妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の拾伍
2019.08.16


陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪


其の拾伍 対峙


 パトカーが走り回る街、その夜も新たなる犠牲者が出た。
 蘭子は神田家の玄関前に立ち止まり、帰り人を待っていた。
 神田美咲の帰りを……。
 やがて美咲が帰ってくる。
「お帰りなさい」
 冷静に声を掛ける蘭子。
「何か用?」
 巫女衣装姿の蘭子を目にして怪訝(けげん)そうな表情で答える美咲。
「いえね、学校何日も休んでいるから様子見にきたの」
「大丈夫だから……」
「お母さんが亡くなられたという気持ちは分かるけど……」
「ほっといてくれないかな」
 とプイと顔を背けて、玄関に入ろうとする。
「それはそうと、大きな壺を拾わなかったかしら?」
 単刀直入に切り出す蘭子。
 美咲の身体が一瞬硬直したようだった。
「なんのことかしら」
「いえね、近所で口径30cmほどの壺が、胞衣壺らしいんだけど、掘り出されたの。
でも、いつの間にか消え去っていて、その直後に切り裂き事件が発生しているのよ」
「そのことと、わたしに関係があるのかしら」
「発見された場所が、あなたの学校からの帰り道の途中にあるのよ。何か見かけなかっ
たなと思って」
「知らないわ」
 と玄関内に入ろうとする。
 それを制止しようと、美咲の左腕を掴む。
 袖が捲れて、その手首が覗く。
 その時蘭子の目に、リストカットされた傷跡が見えた。
「この腕の傷はどうしたの?」
 一見には何もないように見えるが、霊視できる蘭子の眼にははっきりと、霊的治癒さ
れている痕跡が見えるのだった。
 蘭子の手を振り解き、
「な、なにもないじゃない。どこに傷があるというの?」
「いいえ、わたしの目には見えるのよ。霊的処方で治癒した跡がね」
 図星をさされて、傷跡を右手で隠す。


「あなたの部屋を見せていただくわ。二階だったわよね」
 というと強引に上がろうとする。
 至極丁寧にお願いしても断られるのは明確だろう。
「待ってよ」
 制止しようとするが、武道で鍛えた蘭子の体力に敵うはずもなく。
 非常識と言われようが、これ以上の被害者を出さないためにも、諸悪の根源を断ち切
らなければならない。
 本当に美咲が【人にあらざる者】に憑依されているのか?
 という疑問もなきにもあらずだったが、美咲のリストカットを見るにつけ、その不安
は確かなものとなった。
 魔人と【血の契約】を交わした者は魂をも与えたに等しく、魔人を倒したとしても本
人を助けることはできない。

 美咲の部屋のノブに手を掛けようとして、一瞬躊躇する蘭子。
 呪いのトラップが掛けられているようだった。
 懐から式札を取り出して式神を呼び出すと、代わりにドアノブを開けさせた。
 とたんに一陣の突風が襲い掛かり、式神は微塵のごとく消え去った。
 開いた扉から慎重に中に入る蘭子。
 そこには神田美咲が待ち受けていた。
 瞬間移動したのか?
 そうまでして守らなければならない大事なものが、この部屋にあるということだろう。


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冗談ドラゴンクエスト 冒険の書 43
2019.08.15


