梓の非日常/第二部 第八章 小笠原諸島事件(二)出発
2021.01.29

梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件


(二)出発

 旅行当日。
 篠崎観光が手配した大型バスが学校前に停車している。
 乗車口の前では、学級委員長の鶴田公平が、名簿と照らし合わせている。
 豪華客船に乗れるとあって、クラス全員が参加することになった。
「よし!全員揃った。後は下条先生だけ」
「先生、まだなのお?」
 生徒の一人が窓から首を出している。
「前回も一番最後だったよね」
 四十人の生徒を引率するのだ。
 万が一の連絡網などの確認や校長先生との打ち合わせで遅れているのである。
「おお、悪い悪い」
 やがて、ばつが悪そうにやってくる。
「先生、罰ゲーム決定ですよ」
「勘弁してくれ、頼むよ」
 などと言いながら乗り込む。
「先生、全員揃っています」
「おお、そうか。じゃあ、出発してくれ」

 静かに出発する大型バス。

 早速、歌いたい者によるカラオケが始まる。
 カラオケに興味のないものは、スマホをいじってゲームやネット巡りだ。
 ババ抜きなどのカードゲームに興じるものもいる。
 何もしたくないものは、寝るのみ!

 やがてバスは、2019年4月にオープンした横浜大黒ふ頭客船ターミナルに到着した。
 もよりの駅バス利用は、JR&京急鶴見駅から川崎鶴見臨港バス会社6番バス乗り場から大黒ふ頭行きが出ている。ただ、そのまま『大国ふ頭』で降りるよりも手前の『大黒税関前』で降りた方が、客船ターミナルへは5分ほど近道になる。
 通常は大桟橋ふ頭を利用するのが便利なのであるが、クイーン絵利香号などのように、マスト高55m以上の客船は、横浜ベイブリッジの下をくぐることができない。
 なので本来は貨物用ではあるが、豪華客船が寄港することのできる大黒ふ頭へと回る。
 大黒ふ頭の客船受け入れは暫定的なもので、2025年に向けて『本牧ふ頭』の方に超大型客船(22万総トン級)に対応した『CIQ(税関・出入国審査・検疫)施設』を整備していく計画となっている。

 客船ターミナル内は、乗船客以外は入れず、見送りをすることはできない。
 コンビニやカフェなどの飲食店もなく、ただ自動販売機があるだけである。これも暫定的な施設だからだろう。
 言わば外観かまぼこ状の大きな体育館の中に、若干の椅子が置かれているほかは、出入国の設備 CIQ があるという状況。2019年時点
 大型客船が同時に2隻停泊できて、合わせてターミナルも1番と2番がそれぞれ配置されている。

 クイーン絵利香号は、すでに入港しており乗船手続きを行っていた。

 岸壁に立ち並んで、豪華客船を眺める一行。
「すげーなあ!」
 異口同音に生徒たちが感嘆している。
 海に浮かぶビルディングという形容が当たっているほどにそびえたっていた。

 さて、クイーン絵利香号(新パナマックス船)の概要を示してみよう。
 乗客定員 5、200人
 乗組員  2、200人
 客室   2、540室
 総トン数 92、078トン
 巡航速度 23ノット(42.60km/h)
 全長   360m
 全幅   48m
 喫水   15m
 マスト高 57m
 階層   16階建て(最大高54m)
 船籍   米国
 運用者  篠崎観光クルーズ
 建造所  篠崎重工

 新パナマックス船とはパナマ運河(拡張後)を通行できるサイズの船のこと。
・全長  366m
・全幅  49m
・喫水  15.2m
・最大高 57.91m

 絵利香号は、このサイズを元に設計建造されたが、残念ながら高さ制限で横浜ベイブリッジを潜り抜けることができない。(干潮時除く)
 米国ニミッツ級空母などはこれより大きいため、南アメリカ大陸南端マゼラン海峡を通ることになる。

「船って、必ず左舷を岸壁に向けるって知ってた?」
 誰かが、聞きかじりの知識を披露した。
 左舷(Port Side)が岸壁側、右舷(Starboard Side)を海側にするのは、大昔の手漕ぎボード時代の装備の名残。
 昔の木船には舵がなく、右側後方に設置されたオールで前進と舵切りを行っていた。
 このオールのことを steering oar(ステアリング オール)と呼び、ここから右舷のことを steer board となり、これが変化して starboard となった。
 岸に接弦する時に、この舵が邪魔にならない左舷側を岸に付けるようにした。
 また舵を切るときにも、右転回(面舵)を Starboard などと言う。

画像参照=SHIP for Everyone(船の世界を知って楽しむための情報サイト)


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