銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 Ⅳ
2021.07.07

第七章 反抗作戦始動




 総督軍後方に新たなる艦隊の出現を見て、緊張を高めるオペレーター達。
 敵の援軍なればもはや救いようのない戦況となり、逃げ出すことも不可能となるだろう。
 しかし次なる報告に状況は一変することとなる。
「識別信号に独立遊撃艦隊第一分艦隊旗艦ウィンディーネを確認」
 それはアレックスの片腕の一人、ゴードン・オニール准将であった。
「ウィンディーネ艦隊だ! 援軍がやってきたんだ」
 小躍りするオペレーター達。
 さらに報告は続く。
「独立遊撃艦隊第二分艦隊旗艦ドリアードを確認!」
 もう一人の片腕、ガデラ・カインズ准将。
「さらに続々とやってきます」
「第十七艦隊旗艦戦艦フェニックスもいます」
 アレックスより艦隊司令官を引き継いだオーギュスト・チェスター准将。
「ヘインズ・コビック准将の第五艦隊、ジョーイ・ホスター准将の第十一艦隊」
 アレックス・ランドール配下の旧共和国同盟軍第八師団所属の精鋭艦隊が続々と登場しつつあった。
 さらに第五師団所属、リデル・マーカー准将の第八艦隊以下、第十四艦隊、第二十一艦隊も勢揃いした。
 アレックスの配下にあるアル・サフリエニ方面軍が勢揃いしたのである。
 バーナード星系連邦との国境に横たわる銀河渦状腕間隙にある、通行可能領域として存在するタルシエンの橋。
 現在地からトリスタニア共和国を経て、さらに遠方にあるタルシエンを含む銀河辺境地域を守るのがアル・サフリエニ方面軍である。
 トリスタニア陥落以降は、共和国同盟解放軍として旗揚げした総勢六十万隻に及ぶ精鋭艦隊である。
「戦艦フェニックスより入電。フランク・ガードナー少将が出ておられます」
 アレックスの先輩であり、第五師団司令官にしてタルシエン要塞司令官である。
「繋いでくれ」
 正面スクリーンがガードナー少将の映像に切り替わった。
「やあ、少し遅れたようだが、約束通りに引き連れてきてやったぞ」
「恐れ入ります」
「さあて、早速はじめるとするか」
「お願いします」
「それでは、勝利の後にまた会おう」
 映像が途切れて再び戦場の映像に切り替わった。
 パトリシアは思い起こしていた。
 タルシエン要塞を出発する時のことである。
 発着場においてアレックスとガードナー提督が別れの挨拶を交わしていた。


「それでは先輩、行ってきます」
 ガードナー提督に敬礼するアレックス。
「まあ、いいさ。とにかく要塞のことはまかしておけ。援軍が欲しくなったら、連絡ありしだいどこへでも持っていってやる」
「よろしくお願いします、では」
「ふむ、気をつけてな」


 そうなのだ。
 あの時からアレックスとガードナー提督の間には密約が交わされていたのだった。
 今日のこの日のために……。
 なぜ、そのことをパトリシアにさえ隠していたのか?
 現況を熟慮して、パトリシアは気がついた。
 統合軍は銀河帝国軍との混成軍である。
 しかも本国には不穏な動きを見せる摂政派の影の黒幕であるロベスピエール公爵の存在がある。
 そして、このサラマンダーにも皇女艦隊との連絡係として乗艦している帝国兵士もいる。
 摂政派の息がかかっていないとは言えないのだ。
 たとえ腹心のパトリシアにとても、内心を明かすことはできなかったのである。
 壁に耳あり障子に目ありである。
 どんなに優秀な作戦も、上手の手から水が漏れて敵に作戦を知られては元も子もなくなる。
 危険を最小限にするためには、完全無欠でなければならなかったのである。


