あっと!ヴィーナス!!第三部 第二章 part-13
2021.01.05

あっと! ヴィーナス!!(47)


第二章 part-13

「ああ!」
 矢が当たって、一瞬硬直するペルセポネー。
 やがて、へなへなと浴槽の縁に倒れ掛かる。
「死んだのか?」
 弘美が尋ねる。
「いや、心身が弛緩しているだけだ」
「この後、どうするんだ?」
「無論、冥府へお連れするだけだ」
 というと、ディアナが浮遊の神通力を使ってペルセポネーを浮き上がらせた。
 そのまま、元来た道を通って旅の扉で冥府に戻った。

 ペルセポネーを迎えて、ハーデースが喜んだのも当然だった。
 エロースの弓矢のおかげか、ハーデースに寄りそうペルセポネー。
「ご苦労だったな。約束通り、愛君は地上へ返すことにしよう。
「おおそうか!働いただけのことはあるな」
「ただし、気を付けることだ」
「気を付ける?どういうことだ?」
「地上へは元来た道を戻るがよい。ただし、冥界から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならなぬぞ!」
「振り返るなだと?どういうことだ??」
 しばし考え込む弘美。
 やがて、日本神話を思い出す。
「まさか、イザナギとイザナミの黄泉の国の物語か?」
「違うな」
「じゃあ、JOJO/ダイヤモンドは砕けないの岸辺露伴編『振り向いてはいけない小道』の怪、じゃないだろうな。振り向くと魂を持っていかれるっていうやつ」
「竪琴の名手オルペウスと妻エウリュディケーの物語は知ってるか?」
「知らん!」
「ギリシャ神話だよ……ともかく、振り返るなってことだ」
 和洋の違いはあれど、冥府に関するタブーというものは共通のものらしい。

「ハーデースの野郎、地上に返すといいながら、その道すがらに罠を仕掛けているんだろな」
「まあ、簡単には返してくれるとは思ってはいなかったけどね」
「わき目も振らず駆け抜けろってことか」
「出口まであと一歩というところでも油断しちゃだめよ」
「出口だと思わせて、実はまだ洞窟の中だったとかだったら、どう判断するんだよ。牡丹灯籠とかで、朝と思わせて実はまだ夜だったというのがあるのよな」
「そうねえ、幻影くらい朝飯前でしょうね」
 ここで考えていてもしようがない。
 地上への脱出行は始まった。
 ひたすら、ただひたすらに。
 再びゾンビや骸骨などのアンデッドモンスターが襲い掛かる。
 弘美が王者の剣を振り回して薙ぎ払いながら道を切り開く。
「おい!おまえらも戦えよ」
 そういえば、さっきから全く戦闘に参加しない女神だった。
「女神は殺生はしないのだよ」
「殺生っつったって、こいつら死んでるじゃないか!アンデッドだぞ」
「といわれても、女神のしきたりというものがあってだな」
「ヴィーナスはしょうがねえよ。愛と美の女神だからな」
 と、ディアナの方を見る弘美。
「どうして私を見るのだ」
「おまえ、確か狩猟の女神でもあったよな。弓矢を射る能力があったはずだ。ペルセポネーを一発で射ったよな」
「すまぬ。弓矢は持ってきていない」
「またエロースに借りればいいじゃないか。そういえば、エロースがいないな。帰ったのか?」
「あれは、愛の弓矢で魔物はもちろん人間も倒せない。使い道が違うのだ」
 もはや手立てはない。
 走って、走って、出口まで走り続けるだけだ。
 やがて、前方に出口の光が見えた。
「出口か!?」
「幻影かも知れんから、気をつけろ!」
「わかった!」
 走り続ける一行。
 そして、出口を通過して一行が見たものは……。

 広大な海だった。


というところで、ポセイドン編に続きます。

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