銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 VII
2019.06.22


第三章 第三皇女


                VII

「さて……」
 と、前置きしておいてから、アレックスに向かって語りだすエリザベス皇女。
「妹であるジュリエッタを救い出して頂いたこと、個人としても大いに感謝しています。
あなたの組織する解放軍が援助を願っていることも伺いました。しかしながら、我が銀
河帝国には内憂外患とも言うべき頭の痛い問題を抱えているのです。もちろん一方は、
バーナード星系連邦の侵略です。そしてこれが一番の難しい問題なのですが……。はっ
きり申し上げましょう」
 エリザベス皇女が語り出した問題は、内乱の勃発というものだった。
 しかもそれを引き起こしているのが身内であり、マーガレット第二皇女がその首謀者
ということである。
 かつて銀河帝国を震撼する大事件があった。
 次期皇太子・皇帝となるべき皇位継承権第一のアレクサンダー第一王子が誘拐され行
方不明となったのである。
 そして皇帝が崩御されて、次期皇帝問題が起こったが、皇帝には第一王子以外に男子
はなく、行方不明である以上捜索を続けるべしとの結論が出されて、皇帝不在のままエ
リザベス第一皇女が摂政となることで取りあえずの一件落着が諮られた。
 しかし二十余年もの時が過ぎ去り、第一王子が行方不明のまま、いつまでも皇帝不在
なのは問題である。そこで新たなる皇太子候補を皇族の中から選びなおそうではないか。
 そして人選に上がってきたのが、エリザベス第一皇女と夫君のウェセックス公国領主
のロベスピエール公爵との間に生まれた、ロベール王子である。
 皇位継承の順位では、ロベスピエール公がアレクサンダー王子に次ぐ第二位になるの
であるが、公爵はその権利を第五位の息子に譲って、皇太子候補として強く擁立した。
 ロベスピエール公ロベール王子が次期皇太子。
 皇族の間では妥当であるとされ、皇室議会でも承認された。
 これに毅然として反対したのが、マーガレット第三皇女である。ロベール王子は皇家
の証であるエメラルド・アイではなく、アレクサンダー王子の消息が確認されるまでは
待つべきだと主張した。
 そして何より最大の根拠は、【皇位継承の証】の存在であった。
 【皇位継承の証】は、代々の皇太子に受け継がれてきた皇家の至宝である。その実体
はエメラルドの首飾りで、深く澄み通った鮮やかに輝く深緑色の大粒のエメラルドを中
心にして、その周囲をダイヤモンドが配されているというものだった。
 そしてそれは、アレクサンダー王子の首に掛けられたまま、共に行方不明となってい
る。
 アレクサンダー王子が生きていれば当然所持しているだろうし、仮に王子が亡くなら
れていたとしても、価値ある宝石であるために、いずれ宝石商やオークション、骨董品
市場などに流通するはずであろう。
 エメラルド・アイと皇位継承の証の二点を根拠に、反論を続けるマーガレット皇女で
あったが、結局ロベール王子擁立は覆されなかった。
 そしてついに、マーガレット皇女は、ロベール王子擁立を掲げるロベスピエール公爵
率いる摂政派に対して、皇太子派としての反旗を掲げたのである。そしてそれを支援し
たのが、自治領アルビエール候国領主のハロルド侯爵である。
 こうして銀河帝国を二分する姉妹同士が骨肉相食む内戦へと発展していった。

参照*外伝/王太子誘拐


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