梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろし方(七)銀行預金の正しい預金の降ろし方
2021.03.30

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた


(七)銀行預金の正しい降ろし方

 新都銀行川越支店。
 カウンターに腰を降ろし銀行員に告げる梓。
「お金を降ろしたいんですけど……」
「はい。通帳と印鑑はお持ちですか?」
 といわれてきょとんとする梓。
「何それ? そんなの必要なの? お金を降ろすのに」
「はあ……?」
 今度は銀行員が呆然としている。
 銀行通帳と印鑑、もしくはキャッシュカードと暗証番号。預金を降ろすのに必要なアイテムだ。それがなければ、たとえ何億円預金があろうとも一円も降ろせない。

 そんなことも知らずにお金を降ろしにきたの?

 そんな表情をして困惑している銀行員であった。
 そこに絵利香が間に入ってくる。
「あ、支店長に会わせて頂けますか? 筆頭株主の真条寺家のご令嬢が尋ねてきているとおっしゃってください」
「え? 筆頭株主?」
「早くしないと、この子短気だから、怒って株を全部売り払ったうえに、預金全部降ろしちゃうかもよ。預金は数百億円はあるかな……そうなれば銀行潰れちゃうよ」
「は、はい。し、しばらくお待ち下さい」
 筆頭株主と聞いて、あわてて後部デスクにいる上司に説明する行員。
「なんで、ここの銀行の筆頭株主だってこと知ってるの? あたし話したことあるのかなあ」
「聞かなくてもわかるわよ。篠崎重工も株主に名を連ねているから、株主名簿を見たことがあるのよ」
「へえ、そうなんだ……」

 応接室。
 応接セットに座りお茶を飲んでいる二人。
 支店長が入ってくる。
「お待たせしました、当行支店長の川崎です」
「はじめまして、真条寺梓です」
「おひさしぶりです。川崎さん」
 顔見知りなのか、親しく挨拶を交わす絵利香と支店長。
「おや。おひさしぶりです、絵利香さま」
「あら、絵利香ちゃんは支店長と知り合いなの?」
「うちは株主だってさっき言ったでしょ。一応篠崎の取り引き銀行の一つだから、たまに屋敷にいらっしゃることがあるの」
「そうですか。篠崎重工のお嬢さまとご一緒となれば、真条寺家のお嬢さまというのも本当みたいですな」
「もちろんですわ。正真正銘の真条寺梓ちゃん。わたしが保証します」
「はい、承知いたしました。真条寺さまとのお取り引きは、当行の頭取が直々にお屋敷に出向いて、お嬢さまや麗香さまにお会いしていました。ですから私自身は、お嬢さまや麗香さまとお会いする機会がございませんでした」
「そうでしょうねえ。真条寺家後継者のこの子に会えるのは大企業でも幹部クラスの一握りの人達だけなんですよ」
 と絵利香が説明する。
「わかりました。ところで、お嬢さま。預金をお引き出したいとのことですが、いくらほどご用立ていたしましょうか?」
「え、え……と。いくらだっけ? 絵利香ちゃん」
「あのねえ。金額も確認しないで車を買うつもりだったの?」
「全然、気にしなかったから。ん……とね、スーパーカーが買えるくらいだよ」
「は?」
「まったく……。支店長、この子が欲しがっている車は、正確な値段までは判らないけど、七千万円くらいする篠崎重工製スーパーカーです」
「な、七千万円ですか?」
「なんだ、そんなもの? F1・F0のレースマシン仕様の限定生産だから三億円からすると思ってたよ」
 二人のお嬢さまの口から飛び出した金額に驚愕する支店長。
 さすがにその金額は、現金扱いでは自分の決済範囲を越えていた。それだけの現金を引き降ろしたら当日窓口の営業に差し支えるからだ。
「お嬢さまがた、一応本店に確認致しますので、しばらくお待ち願えませんか」
「ん……? いいよ」

 しばらくして支店長が戻ってくる。
「只今、本店の方で確認しておりますので、しばらく……」
 とまで言いかけたところで、卓上の電話が鳴った。
 点滅する内線ボタンを押す支店長。
『支店長、本店頭取からお電話です。3番です』
「いやに、早いな……わかった」
 やはり相手が、真条寺家だからだろう。今やってる仕事を一時中断して、真条寺家に至急連絡したに違いない。
 と推測しながら、電話の回線番号3をプッシュして切り替える支店長。
「はい。川崎です……え? ですが……はい。わかりました」
「お嬢さま、当行の頭取の桂木がお話しをされたいそうです」
「頭取が?」
 送受器を受け取り話しをする梓。
「梓です。はい、お久しぶりです……どうもです。え? 携帯電話ですか、持ってますよ……。はい、支店長ですね」
 頭取との短い会話を終えて、送受器を支店長に返す梓。
「はい。替わってください、ですって」
「替わりました、川崎です。え? 携帯電話ですか?」
 というところで、梓の持っている携帯電話が鳴る。画面には真条寺家別宅執務室の第二代表電話番号と竜崎麗香の名前が表示されていた。ちなみに第一代表電話が梓の専用電話である。
「はい。梓です。う、うん。今銀行にいるよ。そ、新都銀行川越支店。支店長に替わるのね、わかった」
 といいながら支店長に携帯を渡す。
 支店長は本店からの電話を保留にしてから携帯に出る。
「はい。替わりました。支店長の川崎です。そうですか、間違いなく真条寺梓さまですね。わかりました。承認番号? 今メモします。はい、どうぞ」
 承認番号というものは、普通は金融機関側が発行するものだが……。この新都銀行は真条寺家が資本の大半を出資して設立されたものだ。事実上の経営権を握っているから、麗香が未成年の梓のために承認発行を出す事も当然と言えた。

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