冗談ドラゴンクエスト


冒険の書 43


ナレ1「というわけで、宿屋へ向かう一向だった」
宿屋「いらっしゃいませ」
ナタリー「部屋はあいてますか?」
宿屋「はい。昨日まで、みなさん猫になってましたので、泊まる方がいらっしゃらなく
て全部あいてますよ」
リリア「一部屋はいくらになりますか?」
宿屋「伺ってますよ。みなさんが猫になる呪いを解いてくださったそうですね」
勇者「おう、そうともよ。いくらくれる?」
ナタリー「あんたは黙ってるのよ」
リリア「この人の言うことは無視していいです」
宿屋「はあ?」
コンラッド「それで、一部屋いくらですか?」
宿屋「大恩人から、お金は頂けませんよ。部屋も空いてますから、一人一部屋で結構で
す」
リリア「よろしいんですか?」
宿屋「喜んでお貸しいたします、はい」
ナレ1「というわけで、各自それぞれの部屋に入室する」
ナレ2「マンドレイク狩りで疲れた身体を癒すために、早めにベッドに入る一同」
ナレ1「寝静まった夜中、ナタリーの部屋の窓を開けて入ってくる怪しげな影」
ナレ2「影は、ナタリーの眠るベッドに這い上がり、その布団の中に潜り込む」
ナタリー「だれ!」
ナレ1「流石にナタリーも侵入者に気づく」
勇者「しー!俺だよ」
ナレ1「影は勇者だった」
ナタリー「あ、あんた何してるのよ」
勇者「男と女がすることといったら一つしかないだろう」
ナタリー「何言ってるのよ。今のあなたは女でしょうが!」
勇者「気にすることはないぞ。女同士、水入らずという言葉もある」
ナタリー「ないわよ!」
勇者「レズビアン、って知ってる?」
ナタリー「知らないわよ。早くどきなさい」
ナレ1「しかし、遊び人としての能力は絶大だった」
ナレ2「ナタリーがどんなに拒絶しても……」
ナレ1「などと言っているうちに夜が明けた」
勇者「今朝の太陽は黄色い……」
ナタリー「………………」
ナレ1「疲れてぐったりしているナタリー」
宿屋「おはようございます。お食事ができていますよ」
ナレ1「ドアをノックしてモーニングコール、各自の部屋を回る宿屋」
ナレ2「約十分後、一同が食堂に集まった」


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冗談ドラゴンクエスト 冒険の書 42
2019.08.14


冗談ドラゴンクエスト


冒険の書 42


勇者「何なんだよ(と鏡を見る)」
ナレ1「その鏡に映っているのは見目麗しき若き女性だった」
勇者「おお、綺麗な姉ちゃんやなあ」
ナタリー「(コホンと軽く咳をして)良く見なさいよね」
勇者「何だよ(ナタリーに顔を向けると鏡の彼女も横を向く)あれ?」
ナレ1「横向きから鏡に視線を移すと、鏡の彼女も視線を移して自分を見つめる」
ナレ2「右手を上げると、鏡の彼女は左手を上げる」
ナレ1「左手を上げると、彼女は右手を上げる」
ナレ2「バンザイすると、彼女もバンザイする」
ナレ1「一挙一動寸分の違いも見せずに追従する動きを見せる鏡の彼女」
勇者「まさか……(どうやら気づいたようだ)」
ナレ1「唐突に服を開けて自分の胸を確認する勇者」
勇者「なんやこれはあ!!」
ナレ1「そこには豊かな膨らみがあったのである」
勇者「まさか……」
ナレ1「当然のように下半身を確認する」
勇者「ない……( ;∀;)」
ナタリー「どうやら納得したようね」
勇者「どうしてこうなったのだ」
ナタリー「日頃の行いが悪かったのよ(という言葉を飲み込んだ)」
ナレ1「それを言ってしまえば、同様にリリアも日頃の行いが悪かったことになるから
だ」
コンラッド「おそらく二人は、ほぼ同時に亡くなられ、ナタリーさんの蘇生術によって
魂が呼び戻されたものの……」
リリア「入れ替わってしまったと?」
コンラッド「そうです。蘇生術が行われた時、リリアさんの魂が最も近いところを浮遊
していたために、身近な勇者さんの身体に。そして残った勇者さんの魂は、仕方なくリ
リアさんの身体に入ったのではないでしょうか」
勇者「いい加減だな」
ナタリー「何をのんきな事言ってるのよ」
勇者「別に俺は構わんぞ(豊かな胸をじっと見る)」
リリア「いやあ、止めて!」
コンラッド「と、とにかく元に戻す方法を考えましょう」
リリア「ナタリーさん、魂を入れ替える術とか知りませんか?」
ナタリー「残念ながら知らないわ」
リリア「そんなあ……(ガックリと気落ちする)」
道具屋「いっそ性転換薬使ってはいかがでしょうか?」
リリア「性転換薬?」
ナタリー「つまり、それぞれの身体を性転換させるということね」
道具屋「はい。性転換薬の調合方法は知っていますから」
ナタリー「リリア聞いた?これで解決ね」
リリア「だめですよお。いくら性転換したって、あたしの魂はリリアの身体だからこそ
リリアなのよ」
コンラッド「そうですね。勇者さんの身体であるリリアさんが誰かと結婚して子供が生
まれたら、当然勇者さんと瓜二つで、リリアさんの面影は一切ありませんからね」
ナタリー「そうだ!クアール最高導師さまなら、何とかできるかも知れないわ」
リリア「そ、その手がありましたね。元々クアール最高導師様には会いにいく予定でし
たし」
ナタリー「そうね。フェリス王国へ向かいましょう」
コンラッド「フェリス王国ですか……(ちょっと困ったような表情)」
リリア「どうかしましたか?」
コンラッド「いえ、なんでもありません。フェリス王国へ行きましょう」
ナタリー「でも、今日はもう遅いから明日にしましょう」
勇者「それがいいな」
コンラッド「宿屋はありますか?」
道具屋「ここを出て右へ五軒目が宿屋です。主人も人間に戻っているでしょう」