 戦況はどんでん返しとなり、勝勢はこちらに傾き始めていた。
 すっくと立ち上がって号令するアレックス。
「全艦隊、後退中止。微速前進から、最大戦速へ!」
 すぐさま復唱がなされる。
「全艦隊、後退中止!」
「微速前進から最大戦速へ」
 士気は大いに盛り上がっていた。
 ランドール提督配下の精鋭艦隊が援軍に来てくれたのだ。
 その数六十万隻。
 銀河帝国軍の総勢は、二百十万隻に膨れ上がったのだ。
 二百十万隻対二百五十万隻。
 これによって両軍の勢力はほぼ互角となったといえよう。
 いや、勇猛果敢な精鋭が総督軍の背後から急襲しているのだ。
 勝勢はこちら側に傾いたといえるのではないか。
 オペレーター達の表情は紅潮していた。
 負け戦から勝ち戦へ。
「有効射程距離に入りました」
「よおし! 全艦、攻撃開始!」
 これまで辛抱に辛抱を続けていた鬱憤を晴らすかのような猛烈な攻撃が開始された。
 攻撃に転じたアレックスには迫力があった。
「砲撃を正面の艦隊に集中しろ!」
 総督軍は、天地両翼を展ばして包囲陣を敷いていたために正面が薄くなっていた。
 集中砲火を浴びせることによって、中央突破を図る算段のようである。
 やがて中央が切り崩される。
「全艦、中央に突撃開始」
 集中砲火で開いた穴に銀河帝国軍が雪崩れ込んでいく。
「マーガレットに打電! 艦載機、全機発進!」


 アレックスの指令を受けて、マーガレットが配下の空母艦隊に全機発進命令を下していた。
「殿下の期待に応えるのです。第二皇女艦隊の威信を見せ付ける時です」
「戦闘機を全機発進させよ」
 トーマス・グレイブス提督が全航空母艦に指令を出す。
 全航空母艦から蜘蛛の子を散らすように、わらわらと戦闘機が出撃していく。
 こちらが艦載機を出せば相手も呼応して戦闘機を出撃させてくる。
 航空戦の緒戦は戦闘機同士の潰し合いではじまる。
 マーガレット率いる第二皇女艦隊の主力は、旗艦アークロイヤル以下の攻撃空母が主体の艦隊である。
 アークロイヤル以下、プリンス・オブ・ウェールズ(新造)、クイーン・エリザベス(新造)、イーグルなどの攻撃空母から艦載機が続々と発艦していた。
 正面に対峙しての撃ち合いでは影が薄かったが、接近戦での航空機による攻撃では本領を発揮する。
 航空戦術にかけては英才のジェシカ・フランドルがいればなおのこと良いのだが、あいにくと援軍の方で指揮を執っているだろう。
 その数では総督軍のそれを上回っていた。
 当然のこととして戦闘機同士の戦いは、帝国軍の勝利で決着が着く。
「雷撃機、全機発進せよ」
 戦艦への攻撃においては魚雷を搭載した雷撃機に勝るものはない。魚雷一発で相手を撃沈も可能である。ただ防御力が低いので、その運用には慎重を要する。制宙権を確保した後でなければ出撃させることはできない。
「続いて重爆撃機、全機発進。戦闘機は爆撃機を護衛しつつ敵艦の砲台を叩け」
 こちらも攻撃力は甚大である。敵艦の身近に迫らなければまるで役に立たないが、大量の爆弾を抱えていけるので、多数の艦船を叩くことができる。
 ただし敵艦の砲撃の餌食になりやすいので戦闘機の援護が不可欠である。


 ジュリエッタの第三皇女艦隊も奮戦していた。
 敵味方入り乱れての戦闘の経験など一度もない皇女艦隊の将兵達は、目の前で繰り広げられる死闘に足が震える者が多かった。
 さすがのジュリエットも例外ではなかったが、指揮官が怯えていては士気にかかわる。
 気を奮い立たせて、将兵達を鼓舞していた。
「怯えてはなりません。少しでも尻込みしていたら、そこを叩かれてしまいます」
 スクリーンの一角には、皇太子殿下坐乗のサラマンダーが悠然と戦いを続けている姿があった。
 恐れをなして引き下がるわけにはいかないのだ。
 ホレーショ・ネルソン提督が下令する。
「隊列を崩すな! 砲雷撃戦!」
 戦艦を主力とする第三皇女艦隊は、艦載機の数では見劣りするが、艦砲射撃による攻撃力はすさまじいものがあった。
「味方の艦載機に当てるなよ。グレーブス提督と連絡を取り合って、艦載機との連携攻撃を続けろ」

