銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 Ⅲ
2021.07.06

第七章 反抗作戦始動




 戦闘が開始されていた。
 敵艦隊からの攻撃は熾烈で、後退しつつも少しずつ戦力を削り落とされていく。
 次々と味方艦隊が撃墜されていく。


 アークロイヤル艦橋。
 オペレーター達が小声で囁き合っている。
「どういうことだ? 決戦を前にして後退とは……」
「まさか、恐れをなしたというわけではあるまい」
「がっかりだよ。共和国同盟の英雄と言うからどんな素晴らしい作戦を用意しているのかとおもっていたのに」
「二百五十万隻対百五十万隻。圧倒的な戦力差に、いまさらにして無謀な戦いだと悟ったのか」
「いずれにしても、このままでは負けるのは必死だぜ」
 同盟軍の将兵はともかくも、銀河帝国の将兵達には、アレックスの人となりをまだ十分に理解していない。
 不安に駆られるのも当然であろう。
 マーガレット皇女がそれらの会話を聞きつけて咎めるように言った。
「そこのあなた達。言いたいことがあるのなら、ちゃんと意見具申しなさい」
 と言われたのを機に、一人が立ち上がって意見具申を申し述べた。
「それでは申し上げます」
「申し述べてみよ」
「はい。中立地帯を越えて共和国同盟くんだりまで来て、いざ決戦という時に後退とは、殿下は何をお考えになられているのでしょうか? 二百五十万隻対百五十万隻。圧倒的な戦力差に我が艦隊はなし崩しに崩壊の危機にあります」
 もう一人が立ち上がった。
「その通りです。このまま無策のまま後退を続けていては、全滅は必死です。完全撤退ならともかく、ただ後退するだけではいかがなるものかと」
 そしてまた一人。
「いっそのこと帝国領まで撤退して、帝国艦隊全軍五百万隻を持って対峙すれば勝てます」
 いずれも正論だと思われた。
「あなた方が心配する気持ちも良く判ります。しかしながら、殿下がジュリエッタを従えて、アルビエール侯国へ反乱勢力討伐のために出撃し、自らが僅かな手勢を率いてこのアークロイヤルを捕獲し、私を捉えてしまったことを忘れたのですか?」


 一方の第三皇女艦隊旗艦インヴィンシブルの艦橋でも同様な事態になっていた。
 ジュリエッタ皇女が叱咤激励していた。
「この艦隊が海賊に襲われた時のことを思い出しなさい。あなた達は見たはずです。殿下の率いる艦隊の勇猛果敢な戦いぶりを。僅か二千隻という艦艇数で、数万隻の敵艦隊と戦った殿下のこと、何の策もなくただ後退しているはずはありません」
 ジュリエッタに言われて、オペレーター達は思い起こしていた。
 サラマンダー艦隊が援軍に現れた時、それはまるで曲芸師のような見事な動きを見せて、数に勝る敵艦隊を翻弄して撤退に追い込んでしまった。
 まさしく脳裏にくっきりと焼きついていた。
 そんな勇猛果敢な戦士が、ただ無策に後退しているはずがない。


 皇女艦隊において、そんな成り行きとなっていることなど、アレックスの耳元には届いていない。
 正面スクリーンに投影されたベクトル座標に映し出された艦隊の戦況をじっと見つめていた。
「現在の戦況をご報告します。我が方の損害は二百五十隻、第二皇女艦隊において二千五百隻の大破及び轟沈。同じく第三皇女艦隊では、三千二百五十隻に及びます。対して敵艦隊の推定損害はおよそ三千隻かと思われます」
 アレックス直下の旗艦艦隊の損害が小さいのは、艦の絶対数が少ないのと戦場慣れしているせいであろう。
 オペレーターの報告に対してパトリシアが語りかける。
「我が方の六千隻に対して敵艦隊は三千隻の損害で済んでいます」
「二対一ということだ」
「その通りです。このままでは敗退は必至の情勢といえるでしょう」
「多少の損害は覚悟の上だ……」
 両手を組んで顎を乗せる格好で厳しい表情を見せるアレックス。
 事情を飲み込めないパトリシアは首を傾げるだけであった。


