銀河戦記/鳴動編 第二部 第十四章 アクティウム宙域会戦 Ⅱ
2021.07.24

第十四章 アクティウム宙域会戦





 アルデラーン宇宙港。
 宇宙空間に浮かぶ戦艦の元へと、次々と連絡艇が発進している。
 その様子を遠巻きに見つめている帝国市民がいる。
「どうやら本格的な戦争に突入するようだ」
「摂政派と皇太子派、どっちが勝つのかな?」
「三百万隻対二百万隻だろ? 数で言うなら摂政派の勝利は確実だね」
「皇太子は共和国同盟の英雄だろ? 十倍の敵に対しても勇猛果敢に戦って勝利したというじゃないか。俺は皇太子派に賭けるね」
「その摂政派というのは止めないか? 摂政のエリザベス皇女さまは、内乱には関わっていないんだろ? 公爵派と言うべきだよ」
「しかし公爵の言動に対して、黙して語らずを貫いている以上、その責任は免れないんじゃないかな」
「やばい! 見回りが来るぞ、逃げろ!」
 ちりじりに散会する人々。
 見回り、正確に言えば治安部隊(Security Force)の要員のことである。
 クーデターを起こした為政者は、必ずといっていいほど治安部隊を組織する。
 古代地球史においては、国防軍備予算よりも治安維持予算の方が多いという国もあった。他国からの侵略よりも、国内暴動などを抑える方が先決というわけである。


 アルタミラ宮殿謁見の間。
 玉座に座るロベール皇帝と、その両脇にロベスピエール公爵とエリザベス皇女が着席している。
 その御前で、大臣たちがひそひそと話し合っている。
「静まれ!」
 デュプロス公爵の一声で沈黙する大臣たち。
「ご報告いたします」
 と、国務大臣が前に出る。
「反乱軍二百万隻が、この帝都に向けて進撃を開始しました」
「ついに来たか! 我が軍の方はどうなっているか?」
 その問いには、国防大臣が答える。
「艦隊編成に手間取っておりまして、反撃体制に入るにはもうしばらくかかるかと」
「何をほざいておるのか! これまで十分時間はあったはずだろうが。儂が出芸命令を出すまで何をしていたのか?」
「そうは申されましても、これまで戦など経験したことないのです。艦隊編成などまともに行ったこともありません」
「ドレーク提督がいなくなったのが痛かったな……。これなら候女誘拐の任に着けるべきではなかった……誘拐などという、海賊行為は彼が一番適任だと思ったのだがな……」
 海賊の頭領をやっていただけに、船の動かし方や乗員の扱い方に精通していたので、第一艦隊の提督に迎えたのだった。
 帝国でもっとも優秀な指揮官を、自分の判断ミスで失ったことは辛かった。
 頭を抱える公爵だった。


 宇宙空間。
 帝国艦隊が集結して出撃の時を待っていた。
 旗艦である戦列艦ヴィル・デ・パリスでは、カスバート・コリングウッド提督が指揮を執っていた。志願兵からのたたき上げの提督で、男爵の爵位を与えられている。
「提督、公爵閣下より入電です」
「繋いでくれ」
「繋ぎます」
 正面パネルスクリーンに、ロベスピエール公爵の姿が映し出される。
「出撃準備はどうなっておるか?」
「はい。つい先ほど完了しました。まもなく出撃します」
「そうか。頼んだぞ」
 通信が途絶えて、映像も消えた。
 ため息をつく提督。
 そんな中、兵士たちが囁きあっていた。
「頼んだぞか……。聞いたかよ。我らの公爵様は、安全な場所でご観戦のようだ。皇太子殿下は、自ら陣頭指揮に出て艦隊の最前線に出ておられるというのに」
「しいっ! 司令官に聞こえるぞ」
「聞こえたって構わんさ。どうせ俺たちゃ死ぬんだから」
「随分と悲観的だな」
「悲観的にもなるさ。相手は共和国同盟の英雄だぞ! 戦歴も華々しいものばかりだ。それに引き換え俺たちはまともな戦もしたことない甘ちゃんだ」
 兵士たちの憤懣(ふんまん)やるかたない気持ちは抑えようがないものだった。
 どうせなら皇太子派の戦艦に配属されたかったと思う。

 アレックスの艦隊に送れること二日と三時間後。
 摂政派の艦隊がやっと動き出した。

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2021.07.24 09:46 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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