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2021.07.07 17:17 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 Ⅲ
2021.07.06

第七章 反抗作戦始動




 戦闘が開始されていた。
 敵艦隊からの攻撃は熾烈で、後退しつつも少しずつ戦力を削り落とされていく。
 次々と味方艦隊が撃墜されていく。


 アークロイヤル艦橋。
 オペレーター達が小声で囁き合っている。
「どういうことだ? 決戦を前にして後退とは……」
「まさか、恐れをなしたというわけではあるまい」
「がっかりだよ。共和国同盟の英雄と言うからどんな素晴らしい作戦を用意しているのかとおもっていたのに」
「二百五十万隻対百五十万隻。圧倒的な戦力差に、いまさらにして無謀な戦いだと悟ったのか」
「いずれにしても、このままでは負けるのは必死だぜ」
 同盟軍の将兵はともかくも、銀河帝国の将兵達には、アレックスの人となりをまだ十分に理解していない。
 不安に駆られるのも当然であろう。
 マーガレット皇女がそれらの会話を聞きつけて咎めるように言った。
「そこのあなた達。言いたいことがあるのなら、ちゃんと意見具申しなさい」
 と言われたのを機に、一人が立ち上がって意見具申を申し述べた。
「それでは申し上げます」
「申し述べてみよ」
「はい。中立地帯を越えて共和国同盟くんだりまで来て、いざ決戦という時に後退とは、殿下は何をお考えになられているのでしょうか? 二百五十万隻対百五十万隻。圧倒的な戦力差に我が艦隊はなし崩しに崩壊の危機にあります」
 もう一人が立ち上がった。
「その通りです。このまま無策のまま後退を続けていては、全滅は必死です。完全撤退ならともかく、ただ後退するだけではいかがなるものかと」
 そしてまた一人。
「いっそのこと帝国領まで撤退して、帝国艦隊全軍五百万隻を持って対峙すれば勝てます」
 いずれも正論だと思われた。
「あなた方が心配する気持ちも良く判ります。しかしながら、殿下がジュリエッタを従えて、アルビエール侯国へ反乱勢力討伐のために出撃し、自らが僅かな手勢を率いてこのアークロイヤルを捕獲し、私を捉えてしまったことを忘れたのですか?」


 一方の第三皇女艦隊旗艦インヴィンシブルの艦橋でも同様な事態になっていた。
 ジュリエッタ皇女が叱咤激励していた。
「この艦隊が海賊に襲われた時のことを思い出しなさい。あなた達は見たはずです。殿下の率いる艦隊の勇猛果敢な戦いぶりを。僅か二千隻という艦艇数で、数万隻の敵艦隊と戦った殿下のこと、何の策もなくただ後退しているはずはありません」
 ジュリエッタに言われて、オペレーター達は思い起こしていた。
 サラマンダー艦隊が援軍に現れた時、それはまるで曲芸師のような見事な動きを見せて、数に勝る敵艦隊を翻弄して撤退に追い込んでしまった。
 まさしく脳裏にくっきりと焼きついていた。
 そんな勇猛果敢な戦士が、ただ無策に後退しているはずがない。


