銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 VI
2019.04.12

 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌

 VI 戦闘準備完了!

 ミネルバ艦橋。
「敵艦、右舷の方向へ回り込みながら接近中!」
 オペレーターが近況を報告する。
 頷くように、ベンソン中尉が答える。
「さすがに正面きっての戦闘は避けるつもりのようです。どうやらこちらの原子レー
ザー砲を警戒しているものと思われます。先の戦闘のデータは敵全体に伝えられてい
るでしょうからね」
「向こうの主砲は陽電子砲。大気中では減衰率がきわめて大きくて短射程。対して、
こちらの原子レーザー砲は減衰率が小さく射程が長い上に高出力。主砲のことだけを
議論するなら、まともに戦えば我々の勝利疑いなしってところなんだけど……」
「問題は、戦闘経験の少ない未熟な乗員ばかりということですか?」
「いくら最新の兵器を取り揃えたところで、それを扱うのは人間。百パーセント使い
こなせなければ、無用の長物となるしかない。つまり勝てるものも勝てなくなるとい
うこと」
「ですよね。結局のところ、実戦で鍛えていくしかないというところですか……」
「経験者なら5分でできるところを、未熟者だと10分15分かかるでしょう。そこ
のところを十分に吟味して指令を早めに出してやらないとね」
「艦長も大変ですね。余計な気を使わないといけないのですから」
「そうね……」
 と、大きなため息をつく二人だった。
 危なげな航海に踏み出した、前途多難なミネルバの未来はあるのか……。
 てな感じであろうか。
「側方射撃有効射程ポイント到達まで、およそ五分」
 双方が正面決戦を避けて、互いに回り込むように行動しているために、主として舷
側を攻撃できる兵器での戦いになる。
「CIWS(近接防御武器システム)を右舷に集中配備。ヒペリオン、RAM、防御
システム全基展開!」
 ミネルバの防空システムは、先述のヒペリオン(電磁飛翔体加速装置)と対をなす、
RAMがある。Rolling Airframe Missileの頭文字を取った造語。日本語に訳せば回
転弾体ミサイル。その名の由来は、発射時に回転を与えられて飛翔することからきて
いる。他のミサイルが4枚使用する操舵翼を、弾体の回転を利用して2枚で済ませて
おり、20Gの旋回可能だ。
 短距離 艦対空パッシブ・ レーダー・赤外線ホーミング・ミサイルのことで、艦
船のレーダーとESM(電子戦支援システム)に連動し、赤外線シーカーと電波干渉
計ロッドアンテナによって誘導される。電波干渉計ロッドアンテナによって、敵ミサ
イルのレーダー誘導電波を感知して飛行方向を決め、赤外線シーカーが敵ミサイルを
感知すると、赤外線誘導に切り替わる。有効射程距離は通常の近接防御システム(フ
ァランクス)の六倍以上の9.6km。近接着発型の爆風破片弾頭を装備している。自律
自走型の誘導兵器である。
「ステラ発射機、全基システム起動!」
 射程800mから1400mという超短射程の迎撃用対空ミサイル。目前に迫った航空機を
撃破するための最後の砦というところだが、高性能の【ヒペリオン】があるおかげで、
日陰者扱いされている風潮がある。しかし、【ヒペリオン】に比べて百分の一以下の
小電力で稼動でき、自前の緊急ディーゼル発電装置も設置されている。艦が損傷を受
けて電力供給に支障をきたした状態になった時でも戦えるというのは、貴重な存在で
ある。
 これらは誘導ミサイルに対する迎撃・防御用の兵器だが、敵艦を直接攻撃する兵器
も当然として存在する。

