性転換倶楽部/特務捜査官レディー 巨乳なる姿(R15+指定)
2019.04.09


特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)


(四十六)巨乳なる姿

 翌日となった。
 真樹は敬を連れて、早速黒沢医師の下へと急行していた。
「先生! あの男はどうなりました?」
「早速来たな。見てみるか?」
「もちろんです」
 というわけで、昨日の場所に向かう。
 例の産婦人科用の診察台に括り付けられたままの勧誘員はまだ目覚めていなかった。
「どれどれ、見るか」
 と、診察台に近づいて勧誘員の診察をはじめる黒沢医師だった。
「台に縛り付けたままにしていたのですか?」
「ああ、逃げられたくないからな。完全独房の覚醒剤患者用リハビリ病室というのも
あるが、どうせまたこれに乗せなきゃならんから、二度手間は面倒だ」
「で、どうなんですか?」
「ふふふ。面白いことになっているよ」
 勧誘員の上着がはだけられて、胸が露出していた。
「こ、これは……」
 そこにはまさしく豊かな胸が形成されていた。
 それもFカップはありそうな巨乳サイズだ。
 普通の日本人は仰向けに寝たりすると、乳房がのっぺりと扁平状態になってしまう
ものだが、これはまあ……張りがあって天を向いて、豪快なくらいに山形になった
ドーム上の乳房を維持していた。
「あれから、豊胸手術をしたんじゃないですよね」
「本物の乳房だよ。手術なら一晩では治らない縫合痕ができるはずだろが」
「まあ……そうですが。しかし、たった一晩でこんなに大きな胸ができちゃうなんて
信じられないわ。どんな薬剤なのですか?」
「私の製薬会社の新薬開発研究所の所員が開発したものでね。ハイパーエストロゲン
とスーパー成長ホルモンというものが調合されている」
「どちらも女性化には必須のホルモンじゃないですか」
「まあな……。実はその研究員は、君と同じ性転換手術を行った最初の女性なんだ」
「性転換……してるのですか?」
「ああ、彼女は性転換をテーマにした新薬を開発していてね。MTFの人々の気持ち
は身に沁みて感じているから、一人でも多くの患者を救いたいと、実に真剣に日夜取
り組んでいるよ。で、臨床試験直前にまでこぎ着けた新薬の成果がこれだ」
 と、勧誘員を指差す。
「へえ、面白い話ですね。確かに一晩でこれだけの胸が出来ちゃうなんて、すばらし
いじゃないですか。人体実験されたこの人には悪いですけど」
「天然痘の予防方法の種痘法の効果を確かめるために、当時下僕だった8才のジェー
ムズ・フィップスという父親のいない子供(自分の子供という説は誤りであり、その
効果を確認した後に自分の息子のロバートに摂取したというのが正しい)に牛痘摂取
したというジェンナーのように、何事にも誰かが犠牲にならなければならない。たま
たま、悪事を働いたこいつに実験台になってもらったわけだ」
 話し声や黒沢医師に胸を触れているせいか、勧誘員が目を覚ました。
「ん……ん?」
「どうかね、気分は?」
「お、おまえは!」
 一瞬として、自分の身に起きていることを理解できなかったようだが、昨日のこと
にすぐに気がついて叫んだ。
「俺に、一体何をしたんだ!」
「おや、気がつかないようだ。じゃあ、これならどうかな」
 と言いながら、その豊かな胸を掴んだ。
「これを見たまえ。おまえの胸だよ」
 寝てていても張りのある巨乳である。目の前にあるそれが見えないわけがない。
「こ、これは……!!」
 さすがに事態を飲み込まざるを得ないようだった。
「見事なものだろう。おまえの胸にできた本物の乳房だよ。これだけ大きな、いや巨
乳というべきかな……。これだけのものはそうは見られないぞ。どうだ、嬉しい
か?」
「誰が、嬉しいものか?」
「納得していないようだな」
「当たり前だ!」
「うむ……じゃあ、これならどうかな」
 というと計器を操作する。
 天井に固定されていたとある器械が、かすかな音を立てて降りてくる。
「鏡だよ。おまえの位置から、自分の姿を良く見ることができるぞ」
 やがて鏡が静止して、診察台の勧誘員の全身像を写した。
 はだけられたシャツの胸から、大きく張り出した巨乳に釘付け状態になっている勧
誘員。
「さてと、これだけじゃまだ。信じられないだろう」
 というと、洋裁用の大きな鋏を取り出して、勧誘員の服を切断しはじめた。大やけ
どを負った患者の衣服を切り裂くために用意してあったのだろう。やけどを負うと体
液で衣服が皮膚に張り付いて、衣服を脱がそうとするとべろりと皮膚まで剥がれてし
まう。それを避けるために癒着していない部分を選んで切り裂いていくための鋏であ
る。