 皇女艦隊において、そんな成り行きとなっていることなど、アレックスの耳元には届いていない。
 正面スクリーンに投影されたベクトル座標に映し出された艦隊の戦況をじっと見つめていた。
「現在の戦況をご報告します。我が方の損害は二百五十隻、第二皇女艦隊において二千五百隻の大破及び轟沈。同じく第三皇女艦隊では、三千二百五十隻に及びます。対して敵艦隊の推定損害はおよそ三千隻かと思われます」
 アレックス直下の旗艦艦隊の損害が小さいのは、艦の絶対数が少ないのと戦場慣れしているせいであろう。
 オペレーターの報告に対してパトリシアが語りかける。
「我が方の六千隻に対して敵艦隊は三千隻の損害で済んでいます」
「二対一ということだ」
「その通りです。このままでは敗退は必至の情勢といえるでしょう」
「多少の損害は覚悟の上だ……」
 両手を組んで顎を乗せる格好で厳しい表情を見せるアレックス。
 事情を飲み込めないパトリシアは首を傾げるだけであった。


 そう。
 アレックスは待っていたのだ。
 静かな湖に、白鳥が再び舞い降りるのを……。


 ザンジバル艦橋。
 正面スクリーンには、後退を続ける帝国艦隊が投影されていた。
「帝国艦隊さらに後退中です。前衛艦隊はほぼ壊滅状態です」
 正面スクリーンには、敵艦隊を示す光点が次々と消えゆく有様が投影されていた。
「このままいけば、帝国艦隊が全滅するのも時間の問題でしょう」
 当初から、二百五十万隻対百五十万隻という艦隊数で劣勢だったのだ。こうなることは戦う前から判りきっていたのだが……。
「それにしても一体どういうことだ。理解できん。同盟領に侵入し、いざ決戦という時に引き下がるとは……」
 摩訶不思議な表情でスクリーンを見つめているカーサー提督。
「何か罠を仕掛けているのではないですか?」
「その可能性はあるまいて。周囲には星雲や小天体などの身を隠す空間もない。罠を仕掛けることなど不可能だ」
「そうでしょうか……」
「天地両翼を展ばして包囲陣を敷け。握り潰す」
 帝国軍を包囲するように、艦隊が動き始めた。

 敵艦隊が包囲陣を敷いたことによって、両翼に展開する第二皇女艦隊と第三皇女艦隊の被害がさらに大きくなりつつあった。
 前衛にいた第六皇女艦隊はすでに壊滅し、大破を喫した旗艦マジェスティックは後方に退き、マリアンヌはインヴィンシブルのジュリエッタの元に身を寄せていた。
「敵艦隊は包囲陣を敷いて、我が艦隊を包囲殲滅する所存のようです」
「なるほど、やはりそうきたか……。包囲陣は数に勝る時は有効な作戦だ。しかし半面として防衛に回った時には守備陣が薄い欠点がある」
「その通りです。両翼を除く正面の艦隊はほぼ互角の百五十万隻です。紡錘陣形で突入すれば正面突破が可能なのではないですか?」
「中央突破を図って撤退の道を切り開くならそれも良い作戦だが……。しかしながら我々は勝たねばならない。逃げるわけにはいかないのだ。ここに踏みとどまり敵艦隊の銀河帝国への侵略を阻止しなければならない」
「そうは申されましても、このままでは敗退は確実です。援軍でも来ない限りは……」
「援軍か……。それもありだ。待つことにしよう」
「おっしゃる意味が判りませんが? 援軍とおっしゃられましても、後から来る帝国軍第四艦隊及び第五艦隊は後方支援のみで戦闘には参加しませんが」
「まあな」
 意味深な返答に疑問を投げかけるパトリシア。
「援軍が来るのですか?」
「今に判るさ」
 自分に隠し事をしているアレックスが理解できなかった。
 どんな些細なことでも相談しあう相棒ではなかったのか。
 悲しかった。
 黙りこんだまま正面スクリーンを見つめているアレックス。
 と、突然通信オペレーターが叫んだ。
「特秘暗号文入電! 解読中です」
 それを聞いてアレックスの表情が大きく変わった。
 艦橋内がしばしの沈黙に覆われた。
 全員が固唾を呑んで解読の結果を待っている風だった。
 これまでのアレックスの態度から、何かを待っていることが明らかだったからだ。
 現況を打破する新たな風。
「解読終了!」
「読め!」
「読みます」
『静かなる湖に白鳥は舞い降りる』
「以上です」
 それを聞いてアレックスが動いた。
「全艦に放送の用意を」
 すぐさま全艦放送の手配が取られる。
 それが完了するまで、アレックスをじっと見つめるオペレーター達。
 これから語られる内容を一句たりとも聞き漏らさないように耳を澄ましている。
「全艦放送の用意ができました」
 オペレーターがマイクをアレックスの口元にセットした。
 厳かに言葉を発するアレックス。
「全将兵に告げる。これまで辛抱してよく耐えてくれた。感謝する」
 敵艦隊に包囲された情勢の中では、通常的には敗北宣言というのが普通であろう。
 潔く負けを認め、撤退するなり降伏するなりの道を選ぶのだろう。
 誰もがそう思うだろう。
 しかし、それに続くアレックスの言葉は意外なものだった。
「苦しい戦いであったが、それもこれまで。これより態勢を整えて総反撃に移り、敵艦隊を殲滅する」
 そう告げたとき、オペレーターが叫んだ。
「敵艦隊の後方に重力加速度を検知! 何かがワープアウトしてきます!」
 と同時に、正面スクリーンの映像に新たな艦影が出現した。
「敵艦隊後方に多数の艦隊を確認!」

