あっと!ヴィーナス!!第四部 第一章 part-5
2021.01.17
あっと! ヴィーナス!!(53)
part-5
再びゼウスの神殿に戻った。
ゼウスと女神たちが、口論している。
ポセイドーンをどうするべきか?
メデューサも許せない! 懲罰を与えるべきだ!
などと、激しくやりあっている。
このままギリシャ神話のままに事が進むと、メデューサは醜い化け物に変えられて、ペルセウスに首を掻き切られることとなる。
ゼウスが弘美が戻ってきたのに気が付いた。
「おお、帰ってきたようじゃの」
「お、おお……」
本当は帰りたくなかったのだが、約束は約束。
しかも相手は全知全能の神なのだ。
逃げ出すことはできないだろう。
「さてと……約束だ」
「分かっている」
「ささ、もっと近くに寄れ」
もう駄目だと観念したその時、宝箱が目に留まった。
浦島太郎なら、箱を開けた途端に煙が舞い上がって、爺さんになってしまうのだが……。
だとしたら、自分も婆さんになるのか?
いっそその方がいいかもしれない。
ゼウスとて、婆さんになってしまった弘美には用がなくなるだろう。
神通力で、元の若さに戻すこともできるのかもしれないが。
「どうにでもなりやがれ!」
困り果てた弘美は、手元にあったポセイドーンから貰った宝箱を開けた。
すると箱の中から白い煙が濛々と立ち上り神殿中に広がった。
すでに弘美は観念しているが、神々たちは何が起きたのかと右往左往する。
「な、なんだこれは?」
ゴホゴホと咳き込む神様たち。
「そうだ! アクアラング!!」
そう言うと、弘美はアクアラングのレギュレーターを口に咥えた。
もちろん愛ちゃんも同様である。
やがて、煙は薄らいでゆく元の平穏な空気に戻っていった。
神殿内に立ちすくす、茫然自失状態の神々だったが、気を取り戻してゆく。
もう安全だと思った弘美はアクアラングを外した。
途端にアクアラングは消えた。
「はて? 儂らは何を話し合っていたのかのう」
「何か討論していたような……」
「何故、わたしはここにいるのでしょうか?」
弘美の存在に気が付くゼウス。
「おお! そこにいるのはファイルーZの姫君じゃないか?」
ヴィーナスとディアナがいるのを見て、
「そなたらが連れて来たのか?」
「さ、左様にございます」
ヴィーナス達も意識かく乱しているもよう。
「さて、一応要件を聞こうか」
え?
今までの事、覚えていないのか?
激しく討論していたアテーナーもデメーテルも静かにしている。
まるで、何で自分はここにいるのか? と煩もんしているようだ。
宝箱の煙が、記憶を消したのか?
それしか考えられない。
アクアラングを付けていた自分たちは平気なのだから。
もしかしてこれは、ハーデースの復讐の手助けと、自身のゼウスに対する雪辱?だったのではないか?
後出しジャンケンの始末を図ったのであろうか?
ゼウス達は記憶を失くしているに違いない。
だとしたら、ここは強くでるに限る。
「ここにファイルーZがある!」
「おお、確かにファイルーZのディスクのようだな」
「ヴィーナスの話によると、こいつは世界美女名鑑みたいなものだろう?」
「うむ、言いえて妙だがその通りだな」
完全に記憶消失にはならず、ファイルーZのことは覚えているようだ。
「非常に迷惑している。取り消すなり廃棄するなりして欲しい」
「ファイルーZに選ばれることは、光栄なことなんだぞ」
「こっちは迷惑なんだよ。俺はごく普通の人間なんだよ。いや、普通でいたいんだ!」
激しく詰め寄る弘美だった。
その勢いに押されたのか、たじろぐゼウス。
「わ、わかった。考慮しようじゃないか」
「考慮じゃだめだ!リストから消せ!」
鼻息を荒げてなおも追及する。
「わかった……消すよ。ディスクをこちらに渡せ」
弘美がディスクを渡し、受け取ったゼウスはディスクに火を点けた。
空中に浮遊したポリカーボネート素材のディスクが高温になり融解した。
それを見届けて、
「よし!」
フンッ!
勝負あったり!
と、肩の荷を下ろす弘美だった。
「というわけで、帰ろうか」
「分かった!」
ディアナが、天翔ける戦車を呼び寄せた。
「早く乗れ!」
ゼウスがヴィーナスを呼び止める。
「いいか。前にも言ったとおりに、弘美の調教よろしくな」
「かしこまりした」
相槌を打つヴィーナス。
そしてディアナの所へ行く。
「何を話していた?」
ディアナが尋ねるが、
「これから空は荒れるので、荒天準備せよ、だそうだ」
「なんだそれ?」
「いや、こっちの話だ。さあ、出発してくれ」
「分かった」
一行が乗り込んたのを見て、天馬に鞭打つ。
「ハイよ~、シルバー!!」
ふわりと舞い上がる天翔ける戦車。
そして、弘美らを地上へと送り届けたのであった。
数日後。
晴れて地上に戻った弘美たちには、いつもの日常が戻ってきていた。
3年A組の教室でのホームルームの時間。
女神綺麗ことヴィーナスが教壇に立っている。
不貞腐れた表情の弘美。
なんでこいつがまだいるんだよ!
