銀河戦記/拍動編 第五章 Ⅱ 亜空間戦闘
2023.03.25

第五章


Ⅱ 亜空間戦闘


 宇宙空間、遠方に小惑星が浮かんでいる。
 アムレス号が入港している秘密基地である。
 突如、何もない空間に姿を現した潜望鏡。
 やがて艦橋が現れてくる。
 亜空間潜航艦ノーチラスの一部分である。
「こんなところに、秘密基地があったとはな」
 指揮官が呟く。
「敵基地との距離は?」
 副官が尋ねると、
「三十二宇宙キロ。まもなく魚雷の射程距離に入ります」
 レーダー手が答える。
「確かに例の宇宙船が入港したのだな?」
「はい。間違いありません。たぶん秘密基地があるのでしょう」
「よし。第一戦闘配備だ。このまま直進、亜空間誘導魚雷発射用意!」
「しかし、これだけ接近しても敵に感ずかれないのが不思議です」
「当り前だ。このノーチラス号が、そう簡単に発見されてたまるか」
「魚雷発射準備完了しました」
「敵基地、射程内に入りました」
「よし、連続発射!」
 魚雷発射管より射出され、亜空間を突き進む魚雷。


 要塞寝室で寝ているアレックス。
 突然激しく揺れる艦内。
 ビックリして飛び起きるアレックス。
「何だ? どうしたんだ……」
 艦内を浮遊している兵士達。
「一体、何が起きたんだ?」
「敵の攻撃か?」
「重力発生装置が破壊されたのだな」
「とのかくアムレス号へ行こう」
「そうだな」
 館内放送が鳴り響いている。
『総員、アムレス号に乗船せよ! 戦闘配備!』
 あたふたとアムレス号へと向かう兵士達。
 その中にアレックスがいる。
 イレーヌのいる部屋の前で立ち止まり、
「イレーヌいるかい? 入るよ」
 ドアを開けて、中へ入るアレックス。
 そこには怯えて立っているイレーヌがいた。
「アレックス!」
 アレックスの元に駆け寄るイレーヌ。
「何があったのアレックス」
「僕にもはっきりは分からない。ここは危険だ、アムレス号へ行こう」
「ええ、分かったわ」


 アムレス号、コントロームルーム。
 エダとロビーがいる。
「敵の位置は?」
『分カリマセン。確認不能デス』
 アレックス、ビューロン達が駆け込んでくる。
「アレックス様」
「敵は地球かゴーランドか?」
「どうやらゴーランドの機動部隊のようです」
 何も映っていないスクリーンを見つめながら、
「どこから撃ってくるんだ?」
「それが予想もしない所から出現するのです」
「亜空間誘導魚雷か……」
 ビューロン少尉が呟く。
 彼は、軍艦のことにくわしいので、ここでは副官の役割を担っていた。
「そうです。亜空間潜航艦が近くに潜んでいたようです」
『基地ノ核融合炉ノ制御装置ガ破壊サレマシタ』
「何だって! それじゃ、炉が暴走して爆発するぞ」
「基地を放棄して脱出します。第一戦闘配備、各自それぞれの持ち場に着いてください」
 各自持ち場へと走り出す。
「アムレス号発進して下さい。ドッグゲートオープン」
『微速前進、0.5』
「亜空間震動爆雷用意。亜空間ソナーの準備を」

 基地からアムレス号が出てくる。


 ノーチラス号艦橋。
「奴らが出てきました」
「右舷方向に逃げてゆきます」
「追え! 逃がすな」
「はっ。進路二十度転進。速力20%加速」
 加速してアムレス号を追撃するノーチラス号。

 アムレス号。
『敵艦追撃シテキマス』
「亜空間ソノブイ射出を」
『ハイ』
 射出口より投下される亜空間ソノブイ。
 ソナーを見つめる隊員。
「どうですか?」
「もう少し待って下さい」
「左舷後方に魚雷出現。五秒で接触します」
 激しく揺れる艦体。
「敵の位置はまだ分からんのか?」
「待って下さい……。判明しました。左舷三十度、距離二千。付近の亜空間に潜んでいるもよう」
「よろしい。亜空間震動爆雷セット!」
「反撃するぞ!」
「爆雷発射!」
 射出される爆雷。
 アムレス号の後方で爆発する。

 ノーチラス号艦橋。
 激しく揺れる艦体。
 一瞬真っ暗になるが、すぐに元に戻る。
「何だ!」
「敵の攻撃です。亜空間震動爆雷です」
「馬鹿な。亜空間爆雷を装備しているのか、敵は。やはりトラピストの艦船ではないのか……」
「艦長どうしますか? このままでは、いかにノーチラスでもやられてしまいます。ここは一旦退却して」
「分かった。敵を甘く見過ぎた。撤退しよう」
 進路変更して、アムレス号から離れていくノーチラス。