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2021.07.06 13:41 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 Ⅱ
2021.07.05

第七章 反抗作戦始動




 ザンジバル艦橋。
「何だと! もう一度確認しろ!」
 突然、通信班長が部下の通信士に向かって怒鳴るように言った。
「間違いありません。何度も確認しましたから」
 通信士は汗を拭いながら答える。
「そんな馬鹿なことがあってたまるか……」
 彼自身も信じられないという表情がありありだった。
「事実です」
 そんなやり取りを耳にして、マック・カーサー大将が尋ねた。
「どうした? 何を騒いでおる」
「はあ……。共和国同盟の各地で暴動が起きました」
「暴動だと?」
「首都星に駐留していた防衛艦隊の半数が暴動鎮圧のために各地へ出動したもようです」
「暴動鎮圧に向かっただと? 誰がそんな命令を出したのだ」
「共和国同盟総督府マック・カーサー総督の名において出動命令が出されています」
「馬鹿な。儂は命令など出してないぞ」
「ですが、間違いなく総督の認証コードで発せられています。何者かが認証コードをハッキングして、艦隊に指令を出したものと思われます」
「う……一体誰なんだ」
 言いながら、端末を操作していたが、
「だめだ!」
 ドンと両手の平で端末を叩き付けるカーサー提督。
「どうなさいましたか」
「儂の認証コード用の暗号コードが変更されている。トランターの統帥本部コンピューターにアクセスできない」
「それじゃあ、暗号による指令が出せないということではないですか」
「とにかく、まだ半数の艦隊が残っているのだな」
「そ、それが……つい先程、反乱軍と思われる多数の艦隊が接近中とのことで、残存艦隊も迎撃に出撃したもようです」
「馬鹿な! それでは首都星は丸裸ということではないか。呼び戻せ!」
「だめです。先の鎮圧部隊ともども、連絡がつきません」
「何ということだ……。こんな大事な時に……」
 頭を抱えるカーサー提督。

