銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 IX
2019.07.06



第三章 第三皇女


                 IX

「それでは、一つには私の配下の二百隻ほどの艦艇を、銀河帝国領内での運用を許可頂
き、マーガレット皇女様保護の先遣隊とさせて頂きます。二つ目に、ジュリエッタ皇女
様の艦隊を、私の指揮に委ねて頂きたいのです」
 マーガレット皇女を保護するには、その旗艦に急襲接舷して白兵戦で乗り込むしかな
い。その白兵部隊を持っているのは、ヘルハウンド以下のサラマンダー艦隊しかなかっ
た。また援護射撃としてのジュリエッタ艦隊も必要とされたのである。
「よろしいでしょう。その二つとも許可いたしましょう。ジュリエッタも構いません
ね?」
「はい。喜んでランドール提督の指揮に従いましょう」
 こうしてアレックスの指揮下で、内乱の首謀者であるマーガレット皇女を保護すると
いう作戦が発動されたのである。
 連邦軍によるジュリエッタ皇女艦隊への襲撃があったばかりである。事態は急を要し
ていると判断したアレックスは、インヴィンシブルでエセックス候国の軍事ステーショ
ンに戻り、待機していた配下のサラマンダー艦隊と第三皇女艦隊に対して、アルビエー
ル候国への進軍を命令したのである。
 歴史上初の国家間を越えた混成軍が動き出した。

 ここで銀河帝国の国政についておさらいしてみよう。
 まず政治を語る上で忘れてならない暦の制定である。
 人類が太陽系を脱出して最初の植民星としたのが、太陽系から5.9光年の距離にある
バーナード星系であった。その第三惑星にはじめて植民船が着陸した日をもって、銀河
標準暦元年としたのである。
 銀河の自転において、1/2880秒角自転するのに掛かる時間をもって一銀河年とした。
これは地球・太陽暦の一年にほぼ等しく、歴史上の混乱を避けるための方策である。
 ○月○日という月日は特に定めていないが、各惑星都市の事情に合わせて独自に制定
するものとした。
 そしてもう一つが銀河帝国暦。
 ソートガイヤー大公が銀河を統一して銀河帝国樹立を宣言したその日を元年としてい
る。一年は銀河標準暦に同じである。
 銀河帝国の領土は、皇帝が直接支配する直轄領と、皇家御三家と呼ばれるウェセック
ス公国、エセックス候国、アルビエール候国の自治領とで構成されている。
 御三家は、第二次銀河大戦後に連邦や同盟との国境防衛のために、皇室の分家を辺境
地域に赴任させたのがきっかけとなって、やがてエセックス候国、アルビエール候国と
いう自治領へと発展した。もちろん国境防衛であるから、艦隊の保有も当然として認め
られた。また銀河渦状間隙が天然の防衛障壁となっている地域にも、念のためにとウェ
セックス公国が自治領を得て、艦隊三十万隻を持って監視の網を広げている。もっとも
銀河間隙の向こう側にあるのは、三大強国には加担せずに、永世中立を訴える自由諸国
連合で、他国を侵略するほどの艦隊も持ち合わせていない。
 また直轄領及び自治領内には、委任統治領というものがあって、子爵以下伯爵や男爵
などの高級貴族が任命されて統治に当たっている。ただし世襲制ではないので、統治領
を維持するために皇帝や皇家にご機嫌伺いする必要があった。さらに委任統治領には銀
河帝国への上納金が義務付けられており、民衆から徴収した税金の一定額を、銀河帝国
へ納めなければならない。
 この上納金制度は時として悪政をはびこらせる要因ともなっている。民衆からの税金
から上納金を納めた残りが貴族の報酬となるので、上納金をごまかしたり規定以上に税
金を搾り取ったりして私腹を肥やす者が少なくなかった。賄賂の授受が横行し政治の腐
敗を引き起こしている委任統治領もあった。


 ※注 かつてバーナード星系には惑星が存在すると信じられていたが誤りであること
が判り、現在まで惑星が存在する証拠は見出されていなかった。

ところがその後、スペインのカタルーニャ宇宙研究所などからなる国際研究チームが
2018年11月14日に再び惑星があることが確認された。しかも、地球の3.2倍以上の質量
のあるスーパー惑星であるらしい。


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