銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 Ⅳ
2021.07.07

第七章 反抗作戦始動




 総督軍後方に新たなる艦隊の出現を見て、緊張を高めるオペレーター達。
 敵の援軍なればもはや救いようのない戦況となり、逃げ出すことも不可能となるだろう。
 しかし次なる報告に状況は一変することとなる。
「識別信号に独立遊撃艦隊第一分艦隊旗艦ウィンディーネを確認」
 それはアレックスの片腕の一人、ゴードン・オニール准将であった。
「ウィンディーネ艦隊だ! 援軍がやってきたんだ」
 小躍りするオペレーター達。
 さらに報告は続く。
「独立遊撃艦隊第二分艦隊旗艦ドリアードを確認!」
 もう一人の片腕、ガデラ・カインズ准将。
「さらに続々とやってきます」
「第十七艦隊旗艦戦艦フェニックスもいます」
 アレックスより艦隊司令官を引き継いだオーギュスト・チェスター准将。
「ヘインズ・コビック准将の第五艦隊、ジョーイ・ホスター准将の第十一艦隊」
 アレックス・ランドール配下の旧共和国同盟軍第八師団所属の精鋭艦隊が続々と登場しつつあった。
 さらに第五師団所属、リデル・マーカー准将の第八艦隊以下、第十四艦隊、第二十一艦隊も勢揃いした。
 アレックスの配下にあるアル・サフリエニ方面軍が勢揃いしたのである。
 バーナード星系連邦との国境に横たわる銀河渦状腕間隙にある、通行可能領域として存在するタルシエンの橋。
 現在地からトリスタニア共和国を経て、さらに遠方にあるタルシエンを含む銀河辺境地域を守るのがアル・サフリエニ方面軍である。
 トリスタニア陥落以降は、共和国同盟解放軍として旗揚げした総勢六十万隻に及ぶ精鋭艦隊である。
「戦艦フェニックスより入電。フランク・ガードナー少将が出ておられます」
 アレックスの先輩であり、第五師団司令官にしてタルシエン要塞司令官である。
「繋いでくれ」
 正面スクリーンがガードナー少将の映像に切り替わった。
「やあ、少し遅れたようだが、約束通りに引き連れてきてやったぞ」
「恐れ入ります」
「さあて、早速はじめるとするか」
「お願いします」
「それでは、勝利の後にまた会おう」
 映像が途切れて再び戦場の映像に切り替わった。
 パトリシアは思い起こしていた。
 タルシエン要塞を出発する時のことである。
 発着場においてアレックスとガードナー提督が別れの挨拶を交わしていた。


「それでは先輩、行ってきます」
 ガードナー提督に敬礼するアレックス。
「まあ、いいさ。とにかく要塞のことはまかしておけ。援軍が欲しくなったら、連絡ありしだいどこへでも持っていってやる」
「よろしくお願いします、では」
「ふむ、気をつけてな」


 そうなのだ。
 あの時からアレックスとガードナー提督の間には密約が交わされていたのだった。
 今日のこの日のために……。
 なぜ、そのことをパトリシアにさえ隠していたのか?
 現況を熟慮して、パトリシアは気がついた。
 統合軍は銀河帝国軍との混成軍である。
 しかも本国には不穏な動きを見せる摂政派の影の黒幕であるロベスピエール公爵の存在がある。
 そして、このサラマンダーにも皇女艦隊との連絡係として乗艦している帝国兵士もいる。
 摂政派の息がかかっていないとは言えないのだ。
 たとえ腹心のパトリシアにとても、内心を明かすことはできなかったのである。
 壁に耳あり障子に目ありである。
 どんなに優秀な作戦も、上手の手から水が漏れて敵に作戦を知られては元も子もなくなる。
 危険を最小限にするためには、完全無欠でなければならなかったのである。