 報告は続く。
「大変です! 首都星トランターに二千隻の艦隊が出現し、首都防衛地上部隊と交戦中!」
「二千隻だと?」
「ランドール配下の第八占領機甲部隊『メビウス』です」
「各地の軍事施設を急襲してこれを無力化。さらに機動戦艦『ミネルバ』を主力とした艦隊が、総督府を包囲せんと展開中です」
「こちら側の勢力は?」
「防衛地上部隊が四千隻に水上艦艇が六千隻です」
「なら問題はあるまい。こちらには新造の機動戦艦もあるしな」
「現在、ミネルバ級同型二番艦『サーフェイス』と三番艦『アルキメデス』が迎撃に出ました」
「それにしても、一体どこに隠れていたんだ?」
「報告によりますと、メビウス部隊は第十七艦隊新設の際に分離独立されて、軍事演習目的でトランターに残ったとありますが、その後消息を断って完全に沈黙してしまいました。いずこかに秘密基地を建設して隠れていると噂されています。配下の工兵部隊なら秘密基地の建設も容易でしょう」
「司令官は誰だ?」
「ランドール提督の腹心で、レイチェル・ウィング大佐です」
「どんな奴だ」
「ランドール提督が最初の独立遊撃艦隊を新設した時に副官として任官し、最初の参謀役として情報参謀を務めていたようです。共和国同盟開国以来最初の女性佐官です」
「女なのか?」
「はい。提督が作戦立案を練るときには、彼女の情報力が大いに寄与していたと言われます。かのタルシエン要塞攻略の作戦立案にも参画した功績で大佐に昇進したもよう」
「情報参謀か……」
「認証コードをハッキングしたのも彼女らではないですか?」
「ありうるな……」
「ともかく、今日あることを予想しての第八占領機甲部隊の配置。ランドール提督の先見性は神がかりものですね」
「敵将を賛美してどうするか。士気に関わるぞ」
「あ、申し訳ありません」


 マック・カーサー率いる帝国侵攻軍、旗艦ザンジバル艦橋。
 さらに事態は最悪に向かっていく。
「トランターのワープゲートが襲われています」
「まずい! ワープゲートを奪われたら、首都星へ直接艦隊を送り込まれる」
「どうやら、首都防衛の艦隊を暴動鎮圧や艦隊迎撃に向かわせ、手薄になったところを襲撃する算段だったようです」
「何ということだ……。我々が出撃して留守にしている間に、これ幸いと決起したというわけか」
 やがて絶望的な報告がもたらされた。
「トランターとの通信が途絶えました」
「トランターが占領されてしまったのでしょうか?」
「いや、そんなことはない。首都星の防衛力は絶大なはずだ。そう簡単に墜ちるはずがない。おそらく通信設備が破壊されたか乗っ取られたか、もしくは通信システムをハッキングされてしまったかのどちらかだ」
「だといいんですが……」
 ワープゲートが奪われれば、タルシエン要塞側にあるワープゲートから、いとも簡単に艦隊を送り込むことができる。しかも防衛艦隊は情報操作によって全艦出撃して、首都星は丸裸である。トランターが占領されるのは時間の問題といえた。
 もしそうなれば……。
「なあに、仮にトランターが墜とされたとしても、共和国同盟全体までが奴らの手中に墜ちたわけではない。銀河帝国艦隊との決戦に勝利して帝国を手中に治めてからでも、引き返してトランターを取り戻すことも容易だ」
 自信に溢れるカーサー提督の表情であった。
 二百五十万隻対百五十万隻なのだ。
 しかも銀河帝国軍は戦闘の経験が少なく、赤子の手を捻るに等しいだろう。
 戦力差にしても、数の上で圧倒して勝利は確実と言ってもよい。
 何を心配する必要があるものか。
「よおし、先鋒艦隊を下げろ! 全軍で総攻撃だ」
 相手の力量を測る小手先の戦いは止めて総力戦に突入する決断をするカーサー提督だった。