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冗談ドラゴンクエスト 冒険の書 41
2019.08.13


冗談ドラゴンクエスト


冒険の書 41


道具屋「ひとまず戻りましょうか」
ナレ1「道具屋に戻る一行」
コンラッド「さてと、次の問題は……(とリリアの元の身体を見つめる)」
リリア「生きていますか?(心配そうに自分の身体をのぞき込む」
コンラッド「どうでしょうねえ。魂が入っていないから死んでいると言えるのでしょう
が」
リリア「そんなあ、いやです!」
ナレ1「泣き崩れて、遺体?に縋りつくリリア」
ナレ2「溢れ出る涙が、遺体の顔にも降りかかる」
ナレ1「と、微かに遺体の手がピクリと動いた」
コンラッド「ちょっと、今手が動きませんでしたか?」
ナレ1「さすが動体視力の鋭敏な騎士だけに、遺体の微かな動きも見逃さなかったよう
だ」
ナタリー「そうかしら……あたしは気づかなったわ」
ナレ1「一同の視線が遺体の手に注視する」
ナレ2「すると、一同監視の中で、再び手が動く」
ナタリー「うごいたわ!」
リリア「ええ!ほんとうですかあ?」
ナレ1「リリアは遺体に顔を埋めていたので、手の動きを見れなかったようだ」
コンラッド「あ、また動いた」
ナレ1「と突然、目をパチリを開ける遺体……じゃなくてリリアの身体」
コンラッド「目を開けましたよ。気が付きました」
ナレ1「ゆっくりと起き上がるリリアの身体」
ナレ2「キョロキョロと辺りを見回している」
コンラッド「生き返ったみたいですね」
リリア「ちょっと待ってください!あたしの魂はこの身体の中にあるのに」
ナタリー「じゃあ、誰の魂が入っているの?」
コンラッド「現在の勇者さんの身体にはリリアさんの魂が、すると元のリリアさんの身
体に誰かの魂が入っているとしたら……」
その他大勢「(一同声を揃えて)まさか!!」
勇者「良く寝たなあ(ナタリーを見つけて)おお愛しのハニーじゃないか」
ナタリー「あ、あんた……勇者なの?」
勇者「何度言わせるのか。勇者という名前の勇者だ!」
ナタリー「そうじゃなくてえ……」
コンラッド「やはりリリアさんの身体に、勇者さんの魂が乗り移ったようですね」
リリア「そんなあ~」
勇者「あれ?ナタリー、仲間が増えたのか?」
コンラッド「気づいていないようですね。道具屋さん、鏡はありますか?」
道具屋「ありますよ(と裏の小部屋から大き目の鏡を取ってくる)はい、どうぞ」
コンラッド「お手数かけます」
勇者「な、なんだあ?(キョトンとしている)」
ナレ1「勇者はまだ自分に起こっていることに気づいていない」
コンラッド「(鏡を勇者の前に置いて)まずは深呼吸しましょうか」
勇者「なんでやねん」
ナタリー「いいから、気を落ち着けてね」
勇者「なんのこっちゃ」
コンラッド「では、鏡を見てください(鏡の表面を勇者に向ける)」


