銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 XII
2019.07.27


第三章 第三皇女


                 XII

 それはアレックスが昇進し大艦隊を指揮統制できるようになっても独立遊撃艦隊とし
て、二百隻をそのまま自分の直属として配下に置き続けたきたからである。
 幾度となく死線を乗り越えてきた勇者の余裕ともいうべき雰囲気に満ちていた。
「P-300VXより入電! 敵空母より艦載機が発進しました。その数およそ三万
機」
 オペレーターの声によって、艦橋は一気に緊迫ムードに包まれた。
「おいでなすったぞ。全艦、対艦ミサイル迎撃準備。CIWS(近接防御武器システ
ム)を自動追尾セット。各砲台は射手の判断において各個撃破に専念せよ」
 戦闘機は接近戦に入る前に、遠距離からのミサイル攻撃を仕掛けるのが常套である。
そこでまず最初に、そのミサイルに対する防御処置を取ったのである。とはいえ、各機
がミサイルを一発ずつ放ったとしても、総数三万発のものが襲い掛かってくることにな
る。まともに相手などしていられない。
「ミサイル接近中!」
「全艦急速ターン用意」
 ここはミサイルの欠点を突くしかない。宇宙空間では、ミサイルは急速ターンができ
ず、ホーミングによって追尾しようとしても旋回半径が非常に大きい。そこでタイミン
グよく急速移動すれば、何とか交わすことが可能である。
「よし、今だ! 急速ターン!」
 ミサイルと違って、ヘルハウンド以下の艦艇には、舷側や甲板・艦底などに噴射ジェ
ットが備えられており、急速ターンや平行移動ができる。ミサイルを目前にまで近づけ
ておいて、一気に移動を掛けるのである。
 目標を失ったミサイルは頭上を素通りしていった。そこをCIWSが一斉に掃射され
て破壊してゆくのである。
 こうしてミサイル群を見事に交わしきってしまったサラマンダー艦隊は、さらに前進
を続ける。
「敵艦載機、急速接近!」
 ミサイルよりはるかに手ごわい相手の登場である。
「提督。ちょっと遊んでもいいですか?」
 操舵手が許可を求めてきた。
 余裕綽々の表情である。
 三万隻を相手にして遊んでやろうという自信のほどが窺える。
「ほどほどにしてくれよ」
「判ってますよ」
 わざとらしく腕まくりをして、操作盤に向き直った。
「全艦に伝達。戦闘機のコクピットは狙わずに、後部エンジンに限定して攻撃せよ。パ
イロットが緊急脱出できるようにしておけ」
 今回の作戦は、敵艦隊を殲滅させることではなく、空母アークロイヤルに座乗してい
るマーガレット皇女を保護し、反乱を終結させ和平に結びつけることにある。その他の
将兵達には極力手出ししないようにしたかったのである。
 仮に目的のためには手段を選ばずで、手当たり次第に殺戮を行えば、後々まで遺恨を
残して、和平にはほど遠くなってしまうだろう。
 とにもかくにも、サラマンダー艦隊と戦闘機との壮絶な戦いが繰り広げられていた。
 ランドール戦法、すなわち究極の艦隊ドッグファイトを見せつけられて、目を丸くし
ている戦闘機パイロット達がいた。
 何せ機動力では、はるかに戦闘機の動きを凌駕していたのである。
 舷側などにある噴射ジェットを駆使して、まるで曲芸飛行を見せつけてられているよ
うだった。その場旋回やドリフト旋回など、戦闘機には不可能な動きで、簡単に背後に
回ってロックオン・攻撃。もちろんCIWSなどの対空砲火も半端なものではなかった。
次々と撃墜されてゆく戦闘機編隊。戦闘開始十分後には一万機が撃ち落されていた。
 パイロット達は、すっかり戦闘意欲を喪失しまっていたのである。


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