 その模様はサラマンダーに伝わっていた。
「敵の先鋒艦隊が後退します」
「どうやら総攻撃を開始するつもりらしい」
「いよいよですね」
「さて、こちらはどう打って出るかだが……。ともかくマリアンヌを下げさせろ。このままでは集中砲火を浴びる」
「判りました。第六皇女艦隊を下げます」
 後退する双方の先鋒艦隊。
 マリアンヌが後方に下がったところで、敵艦隊が前進をはじめた。
「いよいよ、おいでなすったぞ」
「どうなさいますか? こちらも前進して迎え撃ちますか」
「いや、まだ早いな……」
 と考え込むアレックス。
 戦乱急を要する状態を呈している。
「全艦に伝達。敵の動きに合わせて、こちらは後退する」
 その指令を聞いて驚くパトリシア。
 他の乗員たちも同様の表情だった。
「後退するのですか?」
「そうだ。後退だ。機はまだ熟していない。時期相応。繰り返す、全艦後退せよ」
 アレックスの言動に拍子抜けの乗員達。
 二百五十万隻対百五十万隻という圧倒的な数の差に、今になって怖気づいたのか?
 とはいえ、これまでにも幾度となく共に生死を掛けた戦いをくぐり抜けてきた同士である。アレックスに対する信頼は絶大なものがあり、少しも動揺を見せていない。
 指揮官と将兵の間には厚い信頼関係が築かれていたのである。

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2021.07.05 13:20 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十三章 カーター男爵 V
2021.07.04

第十三章 カーター男爵





 カーターは病室のベッドの上で目が覚めた。
 ベッド脇には点滴の器具があり、左手に繋がれていた。
「あら、気が付かれましたか」
 看護師が話しかけてきた。
「公爵さまは?」
「あなたのお蔭で、無事息災ですよ。ご安心ください」
「そうですか……。よかった」
「その公爵様が、謁見を許されております。お会いになられますか?」
「公爵さまが? ぜひお願いします」
「それでは……」
 看護師は、車いすを持ち出してきてカーターを乗せて、公爵の御前へと進んだ。

「そなたのお蔭で無事だった」
「当然のことをしたまでです」
「そうか。とはいえ、何か礼をしなければな」
 しばらく考えていたが、
「お主は貴族の子孫だと聞いておるが、真か?」
「はい。曾祖父の代に先のウィフム・クロンカンプ伯爵に仕えており、男爵の位を頂いておりました」
「ほほう。男爵とな、何故爵位を剥奪されたのか?」
「詳しくは存じませんが、公金横領の疑いを受けたということを聞いております」
「疑いだけでか?」
「はい。火のない所に煙は立たぬ、ということらしいです」
「そうか……ふむ。ならばお主に爵位を与えよう。そうだな、いきなり男爵というわけにはいかないから、勲功爵からだ。今後の働き次第で男爵位も与えよう。どうだ?」
「目に余る光栄でございます」

 そこへ別の人物が連れてこられた。
 海賊ドレークである。
 今度は、暴行を働けないように拘束具を装着されて、立つのがやっとの状態であった。
 従者の一人が進言する。
「この者の名は、フランシス・ドレーク。公爵への暴行は無論のこと、我が国の商船に対する海賊行為による損害は計り知れず、死刑に値するものであります」
「ドレークよ。申し開きはあるか?」
 ドレークは無言で答えない。
「釈明も命乞いもしないのだな。まあよいわ」
 と、傍に控えていた別の従者に合図すると、ワゴンを押して二人の前に酒の入ったグラスを運んだ。
 ドレークの拘束具が解かれる。
「お主の力量を葬り去るのは惜しいのだ。どうだ、我が国の艦隊で、その才能を発揮してはみないか?」
「この俺に軍隊で働けと言うのか?」
「わが軍は平和ボケしていて、まともに戦った士官がいないのでな。お主のような百戦錬磨の強者が欲しいのだよ」
「そうか……いいだろう。で、どれだけの戦力をくれるのか?」
「銀河帝国第一艦隊百万隻だ! その司令長官に任じたい」
「百万隻か、いいね。引き受けた!」
「よろしい。祝杯を挙げよう」
 グラスに酒が注がれる。

 こうして、マンソン・カーターとフランシス・ドレークが公爵の配下となった。

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2021.07.04 16:00 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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2021.07.04

銀河戦記/鳴動編 第二部後半

第十四章 アクティウム海域会戦 
第十五章 タルシエン要塞陥落 
第十六章 交渉 
第十七章 決闘 
終章 最終回

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