 アムレス号。
「敵の攻撃が止みました」
「退却したな」
「そのようです」
「しかし、態勢を整えて第二波攻撃を掛けてくるはずだ」
「基地が……」
 乗員の一人がスクリーンを指さす。
「なに?」
 一同が指さしたスクリーンにくぎ付けになる。
 爆発する要塞。
 次々と誘爆を繰り返している。
 そして眩い閃光となって広がってゆく。
「基地が消えてゆく……」
 コントロームルーム内も閃光で真っ白になっている。
 イレーヌ、アレックスに寄り添いながら、消えゆく要塞を見つめている。

 そして大爆発を起こして砕け散った。

 誰も言葉を発せず、じっと要塞の消えてしまった宇宙空間を見つめている。
「基地が消滅してしまった今、我々はどこへ行けばいいんだ。教えてくれエダ。君はどこへ行くつもりなのだ?」
 ビューロン少尉がエダに向かって尋ねる。
「その事なら、私ではなくアレックス様にお尋ねください」
「アレックスに? それはどういう意味だ」
「前にもお話したはずですが、このアムレス号の所有者であり、船長はアレックス様なのです」
「僕が、このアムレス号の船長?」
「そうです。アレクサンドル・グリフィズ様」
「アレクサンドル・グリフィズだって? 僕が?」
 今度はアレックス自身が驚きの表情を見せる。
 王族とかなんとかで祭り上げられていたが、
「おい。グリフィズ家といえば、クリスティーナ女王に繋がる王位継承権の最有力候補じゃないか」
 女王直系の
「とすると、クリスティーナ女王の次に、彼が王位に就くこともありうるわけか」
 全員、アレックスに注目している。
 トラピスト人の一人が歩み出る。
「アレクサンドル様、どうか我々をお導き下さい」
「あなたはトラピスト人?」
「はい。以前はクリスティーナ女王の従臣として仕えておりました」
「こいつ、侍女に手を出して前線に飛ばされたんだとよ」
 横やりを入れる者がいる。
「何を!」
 飛び掛かろうとするし、相手も身構える。
「待って!」
 アレックスが仲裁する。
「今は、喧嘩している場合ではないでしょう」
「はっ。申し訳ありません」
「あなたは?」
 敬礼してから、
「トラピスト星系連合王国第四艦隊所属、キニスキー・オルコット大尉……でありました。アレクサンドル殿下」

 インゲル星を脱出する時の崇拝者も集まってくる。
「それでこれからどちらへ?」
「トラピストに帰るのですか?」
 アレックス、暫く考え込んでいたが、
「いや、トラピストには行かない」
「どうしてですか?」
「この船には、バーナード星系の人もいるからね」
「しかし、アレクサンドル様」
「僕は、アレックス・ランドールだ! アレクサンドル・グリフィズではないし、トラピストやバーナード星系とは無関係だ」
「アレックス、ならどこへ行くつもりだ?」
「ゴーランド前衛基地のあるソドムに向かう」
「ゴーランドと戦うおつもりですか?」
「そうだ。我々の真の敵は銀河系外からの侵略者ゴーランドだ。地球もトラピストも同じ銀河の仲間じゃないか。なぜ仲間同士が血を流して戦わなければならないのか。そうだろう? 僕はゴーランドの前衛基地を叩く!」
「そうか、分かった。ゴーランドこそ我々の真の敵だ」
「我々に地球もトラピストもない」
「ああ、我々は皆、同じ銀河の仲間なのだ」
 ビューロンがキニスキーに手を差し出す。
 キニスキー、その手を握り返す。
「エダ!」
「はい。アレックス様」
「アムレス号をソドムへ」
「かしこまりました」


 アムレス号発進する。
 やがてワープして消え去った後に、ノーチラス号が姿を現した。
「アムレス号、ワープしました」
「ソドムへ向かったのか?」
「はい。間違いないでしょう」
「まさか、アムレス号一隻だけで、ソドムを叩こうというのか? 馬鹿な」
「いかが致しますか?」
「追え! アムレス号を追うのだ」
「はっ! 亜空間潜航! 十分後に亜空間ジャンプする。準備急げ!」
「この事態を一応、弁務コミッショナーのセルジオ様に報告しよう。通信長頼む」
「かしこまりました」
 ノーチラス号、再度亜空間潜航に入る。



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