 そう。
 アレックスは待っていたのだ。
 静かな湖に、白鳥が再び舞い降りるのを……。


 ザンジバル艦橋。
 正面スクリーンには、後退を続ける帝国艦隊が投影されていた。
「帝国艦隊さらに後退中です。前衛艦隊はほぼ壊滅状態です」
 正面スクリーンには、敵艦隊を示す光点が次々と消えゆく有様が投影されていた。
「このままいけば、帝国艦隊が全滅するのも時間の問題でしょう」
 当初から、二百五十万隻対百五十万隻という艦隊数で劣勢だったのだ。こうなることは戦う前から判りきっていたのだが……。
「それにしても一体どういうことだ。理解できん。同盟領に侵入し、いざ決戦という時に引き下がるとは……」
 摩訶不思議な表情でスクリーンを見つめているカーサー提督。
「何か罠を仕掛けているのではないですか?」
「その可能性はあるまいて。周囲には星雲や小天体などの身を隠す空間もない。罠を仕掛けることなど不可能だ」
「そうでしょうか……」
「天地両翼を展ばして包囲陣を敷け。握り潰す」
 帝国軍を包囲するように、艦隊が動き始めた。

 敵艦隊が包囲陣を敷いたことによって、両翼に展開する第二皇女艦隊と第三皇女艦隊の被害がさらに大きくなりつつあった。
 前衛にいた第六皇女艦隊はすでに壊滅し、大破を喫した旗艦マジェスティックは後方に退き、マリアンヌはインヴィンシブルのジュリエッタの元に身を寄せていた。
「敵艦隊は包囲陣を敷いて、我が艦隊を包囲殲滅する所存のようです」
「なるほど、やはりそうきたか……。包囲陣は数に勝る時は有効な作戦だ。しかし半面として防衛に回った時には守備陣が薄い欠点がある」
「その通りです。両翼を除く正面の艦隊はほぼ互角の百五十万隻です。紡錘陣形で突入すれば正面突破が可能なのではないですか?」
「中央突破を図って撤退の道を切り開くならそれも良い作戦だが……。しかしながら我々は勝たねばならない。逃げるわけにはいかないのだ。ここに踏みとどまり敵艦隊の銀河帝国への侵略を阻止しなければならない」
「そうは申されましても、このままでは敗退は確実です。援軍でも来ない限りは……」
「援軍か……。それもありだ。待つことにしよう」
「おっしゃる意味が判りませんが? 援軍とおっしゃられましても、後から来る帝国軍第四艦隊及び第五艦隊は後方支援のみで戦闘には参加しませんが」
「まあな」
 意味深な返答に疑問を投げかけるパトリシア。
「援軍が来るのですか?」
「今に判るさ」
 自分に隠し事をしているアレックスが理解できなかった。
 どんな些細なことでも相談しあう相棒ではなかったのか。
 悲しかった。
 黙りこんだまま正面スクリーンを見つめているアレックス。
 と、突然通信オペレーターが叫んだ。
「特秘暗号文入電! 解読中です」
 それを聞いてアレックスの表情が大きく変わった。
 艦橋内がしばしの沈黙に覆われた。
 全員が固唾を呑んで解読の結果を待っている風だった。
 これまでのアレックスの態度から、何かを待っていることが明らかだったからだ。
 現況を打破する新たな風。
「解読終了!」
「読め!」
「読みます」
『静かなる湖に白鳥は舞い降りる』
「以上です」
 それを聞いてアレックスが動いた。
「全艦に放送の用意を」
 すぐさま全艦放送の手配が取られる。
 それが完了するまで、アレックスをじっと見つめるオペレーター達。
 これから語られる内容を一句たりとも聞き漏らさないように耳を澄ましている。
「全艦放送の用意ができました」
 オペレーターがマイクをアレックスの口元にセットした。
 厳かに言葉を発するアレックス。
「全将兵に告げる。これまで辛抱してよく耐えてくれた。感謝する」
 敵艦隊に包囲された情勢の中では、通常的には敗北宣言というのが普通であろう。
 潔く負けを認め、撤退するなり降伏するなりの道を選ぶのだろう。
 誰もがそう思うだろう。
 しかし、それに続くアレックスの言葉は意外なものだった。
「苦しい戦いであったが、それもこれまで。これより態勢を整えて総反撃に移り、敵艦隊を殲滅する」
 そう告げたとき、オペレーターが叫んだ。
「敵艦隊の後方に重力加速度を検知! 何かがワープアウトしてきます!」
 と同時に、正面スクリーンの映像に新たな艦影が出現した。
「敵艦隊後方に多数の艦隊を確認!」

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2021.07.06 13:41 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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