「4連装mk147装甲ボックス・ランチャー、全基システム起動!」
 射程2400kmを誇る対地・対艦用巡航ミサイル、慣性アクティブレーダー搭載【トラ
イアス】の発射装置である。遠方にある基地や艦を攻撃する兵器で、現状では距離が
近すぎて役に立つか問題もあるが、兵器や兵員を遊ばせておくわけにはいかない。第
一種戦闘配備では、すべての兵器を稼動させるのがセオリーである。
「mk39-Trastorランチャー、全基システム起動!」
 これはもう近接戦闘では必要不可欠、97kmという短射程の【トラスター】シースキ
ミング巡航ミサイルの発射装置である。水上艦のみならず、潜水艦において魚雷発射
管使用による水中発射、航空機搭載も可能なマルチな誘導ミサイルである。
「三連装135mm速射砲、兵員配置完了しました」
 現代戦では攻守共に、ビーム兵器や誘導ミサイルによる戦闘が主力になってきては
いるが、旧来の砲弾を撃ち飛ばす大砲や機関砲も外すわけにはいかない。ビーム兵器
も誘導ミサイルも、ミネルバが搭載している超伝導反磁界シールドによって無力化さ
れてしまった。しかし物理攻撃である飛んでくる砲弾を防ぐ方法は、艦を急速転回な
どするしかない。なぜなら鉄の塊ともいうべき砲弾は、誘導電波を出さないし、発射
時に与えられた慣性力のみで飛んでくるので、通常の迎撃ミサイルでは撃ち落せない
からである。

 さて、主砲のアーレスを除外すれば、レーザーキャノンとかいった光学兵器が装備
されていないことに気づかされるだろう。これはミネルバの主たる戦闘空域が大気圏
という場所柄によるものである。単刀直入に言えば、大気圏内は、空気密度が常に変
化し、光は屈折・干渉という現象を起こすからである。戦闘が開始され、至る所で爆
発炎上という事態が起こると、付近一帯が爆風などで暖められて、そこを通る光
(レーザー光線)は屈折させられるし、硝煙も障害になって目標を正確に狙うことが
できない。一秒一刻を争そい、精密射撃の要求される戦闘には不向きというわけであ
る。

「総員戦闘配備完了しました!」
「よろしい! 一対一の勝負のはじまりよ」



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銀河戦記/鳴動編 第二章 ミスト艦隊 XI
2019.04.12



第二章 ミスト艦隊


                 XI

 戦闘状態に突入して五分が経っていた。
 アレックスはスクリーンを見つめながら、戦況分析の真っ最中というところだった。
「当艦に対する敵艦隊からの攻撃がまったくありません」
「思惑通りだ。これで心置きなく指揮を取れるというものだ」
 呟くように言ったことを聞きつけて、副司令が答える。
「そうか……。判りましたよ、提督が敵艦隊に対して国際通信を行った理由」
「聞こう」
「連邦軍にとって提督は、鬼の首のようなもの。捕虜にした者には、最高の栄誉勲章が
与えられると聞きます。それが当艦に攻撃がこない理由です。自分がランドールである
ことを知らしめれば、決して攻撃してこないだろう。我が艦隊は少数ですから、拿捕し
て捕虜にするのも簡単だと思う。提督がこの艦隊を指揮するのは初めてです。じっくり
と指揮を執るには、落ち着いた環境が必要だった。そういうことですね」
 さすがに副司令官だけのことはあった。
「考え方によっては自己の保身を優先したようにも取れるんだが……」
「大丈夫です。誰もそんな風には考えません。提督は指揮に専念なさってください」
「ありがとう」
 そうこうしているうちにも、味方艦隊は次々と撃沈されていた。
「戦艦ビントウィンド撃沈。巡洋艦ハイネス大破……」
 多少の被害は覚悟の上ではあったが、もたもたしていては全滅するのは時間の問題で
ある。
「急速接近する艦があります」
 目の前のスクリーン一杯に敵艦隊が映し出された。
「斉射しつつ、面舵で交わせ!」
「どうやら接舷して白兵戦で提督を捕虜にしようとしているのでしょう」
 最初の艦はなんとか交わしたものの、次から次と襲ってきていた。
 単独でならともかく、複数の艦で体当たりされては交わしきれない。
「そろそろだな……。これより敵中の懐に飛び込む。全艦全速前進!」
 アレックスが最初から突撃を敢行しなかったのは、味方艦及び敵艦の力量を推し量っ
ていたのだ。
 特に司令官の人となりを、その戦い方ぶりから判断していたのである。
 加速して敵艦隊に向かって進撃するミスト艦隊。
 多数に無勢の時は、まともに正面決戦は自滅を早めるだけである。
 相手の懐深く飛び込んで乱激戦に持ち込み、あわよくば同士討ちに誘い込む。
「ランドール戦法だ!」
 誰かが思わず叫んだ。
 アレックスの得意戦法であり、敵艦隊をことごとく葬ってきた有名な戦法である。
 その戦いを目の当たりにし、しかも自らが参加している。
 兵士達の士気は大いに盛り上がっていく。
「お手並み拝見ですね」
「それは違いますよ。実際に戦うのは配下の将兵達です。指揮官を信じて指令通りに動
いてくれるからこそ作戦は成功します。指揮官のすることは、部下を信じさせることだ
けなのです」
 両艦隊はすれ違いながら互いに攻撃を加えていく。
 後方へ過ぎ去っていった艦は相手にはしない。
 前からくる艦のみを各個撃破していくだけである。
 機関出力最大で防御スクリーンにほとんどのエネルギーを回して、攻撃力よりも防御
力に重点を置いていた。
「敵艦を撃破することは考えなくても良い。全速力で敵艦を交わしていくのに全精力を
注ぐことに尽力せよ」
 早い話が、戦わずに逃げまくれと言っているに等しかった。
 領土防衛の戦いなのであるから、敵艦隊を殲滅させずして、逃げるなどとは理不尽な
指令である。
 逃げている間に占領されてしまう。
 しかし、ランドールが下した指令には、深い熟慮の上に計算され尽されてのものであ
ることは、誰しもが良く知っていた。
 例えばシャイニング基地攻防戦などが有名であり、ハンニバル艦隊来襲の時もカラカ
ス基地を空っぽにした。