 戦況はどんでん返しとなり、勝勢はこちらに傾き始めていた。
 すっくと立ち上がって号令するアレックス。
「全艦隊、後退中止。微速前進から、最大戦速へ!」
 すぐさま復唱がなされる。
「全艦隊、後退中止!」
「微速前進から最大戦速へ」
 士気は大いに盛り上がっていた。
 ランドール提督配下の精鋭艦隊が援軍に来てくれたのだ。
 その数六十万隻。
 銀河帝国軍の総勢は、二百十万隻に膨れ上がったのだ。
 二百十万隻対二百五十万隻。
 これによって両軍の勢力はほぼ互角となったといえよう。
 いや、勇猛果敢な精鋭が総督軍の背後から急襲しているのだ。
 勝勢はこちら側に傾いたといえるのではないか。
 オペレーター達の表情は紅潮していた。
 負け戦から勝ち戦へ。
「有効射程距離に入りました」
「よおし! 全艦、攻撃開始!」
 これまで辛抱に辛抱を続けていた鬱憤を晴らすかのような猛烈な攻撃が開始された。
 攻撃に転じたアレックスには迫力があった。
「砲撃を正面の艦隊に集中しろ!」
 総督軍は、天地両翼を展ばして包囲陣を敷いていたために正面が薄くなっていた。
 集中砲火を浴びせることによって、中央突破を図る算段のようである。
 やがて中央が切り崩される。
「全艦、中央に突撃開始」
 集中砲火で開いた穴に銀河帝国軍が雪崩れ込んでいく。
「マーガレットに打電! 艦載機、全機発進!」


 アレックスの指令を受けて、マーガレットが配下の空母艦隊に全機発進命令を下していた。
「殿下の期待に応えるのです。第二皇女艦隊の威信を見せ付ける時です」
「戦闘機を全機発進させよ」
 トーマス・グレイブス提督が全航空母艦に指令を出す。
 全航空母艦から蜘蛛の子を散らすように、わらわらと戦闘機が出撃していく。
 こちらが艦載機を出せば相手も呼応して戦闘機を出撃させてくる。
 航空戦の緒戦は戦闘機同士の潰し合いではじまる。
 マーガレット率いる第二皇女艦隊の主力は、旗艦アークロイヤル以下の攻撃空母が主体の艦隊である。
 アークロイヤル以下、プリンス・オブ・ウェールズ(新造)、クイーン・エリザベス(新造)、イーグルなどの攻撃空母から艦載機が続々と発艦していた。
 正面に対峙しての撃ち合いでは影が薄かったが、接近戦での航空機による攻撃では本領を発揮する。
 航空戦術にかけては英才のジェシカ・フランドルがいればなおのこと良いのだが、あいにくと援軍の方で指揮を執っているだろう。
 その数では総督軍のそれを上回っていた。
 当然のこととして戦闘機同士の戦いは、帝国軍の勝利で決着が着く。
「雷撃機、全機発進せよ」
 戦艦への攻撃においては魚雷を搭載した雷撃機に勝るものはない。魚雷一発で相手を撃沈も可能である。ただ防御力が低いので、その運用には慎重を要する。制宙権を確保した後でなければ出撃させることはできない。
「続いて重爆撃機、全機発進。戦闘機は爆撃機を護衛しつつ敵艦の砲台を叩け」
 こちらも攻撃力は甚大である。敵艦の身近に迫らなければまるで役に立たないが、大量の爆弾を抱えていけるので、多数の艦船を叩くことができる。
 ただし敵艦の砲撃の餌食になりやすいので戦闘機の援護が不可欠である。


 ジュリエッタの第三皇女艦隊も奮戦していた。
 敵味方入り乱れての戦闘の経験など一度もない皇女艦隊の将兵達は、目の前で繰り広げられる死闘に足が震える者が多かった。
 さすがのジュリエットも例外ではなかったが、指揮官が怯えていては士気にかかわる。
 気を奮い立たせて、将兵達を鼓舞していた。
「怯えてはなりません。少しでも尻込みしていたら、そこを叩かれてしまいます」
 スクリーンの一角には、皇太子殿下坐乗のサラマンダーが悠然と戦いを続けている姿があった。
 恐れをなして引き下がるわけにはいかないのだ。
 ホレーショ・ネルソン提督が下令する。
「隊列を崩すな! 砲雷撃戦!」
 戦艦を主力とする第三皇女艦隊は、艦載機の数では見劣りするが、艦砲射撃による攻撃力はすさまじいものがあった。
「味方の艦載機に当てるなよ。グレーブス提督と連絡を取り合って、艦載機との連携攻撃を続けろ」

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2021.07.07 17:17 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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