銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 VI
2019.06.15


第三章 第三皇女


                 VI

 宮殿内の廊下をジュリエッタに案内されて歩いているアレックスとパトリシアの二人。
 やがて重厚な扉で隔たれた謁見の間に到着する。近衛兵の二人が扉を開けて一行を中
へ招きいれて、高らかに宣言する。
「第三皇女ジュリエッタ様のお成り!」
 謁見の間に参列していた者のすべてが振り返り、ジュリエッタに注視する。
 背筋を伸ばし、毅然とした表情で、歩みを進めるジュリエッタ。
 その左側には政治の中枢を担う大臣などが居並び、右側には将軍クラスの軍人が直立
不動で並んでいる。その誰しもが目の前をジュリエッタが通り掛かった時には、深々と
頭を下げていた。そして最前列には、着飾った皇族たちが占めていた。
「ジュリエッタ。よくぞ無事に戻ってこれましたね。心配していたのですよ」
 正面壇上に設けられた玉座に腰掛けて、妹の帰還を喜ぶ、銀河帝国摂政を務めるエリ
ザベス第一皇女だった。
「海賊に襲われたそうではありませんか」
「はい。ですが、この方々に助けていただきました」
 そう言って後に控えていたアレックス達を改めて紹介した。
「その方は?」
「旧共和国同盟軍アル・サフリエニ方面軍最高司令官であられたアレックス・ランドー
ル提督です。現在では解放戦線を組織して、バーナード星系連邦と今なお戦い続けてい
らっしいます」
「ほうっ」
 という驚嘆にも似たため息が将軍達の間から漏れた。さもありなん、要職にある軍人
なら共和国同盟の若き英雄のことを知らぬはずはない。数倍に勝る連邦艦隊をことごと
く打ちのめし、数々の功績を上げて驚異的な破格の昇進を成し遂げ、二十代で少将とな
ったアレックス・ランドール提督。その名は遠くこの銀河帝国にも届いていた。
「ということは、中立地帯を越えて我が帝国領内に、戦艦が侵入したということです
な」
 大臣の方から意見が出された。すると呼応するかのように、
「国際条約違反ですぞ」
「神聖不可侵な我が領土を侵犯するなど不届き千犯」
 各大臣から次々と抗議の声が上がった。
 それに異論を唱えるのは将軍達だった。
「確かに侵犯かも知れないが、だからこそジュリエッタ様をお救いできたのではないで
すか」
「それに救難信号を受信しての、国際救助活動だと聞いている」
 軍人である彼らのもとには、救難信号を受け取っていたはずである。救助に向かう準
備をしている間に、ランドール提督が救い出してしまった。もしジュリエッタ皇女が拉
致されていたら、彼らは責任を取らされる結果となっていたはずである。ゆえに、ラン
ドール提督擁護の側に回るのも当然と言えるだろう。
 大臣と将軍との間で口論になろうとしている時に、一人の皇族が前に進み出て意見具
申をはじめた。銀河帝国自治領の一つである、エセックス候国領主のエルバート侯爵で
ある。
「申し上げます。事の発端は、我がエセックス候国領内で起きたことであります。ゆえ
に今回の件に関しましては、私に預からせて頂きたいと思います」
「そうであったな。エルバート候、この一件ならびにランドール提督の処遇については、
そなたに一任することにする」
「ありがとうございます」
 エルバート候の申し出によって、この場は一応治まった。

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