 十五分が経過した。
 連邦軍旗艦には苦虫を潰したような表情の司令官がいた。
「ミスト艦隊は、我々の中心部分に入り込んだ模様です」
 両艦隊が全速力で進撃しているので、すれ違いの時間は短かった。
 すでに旗艦同士はすれ違いを終えていた。
「どうして討ち果たせん! 敵は我々の五分の一にも満たないのだぞ」
 理由は判りきっていたが、尋ねずにはおれなかった。
 懐に飛び込まれての乱激戦は同士討ちが避けられない。
 砲術士の腕も鈍るともいうものであった。
「すれ違う前には、正面に向き合っていたはずだ。どうして体当たりしてでも、これを
止めんかったのだ」
 これも判っていた。
 ミスト艦隊は小回りのきく惑星航行用の戦艦が主体であるから、旋回して体当たりを
避けることは簡単であった。
 司令は、競走馬と荷役馬と比喩したが、競走馬は真っ直ぐ走ることには得意でも、曲
がりくねった道を走るのは苦手である。
 これは戦国時代の城下町の街並み設計に取り入れているものだ。城の防衛のために高
速で騎馬が駆け抜けられないように、城下町には紆余曲折の道を作るのは常道であった。
 いかに高速を出せる艦艇でも、ちょこまかと動き回る艦艇をしとめるのは至難の伎で
ある。体当たりしようとしても、簡単に交わされてしまう。ただでさえ数度の加速を行
って最大限に達しているのである。軌道変更は困難であった。
「ええい。反転しろ! 反転して奴らの背後から攻撃する」
 しかし、その命令が悲劇のはじまりだった。


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性転換倶楽部/特務捜査官レディー 初めての経験(R15+指定)
2019.04.12



特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)