11
冗談ドラゴンクエスト 冒険の書 40
2019.08.12


冗談ドラゴンクエスト


冒険の書 40


コンラッド「それはそうと、そろそろ村人達の呪いを解きませんか?」
道具屋「そうですね。早速、薬を調合しましょう」
コンラッド「何か手伝えることはありますか?」
道具屋「それではお願いしましょうか」
ナレ1「というわけで、早速薬の調合に取り掛かる一向だった」
ナレ2「集めた薬草などを慎重に分量を量りながら、大鍋に入れて煮詰めている」
ナタリー「ところで、なんでそんな服に着替えたの?」
ナレ1「いかにも魔女が着るような衣装に身を包み、魔女の帽子を被っている」
リリア「コスプレですか?」
道具屋「ああこれは、薬を調合する時の作業着です」
リリア「凝り性なんですね」
ナレ1「それから数時間後、解毒薬は完成した」
道具屋「完成です。早速村の人たちを元に戻しましょう」
コンラッド「まずは村中に散らばっている猫ちゃんたちを集めなければいけませんね」
道具屋「それなら簡単です。教会の鐘を鳴らせば集まってきますから」
コンラッド「なるほど」
ナレ1「解毒薬を混ぜた餌を持って教会に行く」
コンラッド「鐘はどうやって鳴らしますか?」
道具屋「尖塔の真下に、鐘に繋がるロープが垂れ下げっていますから」
ナタリー「ロープを引けば良いのね。ああ、これみたい」
ナレ1「見上げればかなりの高さのところに見える鐘から垂れ下がるロープ」
ナタリー「引くわよ。それーえ!」
ナレ1「カラーンコローンと、教会の鐘の音が村中に響き渡る」
ナレ2「すると、どこからともなくゾロゾロと猫が集まってきた」
リリア「あら、可愛い?」
道具屋「みなさん、お食事ですよ」
ナレ1「教会の庭先に餌を盛った皿を並べるリリア」
コンラッド「元は人間ですよね?猫の餌で良いのですか?」
道具屋「大丈夫です。そもそも猫になって、その内臓も猫仕様になっていますから」
コンラッド「なるほど……」
リリア「さあ!お食べなさい」
ナレ1「餌皿に集まって食べ始める猫たちと、それをじっと観察している一向」
リリア「変化ありませんね……」
道具屋「もうしばらく様子を見てみましょう」
ナレ1「やがてお腹一杯になった猫たちは眠り始めた」
ナタリー「寝ちゃったわよ。まさか毒薬だったの?」
道具屋「いいえ、そのはずはないです」
ナレ1「その時、猫の身体が輝きはじめた」
リリア「変化が表れてきたみたいですよ」
ナタリー「薬が効いてきたのね」
ナレ1「見ている間に、次々と変身を遂げてゆく猫たち」
ナレ2「一匹が人間に戻ったのを機に、周りの猫たちも人間に戻ってゆく」
通行人男「ふああ(大欠伸して)よく寝たなあ」
通行人女「あたし達、何してたのかしら」
通行人男「あれ?なんで裸なんだ?」
通行人女「きゃあきゃあ、見ないで~」
ナレ1「口々に叫びながら、自宅へと駆け出す元猫の人々であった」
ナタリー「猫は服を着ないものね(クスリと笑う)」


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