梓の非日常/第四章・スケ番再び(七)黒姫会
2021.03.08

学園長編小説/梓 第四章・スケ番再び(黒姫会)


(七)黒姫会

 放課後の教室。
 今日も今日とて、喧嘩談義の二人。
「なあなあ。もう一度見せてくれよ。あの聖龍掌」
「だめよ。あの技は、人に見せるためのものじゃないのよ」
「そういわずにさあ」
「しかし、なんであんたがその技の事知っているの?」
「そ、それは……」
「あなた沖縄唐手のこと結構知ってるわね。それに喧嘩してる時にも、唐手の技を使っているのを見たわ。誰に教わったの?」
「ひ、秘密です」
「そう……じゃあ、あたしも秘密よ」
「う……そうだよなあ。沖縄古武術の奥技は一子相伝的にこれぞという優秀な弟子にのみ伝えられるんだ。うちのばあちゃんなんか、最後の弟子に奥技を教えたから、おまえにはもう教えないよ。とか言いやがって」
 ぶつぶつと独り言を呟いている慎二。
「へえ、おばあさんから教わったんだ。古武術の師範代やってるの?」
「な、なんで知ってる? 俺の秘密を」
「自分から独り言喋ってたじゃない」
「げげ、俺の悪い癖がでたか」
 そんなやりとりを遠巻きにして聞いている生徒達。
 絵利香も窓際の席に腰を降ろして、二人が話し終わるのを待っている。
 階下が騒がしいと思って下を眺めると、校門付近に人が集まっているのが見える。
「ねえ、梓ちゃん。来てみて」
「なに?」
 絵利香に言われて窓際に寄る梓。
「ほら、校門の所。人が一杯集まってるよ。あれ、お竜さん達じゃない」
「げげっ! ほんとだ」
「校門の外にも、うちの学校じゃない生徒が集まってるね。あの制服は川村女子校と河越女子校、星雲女子校そして河越商業だよね」
「ああ……、どうやら黒姫会の連中みたいだ」
「黒姫会? 見たところスケ番グループみたいだけど……どうしよう。校門前で乱闘騒ぎになっちゃうの?」
「かもね。とにかく、このまま放っておくわけにもいかないでしょ。双方ともあたしと関りがあるんだよね」
「ええ? また何かやらかしたの? あ、もしかしてあの一件のこと?」
「行くよ」
 すたすたと歩いて教室を出ていく梓。
「ちょっと待ってよ。説明してよ」

 校門前。
 梓が玄関から歩いてくる。
 それを見届けて、スケ番達が整列して梓の到来を迎えた。
「お疲れ様です」
 一斉に頭を下げて最敬礼する一同。
「これは一体何事なの?」
 竜子が一歩前に出て説明をする。
「先日は、黒姫会からあたいを助けていただきありがとうございます。今日は、その黒姫会のリーダー、『チェーンのお蘭』こと黒沢蘭子が、一族郎党を引き連れてご挨拶に参っております」
 言われて竜子の肩越しに校門の外を見ると、廃ビルで出会ったあの蘭子が、ミニのブレザーの女子制服を着て、かしこまって立っていた。竜子が合図を送ると、ゆっくりと梓の所まで歩いて来て、足元に傅いた。
「ご存じだと思いますが、あらためて自己紹介します。私は、川村女子校の黒沢蘭子と申します。配下の黒姫会には……」
 蘭子の背後にそれぞれの制服を着た三人の女子生徒が整列している。たぶん各校の代表なのだろう。
「県立河越女子校、新庄温子」
 ごく普通なセーラー服の女子が前に一歩出てくる。
「星雲女子校、諏訪美和子」
 普通のスカート丈のブレザー服。
「河越商業、山辺京子」
 チェック柄ミニスカートにリボンタイのセーラー服。
「以上の三校に、私のところの川村女子校を合わせ統合したグループが、黒姫会の全容です」
「へえ、黒姫会って四校統一会派だったんだ」
「はい。川越市駅と本川越駅周辺地区を拠点として活動しております」
「青竜会は、川越駅周辺だったよね」
「その通りです」
「で、その黒姫会が、あたしに何の用かしら」
「単刀直入に申しますと、我らが黒姫会のリーダーになっていただきたく参上いたしました」
「またなのお!」
「部下を気遣って単身敵地に乗り込み助けようとするその心意気と度胸っぷり。大勢の人数に囲まれながらも、何ら臆することなく戦いに望み、楽しんでさえいらっしゃった。そして苦もなく我々を撃破したその腕前、まことに感服いたしました。この私すらあなたにかなわなかった。はっきり覚えていないのですが、なんかものすごい大技をあびて吹き飛んだらしい」
「それは忘れてください」
「ともかく、黒姫会の総意です。反対者は一人もおりません。お願いです、リーダーになってください」
 といいながら、土下座する蘭子。各校の代表達もそれにならった。
「ちょ、ちょっとお、やめてよ」
「お願いします」
 一斉に嘆願する蘭子と代表達。
「もう……好きにして頂戴」
 吐き捨てるように承諾の言葉を投げかける梓。
「で、では……」
 顔を上げる蘭子達。
「お竜さん」
「はい」
「後はまかせるわ」
「かしこまりました」
 すたすたと歩きだす梓。
「お疲れさまです」
 スケ番達の再度の挨拶に見送られ、裏門へと続く道に入っていく。
 梓が立ち去った後、蘭子のそばにより、握手を求める竜子。
「これで梓さまは、東の青竜会と西の黒姫会をまとめあげて、川越最大の派閥を組織する事になります。蘭子さん、これからは仲良くやっていきましょう」
「はい。これからもお願いします」

第四章 了

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