銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 X
2019.07.13



第三章 第三皇女


                  X

 ここで現在の皇家についても語ってみよう。
 崩御した前皇帝の子供達と兄弟についてである。
 第一子は、長女のエリザベス王女。第二子は双子で、長男のアレクサンダー王子と次
女のマーガレット王女。この後アレクサンダー王子が誘拐される際に皇后は逝去された。
二人目の皇后も第三子の三女ジュリエッタ王女を産んだが、第四子と第五子は夭折し、
皇后も逝去された。そして、三人目の皇后が第六子のマリアンヌ王女を産んだ直後に、
皇帝は崩御されたのである。
 一人の王子と四人の王女が誕生したわけだが、皇帝の崩御を持って王子と王女は、そ
れぞれ皇子と皇女と呼び習わすのが慣例となっている。皇位継承が発生するからである。
 エリザベス皇女は、ウェセックス公国ロベスピエール公と結婚。
 マーガレット皇女は、皇母の祖国アルビエール候国の叔父の元に身を寄せて、内乱を
策謀している。
 ジュリエッタ皇女も、皇母の祖国エセックス候国の伯父の元で、アルビエール候国や
共和国同盟に目を光らせている。
 マリアンヌ皇女は、幼くて今まだ本星で遊んで暮らしている。
 皇位継承の順位には、男子に優先権が与えられており、皇帝→直系尊属男子→兄弟→
直系尊属女子という順序となっている。ただし兄弟で自治領主となっている者は、その
子供に順位を譲るのが慣例となっている。ロベール王子が、皇太子に推されたのもその
理由による。
 最後に、アレクサンダー王子の行方不明となった経緯を簡単に説明しよう。
 アレクサンダー王子は、アルビエール候国ハロルド侯爵の長女マチルダ候女を母とし
て生まれ、双子のマーガレット王女と共にハロルド侯爵の元で育てられた。皇后が故郷
での出産と育児をすることは良くある風習である。アレクサンダー王子は典型的なエメ
ラルド・アイを持っていたが、同じ瞳を持つ皇帝とハロルド侯爵の虹彩緑化遺伝子を受
け継いだものである。血縁関係にある家系同士の婚姻がゆえのエメラルド・アイと言え
よう。それだけに皇家の血統を色濃く反映しているのである。
 やがて皇后の出産後の静養も終わって、皇帝の待つ首都星へと戻る日がやってくる。
 皇位継承権第一位を持つ王子の帰還ということもあって、厳重な警戒が敷かれて移動
が行われたが、その警戒網を破って突撃強襲艦を主体とする国籍不明の海賊艦隊が突如
として出現して、王子の乗る船ごと強奪され誘拐されてしまったのである。同時に皇后
が王子の首に掛けていたとされる【皇位継承の証】も戻らなかった。
 その後、バーナード星系連邦が、アレクサンダー王子を保護していることを匂わせて、
食料一千万トンの無償援助と鉱物資源五十万トンの供給などの要求を突きつけてきたが、
いつしか立ち消えとなってしまった。海賊に偽装して船ごと誘拐したものの、何らかの
原因によって王子を手元から失ったものと考えられている。
 王子誘拐に関しては、数多くの謎があった。
 王子移送の日時とコースを、海賊がどうして知っていたのか?
 帝国内に手引きする者がいたのかも知れないが、それは誰か?
 王子が行方不明となり消息が完全に絶たれたのはどうしてか?
 今なお出てこない【皇位継承の証】の行方は?
 など未解決のまま二十余年が経過してしまったのである。


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