銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 Ⅱ
2021.07.05

第七章 反抗作戦始動




 ザンジバル艦橋。
「何だと! もう一度確認しろ!」
 突然、通信班長が部下の通信士に向かって怒鳴るように言った。
「間違いありません。何度も確認しましたから」
 通信士は汗を拭いながら答える。
「そんな馬鹿なことがあってたまるか……」
 彼自身も信じられないという表情がありありだった。
「事実です」
 そんなやり取りを耳にして、マック・カーサー大将が尋ねた。
「どうした? 何を騒いでおる」
「はあ……。共和国同盟の各地で暴動が起きました」
「暴動だと?」
「首都星に駐留していた防衛艦隊の半数が暴動鎮圧のために各地へ出動したもようです」
「暴動鎮圧に向かっただと? 誰がそんな命令を出したのだ」
「共和国同盟総督府マック・カーサー総督の名において出動命令が出されています」
「馬鹿な。儂は命令など出してないぞ」
「ですが、間違いなく総督の認証コードで発せられています。何者かが認証コードをハッキングして、艦隊に指令を出したものと思われます」
「う……一体誰なんだ」
 言いながら、端末を操作していたが、
「だめだ!」
 ドンと両手の平で端末を叩き付けるカーサー提督。
「どうなさいましたか」
「儂の認証コード用の暗号コードが変更されている。トランターの統帥本部コンピューターにアクセスできない」
「それじゃあ、暗号による指令が出せないということではないですか」
「とにかく、まだ半数の艦隊が残っているのだな」
「そ、それが……つい先程、反乱軍と思われる多数の艦隊が接近中とのことで、残存艦隊も迎撃に出撃したもようです」
「馬鹿な! それでは首都星は丸裸ということではないか。呼び戻せ!」
「だめです。先の鎮圧部隊ともども、連絡がつきません」
「何ということだ……。こんな大事な時に……」
 頭を抱えるカーサー提督。

 報告は続く。
「大変です! 首都星トランターに二千隻の艦隊が出現し、首都防衛地上部隊と交戦中!」
「二千隻だと?」
「ランドール配下の第八占領機甲部隊『メビウス』です」
「各地の軍事施設を急襲してこれを無力化。さらに機動戦艦『ミネルバ』を主力とした艦隊が、総督府を包囲せんと展開中です」
「こちら側の勢力は?」
「防衛地上部隊が四千隻に水上艦艇が六千隻です」
「なら問題はあるまい。こちらには新造の機動戦艦もあるしな」
「現在、ミネルバ級同型二番艦『サーフェイス』と三番艦『アルキメデス』が迎撃に出ました」
「それにしても、一体どこに隠れていたんだ?」
「報告によりますと、メビウス部隊は第十七艦隊新設の際に分離独立されて、軍事演習目的でトランターに残ったとありますが、その後消息を断って完全に沈黙してしまいました。いずこかに秘密基地を建設して隠れていると噂されています。配下の工兵部隊なら秘密基地の建設も容易でしょう」
「司令官は誰だ?」
「ランドール提督の腹心で、レイチェル・ウィング大佐です」
「どんな奴だ」
「ランドール提督が最初の独立遊撃艦隊を新設した時に副官として任官し、最初の参謀役として情報参謀を務めていたようです。共和国同盟開国以来最初の女性佐官です」
「女なのか?」
「はい。提督が作戦立案を練るときには、彼女の情報力が大いに寄与していたと言われます。かのタルシエン要塞攻略の作戦立案にも参画した功績で大佐に昇進したもよう」
「情報参謀か……」
「認証コードをハッキングしたのも彼女らではないですか?」
「ありうるな……」
「ともかく、今日あることを予想しての第八占領機甲部隊の配置。ランドール提督の先見性は神がかりものですね」
「敵将を賛美してどうするか。士気に関わるぞ」
「あ、申し訳ありません」


 マック・カーサー率いる帝国侵攻軍、旗艦ザンジバル艦橋。
 さらに事態は最悪に向かっていく。
「トランターのワープゲートが襲われています」
「まずい! ワープゲートを奪われたら、首都星へ直接艦隊を送り込まれる」
「どうやら、首都防衛の艦隊を暴動鎮圧や艦隊迎撃に向かわせ、手薄になったところを襲撃する算段だったようです」
「何ということだ……。我々が出撃して留守にしている間に、これ幸いと決起したというわけか」
 やがて絶望的な報告がもたらされた。
「トランターとの通信が途絶えました」
「トランターが占領されてしまったのでしょうか?」
「いや、そんなことはない。首都星の防衛力は絶大なはずだ。そう簡単に墜ちるはずがない。おそらく通信設備が破壊されたか乗っ取られたか、もしくは通信システムをハッキングされてしまったかのどちらかだ」
「だといいんですが……」
 ワープゲートが奪われれば、タルシエン要塞側にあるワープゲートから、いとも簡単に艦隊を送り込むことができる。しかも防衛艦隊は情報操作によって全艦出撃して、首都星は丸裸である。トランターが占領されるのは時間の問題といえた。
 もしそうなれば……。
「なあに、仮にトランターが墜とされたとしても、共和国同盟全体までが奴らの手中に墜ちたわけではない。銀河帝国艦隊との決戦に勝利して帝国を手中に治めてからでも、引き返してトランターを取り戻すことも容易だ」
 自信に溢れるカーサー提督の表情であった。
 二百五十万隻対百五十万隻なのだ。
 しかも銀河帝国軍は戦闘の経験が少なく、赤子の手を捻るに等しいだろう。
 戦力差にしても、数の上で圧倒して勝利は確実と言ってもよい。
 何を心配する必要があるものか。
「よおし、先鋒艦隊を下げろ! 全軍で総攻撃だ」
 相手の力量を測る小手先の戦いは止めて総力戦に突入する決断をするカーサー提督だった。


 その模様はサラマンダーに伝わっていた。
「敵の先鋒艦隊が後退します」
「どうやら総攻撃を開始するつもりらしい」
「いよいよですね」
「さて、こちらはどう打って出るかだが……。ともかくマリアンヌを下げさせろ。このままでは集中砲火を浴びる」
「判りました。第六皇女艦隊を下げます」
 後退する双方の先鋒艦隊。
 マリアンヌが後方に下がったところで、敵艦隊が前進をはじめた。
「いよいよ、おいでなすったぞ」
「どうなさいますか? こちらも前進して迎え撃ちますか」
「いや、まだ早いな……」
 と考え込むアレックス。
 戦乱急を要する状態を呈している。
「全艦に伝達。敵の動きに合わせて、こちらは後退する」
 その指令を聞いて驚くパトリシア。
 他の乗員たちも同様の表情だった。
「後退するのですか?」
「そうだ。後退だ。機はまだ熟していない。時期相応。繰り返す、全艦後退せよ」
 アレックスの言動に拍子抜けの乗員達。
 二百五十万隻対百五十万隻という圧倒的な数の差に、今になって怖気づいたのか?
 とはいえ、これまでにも幾度となく共に生死を掛けた戦いをくぐり抜けてきた同士である。アレックスに対する信頼は絶大なものがあり、少しも動揺を見せていない。
 指揮官と将兵の間には厚い信頼関係が築かれていたのである。

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2021.07.05 13:20 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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