という表情をしている。
「あなたが心身ともに可愛い女の子になるよう、教育係としての役目があるからね」
「くそー。ゼウスに、男に戻せって言えばよかった」
「残念でしたね。ゼウス様の愛人にならなくなったことに気を良くして、すっかり忘れていたみたいね」
ディスクは燃やしても、データは運命管理局のコンピューターに保存されているので、いくらでも複製は可能である。
「ううっ。頭痛い」
ヴィーナス、ディアナ、アポロン、ゼウス、ハーデース、ポセイドーン……。
この調子で、さらに多くの神と出会うのかと思ったが。
今のところお声がけはきていない。
このまま、金輪際関わりたくないものだ。
「わたしがいるぞ!」
と、ヴィーナス。
「おまえは、酒でも飲んでろ!」
神と関わってしまった弘美の平穏を祈って、ひとまずこの物語を終わりとしよう。
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あっと!ヴィーナス!!第四部 第一章 part-4
2021.01.17
あっと! ヴィーナス!!(52)
partー4
「ゼウスの神殿へ行くには、二人の女神にやってもらおうか」
「ですが、我々には呪縛が掛かっております。移動の神通力がありません」
ハーデースの神殿でもそうだが、天上界以外の自分の領域でない場所では神通力は制限されるのが普通だ。
「おお、そうだったな。今解いてやる」
何やら仕草をすると、二人の女神の呪縛が解けた。
「ありがとうございます」
「それでは頼むよ」
「かしこまりました」
二人の女神が祈りを捧げると、弘美の身体はゼウスの神殿へと運ばれた。
突然、弘美たちが姿を現して驚くゼウスだった。
「おお、ファイルーZの姫君じゃないか」
ヴィーナスとディアナがいるのを見て、
「そなたらが連れて来たのか?」
「左様にございます」
「さて、一応要件を聞こうか」
斯々然々(かくかくしかじか)と説明する弘美。
「なるほど……。で、アテーナーの説得に応じるとして、当然儂にも利するものがあるのだろうな?」
と弘美を凝視するゼウス。
「そ、それは……」
言葉に詰まる弘美。
ゼウスの考えていることは予想できる。
それを弘美が受け難いことも分かっている。
しかし、海底神殿には囚われの愛ちゃんがいる。
その責任の根本が自分にあることも重々承知だ。
「分かった……好きにすればいいよ」
「そうか……約束だぞ」
しばらくして、ゼウスの元にアテーナーとデメーテルが呼び出された。
アテーナーは、最初の妻メーティスが身ごもった折に、その母体ごと飲み込んだのち、ゼウスの額から飛び出したと言われる女神である。パルテノン神殿に祀られているのがそれである。
デメーテルは、ゼウスの姉でもあるが、ポセイドーンを酷く憎んでいる。
その二女神を前にして、事の次第と説得を試みるゼウスだった。
「アテーナーよ。そなたはポセイドーンとの賭けに勝って、名を冠したアテーナイと呼ばれることとなった地に、パルテノン神殿を得た。ポセイドーンのことは許してやってくれないか?」
「なりませぬ! 我が神殿においての穢れた行為は言語道断である。許せるはずのものではない」
「そ、それはそうだろうが……なんとかならんか?」
しかし、答えるように激しく睨みつけるアテーナーだった。
こりゃだめだ!
と感じたゼウスは、デメーテルに言葉を振った。
「デメーテルよ。お主が告げ口をしたらしいが……」
「告げ口なんて、そんな言い方はしないでください。見たままを報告しただけです」
「ほんとうに見たのか?」
「私を疑うのですか?」
こちらも厳しく睨め付ける。
何せポセイドーンには恨みつらみ満載であるから、弁護側に回ることを期待するのは無理だ。
ゼウス、しばらく沈黙していたが、
「と、そういうわけだから。儂にはどうすることもできん」
あっさりと引き下がり、弘美に仲裁失敗を告げる。
「そうか……」
「ともかく、ハーデースの元に報告するがよい。愛君が解放されたなら、再び戻ってきてくれ。約束だからな」
「ああ……分かっている」
というわけで、海底神殿のポセイドーンに報告する一行だった。
「そうか……だめだったか……」
それを聞いてうな垂れるメデューサ。
「ともかく約束通り、愛君は解放しよう。それもこれも、すべて自らが招いたもの。潔く運命を受け入れよう」
「そうか……」
ほっと、安堵のため息を漏らす弘美だった。
これで、ともかくも愛ちゃんは助かり地上へと戻れる。
自分は……。ポセイドーンではないが、運命を受け入れるしかないだろう。
そもそもがファイルーZなどというものに名を連ねることとなったのがそもそもの不幸の始まり。
女にされるわ、あれやこれやされるや……。
「そうだな。この神殿を尋ねた記念に宝箱をあげよう」
と言うと、人魚に持ってこさせた。
「ちょっと待て! それってあれか? 乙姫の玉手箱って奴か?」
「玉手箱? なんか知らんが……その宝箱は、困り果ててもうどうすることもできない、という状況に陥ったら開けるがよい」
「やっぱり玉手箱じゃないか!」
「きっと役に立つから、持っていきたまえ。ついでだから、邪魔なアクアラングも持って行ってくれ」
ということで、強引に宝箱を持たされた。
「女神たちよ、よろしく頼む」
「かしこまりました」
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