 とにもかくにも診察台に縛り付けている者の衣服を剥ぐには切り裂くしかない。
「な、何をする!」
「鏡を見ているんだな。面白いことになっているぞ」
 やがて上半身は露になった。
 驚いたことに、その上半身は男性ではない、撫で肩の細い体格をした明らかに女性
的な骨格になっていたのである。
「す、すごい!」
 真樹が思わず声を上げた。
「どうだ。どこから見ても女性にしか見えないだろう?」
「ええ、本当にあの勧誘員なのですか?」
「別人ではないよ。当の本人そのものだ」
 その本人は変わり果てた姿に茫然自失となって言葉を失っていた。
「たった一日でこれですか?」
「私もこの目で見るまでは信じられなかったよ。何せ、この薬を使ったのはこの男が
はじめてだからな。一体どうなるかとね。さてと……下半身はどうなっているかな」
 黒沢医師は鼻歌交じりで、ズボンを切り裂きに掛かった。
 科学者的な探究心で目が輝いていた。
「何か今日の先生……。怖いくらいね」
 真樹が敬に小声で囁く。
「ああ、まるでマッドサイエンティストだ」
「言えてる」
 確かに、性転換に関わることとなると目つきが異常に鋭くなる黒沢医師だった。ま
るで自分の世界に没頭したように夢中になってしまう性格を持っていた。
「どうですか?」
 真樹が覗き込む。
「残念だが、完璧な性転換とまではいかなかったようだ」
 とその股間を指差す。
 そこには男性特有のものが残存していた。
「ありゃりゃ。可愛い♪」
 まあ、確かに男性自身であったが、子供くらいに小さくなっていたのである。
「ここまでが限界のようだ。内性器がどうなっているか調べる必要があるな」
 と勧誘員の方に振り向いて、話しかける。
「おい、呆然としてないで、そろそろ自分の現状を見つめて、今後のことを考えてみ
たらどうだ?」
「ど……、どうしろというのだ?」
 やっとのことで言葉を搾り出したという感じだった。
「まあ、不完全だが……おまえはもはや、今のままではまともな男としては生きられ
ないと言う事だ」
「嘘だ!」
「どうだ。この際、この股間のものも取り去って、今すぐ完全な女性にしてやろう
か? おまえが望めば今すぐにでもできるぞ」
「じょ、冗談じゃない。女になんかなりたくない」
「そうだなあ……。このまま女性にしてしまって、どっかの売春組織に売り飛ばすこ
ともできるぞ。生きている限り抜け出せないような所がいいだろう」
「な……。や、やめてくれ!」
「これだけ、大きな乳房ならひっきりもなしに客が付くかも知れないな。もちろん、
おまえにはそれを拒絶することはできない。毎日毎日、より多くの男に抱かれなけれ
ばならないというわけだ。身体を壊すのもそれだけ早いと言う事だ」
「い、いやだ……」
「身体を壊して使い物にならなくなった売春婦の行き着く末は……。おまえなら知っ
ているかも知れないが……」
 勧誘員の言葉には耳を傾けることなく、売春婦にされ残酷な日々を暮らす惨状を、
たんたんと語り続ける黒沢医師だった。
「やめてくれ!」
 突然に大きな声を張り上げて黒沢医師の言葉を遮る勧誘員。
「た、たのむ。昨日も言ったように、なんでも言う事を聞く。アジトのことも話す。
たのむから女にするのはやめてくれ!」
「そうか……女にはなりたくないか……。残念だな」
 というと勧誘員に微かな安堵の表情が浮かんだ。
「仕方ないな。おまえが心を入れ替えて、善人の道に入るというのなら、元の男性に
戻してやることもできるのだが……」
「も、元に戻れるのか?」
 急に明るさを取り戻す勧誘員だった。
「ああ、今ならまだ間に合う。男性ホルモンを飲めば、時間は掛かるかもしれないが、
元に戻ることができるだろう。しかしこのまま放って置いて時間が経てば、さらに女
性化が進んで手の施しようがなくなる」
「た、頼む! 元に戻してくれ。男性ホルモンといったな。それをくれ!」
「それには条件がある! もちろんおまえの組織のアジトを吐いてもらう以外にな」
 と険しい表情に変わる黒沢医師だった。
「それは……?」
 ごくりと唾を飲み込んで黒沢医師の次なる言葉を待つ勧誘員だった。


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