(四十九)初めての経験

「真樹、着方を教えてやってくれ」
「ええ? わたしが?」
「他に誰がいる。彼女は、ブラジャーなんかしたことないんだ。正しい付け方を教え
てやらないと、せっかくの形よい乳房が型崩れしてしまうじゃないか」
 そう……。ブラジャーは正しい付け方というものがある。
 それを知っているのは真樹だけだ。
「でも、先生だって正しい付け方があることを知ってるくらいだし、産婦人科医とし
て診察の際に、多くの女性の着衣を見てきたんでしょうから、付け方ぐらいは知って
いるんじゃないですか?」
「あのなあ……。ただ見ていただけじゃないか、実際に身に付けている女性でないと、
良く判らないことがあるだろう」
「そりゃそうだけど……」
 そんなわけで、ブラジャーの正しい身に着け方をレクチャーすることになった真樹
だった。
「あのね、ブラジャーの付け方は……こうやってね……」
 勧誘員のそばに寄って、手取り足取り教える真樹。
「はい! これでいいわ。しっかり覚えておいてね。あなたみたいに、これだけ大き
な乳房だと、しっかりカップに入れて正しく付けておかないと、先生のおっしゃった
ように型崩れしていわゆる垂れパイになっちゃうからね」
「はい。判りました」
 生まれてはじめてのブラジャーを身に着けた勧誘員は、すっかりしおらしくなって
いた。
 女性になると覚悟した以上、おとなしく言う事を聞くしかないと判断したのであろ
う。
 それ以上に女性のランジェリーを身に着けたと言う事が、何にもまして女性として
の気概を植えつけてしまったと言ってもよい。女性だけが身につけることを許された
ランジェリーの持つ魔性ともいうべきものである。
 それからその他の服をもすべて身に付けてすっかり女性的な外観に変わってしまっ
ていた。
 もはやどこから見ても立派な美しい女性にしか見えない。
「ところで先生、こんな大きなカップのブラジャーなんか、どうして用意できたんで
す?」
「なあに、簡単だよ。ここは産婦人科だ。はじめての出産を経験する初妊婦は、分娩
の後に授乳が始まるのは予備知識で知っていても、いざ乳が張ってきて予想外に大き
くなって、用意してきたブラが入らなくて困るということが良くあるんだ。だから購
買部でそんな人のために大きなサイズのブラジャーを置いてあるんだ。もちろん授乳
専用の前部が開くやつがほとんどなのだが、普通のやつもある。それを持ってきたの
さ」
「なるほどね……」
「あの……。真樹さんと言いましたね」
「え、ええ」
「教えてくれませんか。女性のこと……何も知らないから」
 話しかけられてとまどう真樹。
「え? 突然そんなこと言われても……。ねえ、敬」
「あのなあ……。こっちに話しを振るなよ。これはおまえとこの人の問題だろ」
「だって……」
「俺は、思うんだけどさあ……」
 と何か言いかけて口を噤む敬。
「なに、言って? 考えがあるんでしょう?」
 真樹は何事かと聞き出そうとする。
「この人は、女性に性転換されてしまったことで、もう罪に対する罰は十分に受けた
と思うんだ。先生も言ったように、これからは新しい人生をはじめることになる。生
まれ変わってね」
「それで?」
「しかし女性としての経験はまるでないだろう? 社会に出て女性として生きていく
には最低限の知識は必要だ。衣服の着こなしはもちろんのこと、化粧とかも必要だろ
う。それを教えられるのは真樹しかいないんじゃないか?」
「そうかも知れないけどさあ……」
「教えてやれよ。真樹なら、この人の気持ちは良く判ると思う。違うか?」
 真樹が元々は男性であり、性転換して女性になったことを示唆しているのだった。
 同じ境遇である真樹にしか、その気持ちは判らない。
 他に誰が、この性転換女性を正しい道に導けるものがいるだろうか?
「もう……。判ったわよ。教えてあげればいいんでしょう」
 致し方なく承諾する真樹だった。
「あ、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
 深々と頭を下げる勧誘員だった。
 その仕草も態度もすっかり女性的な雰囲気があった。
 郷に入れば郷に従えだ。
 女性として生きることを決心したことが、その態度をすっかりと変えてしまったの
である。
 あるいは性転換薬が、身体だけではなく精神構造をも、純朴な女性的な性格にした
に違いない。

「それじゃあ、性転換手術をする日は後で決めるとして、早速例の組織のことを教え
てくれないか」
 黒沢医師が本題に話題転換した。
 囮捜査のことも何もかも、すべては売春組織を探し出し壊滅することだった。
 その情報を知っているのは、この勧誘員である。
 そのためにこそ、黒沢医師は性転換を実施し、言葉巧みに仲間に組み入れたのであ
る。
「はい。何もかもすべて話します」
 すでに勧誘員はこちら側の人間である。
 それから売春組織のアジトはもちろんのこと、勧誘員の知りうる幹部達のことなど、
洗いざらいの情報を話し始めたのである。
 黒沢医師の目論見大成功である。


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