」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v



にほんブログ村 本ブログ 小説へ
にほんブログ村



11

- CafeLog -